「人力車なんて久しぶりです」
夏乃が、無事似に河島の屋敷に無事入るのを見届けてから紫穂と和颯は目的地に向かっていた。
ナナは紫穂の膝に乗っかって惰眠をむさぼっている。
隣の和颯の横顔を眺めながら紫穂は言う。
「あの……申し訳ないです。調査もありますのに……すみません」
和颯にしてみれば、一刻も早く調査に入りたいのではないか。それに亡くなった静香がもし、自殺ではないとしたら浮かばれないだろう。
だが紫穂との約束を破るわけにもいかないのだろう。申し訳なかった。
「いや、まずは兄に連絡して静香さんの話を聞きたいんだよね。兄は今、仕事中だからどうせ会えないし。だから、今は、まずは洋食屋に行こう。もうお昼だし、朝は食べてないんでしょ。……暗い話をさっきまで、聞いたけど、今は楽しもう」
「……はい」
そんな会話を繰り返すうちに洋食屋についた。おしゃれな看板が掲げられている。外国の文字。なんて書いてあるかはわからなかった。
人力車から降りる。
紫穂にしてみれば実に約五年振りの洋食屋だった。
「ナナちゃん」
眠っていたナナに紫穂は話しかける。頭のピョコンとした羽毛が動く。
「ピッ?」
「ナナ、ここに戻ってくれ」
和颯が自身の身につけるペンダントの黒い宝石を指す。
「ピピ……」
不満気ながらもナナはそっと羽ばたき、そして光を放ち宝石に吸い込まれるように消えた。
★☆★☆
紫穂はメニューがありすぎて、さんざん悩んでしまった。
しかし、和颯は文句言うことなく待ってくれていた。
結局、紫穂はコロッケ定食。和颯はライスカレーを注文した。
「すみません、時間かかってしまって」
「謝ることないよ。たくさんメニューがあって迷っちゃうよね」
少しすると、コロッケ定食とライスカレーが運ばれてきた。
(いい匂い……)
「いただきます」
コロッケを口に運ぶ。
(サクサク、ホクホクしてて美味しい)
今度は白米とコロッケを一緒に食べた。これまた白米とコロッケがよく調和していて美味しかった。
夢中で食べていたが、ふと紫穂は和颯がこちらを見ているのに気づく。
「……どうかされましたか?」
少し考えて紫穂は思いつく。
もしかして粗相してしまったのか。十二歳から作法は習っていなかったのであり得る。
しかし和颯は笑って言う。
「いや、良い食べっぷりだなと思って」
「……そうでしょうか?」
自分ではよくわからない。
「昨日は緊張してたみたいだから」
確かに昨夜はいまいち味も途中からわからなくなってしまった。
「だから、美味しく食べているのを見ると嬉しいなぁと思って」
「……えっと、その……」
思わぬことを言われ戸惑う。
紫穂はどうにか言葉をつむぐ。
「……連れてきてくださりありがとうございます。とても美味しいです……」
紫穂に返せるものなんてろくにないのに。
和颯が小声で言う。
「気にしなくていい。これは契約なのだから。俺が死んだあと、ナナの面倒を見てくれればそれでいい」
「……はい」
(契約……)
紫穂は、その契約をしっかり果たしたいと思った。それが恩返しだ。
食べ終わると、また人力車に乗り込んで、今度は呉服屋に向かった。大きな店で、何とエレベーターまで付いていて紫穂はひどく驚いた。
五年前はエレベーター付きの呉服屋なんてなかったはずだ。
エレベーターに乗り込む。そして、昇降機ガールに行き先を和颯が伝える。
洋服の可愛らしい制服姿を昇降機ガールはしていた。白い帽子、そして、中はシャツ、上着は紺を基調としたジャケット、そしてスカートの制服姿。
(わあ、可愛いお洋服!)
が、ジロジロ眺めるのも失礼だろうと紫穂は判断して、視線をそらす。
すぐに目当ての階に到着した。
バッーとたくさんの着物が並んでいる様は圧巻だった。
「紫穂ちゃん、好きなの選んで」
優しく笑いかけて和颯が言う。
(……どうすれば……?)
