――あの春から、もう十年か。
塀から見える庭の桜の木を横目で見ながら、なんの感慨もなく思った。桜の木は変わらず春を告げているが、随分と自分は変わってしまったと自嘲する。
刀を握る日々も変わってしまった声も、最初はあんなに違和感を持っていたというのに、今では受け入れられるようになっていた。慣れというのは恐ろしいものだと思う。
女の身で剣を握り、果てには妻を迎える。滑稽なことこの上ないと、無表情を繕いながら心の中で笑った。
手には、開封済みの手紙がある。神経質そうな文字で書かれていた内容は、籠谷家との婚姻が決まったというものだった。儀式を霞城家で執り行うため、一度帰られたし……それを読んで、舌打ちが漏れたのは言うまでもない。
久しぶりに足を踏み入れた実家は、何も変わっていなかった。
統率の取れた使用人、温度を感じさせない空気、手入れされた庭、塵一つなく掃き清められた屋敷……自分が最も嫌い、逃げた家だった。
「霞城柊花」が消え、「霞城柊夜」が生まれた時も何も変わらなかった家。これから先も、この家が変わることはないだろうと小さく嘆息して、諦めて門をくぐる。
「おかえりなさいませ」
ずらりと一列に並び、頭を下げて出迎える使用人たち。この出迎えも苦手だった。前まで……と言っても十年前だが。
こうして出迎えられていたのは自分ではなく兄であり、自分も出迎える側だったから。未だに、自分が後継ぎとして扱われることに抵抗感がある。
「父上は」
「奥の座敷で待っておられます」
「すぐに向かう」
「承知しました」
端的に問えば、淀みなく答えが返ってくる。少ない荷物を預け、父のいる部屋へと歩みを進めた。昔は恐ろしかった父の部屋へと続く廊下も、今はどうということはなかった。
きっと、麻痺しているからだろう。
「ただいま戻りました」
「……柊夜か。入れ」
対面した父は、手元の書類から目を離さない。
それはいつものことだったので、襖を開けてすぐの所に大人しく腰を下ろした。
「籠谷家との婚姻が決まったと」
「ああ。家同士の結びつきを強めるためにな」
「……左様ですか」
どんなに表面を繕っても、自分は生物学上は女だ。後継ぎなど生まれないのにこのに意味はあるのかと訝しむが、父にはお見通しのようだった。
「後継ぎなど期待しておらん。あくまで名家同士で協力するという格好がつけばよい」
籠谷家は、霞城家と古くから対立してきた家だった。今回の結婚を理由に手を組もうという算段なのだろう。
「あの籠谷が向こうから頭を下げてきたのだ。断るのは哀れだろう?」
「そうですね」
くつくつと珍しく笑う父に、乾いた同意をする。
なんの取次ぎもなく決まった結婚。蓋を開けてみれば、こんな下らない理由だ。嫁がされる娘も哀れだなとまだ見ぬ自分の妻に同情した。
「後継ぎが男に化けた女だと知らぬまま。阿呆よな」
「……そうですね」
ひくりと喉が震えるのをなんとか抑えて、相槌を打つ。
「私もこちらで妻と一緒に住むことに?」
「まさか。籠谷の人間など敷居を跨がせるのすら嫌だというのに、その上住まわせるなど」
「……承知しました」
父に気づかれないよう、小さく息をつく。
現在、自分は使用人もつけずに一人で暮らしている。軍部に通いやすいから、とそれらしい理由をつけて。
自分の家に他人を上がらせるなど嫌だったが、この屋敷で暮らすよりはよっぽどましだ。そう自分を納得させて、部屋を辞した。
儀式当日。儀式の間へと向かう足取りは重い。
あれから一週間、準備だなんだと霞城家に拘束されて碌に気を休められなかったからだ。
政略結婚なのだからこんな大がかりにしなくてよいだろうに。そう思ってはいても口にはしない。この家を取り仕切るのは父で、後継ぎと言っても自分に発言権などないからだ。
