ジョブチェンジ!

 村のパン屋の前で死神の少女ミゼルディアと別れ三日が経った。
 この二日間ルイナはどこへ出かけていた。どこに行ってたのかを聞いても教えてくれない。リリィに聞いてもルイナなら大丈夫だと言っていた。二人は何かを隠しているのかもしれない。
 そして今わたし達は森の中にあるルイナが住んでいた古びた屋敷の前に来ている。

「久しぶりにここへ来たけど相変わらず怖い見た目してるな」
「ご主人様この屋敷から妙な気配を感じます」

 リリィは尻尾を逆立て震わせている。

「皆さんおまたせしました~」

 少し遅れて死神の少女ミゼルディアが屋敷の前に到着した。

「それじゃあ行くか」

 三人はルイナについていき屋敷の中……ではなく屋敷の裏にある大樹の下まで歩いた。

「屋敷の裏にこんな大きな木なんてあったんだ」
「ご主人様目の前に白いふわふわとした何かがいます」
「え、何もいないけど本当にいるの?」

 辺りを見回しても見えるのは大きな木とルイナ、リリィ、ミゼルディアの三人だけだ。

「ねぇ、その白いふわふわは、いったい何なの」
「これは人の魂です。白色はわたし達に危害を加えませんが黒色を見つけたら私を呼んでくださいね。黒色はこの世に強い恨みを残している悪霊なので」

 ミゼルディア笑顔で警告する。
 やっぱりいるのか悪霊……薄々察してはいたけどやっぱりいるのか。私は目に見えないものが小さなころから苦手だ。目に見えていれば対処はいくらでもできる。だが、目に見えないとならば話は変わる。だから私は何としてでも見えるようにならなければならない。見えないって怖いからね。
 でもどうやって目に見えない魂を見られるようになれるか……ジョブチェンジはこの世界に存在する職業にしかなれないし魂が見られる職業なんて死神の仕事しか……ってあれ、もしかして……。

「ねぇ、ミゼルディア死神の仕事について教えてほしいんだけど」
「急ですね、でも教えてあげましょう」

 ミゼルディアこちらに振り向き、腰に手を当て胸を張りながら言う。

「死神の仕事は主にさまよえる魂を冥界へ送ること、それと寿命の管理です。私みたいに魂を黄泉に送る死神を【魂の送り人】と人間はよんでます」
「魂の送り人?死神なのになんで人って呼ばれてるの」
「それは、私たち死神は元々人間だったからですよ」

 ミゼルディアは笑顔で答えたがどこか闇がありそうだった。今は聞かない方がいいだろう。
 とりあえず今はジョブチェンジが使えるかどうかを確かめなければ。

「ありがとうミゼルディア。それじゃあ、ジョブチェンジ!【魂の送り人】」

 大きな杖を持ってそう唱えると足元に大きな魔法陣が展開され光の柱がわたしを包んだ。
 白いドクロのワンポイントのついた、フード付きの黒いコートを身にまとい、手に持ってい大きな杖は大鎌に変形し目は赤色に染まった。
【魂の送り人】の能力に【死神の目】という能力がある。この能力は魂を見たり触れたりすることができる。

「ユウさんが急に変身しちゃいました!いったいなんで」
「それはユウだけが持つ不思議な力だ」

 ルイナが答えた。

「おぉ、見えるぞ白いふわふわ!これで何も怖くない」

 わたしはあたりを見回した。白いふわふわ別名、魂。いや逆か。
 まぁいい。そのふわふわした魂は無数に存在し大きな木の周りをグルグル回っていた。

「こんなにたくさん飛んでたんだ、お化け屋敷じゃ……痛いっ」
「何か、言ったか」

 ルイナがわたしの手の甲をつねった。

「それはそうとして今日はミゼルディアに頼みがあるんだ」
「そういえばそうでしたね。頼みって何ですか」
「我の友達のエナリアの魂を冥界に送って欲しいんだ」
「えっ」

 思わず声を漏らしてしまった。多分エナリアは300年前に亡くなった少女のことだろう。少女は300年もこの屋敷を漂い続けているのだろうか。

「エナリアとはこの木の周りでよく遊んでいた思い出のある場所なんだがどうだ、エナリアの魂はそこにいるか?我では詳しいことまでわからないんだ」
「残念ですがここにはいないようです。もしかしたら館の中かもしれないですね。何かその人の特徴はありますか?何か身に着けていたものとか」

