がやがや、がやがや。
家庭科室の中は結構広くて、それに相応するように人が結構いた。部員たちの会話、雑談。見学者たちの会話、雑談。ときどき手の空いた部員がこっちにやってきて「どう?」と訊いてくる。それは俺にではなく新入生たちに。
「どっすか?」
声がして、ぱっと顔を上げる。立っていたのは、にやにやしながらこっちを見ている河合だ。今のは、俺に言っていた。
「ん-、団子うまそー、だけ。」
壁際の椅子、これ以上背中を倒すことはできず、代わりに足をぐーっと伸ばした。隣には下級生たちがいるのに、情けない体勢になる。
あっはと短く笑い、河合は勝手に椅子を出して横に並べた。
「あの団子、君たちの分もあるぜ?」
にやにやしながらまた言ってくる。こいつ、ずっとにやにやしてるな。
「マジ? ラッキー。」
自分から出た声は思っていたよりも弾んでいた。団子でこんなにはしゃぐなんて、子供みたいだ。……いや実際子供ではあるけれど。
「うぃ~、河合サボってねーで働け~。」
呑気そうなやつが一人、こっちへ来て言った。うん、俺もそう思う。「あーれー」と首根っこを引っ張られていく河合は情けなくて、ついさっきの自分を棚に上げて「あれほんとうに二年生かよ」と思ってしまった。
がやがや、がやがや。
一人になって離しかける相手もおらず、かといってスマホを開くのは失礼だから、俺はぼうっと部屋中を見回した。
すぐ横には俺と同じ丸い椅子に座った(おそらくほとんどが新入生)見学者、向こうを見れば部員。見学者は友達と来ている人以外はしんと黙っている一方、そっちの方はみんながしゃべって、楽しそうにしている。河合はそんな中の、二年生の男子のグループにいた。四人しかおらず、少しだけ肩身狭そうにしている。
その中でも中心のように、話しかけ、話しかけられ、笑い合う。こういうやついるよな。自信があって、真っ直ぐなやつ。
羨ましい、と思う。端からすれば俺もおんなじようなものだろう。でも俺は、本当はこんなにうじうじしているんだ。それも、落ちきることのできない半端者で、どこか恥ずかしく思う。
河合と俺の違いは、なんだろう。
ふと、視線に気づいた河合がこちらへ手を振ってくる。皿を洗っている途中の、泡のついた手で。片手に持っていたスポンジから水と一緒に泡が伝り、袖の中に入っていく。それに慌てて、スポンジをシンクに投げ出し、洗剤の通り道を水で洗い流す。友達がそれを見て笑いながら肘でつついていた。
……なるほど、河合の強みがわかった気がする。なんだか彼の友達であることを嬉しく思った。
「大庭〜」
自分の仕事をさっさと切り上げてきたのか、こちらへかけてくる。
「今日一緒に帰ろー」
「おー」
ほとんど意を介さずに応える。すると河合はふにゃりと溶けた笑顔を見せてすぐに戻っていった。
団子を食べ終え、残すは後片付けだけ。もう用はないというように、他の見学者がちらほらと帰っていく。そんな中俺は、足元のリュックを膝の上に抱え直し、家庭科部の終礼がかかるまでじっと壁際から動かなかった。
「来週末まで体験入部期間だから、その間毎日部活があります。休まないようにね。引き続き文化祭準備と料理と裁縫を日ごとに回していきます。持ち物間違えないように。じゃあ号令」
「気をつけ、礼。ありがとうございました」
顧問の先生の話が終わり、部長の号令の後に続いて全員が「ありがとうございました」と言う。それが終わるか終わらないかくらいに、いくらかの男子が自分のリュックに駆けていった。
河合もその中の一人で、号令が終わるのとほぼ同時にリュックの肩紐を掴み、俺のもとへやってきた。
「大庭、待たせた。帰ろ。」
ひょこっと、椅子の高さくらいまでしゃがみ込んでのぞいてくる。
「おー」
短く返事をし、膝上のリュックを右だけかけて立ち上がる。椅子を片し、「行こー」と隣に並んだ。
「どう? 団子美味かった?」
「もう言ったべ、美味かった。」
はっと笑いながら言うと、河合は満足げに目を細めた。子を慈しむ親のような、こんな視線を向けられるのは慣れなくて、少し胸の辺りがむず痒かった。
「じゃあ入部して。」
結局そこに着地するのか。ブレないな、この営業魂は。あ! 今の目は、よしこいつは落とせるぞという目だったのか⁈
「悪いがお断りだ。俺は帰宅部を貫く。」
河合に手のひらを向け、ばっさりと断る。すると「ちぇ〜」とだけ言われ、それ以上の勧誘は続かなかった。
沈黙が横たわる。
「なあ、団子、どうだった?」
また同じ質問をされた。
「だから、美味かったって。」
「あ〜、じゃなくて、具体的に食レポしてよ。せっかくなんだから。」
何に対しての「せっかく」だ? とは思いつつも、口を開く。
「俺、上手いことは言えねえけど、タレが美味かったな〜。みたらし。甘いのとしょっぱいのがいいバランスで。あと、団子。もちもちしててめっちゃ美味かった。どうやって作ってんの?」
いつも「ヤバい」とか語彙力のなさそうな言葉しか言わない俺なりには頑張った方だ。ついでに話し手を河合へ持っていかせてもらった。
「ん〜、知らん。」
……ん?
