極うま魔獣肉に魅了されたおっさん冒険者は辺境の町で訳あり美少女エルフと癒し食堂を始めたようです

 ――リンリン

 準備中の札がさがる高級料理店サファリアのドアを開けると、従業員と思われる女性が声をかけてきた。

「すみません。まだ準備中ですので、もう少しお待ちいただけますか?」

「いや、俺は客じゃない。ギルドから紹介されて働きに来たのだが、オーナーはいるか?」

「ああ、面接の方でしたか。オーナーは奥の部屋にいますので、どうぞ面接に行かれてください」

 彼女は奥の通路を指しながら教えてくれると、自分の仕事に戻っていく。かなり忙しそうだ。

「この部屋か?」

 俺は彼女の教えてくれた通路の先にあった部屋のドアをノックする。

「誰だ?」

「ギルドの紹介で面接に来たのだが、ここで合っているか?」

「ギルドの紹介? ああ、雑用のバイトを募集していたっけな。いいぜ、入ってこい」

 俺は許可が出たのでドアを開けて中に入る。そこにはソファに足を組んで座る若造の姿。こいつがオーナーなのか?

「なんだよ。おっさんじゃねぇか。ったくギルドも少しはまともな奴を寄こせばいいのに」

 俺の顔をみると、開口一番にその男が悪態をつく。

「それで、お前は何が出来るんだ? この業界に来るくらいだ、料理のひとつくらい作れるのか?」

 全く期待をしていないとの態度が見え見えなのだが、初めから喧嘩腰になるのは紹介してくれたギルドの顔に泥を塗ることになる。それに、口が悪いのは冒険者も同じだ。少しばかり悪態をつかれようが気にする程ではない。

「料理は出来るが自己流だ。出来れば経営に関することを学びたいと思う」

「たかが雑用バイトが経営の勉強だと? そんなに学びたければ店に貢献してみろ。そうすれば教えてやらないでもない」

 オーナーはそう吐き捨てるように言うと俺をジロリと睨みつけて言葉を続ける。

「まずは結果を出してからだ。せいぜい雑用から始めて学ぶんだな。いいか、この店では俺様が一番偉いんだ。逆らったらどうなるか分かるよな? わかったらさっさと厨房に行って仕事を始めろ!」

 オーナーの怒鳴り声が部屋に響く。正直、恐ろしくもなんともないがわざわざ事を荒立てる必要もないので俺は頭を下げてから部屋を出たのだった。

「――厨房は……ここか?」

 部屋を出た俺はホールに戻り、先ほどの女性に採用されたことを告げて厨房の場所を教えてもらう。そこでは開店準備に追われる料理人たちの姿。俺はその中で指示を飛ばしている者を見つけて声をかけた。

「今日から働くことになったグラードだが、何をすればいい?」

「なんだ、雑用バイトか? まずは隣の部屋に着替えがあるからまずは着替えてこい!」

 忙しく腕を動かしながら男が叫ぶ。俺は邪魔するのも悪いと思い、言われたように着替えて戻ると男が俺を手招きして呼ぶ。

「副料理長のドーンだ。お前は何が出来る?」

 ドーンは鍋の様子を見ながら俺に問いかける。時間が惜しいのだろう。

「自己流で良ければ大抵の料理は出来る。だが、店とは味付けが違うからそのままでは出せないだろう」

「なら、皿洗いと下処理を頼む。味付けなどの調理はしなくていい」

 ドーンはそう指示を出すと傍にあった野菜を俺に渡しながら下処理の手順を説明する。

「そのくらいなら問題ない。他にもあれば回してくれ」

 日頃から料理をする俺は野菜の下処理くらいは簡単で指示された作業をテキパキとこなしていく。

「なかなかやるじゃないか。助かるよ」

 俺の手際を見てドーンが感心した声を上げる。結局、その日は野菜だけでなく肉の下処理も任された。早くて正確な肉の捌き方に周りの料理人も感心していたくらいだ。

「――今日はお疲れだったな。初日から忙しすぎて驚いただろう?」

 店が閉店して片づけをしているとドーンが笑いながら話しかけてきた。

「まあ、さすが王都の人気店ってところだな。使っている食材もかなり良いものばかりだったな」

「そうか。料理は自己流と言っていたが、食材の目利きは出来るようだな。どうしてここに来た?」

 ドーンは穏やかな表情のなかに厳しい視線を見せて俺に問いかける。

「将来的に自分の店を構えたいのだが、経営に関する知識が乏しくてな。実際に店で働けばそのあたりを知ることが出来ると思ってギルドに斡旋してもらったんだ」

「そうか。なら、この店を選んだのは失敗だったかもしれんな」

 浮かべていた笑みを潜めてドーンが小さく話す。他の者には聞かせたくない話のようだ。

「聞かせてくれるか?」

「面接をしたならこの店のオーナーには会っているな? 正直、彼を見てどう思った?」

「態度のデカい若造ってとこだな。いいところのボンボンか知らないが、金が全てと言いたげな感じがしたな。まあ、あまり能力の高そうな奴でないと感じたよ」

「よく見ているな。なら彼が素直に教えてくれる器じゃないのはなんとなく分かるだろ?」

「まあ、そう言われるとそうかもしれん」

「数か月ほどやってみて、あわなければ転職も考えておくといいだろう。見るに年齢もそう若くはないようだからな」

「いや、副料理長も俺と同じくらいだろう?」

 俺の返しにドーンの笑みが戻る。安心した俺はふと思った疑問を聞いてみた。

「そういえば、料理長の姿を見なかったが、今日は休みなのか?」

「あー、うん。料理長は来ていたぞ。お前も会っているのだがな」

「俺が会っている? いったい誰のことだ?」

 俺が悩んでいるとドーンがため息をついて小声で教えてくれた。

「バズデルオーナーだよ。彼がこの店の料理長を兼任しているんだ」

 ――後から聞いた話だとバズデルは王都で幅を利かせている大手商会の三男で親から店舗建設の支援を受けて料理店を始めた。最初はオーナーの立場だけで満足していたが、次第に客に出す料理に口を出すようになり、最近では俺たち部下の料理人に作らせた料理をあたかも自分が作った料理だと言って豪商や貴族に振る舞うようになったそうだ。

「要するに外面がいいだけの無能ってことか」

「ば、馬鹿野郎。誰かに聞かれたらまずいって。あいつは機嫌を損ねたらすぐに従業員に当たり散らすからいい迷惑なんだ」

「悪い。つい本音が出ちまった。これから気をつけるよ」

 焦るドーンに謝罪のことばを言うと俺は最後の皿を片付けながらため息をついたのだった。