と思うものの、ここで固辞するのもどうなのか。
紫穂は着物を眺めていく。
伝統的な模様はもちろん、帝都や外国の町並みを再現したらしいハイカラな柄の着物まである。どれも素敵な着物すぎて決められない。
「うーん」
紫穂がうなる。
色々ありすぎて悩ましい。和颯は、紫穂が迷っている間、文句一つ言わず待っていてくれている。
ありがたいと思いつつも、早く選ばなければとも思う。
(ここは目をつぶって……手に取った着物にするとか……? ……あ、でもそれだと人とぶつかる可能性があるか)
考えつつ、着物の間を歩く。
(あと十歩、進んで目についた着物とかどうだろう?)
これなら人とぶつからない。紫穂はそう決めて、十歩進む。
「これにします」
紫穂は指さす。
奇しくも紫穂と同じ名前の紫色の銘仙だった。しかも花と蝶の柄。
(蝶……。でも、これでいい。それに銘仙なら安価な方ではあるし。絹としては、だけど)
と紫穂は思う。紫穂の黒蝶はもう一生、顕現されないだろう。でも、綺麗と思ったのは本当だった。
紫穂の記憶の中だけでも、残していてあげたい。憎いとすら思ったこともある黒蝶だが、それだけではなかった。
それに正直に言えば少し、記憶は薄れてしまっている。でも、この蝶の着物を見ていれば、鮮明に思い出せる気がした。
「そっか。うん、可愛い着物だね」
「……和颯さん、ありがとうございました」
「当然のことだよ。結婚するのだしね。……あ、他の着物はどうする?」
「えっ??」
紫穂はキョトンとする。
「だって、一着だと少ないよ」
「いえ、水色の着物もいただきましたから」
紫穂がそう言うと和颯はこう返してきた。
「いいかい、紫穂ちゃん? 我が烏藤家が将来の妻に対してケチだと思われてしまうだろう? だから、俺や烏藤家のためにもドンと買い込むべきなんだよ?」
「え」
紫穂は、びっくりする。紫穂にはない視点だった。
(え? そうなのかな? ……考えてみればそうかも?)
ここで、遠慮するほうが和颯の顔を潰してしまうのだろうか。
悩む紫穂に和颯は太陽のような笑みを浮かべる。
「さあ、というわけで、好きなだけ買っていいよ」
「す、好きなだけですか……」
「うん」
(どうすれば……?)
紫穂は困惑しつつ、結局、和颯に流されて、あと一着だけ買うことになった。それ以上は申し訳なくて固辞してしまった。
「ありがとうございます」
紫穂は頭を和颯に下げる。
「気にしなくていいからね。もっと買ってよかったのに。……じゃ、次行こうか」
(次……? ……あ、フルーツパーラー!)
行こう、という話が出ていた。でも、まだ行っていなかった。もうすぐ三時。
おやつにはそろそろ丁度いい時間帯。
エレベーターに乗り込み、目的地へ向かう。
(ん? フルーツパーラーに行くなら一階に降りて外に出ないとなのに……?)
が、和颯が昇降機ガールに指定した階数は三階。
すぐに三階へ到着する。
「今日、洋服の大展示会がやっているんだよ。舶来のものから、国内で作られたものまで、色々ある」
目の前に広がる光景は視界いっぱいの洋服。シャツ、ブラウス、ワンピース、スーツ、ドレス……。
様々な種類の洋服だった。
「さ、次は洋服選びをしよう」
「ですが、お着物をたくさん買っていただきましたし……」
「そんなこと、いいって。たいして買ってないしね。洋服、着てみたいんじゃないの?」
紫穂はびっくりした。
「……なぜ、わかったのですか?」
「だって、昇降機ガールの制服を熱心な視線で見ていたからね」
「あっ」
バレていたのか。恥ずかしい。紫穂は若干、顔を赤くする。
「見に行こう」
和颯にうながされ、見回る。いくつもの洋服に目が留まる。
「素敵……」
思わず、つぶやく。
「どれがいい? どれが欲しい?」
和颯の問いかけに紫穂は、どう答えるべきか迷った。
すでに着物を買ってもらっている。が、ここで何も要りません、と答えたら先ほど和颯自身が言ったように和颯の顔を潰しかねないのではないか。
「これが素敵です……」
だから、紫穂は、とある一体のマネキンが着ている洋服を指さした。
昇降機ガールの制服に似ていた。
白い帽子に中はシャツ、上着は紺を基調としたジャケット、そしてスカート。細部は違うが、似ている。上着にはいくつかボタンも取り付けられているところもそっくりだ。
「そっか。じゃあ、これを貰おう」
そう言うと、和颯はさっさっと店員に申し付けた。紫穂は店員に試着室に案内されて、サイズを測る。ぴったりな大きさのものを店員が選んでくれた。
「ありがとうございます、和颯さん」
「いいっていいって……他はどれがいい?」
「いえ、このお洋服で十分です」
「遠慮しなくていいのに」
和颯が苦笑する。が、紫穂としてはもう十分だと思った。
そして、二人は今度は一階へ向かった。
呉服屋から出ると、また人力車に乗り込み、フルーツパーラーへと向かう。
紫穂は、流れる景色と、和颯の整った顔立ちをちらっと見た。
それに気づいた和颯が、ニコリと笑う。
何だか恥ずかしくなって、紫穂は少しうつむく。
(うう、何だか恥ずかしい。早くパーラーについて!)