「え、お前作ったんじゃねーの?」
「や、サボってた。」
あんまりあっさり言うもんだから、こいつがサボり魔であろうことがすぐにわかった。
「あれよ、ほら〜、俺は人集めっつう重要な仕事をこなしてたわけで〜。」
自分のサボりに人を巻き込んでいやがる。まあ確かに重要ではあるけど! ……ん? いや待てよ。
「俺行ったときにはもう結構いたけど?」
ぎく、と肩が揺れた。図星みたいだ。
「や、やー……せっかくここまで集めてきたんならぁ? もうちょっと欲しいかなぁ? ってぇ。」
目をあっちこっちと泳がせながら言うので、説得力がカケラもない。要は、少しでも長くサボりたかっただけだろう。まったく、だらしないにもほどがある。それを止めない他の部員もずいぶんじゃないか。
「あ」
不意にした声に振り返ると、河合は一つの店を見ていた。いつも景色として通り過ぎていた和菓子屋。
「みたらし団子食いたい!」
「ついさっきお前は何を食ってきた!」
腕を組んでぬんと佇まう河合に、思わずツッコミをする。帰れば夕食だろうに、こいつはまだ、しかもすでに食べたものを食おうとしている。運動部の男子でもないのに、どうしてこうも食欲旺盛なのか。
しかし、「ダメ?」ときらきらの子供のような目で見つめられては断れない。「俺は買わねーぞ」ということで店に入った。
和風な外装から想像した通り、中に入ると濃い茶色の木目の見える棚や机が並んでいた。八つ時をとうに過ぎたからか、在庫は半分ほどなかった。しかしその中でみたらし団子はたくさん積まれていた。人気だからだろう。
「みたらしはっけーん!」
河合は入ってすぐに、目についたお目当てをかっさらい、レジ奥に突っ立っているおばさんの前に差し出した。
「三百円です」
「現金で。」
「はい」
じゃらっと重たそうな財布から、小銭を三枚、青いトレーの上に転がす。その後、二言三言交わし、白いビニール九袋を受け取る。最後に「ありがとうございました」が、レジのおばさんと完全に重なっていた。河合がこちらに向く。
「行こ!」
「おー」
店前の道のガードレールに腰掛け、タッパーから四本のうち一本を取り出す。
「ん。」
そのタッパーを、開けたまま俺に突き出す。「なに」と顔を上げると、きょとんとして、「食わねーの?」と言ってきた。まっすぐに。
「え、俺金払ってねーじゃん」
「そんなん気にすんなよ。どうしてもってんなら次奢って。」
なんてことないみたいにこっちをじっと見てくる。「ん。」と再び差し出される。「……じゃあ」とおずおずと手を伸ばすと、なんでかぱあっと笑った。口に咥えた竹串の、一つだけ外に残った団子が幼い雰囲気を掻き立てる。
「なんの顔だよ。」
「んー? たんと食えよ。」
「オカンか。」
はぐらかされた、が、まあ、そんなに気にすることじゃないだろう。そのまま一つ目を口に運び、ぱく、と含む。
ん、やっぱり美味い。流石にこっちのが美味いな、河合には悪いけど。あ、いや、河合は作ってねえから、謝るべきは家庭科部のみなさんか。
「ど?」
呑気にのぞき込んでくる。いつの間に二本目の串が裸になっていた。
「ん、美味いよ。」
ふふふ、と穏やかに表情を崩す。不思議なやつ、人の一挙一動に笑って。
「ちゃんと夕飯入る?」
今更な質問だ。自分から食わせておいて。
「まあ、入れるよ。」
「脳筋プレー?」
「(笑)」が語末に付きそうな言い方。なんか馬鹿にされているみたいで少しむっとした。
「そう言うお前は?」
「バリよゆー」
マジか、と正直驚いた。自分から食べると言い出すだけはあるということか。体格の差か。……いや、そんなに差はないと思っていたのだけれど。ない、よな? え? ある?
