次の週の水曜日、例のごとく屋上で昼ごはんを食べていると、古藤さんがやってきた。
「今日、作戦決行できそうだけど、どうする?」
思っていたよりも早くて、私は心の準備ができていなかった。あれから足立さん達の嫌がらせは尽きることなく続いていた。だが、古藤さんがいると思ったら、不思議と耐えられた。
「流れとしては、まずは適当に理由つけて人目につかない北校舎なんかに呼び出そうと思う。事前にカメラをバレないように設置しておくよ。そこで、上手く暴力シーンを映像に収められたらいいね」
古藤さんが言った。
「でも、どうやって暴力を誘発するの?」
「方法ならいくらでもあるよ。手っ取り早いのは、脅迫だね」
「脅迫って……」
古藤さんは容赦ないなと思った。
「足立さんの弱み。この一週間で掴んでおいたよ」
「ほんとに?」
私は深く感心した。
「怪我をする可能性があるから、この役割は私に任せて欲しい。君には血を貰わないといけないからね。怪我をして貧血にでもなられたら困るんだ」
「いいけど……流石に足立さんたちも、古藤さんには暴力振るわないんじゃないの? だって接点ないでしょ? ほぼ初対面の相手殴るなんて、正気じゃないよ」
「そこもちゃんと考えてるよ」
古藤さんは得意げに言った。
「前に言ったでしょ。私には、特別な力があるから」
私はゴクリと息を呑み込んだ。
特別な力。その言葉の響きは、人智を超えた、にわかには信じがたいもののようだった。
「それじゃあ、今日決行ってことでいい?」
古藤さんは確認をした。
私は覚悟を決め、大きく頷いた。
放課後までの時間、私はずっとソワソワしていた。ついに、足立さんを懲らしめることができるのだ。上手く行けば、平穏な学校生活が戻ってくる。
私は古藤さんに手紙を渡され、放課後までに足立さんの靴箱に入れておくよう頼まれた。足立さんには、意中の男子がいるらしい。その人の前では、悪いことができないのだ。それが、古藤さんが掴んできた足立さんの弱み。
この手紙には、その男子の名前を借りて、放課後人が来ない北校舎の理科準備室へ呼び出す旨が書かれているらしい。たちが悪くて、私は思わず笑った。古藤さんったら、本当に最低なことをするな、と。
放課後がやってきて、私と古藤さんは、ほぼ物置になっている空き教室に集合した。空き教室は通常の教室の二分の一程の広さしかなく、もので溢れかえっている。古藤さんの持ってきたビデオカメラを、上手く棚の後ろに隠し、画角をチェックする。
「よし、いい感じ」
私は表からカメラがバレないことを確認して頷いた。
「それじゃあ、最後の準備ね」
「例の、特別な力ってやつ?」
すると、彼女はニヤリと笑った。
「そうだよ。どうか、怖がらないでね」
そう前置きすると、古藤さんの顔が、文字通りぐにゃりと歪み始めた。
「え?」
私は一歩後ずさった。古藤さんの顔のパーツが、みるみるうちに変わっていく。そして、そこにいたはずの彼女は、別人へと姿を変えた。
「こ、古藤さん……じゃない?」
そこに立っていたのは、私だった。彼女の顔が、私そっくりに変形したのだ。
まるで、鏡を見ているかのようだった。目の前に、私と同じ髪型、同じ眉、目、鼻、口、輪郭。全てが同じ人間が立っているのだ。
心臓がバクバクする。不気味で、怖くて、信じられなくて。でも、その特別な力というのを目の当たりにして、興奮した。
「驚かせてごめんね」
古藤さんは、私の顔で謝った。同じ顔なはずなのに、目の前にいる私はどこか凛としており、やはり性格は顔に出るんだな、と思った。
「私はね、他人に『変身』することができるんだ」
私は空いた口が塞がらなかった。
非現実的すぎて、受け入れるのに時間がかかった。
「詳しいことは後で話すよ。とりあえず、君の制服を貸してちょうだい」
「う、うん、わかった」
私は古藤さんの言われるがままにした。近くのトイレに行き、制服を交換した。私の制服を着た、私の顔になった古藤さんは、私そのものだった。もう、わけがわからない。
「ここから先は、私に任せてちょうだい。水無月さんは、このトイレの中にいて」
そして、彼女からスマホを渡された。
「セットしてあるカメラの映像は、このスマホから見れるから。いい、ひとつ約束して。私がどんな目に遭っても、絶対にこのトイレから出てきてはだめよ。何があっても、私は大丈夫だから」
信じられない。だけど、信じるしかない。古藤さんは、私を助けてくれるんだ。唯一私に手を差し伸べてくれた人。私の理想の人。己の信じる正義のためなら、どんなことでもできる。私も、そんな強い信念を持って行動できるようになりたい。そう思えた。
だから、私は目の前で起こっていることを受け入れる。
「約束してくれる?」
「わかった、約束する」
私たちは指切りをした。何があっても、私は古藤さんの言う通りにする。それが彼女に対する奉公だ。
「そろそろ、足立さんが手紙を見た頃かな?」
「そうね。告白されると思って、ウキウキしながらやってくるんじゃない?」
「それじゃあ、今から地獄を見せてあげなきゃね。行ってくるよ」
