次の日、学校へ行くと、話題はネットに投稿された足立さんの動画で持ちきりだった。
その動画にはどういうわけか私も写っていて、足立さんに殴られていた。でも、私の顔には傷がない。
そもそも、その動画を誰がどうやって撮って、誰が投稿したのかもわからない。
不思議な話だ。
動画に写っているからと、先生と面談をさせられたが、ここ一週間の記憶がなぜだか曖昧で、うまく思い出せなかった。だが、被害者であることは一目瞭然であるため、特に言及されることはなかった。
殴っている人が足立さんだと分かると、SNS上の彼女のフォロワーたちは、寄ってたかって彼女を批判した。コメント欄にはあること無いこと書かれ、あらゆる誹謗中傷に疲弊した彼女は、アカウントを消去したらしい。こうして足立さんは、SNS上の居場所を失った。
学校でも、クラスメイトたちは足立さんを軽蔑の目で見た。あれだけつるんでいた彼女の仲間たちも、今では知らん顔。彼女は学校での居場所も失った。
自業自得だと思った。同情なんてしない。彼女は、人の尊厳を侮辱した。被害者ぶることは許されない。それなりの罰を受けるべきだ。
私はようやくいじめから解放され、平穏な日常が戻ってきた。
「あ、あの……」
あるとき、笹野さんが声をかけてきた。
「あのとき、水無月さんは私を庇ってくれたのに……私は……」
彼女は泣き出した。許されたいとか、そういった涙じゃない。怖くて、助けたくて、でも標的が変わって安心して。様々な葛藤があったのだろう。
「笹野さんが気に負う必要はないよ。私は私の持ちうる能力を、最大限に人のために使っただけだから」
そこで私はハッとした。似たような言葉を誰かに言われたことがある気がするのだ。
いじめっ子に真正面から立ち向かう度胸。それは私の持ちうる力、能力だ。私の中の正義がいじめを許せなかった。だから私が勝手に笹野さんを助けたまでにすぎない。
「ありがとう。あの時助けてくれて。ずっとお礼が言いたかったの」
純粋に、お礼を言われたのは嬉しかった。私がやったことは、意味があったのだ。人助けをするのも、いいなと思った。
そんな風に、いじめから解放され、平穏な日常を過ごしていた。だが、どこか心にぽっかりと穴が空いていた。理由の分からない喪失感。
私は一体、何を忘れてしまったのだろう。
隣のクラスの前を通りかかったとき、教室の端で本を読んでいる、学年一の美人、古藤アカネがふと目に入った。
なんの接点もないはずなのに、彼女の姿を見たときにだけ、なぜだかきまって胸が苦しくなるのであった。
✿✿✿
一ヶ月ぶりに飲む血の味は、まるで砂漠のオアシスのようだった。乾ききった喉を潤してくれる。
最低でも一ヶ月に一回は血を飲まなければ、私の体は滅び、灰となってしまう。
快く血をくれる人間はなかなかいないし、無理矢理吸うのは生きるためとはいえ私の良心が痛む。そこで思いついたのが交換条件だった。
「あなたを助ける代わりに、血をください」
本当に困っている人は、その提案を拒まなかった。そうやって、色々な人と関わっていくうちに、人間は様々な苦しみを抱えて生きていることを知った。あらゆる悪意に満ちたこの世界では、優しい人ほど損をする。そんな人々を、私は救いたかった。
人助けをすれば血がもらえて、私の命は長らえる。そしたらまた人助けができる。
苦しむ人を救うためならば、私は手段を選ばない。
私が願うのは、ただ一つだけ。
どうか、あなたの夜が明けますように、と。
その動画にはどういうわけか私も写っていて、足立さんに殴られていた。でも、私の顔には傷がない。
そもそも、その動画を誰がどうやって撮って、誰が投稿したのかもわからない。
不思議な話だ。
動画に写っているからと、先生と面談をさせられたが、ここ一週間の記憶がなぜだか曖昧で、うまく思い出せなかった。だが、被害者であることは一目瞭然であるため、特に言及されることはなかった。
殴っている人が足立さんだと分かると、SNS上の彼女のフォロワーたちは、寄ってたかって彼女を批判した。コメント欄にはあること無いこと書かれ、あらゆる誹謗中傷に疲弊した彼女は、アカウントを消去したらしい。こうして足立さんは、SNS上の居場所を失った。
学校でも、クラスメイトたちは足立さんを軽蔑の目で見た。あれだけつるんでいた彼女の仲間たちも、今では知らん顔。彼女は学校での居場所も失った。
自業自得だと思った。同情なんてしない。彼女は、人の尊厳を侮辱した。被害者ぶることは許されない。それなりの罰を受けるべきだ。
私はようやくいじめから解放され、平穏な日常が戻ってきた。
「あ、あの……」
あるとき、笹野さんが声をかけてきた。
「あのとき、水無月さんは私を庇ってくれたのに……私は……」
彼女は泣き出した。許されたいとか、そういった涙じゃない。怖くて、助けたくて、でも標的が変わって安心して。様々な葛藤があったのだろう。
「笹野さんが気に負う必要はないよ。私は私の持ちうる能力を、最大限に人のために使っただけだから」
そこで私はハッとした。似たような言葉を誰かに言われたことがある気がするのだ。
いじめっ子に真正面から立ち向かう度胸。それは私の持ちうる力、能力だ。私の中の正義がいじめを許せなかった。だから私が勝手に笹野さんを助けたまでにすぎない。
「ありがとう。あの時助けてくれて。ずっとお礼が言いたかったの」
純粋に、お礼を言われたのは嬉しかった。私がやったことは、意味があったのだ。人助けをするのも、いいなと思った。
そんな風に、いじめから解放され、平穏な日常を過ごしていた。だが、どこか心にぽっかりと穴が空いていた。理由の分からない喪失感。
私は一体、何を忘れてしまったのだろう。
隣のクラスの前を通りかかったとき、教室の端で本を読んでいる、学年一の美人、古藤アカネがふと目に入った。
なんの接点もないはずなのに、彼女の姿を見たときにだけ、なぜだかきまって胸が苦しくなるのであった。
✿✿✿
一ヶ月ぶりに飲む血の味は、まるで砂漠のオアシスのようだった。乾ききった喉を潤してくれる。
最低でも一ヶ月に一回は血を飲まなければ、私の体は滅び、灰となってしまう。
快く血をくれる人間はなかなかいないし、無理矢理吸うのは生きるためとはいえ私の良心が痛む。そこで思いついたのが交換条件だった。
「あなたを助ける代わりに、血をください」
本当に困っている人は、その提案を拒まなかった。そうやって、色々な人と関わっていくうちに、人間は様々な苦しみを抱えて生きていることを知った。あらゆる悪意に満ちたこの世界では、優しい人ほど損をする。そんな人々を、私は救いたかった。
人助けをすれば血がもらえて、私の命は長らえる。そしたらまた人助けができる。
苦しむ人を救うためならば、私は手段を選ばない。
私が願うのは、ただ一つだけ。
どうか、あなたの夜が明けますように、と。

