見上げる恋


「大会ですか?」
「そう、インハイに向けて予選とか県大会があるんだよ。それに勝てれば全国って感じで」
「へえ、それって僕も応援に行ってもいいんですか?」
「大丈夫だぞ、来たいのか?」
「行きたいです!センパイの勇姿を見ないと!」
「ま、まあいいけど…」

練習の時はいつもそばに居る桃太が近くに居ないことに少しの違和感を覚えそうだが試合だから仕方ない。

って、俺なんてこと思ってるんだ!?

いやまあ、桃太のことは嫌いじゃないしそばに居てくれたらやっぱり頑張れるし…でもでも…。

俺、桃太のこと…す、好き、なのかな…。

一緒にお昼食べるのも練習の時の視線も嫌じゃない。

し、しかもこの間桃太で抜いちゃったし…!?

これは絶対本人には言えないけど。

毎日毎日、楽しそうに嬉しそうに声をかけてくれる姿が頭から離れなくて。

「ううう…」
「? センパイ??」

突然蹲って唸る俺に桃太は戸惑ったように、声をかけてきた。

「だ、大丈夫…」

よろよろと立ち上がり歩き出した俺を桃太はとても心配そうにしていた。


「センパイ、しばらく体育館出入り禁止って本当?」
「ああ、大会始まるからってことで終わるまではな」
「会えるのお昼休憩だけになっちゃうの…?」
「うっ…、仕方ないだろ。終わればまた見学出来るし帰れるんだからさ」
「うん、分かった…」
「はあ、ほらスマホ出せ」
「? はい、出したよ」
「これ、俺のアカウント。返すの遅くなると思うけどちゃんと見るから。いつでもなんでも送ってこい」
「え!?いいの…?」
「いいから教えてるんだよ」
「センパイありがとう!」

ガバッと抱きつかれ、少しよろめく。

「おまっ、自分の身長考えろ!」
「えへへ、ごめんね?」

そんなやり取りをして、俺は部活へと桃太は帰ることになった。


『センパイへ、アカウント教えてくれてありがとうございます。試合終わるまでゆっくり会えないの寂しいです。でも頑張ってるセンパイのことちゃんと分かってるので応援してます。おやすみなさい』

『ありがとう、頑張るから見守っててくれよな!おやすみ』

その日はこの一通だけやり取りをして終わった。


大会までの忙しい日々はあっという間に過ぎていき、メッセージのやり取りもぼちぼちといった感じになっていた。

「はあ、寂しい。センパイ不足…、センパイ〜」
「なんだよ、お昼ご飯は一緒だろ?」
「それでも寂しいのは寂しいんです〜!」
「ま、まあ俺も、寂しい…けど…」
「ん?センパイなにか言いました?」
「あ、いや、ご飯美味しいなあって」
「絶対違う!」

桃太がむうっと頬を膨らませる。

そんな顔すら可愛いと思ってしまった自分に気付き、俺は慌てて視線を逸らした。


その日の夜。

『センパイ今日もお疲れ様です』

『おう、お疲れ』

『練習どうでした?』

『まあまあかな』

『そっか』

『うん』


会話はそこで終わった。

終わった、はずだった。

スマホを置いてベッドに横になっても妙に落ち着かない。

暗くなっているスマホの画面を何度も見てしまう。

(なんだよ、俺…)

もうメッセージは来ていない。

それなのに気になって仕方がない。


十分後――


『桃太もう寝た?』

メッセージを送り数秒後にハッとし固まる。

(何送ってんだ俺!?)

慌てて取り消そうとしたその瞬間――

『まだ起きてます!』
『センパイから来た!』
『嬉しい!』

画面いっぱいに喜ぶ文字が並んでいる。

その瞬間、俺の胸はきゅっとした。

大会に向けた練習中も、一人で帰る帰り道も、家にいる今も。

気付けば俺はずっと桃太のことばかり考えていた。

(ああ、そっか)

「俺、桃太のこと好きなんだ」

認めてしまえば楽になった。

だけど、それと同時に困ってしまった。

これからどんな顔をして桃太に会えばいいんだ?

好きだと自覚する前なら平気だった。

……いや、たまに平気じゃなかったけど。

でも今は違う。

次に会った時、ちゃんと目を見て話せるだろうか。

そんなことを考えているうちに、疲れからかいつの間にか意識が沈んでいく。

返事も打たないまま、俺は眠りに落ちていた。

――桃太ごめん。