 ルイナの問いに辺りを見渡していたミゼルディアが残念そうに答える。
 そういえば【魂の送り人】の姿になってから魂が見えるようになっただけではなくその魂の本来の姿も見えるようになった。つまり霊が見えるようになったのだ。

「エナリアは花の髪飾りをつけていたなあいつは花が好きなんだ」

 ルイナは大樹を見つめながら答えた。

「分かりました。それでは館の中を二手に分かれて探しましょう!」

 ミゼルディアの提案で二手に分かれて屋敷の中を捜索することになりわたしはルイナとリリィはミゼルディアと共に行動することになった。

「久しぶりだねこうやって館の中を歩くの」
「そうだな私がこの館を離れてから結構時間がたったからか自分の家なのに懐かしさを感じるな」

 長い廊下を歩きながら二人で話していた。わたし達は厨房や食堂そしてエナリアが使っていた部屋を探していたが何も見つからなかった。
 最後に、ルイナに初めて出会った部屋の前の豪華な装飾のついた大きな両開きの扉の前まで来た。

「おーいルイナさーん、ユウさーん」

 少し離れたところから手を振りながらミゼルディアが駆け寄ってきた。その後ろからリリィも駆け寄り全員合流した。

「ここが最後の部屋ですか」
「それじゃあ開けてみよう!」

 ミゼルディアは勢いよく両手で扉を押し開けた。
 扉の先にはかつてルイナが座っていた豪華なイスがあった。しかしその椅子はクモの巣が張られ、布が避け中から綿が出るほどボロボロになっていた。その椅子の前に半透明の花の髪飾りをつけた少女が後ろを向いて立っていた。

「あの子がエナリアなの」

 半透明な少女は無言で振り替える。

「そこにエナリアがいるのか」

 ルイナはわたしの服をつかみながら聞く。
 そうかルイナには白いふわふわした魂にしか見えていないのか。どうにか見せてあげたいけど。

「ルイナとご主人様、今から視覚共有を行いますので手を出していただけますか」
「視覚共有?」

【視覚共有】その名の通り対象者の視えている景色又は発動者が視えている景色を共有することができる能力で対象者と触れていることで発動できる。一度視覚共有した者とは遠隔で視覚を共有することができる。
 ルイナとわたしはリリィの手に触れた。
 するとわたし達三人の右目が緑色に光り視覚が共有された。今回の視覚共有ではルイナとリリィにわたしの【死神の目】が共有された。

「エナリア私だルイナだ。覚えているか」

 ルイナは興奮気味に話しかける。

「久しぶりねルイナ。でも今はここへ来ちゃダメ」

 そう言い終わった次の瞬間ルイナ目掛けて黒い稲妻が放たれた。
 何とかルイナをわたしのところまで引っ張り黒い稲妻を回避したがどうにもあの半透明の少女エナリアの様子がおかしい。黒いオーラに包まれている気がする。

「悪霊に取りつかれている……」

 ミゼルディアがつぶやく。

「彼女から悪霊だけを切り離すことはできないの?」
「母体から切り離すことは簡単ですがすぐに悪霊から距離を取らないと再び取りつかれ次はもう切り離せなくなります」

 緊迫した空気が漂う。みんなで話し合いミゼルディアがエナリアに取りついている悪霊の切り離し、リリィが悪霊から切り離されたエナリアの回収、ルイナが悪霊の撃退、わたしが悪霊を冥界へ送ることになった。

「黒き霊とその繋がりを断ち切る!」

 ミゼルディアは鎌を振りかざしエナリアから悪霊を切り離した。

「リリィさんお願いします」
「お任せください」

 軽い身のこなしでエナリアを抱え戻ってきた。
 残すは悪霊の討伐だけだ。

「エナリアのカラダを乗っ取ったお前を我は許さないこの魔剣で消し去る」

 ルイナは魔剣を取り出し悪霊に、攻撃される前に切りつけた。

「開け冥界の扉!」

 わたしは鎌で空間を切り裂き冥界へ通じる門を悪霊の後ろに出現させた。
 悪霊は冥界の扉に吸い込まれるように消えていった。そして冥界の扉も消え去った。

「リリィ、エナリア無事か」

 ルイナはエナリアを抱えていたリリィの方に振り替える。

「はい、ご無事ですよ」

 ルイナは目の前に立っているエナリアを見て胸をなでおろした。

「久しぶりだなエナリア。300年間この屋敷からだしてあげられなくて悪かった。だから今日はお前を冥界へ送るために来たんだ」
「そう。ついにこの時が来たんだね。ルイナ、私はあなたが屋敷を出て行くまでの300年間を見守れて幸せでした。それに新しい家族もできてとても幸せそう。それからユウさん、ルイナをこの館から連れ出してくれてありがとうございます。」

