目を覚ますと、
隣には、
当たり前のように
悠の寝顔があった。
あんな事あったのに――
ちゃんと、
隣で眠る奴なんだ。
すぅすぅと
穏やかな寝息を立て、
俺の恋人は
寝顔もイイ男だ。
さて――と。
昨夜からの今朝、
どうすっかな。
「関係ない――、か……。」
うーん。
腕を組んで考えてみる。
そんなポーズ取っても
別に何も変わらないって?
そんなことは、分かってますよ。
ただ、
ボディブローみたいに、
じわじわと
効いてきてるのは事実。
「啖呵切っときながら
しっかり凹んでるし。
俺、カッコ悪っ!」
つむじの辺りを
乱暴に掻く。
そっとベッドから出る。
肩が出ている悠に
布団をかけ直す。
「また、夕方な。」
鼻先が触れるくらいまで近づいて、
軽くキスをする。
悠の目覚ましをセットして
寝室を出る。
リビングに行くと、
ソファに足しか乗ってない恒。
悠の部屋着が窮屈そうだ。
腹を出して、
大口を開けている。
「ハハッ、なんだこれ……」
そーっと、
恒の頭の下に
クッションを入れる。
「疲れたろ?もうちょい寝てな。」
テーブルに皿をふたつ並べ、
俺イチオシの菓子パンを置く。
メモを貼り付ける。
身支度をして
大学へ向かう。
空は高く、
青空が広がっている。
朝の風がひんやりと
俺の服をすり抜けてくる。
前髪が、
小さく揺れる。
「んー、気持ちいいな。」
昨夜、眠る前の、
恒とのひとときを思い出す。
俺の近くに
ゴロン!と横になり、
ニカッと笑う。
「慎さん、ありがとう。」
「――いや。
気を使わせてごめんな。」
俺の言葉に、
恒は、
肯定も否定もせず、
穏やかに微笑む。
「――俺と兄ちゃんは
あんな感じでいいんだ。」
「え?」
恒が
プッと笑いながら言う。
「あの人、中二病だから。」
「中二……病……。」
「うん。中二で止まってんの。
高校入っても、
あんまり人とは絡まないし。」
「――そうか……中二……。」
なんか、納得した。
悠は――
あの事故の瞬間から、
友達とぶつかったり、
馬鹿やったり、
そういう時間もないまま
大人に囲まれて生きてきたんだ。
必死で。
「――。」
「慎さん、兄ちゃんのこと頼むわ。
――さっきみたいにさ。」
「頼むって……?」
「うん。だって必要なことじゃん。
俺、密かに気にはなってたし。
でもさ、兄ちゃん、
そのまんま大人になっちゃったし
そう簡単にはいかないじゃん?
慎さんとなら――
大切な人となら、
また、考えられると思うんだよね。」
「そう、だといいな……」
「そう、だよ。
ふぁぁあ……ねむっ……」
気づいたら、朝だったな。
ん?
そういえば、
恒が先に寝落ちたのに。
いつの間に
ソファ行ったんだろ?
「まぁ、いっか。」
―――――
ピピピピ……
――……
布団の中から腕を出し、
手探りで目覚ましを止める。
手のひらで
ベッドの隣を触る。
ん?
ゴソッ、ゴソッ
ベッド上に
手を大きく滑らせる。
あ。
ひんやりしてる。
もぞっと起き上がる。
広いベッドに一人。
枕元の目覚ましを手に取る。
ギリギリ、
間に合うくらいの時間が
セットされてる。
この時間は、
俺が調子悪い時に
起きる時間――
この時間に起きられなかったら
休むようにしてる、って
慎に話していたな、そういえば。
目覚まし時計を両手で包み、
額にコツンと当てる。
「慎――、サンキュ。」
リビングに行く。
ソファに足だけをひっかけ、
クッションを枕に
床で眠る恒がいる。
「なんだコイツ……
おかしな寝方しやがって。」
恒のそばを通り過ぎ
キッチンからコップを取る。
水を汲んでひと口。
「……あ。」
さっきは気づかなかったけど、
ソファ前のテーブルに
菓子パンが積まれた皿がふたつ。
俺特製朝メシ!
って
慎が笑った顔を思い出す。
ん?メモ?
なんだ?
なんて書いてある?
バッ!と手に取る。
“サラダも食え!”
クッと笑う。
「それ、俺のセリフ。」
「うーわ。朝からニヤついてる。」
足元に転がる恒が
目をぱっちり開いて俺を見ている。
「――踏んでやろうか?」
少し足を上げる。
「それはやめろ。」
恒がその足を掴む。
「俺、昨日風呂入ってない。」
「うわっ!きったね!」
慌てて俺の足を離す。
「嘘だ。
風呂キャンで
慎の横で眠るわけないだろ。」
菓子パンを頬張る。
「――なに?