願いが通じたのだろうか。呉服屋からフルーツパーラーへは大した距離もなく、すぐに到着した。
二人は人力車を降りて、フルーツパーラーへと入った。
席に案内されると、紫穂は真剣にメニューを見つめた。
「俺、ケーキにするよ」
「私は……フルーツポンチにします」
店員に注文して、運ばれてくるまでの間、紫穂は、改めて和颯に頭を下げた。
「和颯さん、ありがとうございます」
「今日はありがとうをよく聞く日だね。……いいんだよ、気にしなくて。……お互い様だ。俺こそ、ありがとう。俺との結婚を承諾してくれて」
きらりと、和颯のペンダントの宝石が煌めく。
「和颯さん、今日はとても楽しかったです」
「それは良かった。また来ようね。俺も楽しかったよ、とても」
「はい」
和颯の笑みを見つめながら、紫穂は思う。この人は長くないのだ。でも、悲痛さを感じさせない。どんな心情なのかは紫穂には分からない。
けれど、とても楽しかったと言ってくれたことが本心なら嬉しいと思う。
やがて、フルーツポンチとケーキが運ばれてきた。
フルーツポンチは甘くて、でも甘すぎず。いくらでも食べれそうな味わいだった。
紫穂はこの時が、ずっと続けばいいのにと思った。
夏乃が、無事似に河島の屋敷に無事入るのを見届けてから紫穂と和颯は目的地に向かっていた。
ナナは紫穂の膝に乗っかって惰眠をむさぼっている。
隣の和颯の横顔を眺めながら紫穂は言う。
「あの……申し訳ないです。調査もありますのに……すみません」
和颯にしてみれば、一刻も早く調査に入りたいのではないか。それに亡くなった静香がもし、自殺ではないとしたら浮かばれないだろう。
だが紫穂との約束を破るわけにもいかないのだろう。申し訳なかった。
「いや、まずは兄に連絡して静香さんの話を聞きたいんだよね。兄は今、仕事中だからどうせ会えないし。だから、今は、まずは洋食屋に行こう。もうお昼だし、朝は食べてないんでしょ。……暗い話をさっきまで、聞いたけど、今は楽しもう」
「……はい」
そんな会話を繰り返すうちに洋食屋についた。おしゃれな看板が掲げられている。外国の文字。なんて書いてあるかはわからなかった。
人力車から降りる。
紫穂にしてみれば実に約五年振りの洋食屋だった。
「ナナちゃん」
眠っていたナナに紫穂は話しかける。頭のピョコンとした羽毛が動く。
「ピッ?」
「ナナ、ここに戻ってくれ」
和颯が自身の身につけるペンダントの黒い宝石を指す。
「ピピ……」
不満気ながらもナナはそっと羽ばたき、そして光を放ち宝石に吸い込まれるように消えた。
★☆★☆
紫穂はメニューがありすぎて、さんざん悩んでしまった。
しかし、和颯は文句言うことなく待ってくれていた。
結局、紫穂はコロッケ定食。和颯はライスカレーを注文した。
「すみません、時間かかってしまって」
「謝ることないよ。たくさんメニューがあって迷っちゃうよね」
少しすると、コロッケ定食とライスカレーが運ばれてきた。
(いい匂い……)
「いただきます」
コロッケを口に運ぶ。
(サクサク、ホクホクしてて美味しい)
今度は白米とコロッケを一緒に食べた。これまた白米とコロッケがよく調和していて美味しかった。
夢中で食べていたが、ふと紫穂は和颯がこちらを見ているのに気づく。
「……どうかされましたか?」
少し考えて紫穂は思いつく。
もしかして粗相してしまったのか。十二歳から作法は習っていなかったのであり得る。
しかし和颯は笑って言う。
「いや、良い食べっぷりだなと思って」
「……そうでしょうか?」
自分ではよくわからない。
「昨日は緊張してたみたいだから」
