極うま魔獣肉に魅了されたおっさん冒険者は辺境の町で訳あり美少女エルフと癒し食堂を始めたようです

「――あれは全部お見通しって顔だったな」

「私の目を見ていましたから、多分そうですね」

 俺でさえ一目でアーネットがエルフ族だと分かったのだ。ギルド長のモルドーが気づかないわけがない。その上で俺に責任を持って面倒を見るようにと釘を刺したのだろう。

「――だが、わかった上で流してくれたのだから、こちらが問題を起こさなければ特に何かをするつもりはないといったメッセージだろう」

 俺は椅子にドカッと座ると大きく息を吐き、アーネットに言った。

「とりあえずギルドへの申請も済んだことだし店の開店準備に取り掛かろうか」

「はい」

 それから一週間は開店準備に忙しい日々を過ごした。アーネットを一人で街中を歩かせるのは心配なので、彼女には基本的に店内の清掃や素材の下ごしらえをお願いした。そして、俺は主に森で料理の食材である魔獣狩りに重きを置いて行動した。

「――よし、だいたい準備は出来たな。明日は一日休みをしよう。なにかやりたいことはないか?」

 開店日を明後日として明日は一日休みと決めたが、特にやることもない。せいぜいギルドに開店の張り紙をしてもらうくらいだ。そこで、俺はアーネットに問いかけてみたのだ。

「――いろんなお店へ行ってみたいです」

 そうだ。アーネットがこの町に来てから一週間、一人で外に出ないようにしていたから当然ながらお店巡りなどしているわけがない。それに、店に立ってもらう前に確認しておきたい事もある。

「よし、明日は俺と一緒に店を見て回るか。その時に欲しいものがあれば教えてくれ」

「はい。楽しみにしてますね」

 俺がそう告げるとアーネットは嬉しそうに笑みを見せてくれたのだった。



「――いらっしゃい。おや、グラードさん、今日はかわいいお連れさんと一緒だね」

 俺がアーネットと雑貨屋に入ると女店主が声をかけてくれる。そう何度も通った店ではないのだが、前に名乗ったことで覚えてくれていたようだ。

「ちょっと雑貨を見せてもらいに来たんだ」

 俺はアーネットに店内の商品を見て回るように伝えてから女店主に話を振る。

「前に話をしていた食堂開店の準備が整ったんだ。明日が開店日だから良かったら来てくれ。おいしい料理を準備しておくから」

「そういえば、そろそろだと言ってたね。それはおめでとう。ぜひとも寄らせてもらうわ」

 以前、買い物へ来た時にそれとなしに話を振っていたのですぐに思い出してくれたようだ。

「他の人にも話を振っておくわね。開店当初から人が来ないのは寂しいからね」

「そいつはありがたい。実は時間が足りなくてあまり宣伝出来てなかったからな」

 正直、開店初日から満員御礼を期待しているわけじゃない。それよりも来てくれた人が食べた食事をうまいと言ってくれて、ゆっくりと癒しの時間を過ごしてくれると嬉しいと思っている。

「まあ、この辺りは食事の出来るお店が少なくなったからね。味が良ければ口コミ次第で集客はあると思うよ」

 女店主はそう言って笑顔を見せる。彼女との会話も進んだとき、後ろからアーネットの声が聞こえた。

「このカップかわいいな」

 どうやら気に入ったものが見つかったようだ。俺がアーネットを見ると羽のイラストが描かれたマグカップを手にした彼女が目に入る。

「良いじゃないか。買ってやるから持ってこい」

「買っても良いの?」

「ああ、もちろん。アーネットの私物はまだ足りていないんだ。遠慮せずにどんどん言ってみろ」

 アーネットが一緒に暮らし始めて一週間、開店準備を優先していたために彼女の私物は食器などを含めて全て店で使うものを流用していた。だが、今後も家で生活するのだから私物は増えても構わない。いや、むしろ増やしてやらなければならないだろう。

「嬉しい。ありがとう、グラードおじさん」

 アーネットはそう言って喜ぶ。その笑顔を見て俺も温かい気持ちになっていった。
「おや、その子はエルフ族なのね」

 会計の時に女店主がアーネットの顔を見てそう言った。耳はフードで隠していてもやはり目の色を見れば一目瞭然なのだろう。

「この娘はアーネットという。彼女をわけあってしばらく預かることになったんだが当然ながら知り合いも居なくてな。彼女には店も手伝ってもらうことにしているから今後も気軽に声をかけてやってくれ」

「綺麗な目をしているわね。アーネットさんというのね、私はマルリナっていうの。よろしくね」

 マルリナはアーネットがエルフ族であることを認識して少しだけ驚いたようだが、それは滅多に会わない種族だからであり忌避感がある様子ではない。きっと少しずつ顔なじみも増えていくことだろう。

「いろいろ買ってくれてありがとう。何か必要なものがあれば言うんだよ。探しておいてあげるから」

 その後、マルリナはアーネットが気に入ったのか終始笑顔で見送ってくれたのだった。

「優しそうな方でしたね。私がエルフ族だと分かっても普通に接してくれましたし」

 家に向かって歩く道すがらアーネットがマルリナの印象を話す。

「そうだな。それに実際、この町に住むからにはずっと家に閉じこもっているわけにはいかない。ギルド長の態度からしてエルフ族だからどうだといった様子は見られなかったから大丈夫だとは思っていたが、他の人はどうか分からなかったからな。実は俺も緊張していたんだよ」

「そう……ですよね。エルフ族は滅多に人族との交流をしないと言われていますから」

「まあ、一般論がどうあれアーネットはアーネットだ。少しずつでも町の人たちと交流を深めていけばいい」

「はい。私ももっと多くの人とお話をしてみたいです」

 笑顔でそう答えるアーネットに俺も自然と笑みがこぼれたのだった。