君の世界の話をしよう。第2章 〜完結〜

※後半、R15相当。




部屋を出ながら
ベランダを振り返る。

「なんか、アイツ寂しそうだね。」

窓の外。
垂れ下がる布団。

ぐっしょりと重そうだ。


「そうだな。
 でもちょうど良かった。」


「そうか!?」


「そうだよ。
 ブラックが寝た後の
 丸洗いできたわ。

 な?ブルー?」


「ブルーって呼ぶな!」


ポカッ!
悠の肩をグーで軽く小突く。


「いてっ!あー、折れたかも。」


「嘘つけ!」


さっき、
あんな空気になったけど、
俺と悠は
至っていつも通りだ。


多分、
悠がそうしてくれてる。

布団のことだって
そうだ。



俺の心の中には
まだ、罪悪感が残ってる。


悠の切迫した声。

“バカなのか”って
俺を叱った顔。

うなだれた姿。

それから……



――あ。
また思い出しちゃったな。



頭を振る。
ポカポカ!と叩く。



「なにやってんだ?
 更なるアホになりたいのか?」

隣を歩く悠が
しれっと横目で俺を見る。


「べっつに!」

ふくれる俺を見て
悠がクスッと笑った。


少し前に恒が悠のこと
“中二病”って言ってたけど、

こういう時の悠は

俺よりも、

遥かにずっと大人だ。




―――――




俺たちの、
初めてのデート。

映画を観て、

近くのカフェで
あーだこーだと余韻を楽しんで、

ビルの屋上にある
観覧車に乗って、

俺たちが住む街を
一望した。


遠くに、ちっちゃーく、
珈琲館の看板をみつけた時が
一番、盛り上がった。



いつも居る場所なのに、

何だかすごく

――特別に見えた。








俺たちの思い出の場所、

路上の広場は

見つけられなかった。



窓にかじりついて探す俺に、

“きっと、新しくできた
 高層ビルに隠れてるんだな。”

って、悠は言った。


まるで、


“新しい思い出の
 向こう側に、
 あの頃の俺たちはいる”

って言われたみたいで、

俺の心の温度は
ほんのりと上がったんだよ。


悠は
それに気づいただろうか?



――……
―――――




そして――

俺たちは今、
ラーメンを食っている。


勝手なイメージだけど、

悠なら
オシャレなレストランでも
用意するのかと思ってた。



「よし。ラーメン食いに行くぞ。」

「へ?」


あれよあれよと。

気づけば
ふたり並んで

ラーメンを
全力ですすっている。

クソ美味い。


顔を見合わせ、
「うまいな!」って言い合う。


俺の空になったコップに
水を注ぎながら、
悠がククッと笑う。


「俺さ、これ、憧れだった。」


「え?」


「お前とのラーメン。」


「……俺とのラーメン。」


「うん。」



きゅぅ……

込み上げる何かに
箸が止まる。



「ふーん。心して堪能するがいい!」

その何かを振り払うように
ニカッと笑う。



「そうだ。この後どうすんの?」


「何とか見つかった。
 プッ……野宿は免れたな。」


「それはそれで
 悠となら楽しそうだけどな。」


「ハハッ、やってみたい気もする。」



――……
―――――



「えっと……
 これ、誰かの家?」

戸惑う俺に
悠が吹き出す。

「違うよ。一棟貸の民泊。」

「えっ、そんなものがあるのか!?」

「お前……いつの時代の二十歳(はたち)なんだ?」


「しゃーねぇじゃん。
 俺、中高は尖ってて
 友達居なかったし。」


「黒歴史をサラッと言うな。」


ドアを開け、中に入る。

パチッ……
悠が明かりをつける。


その音すら響くほど

中に入ると、静かだ。


民泊って名前のくせに
やたらオシャレでいやがる。


――あ。
なんか、急に緊張してきた。


「なっ……なんか、
 ゴン太って名前の
 イケメンみたいな部屋だな!」


「え?」

「――え?」

流せよ!
こういうのは流せ!悠!


ポイッ!

ポイッ!

ふたり同時に
斜め掛けバッグを
ソファに投げる。


悠はスタスタと
部屋の中をあれこれ見て回っている。



しん……




旅行とかなら、
おっきな荷物置いて
中身出して、
その間に他愛ない話して……

って“間”が持つんだけどな。


手持ち無沙汰過ぎる。



「慎、風呂が温泉風だぞ。」

「えっ!マジ?」

「うん。超~広い。」

「そしたらさ、そしたら、
 一緒に入れたりすんじゃね?」



パッと
悠が俺の顔を見る。



あーーっ!

俺、めっちゃ大胆なことを!!

「ちっ、違うんだ。

 気持ち的に
 大衆浴場だなーみたいな!

