見上げる恋

「レフトー!」

トッという音とともに上がるボールは綺麗にスパイカーの元へ届いていく。

(よし、綺麗に上がった)

心の中でガッツポーズを取りながら、パァンと乾いた音が体育館に鳴り響く。

「紀春ナイストス!」
「ありがとう、笹部もナイスキー!」
「おう!」

活気溢れる体育館では男子バレー部が練習していた。

もうすぐ梅雨に入る頃、気温も段々と高くなっていく中での練習は更に温度を上げていく。


「はあ、お使いダル〜。てか、知らない先輩になんで僕が書類渡さなきゃいけないわけ?」

トボトボと歩いて向かう先は体育館。

書類に貼ってある付箋には【甲斐 紀春】という名前が貼り付けられていた。

帰ろうとしていた所、体育の先生からお使いを頼まれ何故か僕が行く羽目になった。

「二年でバレー部の人…、見れば分かるって言ってたけどそんなに有名な人なのかな」

勝手なイメージ、バレー部は自分のような高身長の人達が集まっているのだろう、そう思っていた。


――ガララ

「すみませーん、一年の阿久津って言います。体育の先生からのお使いなんですけど…、えっと…、甲斐紀春センパイ?って居ますか?」
「紀春〜、一年が用事だってよ」
「ん?おお!分かった!」

ちょっと抜ける、そう言い練習を中断し呼んでいる一年の元に向かうとその身長差に少しムッとしてしまう。

「あ、紀春センパイですか?」
「そうだけど…、お使いって?」
「これ、たまたま出くわした先生からの書類です。渡して欲しいって頼まれて」
「ああ、これか。わざわざありがとう」
「いえ…、てかセンパイ小さいのにバレー部なんですか?」
「あ?なんだよ、悪いか!」
「や、そういうんじゃなくて!僕みたいな背の高い人達ばっかりなのかなって想像してたのでちょっとびっくりしたというか。あ、僕 阿久津 桃太って言います」
「桃太?変わった名前だな」
「ええ?そうですか?僕自身はめっちゃ気に入ってるんですけどね、桃のように可愛いでしょ?」

そう言いながら首を傾げる男を眺め、オルセーユ色の髪には確かに似合っているかもしれない、そう思った。

「あの、ちょっと見学してもいいですか?」
「ん?いいけど…、お前ルールとか分かるのか?」
「お前じゃなくて桃太です〜、分からないけど見たいからいいんですよ」
「はあ、まあいいけどボールには気を付けろよ。あと書類ありがとう」

そう言いながら練習に戻る紀春をニコニコしながら見つめる。

(センパイがどんなプレーするのか楽しみだな。ま、これ練習だけど)

セッターポジションに戻る紀春を見て桃太は少し目を見開く。

「センパイ誰よりも小さいのにそこなの…?」

ボソッと呟いたはずなのに聞こえてるぞと言わんばかりの視線がこちらを向く。

見てろよ、そんな風にも見える不敵な笑みをする紀春に不覚にもときめいた。