その、微妙すぎる惚気は。」
黙って菓子パンを頬張る。
モッモッモッ……
「いや、何か言えよ!」
モッモッモッ……
「はぁ、もういいわ。」
恒は起き上がると
俺と同じく、
菓子パンを頬張った。

兄弟ふたり、
モッモッモッ……
―――――
はぁーーーー……
やっと、学校終わった。
今日は特に、長く感じる。
一日中ずっと
ソワソワしてた。
早く慎に会いたい。
「あの……悠くん、
たまには一緒にカラオケとか……」
振り向くと、
クラスの女子数人。
「俺、用事あるから。ごめん。」
机脇のリュックを持って
立ち上がろうとする。
その手を
女子の1人が掴む。
そっとはずす。
「なに?」
リュックを肩に掛けながら言う。
自分なりに
“俺帰る”の意思表示。
女子が俺の顔を覗き込む。
「いつならいい?」
更に別の女子が畳みかける。
「予定決めない?」
「途中まで、一緒に帰ろうよ。」
「そこで相談しよっか。」
すごい……
女子、強し。
この行動力、団結力、
そして――押しの強さ。
勝てねぇ……
「兄ちゃん、何してんの?」
ポンと肩を叩かれる。
この声は――
「――恒。」
「プッ……なんだその顔。」
目で助けを求める。
恒が、
仕方ねぇなって顔をしている。
「はい、離れて離れて。
兄ちゃんは
恋人募集してません。」
「えー。」
「……てことは。」
「ご想像におまかせ。
てか、明日小テストあるのに
余裕かましてるね。」
「それ言う?萎えた!」
「うざっ!いこいこ!」
恒が、
振り返りニッと笑う。
「早く帰れよ。気をつけてな。」
「サンキュ!」
リュックの肩紐をギュッと握り、
走り出す。
慎――。
早く会いたい。
話したい。
気持ちが逸る。
いつもの道を、
全力で駆けていく。
赤信号。
長い。
ソワソワする。
青!
素早く
左右に目線を飛ばす。
ダッ!
また走り出す。
もう少しだ。
あの角を曲がったら――
ドンッ!!
「ぅわっ!」
聞き慣れた慎の声だ。
尻もちをついている。
「痛ぇ……
あれ?……悠!!
もう~……お前、気をつけろ……」
グイッ!!
慎の脇に腕を差し入れ、
抱き起こす。
そのまま、
強く抱きしめる。
ぎゅうっ……
「はぁっ……はぁっ……
んくっ……はぁっ……」
激しく肩が上下する。
「悠?――息、大丈夫か?
なんでこんなに急いでんだ?」
慎の手が
俺の背中をさする。
お前は、
よく、そうするよな。
この手が
俺はすごく好きだ。
温かくて優しくて、
ずっと、好きだった。
「悠?」
この声も好きだ。
あの頃、お前は
俺の声が好きって言ってた。
違うよ。
“俺が”
お前の声、好きなんだ。
俺が、
“俺の方”が。
慎に左腕を絡ませ
抱きしめたまま、
空いた手をポケットに入れる。
鍵を取り出し、
カチャカチャッと開ける。
「え、おい。悠?
ちょっ……ちょっと?」
俺の腕に抱き込まれてる慎が
驚きながらも
俺に身を預けている。
扉を開ける。
中に、入る。
カラン……
また両腕で
慎を抱きしめる。
まだ、俺の呼吸は早い。
心臓もトットットッと
駆け足だ。
「慎っ……早く会いたかった。」

抱きしめたまま言う。
汗が全身を
じわっと湿らせている。
「今朝、会ったじゃん。」
慎の手が俺の背中を
ポンポンと叩く。
「俺、寝てた!」
ギュッ!
腕に少し力を入れる。
「うん。
じゃぁ、昨夜ぶり?だな。」
ポン、ポン……
「――うん。
今日は、CLOSEのままにする。」
「ん?」
「俺と慎のミーティングがあるんで。」
「ミーティング。」
「そう、ミーティング。」
しん……
「はーん……
お前、ちょっと顔見せろ。」
慎が俺を剥がそうとする。
「ダメだ。」
ぎゅうっ!!
強く抱き込む。
「……痛っ!」
慎の声。
ヤバい、強くし過ぎた!
腕を弛め
慎の目を覗き込む。
「ごめん。大丈夫か?」
慎が、ふっと笑う。
「引っかかった。」
ぺろっと舌を出す。
「お前、顔見せないんだもん。
……て、
お前っ……
ブハッ!」
俺の顔を見た慎が
声を立てて笑う。
「すんげぇ、ズレメガネ!」
「慎が、笑ってる……」
口から溢れる。
カクンッ……
足腰の力が抜ける。
慎の手を握り、
そのまま、しゃがみこむ。
「はぁ……良かった。
――慎、笑ってる。」