 急に名前を呼ばれて驚いた。もしわたしがこの屋敷に来ることがなかったらルイナは今もまだ一人だったのだろう。それにわたし達は家族か、悪くないな。

「ルイナ、私が冥界に行ったらあたしの部屋の机の引き出しの中にちょっとした贈り物があるから忘れずに受け取ってね」
「お前からの贈り物を忘れるわけないだろ。だから安心して冥界に行くといい」

 ルイナが言い終わるとミゼルディアが冥界の扉を開いた。

「それじゃあまたねルイナ」

 エナリアはルイナに別れを告げミゼルディアと冥界へと旅立った。
 わたし達はエナリアの遺言の通りにエナリアの部屋にやってきた。

「ここにあるのか」

 ルイナは机の引き出しを開けた。そこには一枚の写真と青紫色の花のイヤリングが入っていた。写真には二人の少女の微笑ましい姿が写されていた。

「懐かしい写真だな、それにこのイヤリングの花は私の好きな花だ」

 ルイナは静かに涙を流しながら写真を見つめていた。

「次は私が贈り物をする番だ。屋敷の裏の大樹に行くぞ」

 わたし達は屋敷裏の大樹に着いた。

「この裏だ」

 大樹の裏へ行くとツタの絡まった石碑が建っていた。石碑には「エナリア・ミルトここに眠る」と書かれていた。

「これは、エナリアのお墓」
「そうだ、そして私が送るのはこの花だ」

 ルイナが取り出したのは見たことのない黄色い花だった。

「こんなきれいな花どこに売ってたの」
「この花はこの辺には売っていないあるのは魔界だけだ」
「魔界にしかないって、もしかしてこの二日間で採りに行ってたの?」

 ルイナはうなずき花を石碑の前に供え三人で手を合わせた。

「よし、家に帰るか」
「もういいの?」

 意外とあっさり家に帰ろうとするルイナに少し驚いた。

「あぁ、やることは終わったし定期的にここへ来ようと思ってるからな」

 ルイナはエナリアから貰ったイヤリングをつけながら答えた。

「そっかじゃあ帰ろうか」

 そしてわたし達はルイナの館を後にした。

「ユウ、今夜はシチューが食べたい。作ってくれるか」
「そうだね今日は肌寒いしちょうどいいかもね」
「ご主人様、リリィもお料理手伝います」

 三人で楽しくしゃべりながら家に帰りシチューを作って食べた。

 エナリアが冥界へ行って数日が経った。あの日からルイナは毎日日の出の前に屋敷へエナリアの墓参りに行っている。

「そういえばあれからミゼルディアの姿を見ないけど今、何をしているのだろう」

 わたしはリリィが入れたお茶を飲みながらふとミゼルディアのことが頭をよぎった。

 コンコン。

 外から扉をたたく音が聞こえた。扉を開くとそこには見知った死神の少女が立っていた。

「ミゼルディア!どうしてここに」
「いや~家を追い出されちゃって行く当てがないのでしばらく泊めてください」

 どうやらミゼルディアはパン屋の店主の魂を刈り取り冥界へ送らず魂を体の中に戻したことと、エナリアの魂を300年冥界へ送らなかったことでそれはもうこっぴどく怒られ家を追い出されたらしい。

「まぁ、部屋は余ってるしルイナの遊び相手になってくれるならいくらでも居ていいよ」
「わーい、ありがとうございますユウさん。それでルイナさんの遊び相手って何をすればいいのですか?」
「ふん、それは我との戦うことだ。さぁ行くぞミゼルディア」

 ルイナはミゼルディアの手を引き外へ出て行った。家の窓からはルイナとミゼルディアが戦闘を始めていた。ルイナは魔剣をミゼルディアは死神の鎌を振り回していた。

 ミゼルディアが新たに家族に加わり、一段とにぎやかになった。
 いつか冥界や魔界に行ってみたいと思いながら窓の外を見ながらわたしはお茶を飲んだ。