極うま魔獣肉に魅了されたおっさん冒険者は辺境の町で訳あり美少女エルフと癒し食堂を始めたようです

 ――からんからん

 久しぶりに訪れたギルドだったが、今回の目的は情報収集なので俺は真っ直ぐに商業課のエリザの立つ窓口へと向かう。

「すまないが少し調べたいことがある。エルフ族について分かる文献はあるか?」

「エルフ族についての文献? アーネットさんに何かあったのですか?」

 まあ、俺がエルフについて調べるとなれば必然的にアーネットに関連があると思うだろう。

「少しな。だが、心配するようなことじゃない。むしろ良い方向に向かいそうだから、手助けが出来ないかと思って調べに来たんだ」

「そうですか。まあ、グラードさんが悪巧みをする姿は想像出来ませんので一応は信用しておきます。アーネットさんも懐いているようなので」

 エリザはそう言って笑みを浮かべるとギルド内にある書庫への立ち入り許可書を発行してくれた。

「一応、断っておきますけど書籍の持ち出しは禁止されていますので気をつけてください。破損などをした場合も高額な請求が発生すると思ってくださいね」

「ああ、わかった。気をつけるようにするよ」

 俺はエリザに礼を言ってからギルド内にある書庫へと向かう。少しでも有益な情報があればいいのだが……。

 ――キィ

 俺は書庫の入口で閲覧許可書を提示すると係りの者がエリザと同じような注意事項を話してから入室を許可してくれた。

「ここが、ギルドの書庫か。思っていたよりもこぢんまりしている部屋だな」

「ここは地方のギルドですから……」

 俺が部屋に入って中を見た感想を呟くと、入口すぐにあったカウンターで仕事をする女性が声をあげた。声の主に目をやると背中で大きく編み込んだ、青く長い髪が嫌でも目に留まる、眼鏡をかけた小柄な女性だった。

「いや、気を悪くしたならすまない。そもそも王都ギルドの書庫にも入ったことがない俺が言うことじゃないよな」

「いいえ。私はこの部屋を管理しております司書のルージュと言います。それで本日はどのような書籍をお探しでしょうか?」

 ルージュと名乗った女性は仕事の手を止めて俺の探しているものを問いかけてくる。きっと彼女はどの利用者にも同じような対応をしているのだろう。言葉の抑揚がなく淡々としていた。

「ここにエルフ族に関する資料はあるだろうか?」

 変に誤魔化しても仕方ないので俺は素直にルージュへそう問いかけた。

「エルフ族に関する資料ですか? ありますが、それほど詳しいものではなかったと記憶しています。それでも閲覧されますか?」

「ああ、頼む。どのあたりにあるか教えてくれたら自分で探すよ」

「いえ、資料自体が少ないですので私が席までお持ちしますから閲覧席にてお待ちください」

 ルージュはそう言って椅子から立ち上がると本棚の間を縫うように奥へと姿を消した。

「まさか、どの資料がどこにあるか全て把握しているのか?」

 一切の迷いを見せずに本棚の影に消えたルージュを見て俺は感心しながら言われたとおりに傍らにある閲覧席に腰を降ろして待った。

「――お待たせしました。こちらが資料になります。閲覧はこの場所でのみ許可されておりますので持ち出しなどはご遠慮ください。読み終えたら声をかけて頂ければ元に戻しておきます」

 そう言って渡されたのは二冊のあまり厚くない書籍。本のタイトルを見るにエルフ族の特徴や嗜好などが書かれたものと歴史について書かれたものだった。

「さて、どちらから読んでみるかな」

 俺は二つのタイトルを見比べて、エルフ族の特徴が書かれた書籍のページをめくった。そこに書かれていたことはエルフ族についてあまり詳しくない俺でも聞いたことのあるようなものばかりだった。

 例えば『エルフ族は人族と比べ長寿である』や『人族と比べて魔力を多く持ち、魔法にも長けている』などである。他にもエルフ族はどのようなものを食べているとか日頃の生活はどうしているかなども書かれていたが肝心の文様についての記載はなかった。

「こっちはハズレか。どれ、もう一冊は歴史に関するものか。こっちもあまり期待できそうにはないな」

 日頃から本などを読まない俺はあまり厚くはなかったとはいえ、一冊丸々を読むのは骨が折れた。持ち帰ることは出来ないのでまた明日にでも来ることにしようと思い書籍を持ち上げた。

「おっと」

 一冊ずつ持てば良かったのだが、二冊同時に持とうとしたためにまだ読んでいなかった書籍をテーブルに落としてしまった。本は背から落ち、ぱらりと開かれた状態となる。

「あぶねぇ」

 破損させたら高い罰金が科せられると言っていたエリザの言葉が脳裏をよぎるが、どうやら大丈夫そうだと俺は胸をなでおろした。その書籍を閉じようとした際に俺の視線は開かれたページに描かれている絵に向けられていた。

「この絵に描かれているのは確か風の文様だったはずだ。もしかすると俺の知りたかったことが書かれているのかもしれない」

 そう期待をしてページの前後を読んでみる。しかし、エルフ族の肩には神の祝福を受けた際に風の文様が現れるといったアーネットから聞いた話以上のことは記載されていなかった。

「やはり、基本的なこと以上には分からなかったな。仕方ない、別の方法を探すとしよう」

 俺はそうつぶやくと書籍を持ってカウンターで仕事をしているルージュのもとへ持っていくとそっと手渡した。

「お探しの情報は見つかりましたか?」

 下を向いていたからか下がった眼鏡をくいっと上げながらルージュが俺に問いかけた。

「いや、ほとんどが知っているものばかりで知りたかったものは見つからなかったよ」

「そうですか。失礼ですが、どのような情報をお探しだったか聞いても宜しいでしょうか? もしかしたら別の書籍に載っている可能性もありますので」

 まさかこの書庫にある本の内容全てを把握しているなんてことはないだろうが、万が一ということもあるので俺はルージュに四葉の文様について尋ねてみたのだった。

「――四葉の文様ですか。それは大変珍しいものについて調べておられたのですね」

「もしかして何か知っているのか?」

「魔法に関することですので多少なら……。この世界にある四大元素魔法についてはご存じですか?」

「ああ。火・水・風・土の四つだな」

「その四大元素にはそれぞれ対応した文様があります。上級魔法を使う者の身体にはどこかにその対応した文様が現れ、その元素に関する魔法を使うことができます」

 ルージュはそう言うと席を離れて一冊の書籍を持ってくると俺の前であるページを開いて見せた。

「何事にも例外はあるとの前提でお話しますが、私たちに関しては一人の人間が持てる属性はひとつとされています。もちろん複数の属性を持つ稀有な方も存在しますが、その中でもどれか一つの属性が特出するものとされています」

「なるほど。例えば火と水の属性に適応があってもそのどちらかが主で他は副の位置づけとなるわけだな」

「そうです。それで最初の話に戻りますが、その者が持つ属性が文様として現れるのですが、それが複数となると単体ではなく複合した文様となるのです。つまり……」

 ルージュが結論を言う前に俺がその答えを口にした。

「そうか。四葉の文様は四元素全てに適性があるのか。ようやく理解した」

「この文献によると四葉の文様のうち、茎を基準に左から火・水・風・土と対応しており、一番強い属性の葉が濃くなるとされています。もし、見る機会があれば憶えておくと良いでしょう」

 ルージュは自らの知識を披露出来たのが嬉しかったのか満足そうな笑みを見せてそう話を締めたのだった。