「身長いくつ?」
「えー……ひゃくななじゅう……なな?」
疑問形で返されてしまう。いや知らんがな、そんなこと。俺に訊くな。
「うん、多分そうだったはず。」
そうか百七十七か……七……七⁈ お、俺よりも六センチも高い。ショックだ。……少し、落ち込む。
「おー、大丈夫⁈」
そのしゅんとした気分が表に出ていたのか、少し焦ったように訊き、下からのぞこうとしてくる。
「――くれ。」
「え?」
「同情するなら身長をくれ!」
「い、家なき子……⁉︎」
手の甲を頬に向け、“驚愕”という、望んだようなオーバーリアクションを返してくれる。
「あ、わかんだ。」
「親にこのセリフだけ教えてもらった。」
「俺もだわ。」
くくく、と笑い合う。河合が最後の一本の団子をみるみるうちに食べた。ゴミ箱がなかったので俺の串ごとまとめてタッパーに入れ、河合はそれを自分のリュックに入れ、持ち帰ることにする。
「『ゴミは持ち帰ろう!』ってな。」
「登山のとき見かけるポスターやん」
「言われてみれば……?」
う〜ん、あまり腑に落ちていない様子で。「素晴らしい感性だね」と保育園の先生みたいににこっと笑いかけてきた。
それから、くだらない冗談を互いに言い合い、別れ道まで一緒に帰った。
「ほいじゃ明日。」
「うん、また〜」
よっと手を挙げ、さよならをする。河合はすぐに背を向けて行く。しかし俺は少し、本当に少しだけの間、そこから動けなかった。
離れていく、輝いて見えるその背中を、少しでも長く目に焼き付けたいと思った。焦がれていた。
家庭科室の中は結構広くて、それに相応するように人が結構いた。部員たちの会話、雑談。見学者たちの会話、雑談。ときどき手の空いた部員がこっちにやってきて「どう?」と訊いてくる。それは俺にではなく新入生たちに。
「どっすか?」
声がして、ぱっと顔を上げる。立っていたのは、にやにやしながらこっちを見ている河合だ。今のは、俺に言っていた。
「ん-、団子うまそー、だけ。」
壁際の椅子、これ以上背中を倒すことはできず、代わりに足をぐーっと伸ばした。隣には下級生たちがいるのに、情けない体勢になる。
あっはと短く笑い、河合は勝手に椅子を出して横に並べた。
「あの団子、君たちの分もあるぜ?」
にやにやしながらまた言ってくる。こいつ、ずっとにやにやしてるな。
「マジ? ラッキー。」
自分から出た声は思っていたよりも弾んでいた。団子でこんなにはしゃぐなんて、子供みたいだ。……いや実際子供ではあるけれど。
「うぃ~、河合サボってねーで働け~。」
呑気そうなやつが一人、こっちへ来て言った。うん、俺もそう思う。「あーれー」と首根っこを引っ張られていく河合は情けなくて、ついさっきの自分を棚に上げて「あれほんとうに二年生かよ」と思ってしまった。
がやがや、がやがや。
一人になって離しかける相手もおらず、かといってスマホを開くのは失礼だから、俺はぼうっと部屋中を見回した。
すぐ横には俺と同じ丸い椅子に座った(おそらくほとんどが新入生)見学者、向こうを見れば部員。見学者は友達と来ている人以外はしんと黙っている一方、そっちの方はみんながしゃべって、楽しそうにしている。河合はそんな中の、二年生の男子のグループにいた。四人しかおらず、少しだけ肩身狭そうにしている。
