少し秋を感じるひんやりした朝、退部届を出し損ねた僕は、通常通りにグラウンドに向かった。
土屋に退部を止められてから、逆に辞める決意が固まった。
半分意地だけど。
走る部員たちを見ても羨ましいって思わない。
僕ってもう、走ることにこだわってないのかな。
いや、うそうそ。
走りたくてうずうずしてる。
けど、もうそこに僕の居場所はない気がしてる。
澄んだ空気の中、本当の気持ちがどこにあるのかわからないままグラウンドを見渡した。
遠くに土屋の姿を見た。
きのうのやり取りが頭をかすめる。
1週間か。
その程度じゃ辞める意思は変わらないけど、まあ、約束だしな。
てか、逆効果だったな、土屋。
なにげに土屋を目で追っていたことに気づいて、慌てて顔を背けた。
その視界の残像に、土屋が僕に気づいた姿があった。
あ——……
なんとなく気まずい。
理由は……辞めないかもって期待させてしまったことか。
あのまま先生に退部届を出せばよかったのに、なんで押し切れなかったんだろ。
「来たんだ」
「そりゃ、まだ辞めてないし……」
駆け寄ってきた弾んだ声の土屋とは対照的に僕はげんなりと答える。
ちらりとみた土屋の口元が緩んでいて、なんかムカつく。
「一緒にアップしよう」
「え……僕はいいよ」
「いいから、リハビリと思って」
なかば強引に腕を引かれグラウンドの隅に移動する。
「中谷たちとやってたんじゃないのかよ」
さっきまで土屋のいた場所を見ると、1年生の集団がじゃれ合いながらグラウンドを走っている。
「1年同士の方が気楽だろ」
「まあ……な」
屈伸をするたびに、痛まない左太ももに手を当ててしまう。
癖になったのか、恐怖なのか。
向かい合った土屋を見ると、僕の脚を見ながら柔軟をしていた。
気まずくて手を挙げて伸びをしてみた。
柔軟を一通りしたあと、グラウンドの外周を歩き出す。
「きのうの話」
唐突に土屋が話題を振ってきた。
「考えてくれた?」
「いや、きのうの今日だよ?」
「そうだけど」
「考えるもなにも、辞めるつもりだからさ」
土屋は後ろ向きに歩きながら僕の前に躍り出た。
「考えるっていったじゃないか」
「だーかーらー。まだ1日も経ってないって」
眉間にしわを寄せ、土屋が一瞬僕をにらんだ。
「……そうだね」
ぶっきらぼうに答えると、土屋は前を向いて軽く走り出した。
僕もつられてついていく。
「脚、平気?」
速度を合わせてくれた土屋が、横に並んで声をかける。
ほんの数秒前、ふてくされてなかったっけ?
「このくらい、なんともない」
本当のことだ。
日常の運動にはもうなにも問題ない。
「痛かったら言って」
労わるような優しい声色にぎろりとにらんだ。
「そんなに柔じゃないって」
「そう?」
まるで小ばかにしたように眉をひくりと上げる土屋に苛立った。
「お前ひとりでやれ」
「ごめんて」
笑いを含んだ口で謝ってくるが、ますます温度差を感じる。
なにが楽しいんだか。
アップしても意味ないのに。
それでも土屋につられるように、スキップ、サイドステップとテンポをあげていく。
「そろそろ流すか?」
「いや、やめとく」
肌に張り付いたチームTシャツを指でつまんでぱたぱたと扇ぎ、軽くにじんだ額の汗を腕で拭った。
グラウンドの隅に行ってフェンスにもたれかかり、走り込む部員を見る。
走るのは好きだし、記録を更新する快感はなににも代えがたく、すべてだった。
それなのに、今はなんだ?
