ケガをして引退したはずの僕を元ライバルはまだ諦めてくれない

 「水城」

 使い終わった黄色のミニハードルを集めていると、土屋に声をかけられた。

 「どした?」

 ミニハードルの向きを揃えながらちらりと土屋を見る。

 「動画撮ってほしいんだけど」
 「いいよ。あ、カメラ由良さんが持ってるわ」

 部の備品のカメラで由良さんが別の部員を録画中だ。

 「終わったら撮ってもらいなよ」
 「いや、今がいいんだけど」
 「なら、お前のスマホで撮ろうか?」
 「充電切れた」
 「なんだよ、それ」

 部に復帰してから土屋とも毎日顔を合わしてるけど、あまり話してないな。
 声をかけられたのも久しぶり。
 退部前はずっと話しかけられてたから、退部したことまだ怒ってんのかと思ったけど。

 それも杞憂だったのかな。
 頼まれてちょっとホッとしたかも。

 「水城のスマホで撮ってくんない?」
 「え、僕の?」

 うんと頷く。
 仕方ないなぁ。

 「いいよ」

 パッと空気が明るくなった気がした。
 軽やかにスタート地点に向かう土屋の後ろ姿に既視感がある。

 取り出したスマホを覗く。
 拡大して土屋を捉えた。

 合図もなくスタートを切った土屋を画面で追う。

 「おぉ――」

 思わず感嘆した。
 この2か月くらい、部員のフォームをじっくり見てきたけど、ここまで洗練されたフォームは土屋しかいない。
 走り終わって停止ボタンを押した。
 再生ボタンを押してもう一度観る。

 「かっこいいわ」
 「ほんと?」

 驚いて顔を上げると「見せて」と土屋が手を伸ばしていた。
 まさか本人がそこにいたなんて、他意はないが焦った。
 でも、ほんとのことだからいいや。

 「あぁ。完璧なフォームだよ」

 ほら、とスマホを渡す。
 目尻を下げて画面を見る土屋がつぶやく。

 「うれしい」

 照れたような声色に、こっちまで恥ずかしくなった。

 「DMに送っておくよ」
 「ありがと」

 シーズン開幕の大会まであと3週間。