その中でも中心のように、話しかけ、話しかけられ、笑い合う。こういうやついるよな。自信があって、真っ直ぐなやつ。
羨ましい、と思う。端からすれば俺もおんなじようなものだろう。でも俺は、本当はこんなにうじうじしているんだ。それも、落ちきることのできない半端者で、どこか恥ずかしく思う。
河合と俺の違いは、なんだろう。
ふと、視線に気づいた河合がこちらへ手を振ってくる。皿を洗っている途中の、泡のついた手で。片手に持っていたスポンジから水と一緒に泡が伝り、袖の中に入っていく。それに慌てて、スポンジをシンクに投げ出し、洗剤の通り道を水で洗い流す。友達がそれを見て笑いながら肘でつついていた。
……なるほど、河合の強みがわかった気がする。なんだか彼の友達であることを嬉しく思った。
「大庭〜」
自分の仕事をさっさと切り上げてきたのか、こちらへかけてくる。
「今日一緒に帰ろー」
「おー」
ほとんど意を介さずに応える。すると河合はふにゃりと溶けた笑顔を見せてすぐに戻っていった。
団子を食べ終え、残すは後片付けだけ。もう用はないというように、他の見学者がちらほらと帰っていく。そんな中俺は、足元のリュックを膝の上に抱え直し、家庭科部の終礼がかかるまでじっと壁際から動かなかった。
「来週末まで体験入部期間だから、その間毎日部活があります。休まないようにね。引き続き文化祭準備と料理と裁縫を日ごとに回していきます。持ち物間違えないように。じゃあ号令」
「気をつけ、礼。ありがとうございました」
顧問の先生の話が終わり、部長の号令の後に続いて全員が「ありがとうございました」と言う。それが終わるか終わらないかくらいに、いくらかの男子が自分のリュックに駆けていった。
河合もその中の一人で、号令が終わるのとほぼ同時にリュックの肩紐を掴み、俺のもとへやってきた。
「大庭、待たせた。帰ろ。」
ひょこっと、椅子の高さくらいまでしゃがみ込んでのぞいてくる。
「おー」
短く返事をし、膝上のリュックを右だけかけて立ち上がる。椅子を片し、「行こー」と隣に並んだ。
「どう? 団子美味かった?」
「もう言ったべ、美味かった。」
はっと笑いながら言うと、河合は満足げに目を細めた。子を慈しむ親のような、こんな視線を向けられるのは慣れなくて、少し胸の辺りがむず痒かった。
「じゃあ入部して。」
結局そこに着地するのか。ブレないな、この営業魂は。あ! 今の目は、よしこいつは落とせるぞという目だったのか⁈
「悪いがお断りだ。俺は帰宅部を貫く。」
河合に手のひらを向け、ばっさりと断る。すると「ちぇ〜」とだけ言われ、それ以上の勧誘は続かなかった。
沈黙が横たわる。
「なあ、団子、どうだった?」
また同じ質問をされた。
「だから、美味かったって。」
「あ〜、じゃなくて、具体的に食レポしてよ。せっかくなんだから。」
何に対しての「せっかく」だ? とは思いつつも、口を開く。
「俺、上手いことは言えねえけど、タレが美味かったな〜。みたらし。甘いのとしょっぱいのがいいバランスで。あと、団子。もちもちしててめっちゃ美味かった。どうやって作ってんの?」
いつも「ヤバい」とか語彙力のなさそうな言葉しか言わない俺なりには頑張った方だ。ついでに話し手を河合へ持っていかせてもらった。
「ん〜、知らん。」
……ん?