私はトイレに残り、古藤さんは空き教室へと戻って行った。
「今日、作戦決行できそうだけど、どうする?」
思っていたよりも早くて、私は心の準備ができていなかった。あれから足立さん達の嫌がらせは尽きることなく続いていた。だが、古藤さんがいると思ったら、不思議と耐えられた。
「流れとしては、まずは適当に理由つけて人目につかない北校舎なんかに呼び出そうと思う。事前にカメラをバレないように設置しておくよ。そこで、上手く暴力シーンを映像に収められたらいいね」
古藤さんが言った。
「でも、どうやって暴力を誘発するの?」
「方法ならいくらでもあるよ。手っ取り早いのは、脅迫だね」
「脅迫って……」
古藤さんは容赦ないなと思った。
「足立さんの弱み。この一週間で掴んでおいたよ」
「ほんとに?」
私は深く感心した。
「怪我をする可能性があるから、この役割は私に任せて欲しい。君には血を貰わないといけないからね。怪我をして貧血にでもなられたら困るんだ」
「いいけど……流石に足立さんたちも、古藤さんには暴力振るわないんじゃないの? だって接点ないでしょ? ほぼ初対面の相手殴るなんて、正気じゃないよ」
「そこもちゃんと考えてるよ」
古藤さんは得意げに言った。
「前に言ったでしょ。私には、特別な力があるから」
私はゴクリと息を呑み込んだ。
特別な力。その言葉の響きは、人智を超えた、にわかには信じがたいもののようだった。
「それじゃあ、今日決行ってことでいい?」
古藤さんは確認をした。
私は覚悟を決め、大きく頷いた。
放課後までの時間、私はずっとソワソワしていた。ついに、足立さんを懲らしめることができるのだ。上手く行けば、平穏な学校生活が戻ってくる。
私は古藤さんに手紙を渡され、放課後までに足立さんの靴箱に入れておくよう頼まれた。足立さんには、意中の男子がいるらしい。その人の前では、悪いことができないのだ。それが、古藤さんが掴んできた足立さんの弱み。
この手紙には、その男子の名前を借りて、放課後人が来ない北校舎の理科準備室へ呼び出す旨が書かれているらしい。たちが悪くて、私は思わず笑った。古藤さんったら、本当に最低なことをするな、と。
放課後がやってきて、私と古藤さんは、ほぼ物置になっている空き教室に集合した。空き教室は通常の教室の二分の一程の広さしかなく、もので溢れかえっている。古藤さんの持ってきたビデオカメラを、上手く棚の後ろに隠し、画角をチェックする。
「よし、いい感じ」
私は表からカメラがバレないことを確認して頷いた。
「それじゃあ、最後の準備ね」
「例の、特別な力ってやつ?」
すると、彼女はニヤリと笑った。
「そうだよ。どうか、怖がらないでね」
そう前置きすると、古藤さんの顔が、文字通りぐにゃりと歪み始めた。
「え?」
私は一歩後ずさった。古藤さんの顔のパーツが、みるみるうちに変わっていく。そして、そこにいたはずの彼女は、別人へと姿を変えた。
「こ、古藤さん……じゃない?」
そこに立っていたのは、私だった。彼女の顔が、私そっくりに変形したのだ。
まるで、鏡を見ているかのようだった。目の前に、私と同じ髪型、同じ眉、目、鼻、口、輪郭。全てが同じ人間が立っているのだ。
心臓がバクバクする。不気味で、怖くて、信じられなくて。でも、その特別な力というのを目の当たりにして、興奮した。
「驚かせてごめんね」
古藤さんは、私の顔で謝った。同じ顔なはずなのに、目の前にいる私はどこか凛としており、やはり性格は顔に出るんだな、と思った。
「私はね、他人に『変身』することができるんだ」
私は空いた口が塞がらなかった。
非現実的すぎて、受け入れるのに時間がかかった。
「詳しいことは後で話すよ。とりあえず、君の制服を貸してちょうだい」
「う、うん、わかった」
私は古藤さんの言われるがままにした。近くのトイレに行き、制服を交換した。私の制服を着た、私の顔になった古藤さんは、私そのものだった。もう、わけがわからない。
「ここから先は、私に任せてちょうだい。水無月さんは、このトイレの中にいて」
そして、彼女からスマホを渡された。
「セットしてあるカメラの映像は、このスマホから見れるから。いい、ひとつ約束して。私がどんな目に遭っても、絶対にこのトイレから出てきてはだめよ。何があっても、私は大丈夫だから」
信じられない。だけど、信じるしかない。古藤さんは、私を助けてくれるんだ。唯一私に手を差し伸べてくれた人。私の理想の人。己の信じる正義のためなら、どんなことでもできる。私も、そんな強い信念を持って行動できるようになりたい。そう思えた。
だから、私は目の前で起こっていることを受け入れる。
「約束してくれる?」
「わかった、約束する」
私たちは指切りをした。何があっても、私は古藤さんの言う通りにする。それが彼女に対する奉公だ。
「そろそろ、足立さんが手紙を見た頃かな?」
「そうね。告白されると思って、ウキウキしながらやってくるんじゃない?」
「それじゃあ、今から地獄を見せてあげなきゃね。行ってくるよ」
私はトイレに残り、古藤さんは空き教室へと戻って行った。