霞城家の紋が入った羽織が煩わしい。
――俺は父上の駒だからな。
そう自嘲して儀式の間へと足を踏み入れる。
見渡せば、座敷の一方には既に霞城家の人間がずらりと並んでいた。わざわざ霞城家での儀式を提案したのも体裁を気にしてだろう。父はなにかと籠谷家を下に見ている節がある。結界維持は籠谷家の役目で、父はそれを誰よりも理解しているはずなのに。
一族の者たちに礼をし、腰を下ろした。向かいには赤の座布団が置かれている。そこに花嫁が座るのだろう。
どんな女だろうと一瞬考え、すぐにやめた。相手がどんな人物であろうと自分には関係ない。ただ、早く終わればいいと願っていた。
「籠谷家はまだ来ないのか?」
「は、はい……まだお見えになりません」
使用人はびくりと肩を震わせた後、舌をもつれさせながら早口で答えた。まだ霞城家に来て日の浅い者だったのだろう。怖がらせてしまったのが少し申し訳なかった。
「随分と舐められたものだな」
父の声は相変わらず淡々としていたが、苛立っているのが分かる。ひそひそと騒ぎ始めた一族たちに、小さく舌打ちした。
さて、どうしようかと思案し始めたところで、ようやく目の前の襖がスッと開いた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
遅れて入室してきた花嫁はにこりと笑った後、何事もなかったかのように自分たち霞城家に対面して腰を下ろした。
肩のあたりまでに切りそろえられた黒髪は大ぶりの髪飾りで飾られ、豪奢な着物は籠谷家の意地を感じさせた。どこも似たようなものだなと嘆息する。
しかし、思わず眉を寄せた。花嫁の後ろに誰もついてこないのだ。当主はおろか次期当主と目される嫡男まで。
籠谷家のために用意された座布団だけが、花嫁の後ろにあるだけだった。
がらんとした背を振り返ることなく、しゃんと背筋を伸ばして花嫁は座っている。霞城家側の騒めきはますます大きくなり、思わず眉を寄せる。異常な光景だった。
「他の者たちはどうした」
「私一人で行くようにと。わざわざ参列する必要はないと仰せつかりました」
低く問うと、花嫁は淀みなく正直に答えた。この場でその答えをすれば火に油を注ぐようなものだと分かっているだろうに。
案の定、一族の騒めきは困惑から怒りへと変化していく。
「馬鹿にしているのか!」
「我々をなんだと……!」
一族たちの不満は最もだったが、それよりもまず浮かんだのは感心だった。よくもまあこの場で堂々と言えるものだ。
まじまじと目の前の妻を観察していれば、向こうと視線が合った。深緑の、美しい瞳だった。
視線が絡んだ瞬間、花嫁は紅で彩られた口元に弧を描いてにこりと微笑んだ。ついでに頬を上気させて。それを見て、思わず顔を顰める。
媚びを売る女、それは自分が最も嫌うものだった。露骨な態度であったにも拘わらず、花嫁は気にしていないようで、むしろクスクスと笑っている。眉間の皺は深くなる一方だった。
「……名前は」
「籠谷香蓮と申します」
花嫁の声は妙に捉えどころがなく、ふわふわとしていた。
妙な女だと結論づけ、それ以上は聞かずにさっさと儀式を進めていく。これ以上不満をだらだらと零す一族たちに囲まれるのも、見栄の張り合いの儀式も嫌だった。
契りと称して渡された酒を一気に呷る。喉を焼く心地よさは、違和感とこれからの不安を拭ってはくれなかった。
「これからよろしくお願いします」
「俺はお前とよろしくする気はない」
「まあ!つれないですね」
儀式後、あとは二人でよろしくやれと移動させられた部屋は、家の中で最も庭の眺めが良い所だった。奇しくも、兄と花見をしようと約束していた部屋。菓子を持ち込んで、二人で桜を見ようと言っていた場所だった。
