ケガをして引退したはずの僕を元ライバルはまだ諦めてくれない

「おめでとう」

 帰路につくバスの中で、土屋だけに聞こえるようにささやいた。

「ありがとう」

 土屋がわずかに顔を向けて口元を上げた。

 疲れと安堵で騒めいたバスの中が、徐々に静かになっていく。

「寝ないの?」

 どことなくそわそわしてる土屋に問いかけた。
 
「眠れない」
「だろうな」

 次に続く切符を手に入れ、喜びと決意に興奮してるんだろうな。

 その感覚が懐かしい。
 けど、うらやましいって思わないんだよな。

「地区予選かぁ」

 ケガから1年経とうとしてる。
 絶望したあのとき、こんな未来があるなんて考えもしなかった。
 いろいろあったけど、今すごく満たされてるって思う。

「水城……」

 心配そうな声にハッとして土屋を見た。

「あ、ごめん」

 なにげにつぶやいた言葉で動揺させてしまった。

「僕は大丈夫だから。ほんとに」
「――」

 土屋は押し黙ってしまった。

「ほんとだって」
「無理してないか?」
「してないよ」

 ほんとなんだけどなぁ。

「土屋たちが連れてってくれるから。本当にうれしいんだ」
「――ほんと?」

 大きくうなずくと、土屋は半信半疑な顔をして座席の背もたれに身を預け、天を仰ぐ。

「連れてくから」
「え?」
「インハイ」
「うん」
「連れてく」
「頼むわ」

 ふふっと声を殺して笑う。

「……一緒にいこう」
「ああ。約束だからな」

 また静かに笑い合った。