確かに昨夜はいまいち味も途中からわからなくなってしまった。
「だから、美味しく食べているのを見ると嬉しいなぁと思って」
「……えっと、その……」
思わぬことを言われ戸惑う。
紫穂はどうにか言葉をつむぐ。
「……連れてきてくださりありがとうございます。とても美味しいです……」
紫穂に返せるものなんてろくにないのに。
和颯が小声で言う。
「気にしなくていい。これは契約なのだから。俺が死んだあと、ナナの面倒を見てくれればそれでいい」
「……はい」
(契約……)
紫穂は、その契約をしっかり果たしたいと思った。それが恩返しだ。
食べ終わると、また人力車に乗り込んで、今度は呉服屋に向かった。大きな店で、何とエレベーターまで付いていて紫穂はひどく驚いた。
五年前はエレベーター付きの呉服屋なんてなかったはずだ。
エレベーターに乗り込む。そして、昇降機ガールに行き先を和颯が伝える。
洋服の可愛らしい制服姿を昇降機ガールはしていた。白い帽子、そして、中はシャツ、上着は紺を基調としたジャケット、そしてスカートの制服姿。
(わあ、可愛いお洋服!)
が、ジロジロ眺めるのも失礼だろうと紫穂は判断して、視線をそらす。
すぐに目当ての階に到着した。
バッーとたくさんの着物が並んでいる様は圧巻だった。
「紫穂ちゃん、好きなの選んで」
優しく笑いかけて和颯が言う。
(……どうすれば……?)
と思うものの、ここで固辞するのもどうなのか。
紫穂は着物を眺めていく。
伝統的な模様はもちろん、帝都や外国の町並みを再現したらしいハイカラな柄の着物まである。どれも素敵な着物すぎて決められない。
「うーん」
紫穂がうなる。
色々ありすぎて悩ましい。和颯は、紫穂が迷っている間、文句一つ言わず待っていてくれている。
ありがたいと思いつつも、早く選ばなければとも思う。
(ここは目をつぶって……手に取った着物にするとか……? ……あ、でもそれだと人とぶつかる可能性があるか)
考えつつ、着物の間を歩く。
(あと十歩、進んで目についた着物とかどうだろう?)
これなら人とぶつからない。紫穂はそう決めて、十歩進む。
「これにします」
紫穂は指さす。
奇しくも紫穂と同じ名前の紫色の銘仙だった。しかも花と蝶の柄。
(蝶……。でも、これでいい。それに銘仙なら安価な方ではあるし。絹としては、だけど)
と紫穂は思う。紫穂の黒蝶はもう一生、顕現されないだろう。でも、綺麗と思ったのは本当だった。
紫穂の記憶の中だけでも、残していてあげたい。憎いとすら思ったこともある黒蝶だが、それだけではなかった。
それに正直に言えば少し、記憶は薄れてしまっている。でも、この蝶の着物を見ていれば、鮮明に思い出せる気がした。
「そっか。うん、可愛い着物だね」
「……和颯さん、ありがとうございました」
「当然のことだよ。結婚するのだしね。……あ、他の着物はどうする?」
「えっ??」
紫穂はキョトンとする。
「だって、一着だと少ないよ」
「いえ、水色の着物もいただきましたから」
紫穂がそう言うと和颯はこう返してきた。
「いいかい、紫穂ちゃん? 我が烏藤家が将来の妻に対してケチだと思われてしまうだろう? だから、俺や烏藤家のためにもドンと買い込むべきなんだよ?」
「え」
紫穂は、びっくりする。紫穂にはない視点だった。
(え? そうなのかな? ……考えてみればそうかも?)
ここで、遠慮するほうが和颯の顔を潰してしまうのだろうか。
悩む紫穂に和颯は太陽のような笑みを浮かべる。
「さあ、というわけで、好きなだけ買っていいよ」
「す、好きなだけですか……」
「うん」
(どうすれば……?)
