極うま魔獣肉に魅了されたおっさん冒険者は辺境の町で訳あり美少女エルフと癒し食堂を始めたようです

「――夜の飯も凄くうまかった。本当にお代はこれだけでいいのか?」

 昼に続いてカールたちが夕食も食べにやって来た。本来ならば魔獣の肉を使うことを初めてのお客に説明をしなければいけないのだが、昼に一度来た者たちが安全なことを証明してくれたおかげで大きな混乱もなく、新規の客を迎えることが出来ていたのだ。

「ああ、今日は特別なオープン価格だ。今日を含めて一週間は通常の半額程度で提供するつもりだから知り合いに広めてくれると助かるよ」

「おお、任せろ。半額ってことは酒もだよな? しばらくは毎日来ることになりそうだ」

 カールたちは北の門を守る任務をしているが、交代で町の警備もしているそうで町の人々からの信頼も厚いし顔が広い。とにかく今は魔物肉の安全性とその旨さ、そしてその効能がいかに優秀かを広めるために一役買ってもらえるならばサービスに色をつけることなど問題ない。

 もちろん、彼らだけでなく来てくれた客全員に同じサービスをした。自分だけサービスが無かったと聞かされたら嫌な思いをするだろうし、悪評の種にもなりかねないからだ。

「――ご利用ありがとうございました」

 予想以上に人の入りが多かった昼の時間よりも夜の部はさらに拍車をかけて多くの客が訪れてくれた。夜の部を無事に終えて最後の客を見送った後、俺はアーネットを座らせて料理をテーブルに並べた。

「今日はお疲れだったな。初めてのことばかりで大変だっただろ?」

「そうですね。確かに忙しかったとは思いますけど、皆さん喜ばれていたので私も嬉しかったです」

「商売は最初が肝心だと思って今日はちょっとサービスし過ぎちまったかもしれんが、俺も皆が楽しく飯を食っているのを見て嬉しかったよ」

「――そのおかげで我の飯が後回しになっていたがな」

 俺がアーネットと話しているといつの間にかテーブルの下で丸まっているホイップの姿があった。

「ああ、すまんな。決して忘れていたわけじゃないんだが、後回しになっていたのは事実だ。ほら、最高級の部位をやるから機嫌をなおせ」

 俺はホイップが食べやすいように切り分けた魔猪の肉を皿にのせてホイップの目の前に置いてやる。

「まあ、我も居候の身だから文句は言わないにゃ」

 料理の匂いに釣られたのか拗ねていたホイップの表情が緩み、ムシャムシャと料理に夢中になる。その様子に俺は笑みを浮かべながらアーネットにも食事を進めた。

「さあ、俺たちも食おう。しっかり食ってしっかり休まないと疲れは取れないぞ」

「はい。いただきます」

 アーネットはそう言って並べられた料理に手を伸ばす。こうやって見ると普通の女の子にしか見えない。

「本当にアーネットが手伝ってくれて助かるよ。明日もよろしく頼むな」

「はい。まかせてください」

 彼女は細い腕に全く盛り上がっていない力こぶを見せながら元気に答えてくれた。

「――さて、俺は明日の仕込みをしてから寝るとするか」

 相当に疲れていると思われるアーネットを先に休ませ、俺は明日の下準備を始める。昼の料理はしばらく毎日一種類だけと決めていたので基本的に日替わりにするつもりだった。

「あの娘はぐっすりと眠ったようだにゃ」

 アーネットと一緒に部屋に行っていたホイップがのそりと厨房に現れて俺にそう告げた。

「そいつは良かった。今日の夕食は疲労回復にいい食事を食べさせたから明日の朝は元気に起きてくれるだろう。お前も一緒に寝ていても良かったんだぞ?」

「あの娘は嫌いではないが、少々我に構い過ぎるにゃ。仲間から追い出された悲しさを我で紛らわせようとしているのだろうが、ずっと抱かれていては我が気疲れするにゃ」

「ははは。押しつけているようですまないが、俺が添い寝してやるのは気恥ずかしいんだ。アーネットもホイップのことを気に入っているようだから仲良くしてやってくれ」

「わかっているにゃ。心配せずとも我が守ってやるにゃ」

「ははは。期待してるぞ」

「ところで何を作ってるにゃ? 美味いものなら寄こすといいにゃ」

「ホイップは食い意地が張っているな。こいつは明日の昼食用の仕込みだから今はまだ食えないんだよ」

「なんにゃ、つまらんのう」

 ホイップは宛てが外れたとばかりにむすっとした顔でため息をつきながら厨房から出て行ったのだった。



 その後、ホイップがアーネットの部屋に戻って一緒のベッドに丸くなるのを見届けた俺は仕込みの終わった材料を劣化しないように魔法袋に仕舞うとエールを一杯だけ注いで椅子に深く座ると一気に半分ほど喉に流し込む。

「仕事終わりの一杯は格別だな。さっきはアーネットが居たから飲まなかったが、黙って飲んでも明日にひびかなければ一杯だけなら問題ないだろう」

 達成感とエールの心地よい刺激に満たされながら俺はふとアーネットの言葉を思い出していた。

「神に見放された者……か。俺はエルフ族の慣例やしきたりには詳しくないが、まだ十歳程度の子供を放り出すことが理解できない。人族だって皆同じように成長するわけじゃないというのに」

 俺はアーネットに何が起こっているのか色々と考えを巡らせたが、結局のところどうやっても想像の域を出ないということだ。

「彼女とは流れで一緒に住むようになっただけの同居人であり契約をした従業員だ。一族から追放された彼女の心の傷は相当なものだろうし、無闇に首を突っ込むのも駄目な気がする……。結局、彼女から助けを求めてこない限りは余計なお世話になるんだろうな」

 なんだかやるせない気持ちを胸に持ちながらも俺はこれからもアーネットが笑顔で暮らせるように手助けをしてやることを自分に誓いながら残ったエールを飲み干して寝室へと向かったのだった。