ケガをして引退したはずの僕を元ライバルはまだ諦めてくれない

 由良さんの意味深な視線を感じながら、数分ごとに呼ぶ土屋の相手をして、ようやく部活が終了した。

「水城」

 あぁ、先週と同じシチュエーション。

「なに先に帰ろうとしてる?」
「まだ帰らないよ」

 約束は約束だ。
 ちゃんと答えを伝えるために、人目の届かない場所を探してたんだ。

「みんながいると話しづらいだろ?」

 僕は土屋を待たず、静まり返った校舎の渡り廊下に向かった。

 背中からピリピリとした空気を感じる。
 期待と不安が漏れ出すぎだろ。

「ハッキリいうよ」

 僕は振り返りしっかりと土屋を見た。
 口を固く結び、鋭いけどつつけば崩れそうな眼差しで見つめ返される。

「退部するわ」
「……え?」

 あ、固まった。
 途方に暮れる目がゆっくり彷徨うのをしばらく見ていたが、堪らず「ごめん」と口にした。

「……そっか」

 力なくつぶやかれた言葉にまた「ごめん」と返した。
 でも、すんなり受け入れた土屋に正直拍子抜けしてしまった。
 もっと責められると思ったんだけど。

「じゃ、じゃあ、退部届だしてくるわ」
「1週間」

 唐突に発せられた声にビクッとした。

「え、はい……?」
「考えてくれたんだよね」
「あ、うん」

 本当は日曜日辺りで決めたんだけど、言わない方がいいな。
 突然今度は大きくため息をつかれた。

「はぁ……俺ダメだった?」
「ダメ……?」
「そっか、ダメか」

 ダメじゃないんだけど、じゃなくて。
 ダメってなんだ?
 え? どうした?

「俺これからどうしよう」

 どうしようって、どうするもこうするも。

「陸上続けたらいいと思うけど」
「そっか。陸上――か」

 また土屋が深くため息をついた。
 僕はゆっくりとすり足で後退し始める。
 これ以上ここにいたら、同情して退部届を破り捨ててしまうかも。

「ほんと、ごめん。先生のところ行ってくるわ」

 背を向けた僕は振り返るのを堪えて足早に職員室に向かった。