ふいに思い出した痛みに気づかないふりをして、庭へ視線をやったまま苦々しく返す。兄との思い出が、素性もよくわからぬ女に踏み荒らされた気がして嫌だった。そのそっけない返答に、花嫁……香蓮は気にしていないようだった。
むしろ、じっとこちらを見ている。その視線をついに無視できなくなって、諦めて香蓮に向き直った。
「俺に、なにかついているか」
「いいえ?ただお綺麗な方だなぁと思いまして」
「は?」
意味が分からない。首を傾げた自分に、説明が必要だと解釈したのか香蓮はなおも続ける。
「ええっと、銀の御髪も綺麗ですし、その紫がかった瞳も」
「……気色悪い」
「私が殿方でしたら口説いていたかもしれませんね」
――この女は一体何なのだ。
本気で困惑した。自分の眉が寄っていくのを自覚する。
遅れてきた上にたった一人で霞城家に来た女。余裕そうな態度と、こんなにも邪険にしているというのに笑みを湛えているのが気味悪かった。
「私、旦那様と結ばれてとっても幸せです」
「政略結婚だというのに、か?」
「ええ。だって、籠谷の家から出られますもの」
その言葉が、なぜか心に残る。まだなんの素性も分かっていない香蓮に興味を持つくらいには。
「これからよろしくお願いします。旦那様」
「その呼び方はやめろ」
そう厳しく言えば、香蓮は首を傾げた後に言い直す。
「では柊夜様、と」
「……ああ」
――違う。
そう訂正したかったが、すんでのところで言葉を呑んだ。
籠谷香蓮は「霞城柊夜」に嫁いだのだ。自分は香蓮の「旦那様」なのだと自分に言い聞かせる。
けして女だとバレないようにという父の言葉が脳裏に再生される。無意識にぐっと拳を握った。
何も変わらない。これからも今まで通り欺くだけだ。そう決意して、霞城家の門を出た。
隣に香蓮を連れながら。
塀から見える庭の桜の木を横目で見ながら、なんの感慨もなく思った。桜の木は変わらず春を告げているが、随分と自分は変わってしまったと自嘲する。
刀を握る日々も変わってしまった声も、最初はあんなに違和感を持っていたというのに、今では受け入れられるようになっていた。慣れというのは恐ろしいものだと思う。
女の身で剣を握り、果てには妻を迎える。滑稽なことこの上ないと、無表情を繕いながら心の中で笑った。
手には、開封済みの手紙がある。神経質そうな文字で書かれていた内容は、籠谷家との婚姻が決まったというものだった。儀式を霞城家で執り行うため、一度帰られたし……それを読んで、舌打ちが漏れたのは言うまでもない。
久しぶりに足を踏み入れた実家は、何も変わっていなかった。
統率の取れた使用人、温度を感じさせない空気、手入れされた庭、塵一つなく掃き清められた屋敷……自分が最も嫌い、逃げた家だった。
「霞城柊花」が消え、「霞城柊夜」が生まれた時も何も変わらなかった家。これから先も、この家が変わることはないだろうと小さく嘆息して、諦めて門をくぐる。
「おかえりなさいませ」
ずらりと一列に並び、頭を下げて出迎える使用人たち。この出迎えも苦手だった。前まで……と言っても十年前だが。
こうして出迎えられていたのは自分ではなく兄であり、自分も出迎える側だったから。未だに、自分が後継ぎとして扱われることに抵抗感がある。
「父上は」
「奥の座敷で待っておられます」
「すぐに向かう」
「承知しました」
端的に問えば、淀みなく答えが返ってくる。少ない荷物を預け、父のいる部屋へと歩みを進めた。昔は恐ろしかった父の部屋へと続く廊下も、今はどうということはなかった。
きっと、麻痺しているからだろう。
「ただいま戻りました」