 別に一緒に入りたいとか
 そんなこと微塵も!」

早口でまくしたてる。



「――いや。
 俺も、一緒にはいるか?って
 言おうとしてたから、
 ちょっと驚いただけだ。」


「そ、そうか。ハハハ……。
 トイレはどんな感じかなぁ?」

足早に
悠の近くを通り過ぎた。

――その時。

クンッ!
俺のシャツが引っ張られた。

振り返ると、
悠がそっぽ向いて
俺のシャツの裾を掴んでいる。


「……えっと、悠なに?」


冷静なふりをするが、
俺の心臓は既に
暴れ始めている。



「……一緒に入ろ?」

グンッ!!
シャツを大きく引かれる。

「ぅわっ!」

ポスンッ。

まんまと悠の腕の中に
収まってしまった。


俺の耳に

悠の唇が

ほんの少しだけ触れる。



「一緒に入りたい。」



耳元に落ちる低いトーン。

大好きな悠の声。



「……いいよ。」



こくり。と頷く。

迷いなんてなく――



――……



服を脱ぐ。

黙々と。



ふたりとも、

何故か背中を向けて

もぞもぞと脱ぐ。



正直、小っ恥ずかしい。



なぜだ。

なぜこんなに
小っ恥ずかしいのか。



「あー!もうっ!」

バッとTシャツを剥ぎ取る。

脱いだTシャツを
悠に投げつける。

「さっさと脱げ!
 そんなことしてるから
 小っ恥ずかしいんだぞ!」


「――えっ……」

悠が怯んでいる。



「え?じゃねーよ!
 一緒に入ろうって言ったくせに
 なに、ビビってんだよ!

 もう、かゆくてかゆくて
 たまんねーわ!」


「フン、わかったよ。」

バッ!!

……バサッ。

悠も服を脱ぎ捨てる。

キュッ……
手早く腰にタオルを巻く。


「――あ、タオル……ね。」

全身フリーダムな俺も、
慌てて腰にタオルを巻く。



「先に入ってるぞ。」

「はーい。すぐ行く。」


ちょっともたついたけど、
腰タオル完備。


「よし。」



ゴクッ……


こんなに
緊張感ある風呂は初めてだ。


スッ……

足を下ろした風呂のフロア。
ほんの少しだけ、
足裏がひんやりする。



大きな木製の湯船。

目元にタオルを乗っけて、
両腕を木の枠にひっかけて、

悠が
ゆったりと浸かっている。


そろっと
俺も足をつける。

腰まで浸かり、
悠のすぐそばの枠に
腕を置き、顎をのせる。

「ふぅ……、気持ちいい。」




パシャ……


小さくお湯が揺れる。



隣に目線を向ける。

タオルの影から
悠の目がこっちを見ている。


「こっそり見るの禁止~」

口を尖らせる。


タオルを手に取り、
悠がふっと笑う。


「慎、こっち。」

目線で俺を呼ぶ。


少し、近づく。


「はい、慎はここ!」

腕を引かれる。

悠の胸に
俺の背中が重なる。


チリッ……

背中に小さな刺激。

あ。――IDタグだ。


さっき、
悠の胸元で、
揺れてたやつ――



こっ……これは……

「めちゃくちゃアレじゃない?」

「アレ、とは?」

「それは、ほら、アレだよ。」

「まだそこまで、アレじゃないぞ。」


スルッ……

ギュッ。


悠の腕が
俺の胸ごと抱きしめる。

「これなら、ちょっとアレかもな。」


「……お前、余裕だな。」

「――余裕なはずないだろ。」

「え。かなりそう見えるけど……?」


「そんなわけないじゃん。

 肌と肌ってさ……

 直に触れると、
 気持ちいいもんだな。

 今、必死に、
 理性保ってますよ?」


“理性”――ですか……


ドクッ……ドクン!!


「うぉ!?」

「どうした?」

「いや、今、俺の心臓が……」

「心臓?……が、どうした。」


「強烈に、
 癖強い跳ね方したんだよ。」


悠が吹き出す。

「癖強いって。どんなだよ。」

「ほら、これ!」

悠の手を取り、
俺の胸に当ててみせる。

「――!!」

悠の身体に
微かに力が入る。

「ほらな、ビックリだろ?」


「まぁまぁ、ビックリだな。」

スリッ……

俺の胸を撫でる。

「お前の無自覚には
 いつも驚いてるね。」



うなじに
柔らかい温度が触れる。

「んっ……ちょっ……ちょっと!」

「なに。言ってみ?」

温度が触れたまま……

「そうやって……話すの禁止。」


「なんで。」


「なんっか……
 俺がおかしく……なるから。」


「もっと、
 おかしくなればいいのに――」


IDタグのチェーンを伝って

肩へと温度が這っていく。


「わぁっ!マジ、マジで!
 ちょっとタイム!悠、ステイ!」


悠が止まる。

「犬みたいに言うなよ。」


うなじのチェーンを押さえ、
キッ!と振り返る。

「はぁ、はぁ、ビックリした!

 お前、なんだよ、それ!
 反則いっぱいだぞ!!」


悠が、一瞬驚いたような顔をする。

「お前は全部が反則だよ。」

俺の手を払うと、

また、
肩に温度を落とす。



「待て待て待て。
 目を覚ませ、悠。

 お前は多分、のぼせてるんだ!」

手のひらで
悠の額をぎゅうっと押し返す。


「当たり。
 俺は“お前に”のぼせてる。」


「誰が、そんな
 上手いこと言えと言った?

 お湯だよ!お湯!
 お湯にのぼせてるっつってんの!」


「どっちでもいい。

 俺はずっと、こうしたかった。
 だからそうしてんの。」


肩から

背中へ

温度がススス……と落ちていく。


悠の指先が

チェーンを優しく撫でている。



ゾワゾワと

俺の腹から

何かが上がってくる。








抵抗なんて
いくらでも出来る。


多分、
喧嘩は俺の方が強い。

抵抗なんて見てくれだけで




本当のところは、



抵抗なんてしてなかった――。