ケガをして引退したはずの僕を元ライバルはまだ諦めてくれない

「土屋くん。スポドリいる?」

 マネージャーの由良さんが、ペットボトルを取り出した。

「いや、いらない」

 すげなく断りグラウンドに向かう土屋を目で追う。

「水城くん、いる?」

 同じように僕にもくれようとする由良さん。

「僕走らないからさ、もらえないよ」
「そんなの気にしない、気にしない」

 陽気にペットボトルを渡された。

「あ、ありがと」
「足りなかったら言って」
「う、うん」

 足りないとかは絶対ないな。
 なんか申し訳ない。少し走った方がいいのかな。
 また左太ももに手を当てた。

 痛くはない。
 もう大丈夫。
 一応、無理はしないようにとはお医者さんからは言われてるけど。

 またあの激痛が襲ってきたら――
 もう最悪だ。
 あの時、ケガさえしなければ。

 脚に置いた手に気づかず力が入っていた。

「スポドリある?」

 土屋の声に驚いて息が止まった。

「ここにあるよ」
「スポドリある?」
「だから――」
「水城、スポドリ」

 由良さんが「あるよ」って言ってるじゃん。
 なに無視してんだよ。
 って僕も無視してるみたいになってる?

「水城、聞こえてる? スポドリ」
「あ、ああ」

 ふくれっつらの由良さんと、少しイラついてる土屋に挟まれて、恐る恐るペットボトルを差し出した。

「ありがとう」

 爽やかに微笑んで半分を飲み干していく。
 土屋は大きく息をつくと、しゃがんで脚に指を近づける。

「お、おま――」
「痛むの?」
「え、いや、全然」
「ならいいけど」

 なんだ? その顔。
 喜んでそうで、寂しそうなのってどういう顔よ。

「今日も走れそうにない?」
「ん――そうだな、ごめん」
「謝ることない」

 飲みかけのペットボトルを当然のように渡され、土屋はまたグラウンドに戻っていった。
 ペットボトルを見る視界の隅に、言いようのない不気味な視線を感じて横を見た。

「えっと……なに?」
「……別に」

 呆れたように肩を竦めた由良さんは「片づけるかぁ」とクーラーボックスを抱えて部室に戻っていった。