「……柊夜か。入れ」
対面した父は、手元の書類から目を離さない。
それはいつものことだったので、襖を開けてすぐの所に大人しく腰を下ろした。
「籠谷家との婚姻が決まったと」
「ああ。家同士の結びつきを強めるためにな」
「……左様ですか」
どんなに表面を繕っても、自分は生物学上は女だ。後継ぎなど生まれないのにこのに意味はあるのかと訝しむが、父にはお見通しのようだった。
「後継ぎなど期待しておらん。あくまで名家同士で協力するという格好がつけばよい」
籠谷家は、霞城家と古くから対立してきた家だった。今回の結婚を理由に手を組もうという算段なのだろう。
「あの籠谷が向こうから頭を下げてきたのだ。断るのは哀れだろう?」
「そうですね」
くつくつと珍しく笑う父に、乾いた同意をする。
なんの取次ぎもなく決まった結婚。蓋を開けてみれば、こんな下らない理由だ。嫁がされる娘も哀れだなとまだ見ぬ自分の妻に同情した。
「後継ぎが男に化けた女だと知らぬまま。阿呆よな」
「……そうですね」
ひくりと喉が震えるのをなんとか抑えて、相槌を打つ。
「私もこちらで妻と一緒に住むことに?」
「まさか。籠谷の人間など敷居を跨がせるのすら嫌だというのに、その上住まわせるなど」
「……承知しました」
父に気づかれないよう、小さく息をつく。
現在、自分は使用人もつけずに一人で暮らしている。軍部に通いやすいから、とそれらしい理由をつけて。
自分の家に他人を上がらせるなど嫌だったが、この屋敷で暮らすよりはよっぽどましだ。そう自分を納得させて、部屋を辞した。
儀式当日。儀式の間へと向かう足取りは重い。
あれから一週間、準備だなんだと霞城家に拘束されて碌に気を休められなかったからだ。
政略結婚なのだからこんな大がかりにしなくてよいだろうに。そう思ってはいても口にはしない。この家を取り仕切るのは父で、後継ぎと言っても自分に発言権などないからだ。
霞城家の紋が入った羽織が煩わしい。
――俺は父上の駒だからな。
そう自嘲して儀式の間へと足を踏み入れる。
見渡せば、座敷の一方には既に霞城家の人間がずらりと並んでいた。わざわざ霞城家での儀式を提案したのも体裁を気にしてだろう。父はなにかと籠谷家を下に見ている節がある。結界維持は籠谷家の役目で、父はそれを誰よりも理解しているはずなのに。
一族の者たちに礼をし、腰を下ろした。向かいには赤の座布団が置かれている。そこに花嫁が座るのだろう。
どんな女だろうと一瞬考え、すぐにやめた。相手がどんな人物であろうと自分には関係ない。ただ、早く終わればいいと願っていた。
「籠谷家はまだ来ないのか?」
「は、はい……まだお見えになりません」
使用人はびくりと肩を震わせた後、舌をもつれさせながら早口で答えた。まだ霞城家に来て日の浅い者だったのだろう。怖がらせてしまったのが少し申し訳なかった。
「随分と舐められたものだな」
父の声は相変わらず淡々としていたが、苛立っているのが分かる。ひそひそと騒ぎ始めた一族たちに、小さく舌打ちした。
さて、どうしようかと思案し始めたところで、ようやく目の前の襖がスッと開いた。
「お待たせしてしまい申し訳ありません」
遅れて入室してきた花嫁はにこりと笑った後、何事もなかったかのように自分たち霞城家に対面して腰を下ろした。
肩のあたりまでに切りそろえられた黒髪は大ぶりの髪飾りで飾られ、豪奢な着物は籠谷家の意地を感じさせた。どこも似たようなものだなと嘆息する。
しかし、思わず眉を寄せた。花嫁の後ろに誰もついてこないのだ。当主はおろか次期当主と目される嫡男まで。
籠谷家のために用意された座布団だけが、花嫁の後ろにあるだけだった。