部員たちが走るグラウンドがまったく関係ない世界に感じて、なんで僕はここにいるんだ? って違和感しかない。
1週間ねぇ……
今から退部届を出してもいいのに、土屋の顔がちらついてそれはできそうもなかった。
土屋に退部を止められてから、逆に辞める決意が固まった。
半分意地だけど。
走る部員たちを見ても羨ましいって思わない。
僕ってもう、走ることにこだわってないのかな。
いや、うそうそ。
走りたくてうずうずしてる。
けど、もうそこに僕の居場所はない気がしてる。
澄んだ空気の中、本当の気持ちがどこにあるのかわからないままグラウンドを見渡した。
遠くに土屋の姿を見た。
きのうのやり取りが頭をかすめる。
1週間か。
その程度じゃ辞める意思は変わらないけど、まあ、約束だしな。
てか、逆効果だったな、土屋。
なにげに土屋を目で追っていたことに気づいて、慌てて顔を背けた。
その視界の残像に、土屋が僕に気づいた姿があった。
あ——……
なんとなく気まずい。
理由は……辞めないかもって期待させてしまったことか。
あのまま先生に退部届を出せばよかったのに、なんで押し切れなかったんだろ。
「来たんだ」
「そりゃ、まだ辞めてないし……」
駆け寄ってきた弾んだ声の土屋とは対照的に僕はげんなりと答える。
ちらりとみた土屋の口元が緩んでいて、なんかムカつく。
「一緒にアップしよう」
「え……僕はいいよ」
「いいから、リハビリと思って」
なかば強引に腕を引かれグラウンドの隅に移動する。
「中谷たちとやってたんじゃないのかよ」
さっきまで土屋のいた場所を見ると、1年生の集団がじゃれ合いながらグラウンドを走っている。
「1年同士の方が気楽だろ」
「まあ……な」
屈伸をするたびに、痛まない左太ももに手を当ててしまう。
癖になったのか、恐怖なのか。
向かい合った土屋を見ると、僕の脚を見ながら柔軟をしていた。
気まずくて手を挙げて伸びをしてみた。
柔軟を一通りしたあと、グラウンドの外周を歩き出す。
「きのうの話」
唐突に土屋が話題を振ってきた。
「考えてくれた?」
「いや、きのうの今日だよ?」
「そうだけど」
「考えるもなにも、辞めるつもりだからさ」
土屋は後ろ向きに歩きながら僕の前に躍り出た。
「考えるっていったじゃないか」
「だーかーらー。まだ1日も経ってないって」
眉間にしわを寄せ、土屋が一瞬僕をにらんだ。
「……そうだね」
ぶっきらぼうに答えると、土屋は前を向いて軽く走り出した。
僕もつられてついていく。
「脚、平気?」
速度を合わせてくれた土屋が、横に並んで声をかける。
ほんの数秒前、ふてくされてなかったっけ?
「このくらい、なんともない」
本当のことだ。
日常の運動にはもうなにも問題ない。
「痛かったら言って」
労わるような優しい声色にぎろりとにらんだ。
「そんなに柔じゃないって」
「そう?」
まるで小ばかにしたように眉をひくりと上げる土屋に苛立った。
「お前ひとりでやれ」
「ごめんて」
笑いを含んだ口で謝ってくるが、ますます温度差を感じる。
なにが楽しいんだか。
アップしても意味ないのに。
それでも土屋につられるように、スキップ、サイドステップとテンポをあげていく。
「そろそろ流すか?」
「いや、やめとく」
肌に張り付いたチームTシャツを指でつまんでぱたぱたと扇ぎ、軽くにじんだ額の汗を腕で拭った。
グラウンドの隅に行ってフェンスにもたれかかり、走り込む部員を見る。
走るのは好きだし、記録を更新する快感はなににも代えがたく、すべてだった。
それなのに、今はなんだ?
部員たちが走るグラウンドがまったく関係ない世界に感じて、なんで僕はここにいるんだ? って違和感しかない。
1週間ねぇ……
今から退部届を出してもいいのに、土屋の顔がちらついてそれはできそうもなかった。