「え、お前作ったんじゃねーの?」
「や、サボってた。」
あんまりあっさり言うもんだから、こいつがサボり魔であろうことがすぐにわかった。
「あれよ、ほら〜、俺は人集めっつう重要な仕事をこなしてたわけで〜。」
自分のサボりに人を巻き込んでいやがる。まあ確かに重要ではあるけど! ……ん? いや待てよ。
「俺行ったときにはもう結構いたけど?」
ぎく、と肩が揺れた。図星みたいだ。
「や、やー……せっかくここまで集めてきたんならぁ? もうちょっと欲しいかなぁ? ってぇ。」
目をあっちこっちと泳がせながら言うので、説得力がカケラもない。要は、少しでも長くサボりたかっただけだろう。まったく、だらしないにもほどがある。それを止めない他の部員もずいぶんじゃないか。
「あ」
不意にした声に振り返ると、河合は一つの店を見ていた。いつも景色として通り過ぎていた和菓子屋。
「みたらし団子食いたい!」
「ついさっきお前は何を食ってきた!」
腕を組んでぬんと佇まう河合に、思わずツッコミをする。帰れば夕食だろうに、こいつはまだ、しかもすでに食べたものを食おうとしている。運動部の男子でもないのに、どうしてこうも食欲旺盛なのか。
しかし、「ダメ?」ときらきらの子供のような目で見つめられては断れない。「俺は買わねーぞ」ということで店に入った。
和風な外装から想像した通り、中に入ると濃い茶色の木目の見える棚や机が並んでいた。八つ時をとうに過ぎたからか、在庫は半分ほどなかった。しかしその中でみたらし団子はたくさん積まれていた。人気だからだろう。
「みたらしはっけーん!」
河合は入ってすぐに、目についたお目当てをかっさらい、レジ奥に突っ立っているおばさんの前に差し出した。
「三百円です」
「現金で。」
「はい」
じゃらっと重たそうな財布から、小銭を三枚、青いトレーの上に転がす。その後、二言三言交わし、白いビニール九袋を受け取る。最後に「ありがとうございました」が、レジのおばさんと完全に重なっていた。河合がこちらに向く。
「行こ!」
「おー」
店前の道のガードレールに腰掛け、タッパーから四本のうち一本を取り出す。
「ん。」
そのタッパーを、開けたまま俺に突き出す。「なに」と顔を上げると、きょとんとして、「食わねーの?」と言ってきた。まっすぐに。
「え、俺金払ってねーじゃん」
「そんなん気にすんなよ。どうしてもってんなら次奢って。」
なんてことないみたいにこっちをじっと見てくる。「ん。」と再び差し出される。「……じゃあ」とおずおずと手を伸ばすと、なんでかぱあっと笑った。口に咥えた竹串の、一つだけ外に残った団子が幼い雰囲気を掻き立てる。
「なんの顔だよ。」
「んー? たんと食えよ。」
「オカンか。」
はぐらかされた、が、まあ、そんなに気にすることじゃないだろう。そのまま一つ目を口に運び、ぱく、と含む。
ん、やっぱり美味い。流石にこっちのが美味いな、河合には悪いけど。あ、いや、河合は作ってねえから、謝るべきは家庭科部のみなさんか。
「ど?」
呑気にのぞき込んでくる。いつの間に二本目の串が裸になっていた。
「ん、美味いよ。」
ふふふ、と穏やかに表情を崩す。不思議なやつ、人の一挙一動に笑って。
「ちゃんと夕飯入る?」
今更な質問だ。自分から食わせておいて。
「まあ、入れるよ。」
「脳筋プレー?」
「(笑)」が語末に付きそうな言い方。なんか馬鹿にされているみたいで少しむっとした。
「そう言うお前は?」
「バリよゆー」
マジか、と正直驚いた。自分から食べると言い出すだけはあるということか。体格の差か。……いや、そんなに差はないと思っていたのだけれど。ない、よな? え? ある?
「身長いくつ?」
「えー……ひゃくななじゅう……なな?」
疑問形で返されてしまう。いや知らんがな、そんなこと。俺に訊くな。
「うん、多分そうだったはず。」
そうか百七十七か……七……七⁈ お、俺よりも六センチも高い。ショックだ。……少し、落ち込む。
「おー、大丈夫⁈」
そのしゅんとした気分が表に出ていたのか、少し焦ったように訊き、下からのぞこうとしてくる。
「――くれ。」
「え?」
「同情するなら身長をくれ!」
「い、家なき子……⁉︎」
手の甲を頬に向け、“驚愕”という、望んだようなオーバーリアクションを返してくれる。
「あ、わかんだ。」
「親にこのセリフだけ教えてもらった。」
「俺もだわ。」
くくく、と笑い合う。河合が最後の一本の団子をみるみるうちに食べた。ゴミ箱がなかったので俺の串ごとまとめてタッパーに入れ、河合はそれを自分のリュックに入れ、持ち帰ることにする。
「『ゴミは持ち帰ろう!』ってな。」
「登山のとき見かけるポスターやん」
「言われてみれば……?」
う〜ん、あまり腑に落ちていない様子で。「素晴らしい感性だね」と保育園の先生みたいににこっと笑いかけてきた。
それから、くだらない冗談を互いに言い合い、別れ道まで一緒に帰った。
「ほいじゃ明日。」
「うん、また〜」
よっと手を挙げ、さよならをする。河合はすぐに背を向けて行く。しかし俺は少し、本当に少しだけの間、そこから動けなかった。
離れていく、輝いて見えるその背中を、少しでも長く目に焼き付けたいと思った。焦がれていた。