がらんとした背を振り返ることなく、しゃんと背筋を伸ばして花嫁は座っている。霞城家側の騒めきはますます大きくなり、思わず眉を寄せる。異常な光景だった。
「他の者たちはどうした」
「私一人で行くようにと。わざわざ参列する必要はないと仰せつかりました」
低く問うと、花嫁は淀みなく正直に答えた。この場でその答えをすれば火に油を注ぐようなものだと分かっているだろうに。
案の定、一族の騒めきは困惑から怒りへと変化していく。
「馬鹿にしているのか!」
「我々をなんだと……!」
一族たちの不満は最もだったが、それよりもまず浮かんだのは感心だった。よくもまあこの場で堂々と言えるものだ。
まじまじと目の前の妻を観察していれば、向こうと視線が合った。深緑の、美しい瞳だった。
視線が絡んだ瞬間、花嫁は紅で彩られた口元に弧を描いてにこりと微笑んだ。ついでに頬を上気させて。それを見て、思わず顔を顰める。
媚びを売る女、それは自分が最も嫌うものだった。露骨な態度であったにも拘わらず、花嫁は気にしていないようで、むしろクスクスと笑っている。眉間の皺は深くなる一方だった。
「……名前は」
「籠谷香蓮と申します」
花嫁の声は妙に捉えどころがなく、ふわふわとしていた。
妙な女だと結論づけ、それ以上は聞かずにさっさと儀式を進めていく。これ以上不満をだらだらと零す一族たちに囲まれるのも、見栄の張り合いの儀式も嫌だった。
契りと称して渡された酒を一気に呷る。喉を焼く心地よさは、違和感とこれからの不安を拭ってはくれなかった。
「これからよろしくお願いします」
「俺はお前とよろしくする気はない」
「まあ!つれないですね」
儀式後、あとは二人でよろしくやれと移動させられた部屋は、家の中で最も庭の眺めが良い所だった。奇しくも、兄と花見をしようと約束していた部屋。菓子を持ち込んで、二人で桜を見ようと言っていた場所だった。
ふいに思い出した痛みに気づかないふりをして、庭へ視線をやったまま苦々しく返す。兄との思い出が、素性もよくわからぬ女に踏み荒らされた気がして嫌だった。そのそっけない返答に、花嫁……香蓮は気にしていないようだった。
むしろ、じっとこちらを見ている。その視線をついに無視できなくなって、諦めて香蓮に向き直った。
「俺に、なにかついているか」
「いいえ?ただお綺麗な方だなぁと思いまして」
「は?」
意味が分からない。首を傾げた自分に、説明が必要だと解釈したのか香蓮はなおも続ける。
「ええっと、銀の御髪も綺麗ですし、その紫がかった瞳も」
「……気色悪い」
「私が殿方でしたら口説いていたかもしれませんね」
――この女は一体何なのだ。
本気で困惑した。自分の眉が寄っていくのを自覚する。
遅れてきた上にたった一人で霞城家に来た女。余裕そうな態度と、こんなにも邪険にしているというのに笑みを湛えているのが気味悪かった。
「私、旦那様と結ばれてとっても幸せです」
「政略結婚だというのに、か?」
「ええ。だって、籠谷の家から出られますもの」
その言葉が、なぜか心に残る。まだなんの素性も分かっていない香蓮に興味を持つくらいには。
「これからよろしくお願いします。旦那様」
「その呼び方はやめろ」
そう厳しく言えば、香蓮は首を傾げた後に言い直す。
「では柊夜様、と」
「……ああ」
――違う。
そう訂正したかったが、すんでのところで言葉を呑んだ。
籠谷香蓮は「霞城柊夜」に嫁いだのだ。自分は香蓮の「旦那様」なのだと自分に言い聞かせる。
けして女だとバレないようにという父の言葉が脳裏に再生される。無意識にぐっと拳を握った。
何も変わらない。これからも今まで通り欺くだけだ。そう決意して、霞城家の門を出た。
隣に香蓮を連れながら。