紫穂は困惑しつつ、結局、和颯に流されて、あと一着だけ買うことになった。それ以上は申し訳なくて固辞してしまった。
「ありがとうございます」
紫穂は頭を和颯に下げる。
「気にしなくていいからね。もっと買ってよかったのに。……じゃ、次行こうか」
(次……? ……あ、フルーツパーラー!)
行こう、という話が出ていた。でも、まだ行っていなかった。もうすぐ三時。
おやつにはそろそろ丁度いい時間帯。
エレベーターに乗り込み、目的地へ向かう。
(ん? フルーツパーラーに行くなら一階に降りて外に出ないとなのに……?)
が、和颯が昇降機ガールに指定した階数は三階。
すぐに三階へ到着する。
「今日、洋服の大展示会がやっているんだよ。舶来のものから、国内で作られたものまで、色々ある」
目の前に広がる光景は視界いっぱいの洋服。シャツ、ブラウス、ワンピース、スーツ、ドレス……。
様々な種類の洋服だった。
「さ、次は洋服選びをしよう」
「ですが、お着物をたくさん買っていただきましたし……」
「そんなこと、いいって。たいして買ってないしね。洋服、着てみたいんじゃないの?」
紫穂はびっくりした。
「……なぜ、わかったのですか?」
「だって、昇降機ガールの制服を熱心な視線で見ていたからね」
「あっ」
バレていたのか。恥ずかしい。紫穂は若干、顔を赤くする。
「見に行こう」
和颯にうながされ、見回る。いくつもの洋服に目が留まる。
「素敵……」
思わず、つぶやく。
「どれがいい? どれが欲しい?」
和颯の問いかけに紫穂は、どう答えるべきか迷った。
すでに着物を買ってもらっている。が、ここで何も要りません、と答えたら先ほど和颯自身が言ったように和颯の顔を潰しかねないのではないか。
「これが素敵です……」
だから、紫穂は、とある一体のマネキンが着ている洋服を指さした。
昇降機ガールの制服に似ていた。
白い帽子に中はシャツ、上着は紺を基調としたジャケット、そしてスカート。細部は違うが、似ている。上着にはいくつかボタンも取り付けられているところもそっくりだ。
「そっか。じゃあ、これを貰おう」
そう言うと、和颯はさっさっと店員に申し付けた。紫穂は店員に試着室に案内されて、サイズを測る。ぴったりな大きさのものを店員が選んでくれた。
「ありがとうございます、和颯さん」
「いいっていいって……他はどれがいい?」
「いえ、このお洋服で十分です」
「遠慮しなくていいのに」
和颯が苦笑する。が、紫穂としてはもう十分だと思った。
そして、二人は今度は一階へ向かった。
呉服屋から出ると、また人力車に乗り込み、フルーツパーラーへと向かう。
紫穂は、流れる景色と、和颯の整った顔立ちをちらっと見た。
それに気づいた和颯が、ニコリと笑う。
何だか恥ずかしくなって、紫穂は少しうつむく。
(うう、何だか恥ずかしい。早くパーラーについて!)
願いが通じたのだろうか。呉服屋からフルーツパーラーへは大した距離もなく、すぐに到着した。
二人は人力車を降りて、フルーツパーラーへと入った。
席に案内されると、紫穂は真剣にメニューを見つめた。
「俺、ケーキにするよ」
「私は……フルーツポンチにします」
店員に注文して、運ばれてくるまでの間、紫穂は、改めて和颯に頭を下げた。
「和颯さん、ありがとうございます」
「今日はありがとうをよく聞く日だね。……いいんだよ、気にしなくて。……お互い様だ。俺こそ、ありがとう。俺との結婚を承諾してくれて」
きらりと、和颯のペンダントの宝石が煌めく。
「和颯さん、今日はとても楽しかったです」
「それは良かった。また来ようね。俺も楽しかったよ、とても」
「はい」
和颯の笑みを見つめながら、紫穂は思う。この人は長くないのだ。でも、悲痛さを感じさせない。どんな心情なのかは紫穂には分からない。
けれど、とても楽しかったと言ってくれたことが本心なら嬉しいと思う。
やがて、フルーツポンチとケーキが運ばれてきた。
フルーツポンチは甘くて、でも甘すぎず。いくらでも食べれそうな味わいだった。
紫穂はこの時が、ずっと続けばいいのにと思った。
