「起きなさいよ! 紫穂! 私の言うことが聞けないの!?」
「……ん?」
ぼんやりした意識の中、怒声が聞こえる。
(何なの……?)
徐々に、意識が覚醒してくる。まぶたを開ければ、目の前に飛び込んできた光景に、紫穂はハッとする。
「百代……?」
桃色の服の着物の少女はそこにはいた。結っていただろう髪はほどかれ着物にはシワがついていたが。
しかし、たいして弱っているようには見えず、紫穂をにらみつけていた。
紫穂と百代がいる部屋には窓すらない。しかし、洋燈が置かれているので辺りは見渡せる。
「百代……ここは?」
紫穂は、どうにか身体を起こす。
(そう。確か、孝治さんが)
そこまで思って紫穂は、めまいがしそうになる。
(斎藤キヨさん、矢内千恵さん、リクヒトさん、ミツさんを殺したのはきっと孝治さん。その四人のみならず、たぶん消えても気づかれないだろう孤児たちも。……妹の夏乃さんを生かすために……!)
「ここ? 知らないわよ! 婚約者候補の孝治にこっそり会おうと言われて、一人で抜け出したら変な爺妖魔に砂をかけられたのよ! 孝治は悪いやつだったの!!」
孝治、と彼を呼び捨てにする百代。その瞳は怒りで燃えている。
「孝治さんはどこに?」
「知らないわよ。でもたまに部屋に来るわよ。食事を運んでくるときとかね。さっきも、紫穂を運び込むときに来たわよ。逃げようとしのだけれど、やっぱり駄目だった。退魔師はいっつも、妖魔と戦っているもの。敵いやしない」
紫穂はドアに近づき、ドアノブをガチャガチャと動かす。
予想通り、どうにもならない。
「馬鹿じゃないの? 当然、鍵も術もドアにかかってるわよ? 私の術で出ようと試みたこともあったけれど無駄足だったわ! 捜索隊が組まれているはずだから、それまで待つしかないわ。癪だけれどね!」
(捜索隊……? そうだ、和颯さんはお義母様に連れられて百代を探しに外に出たんだった。でも、警察には言ってないらしいから捜索隊なんて……)
屋敷に和颯が帰ってきたら異変に気づいてくれるだろうが、それまでどのくらいかかるだろう。
それに屋敷の使用人たちは大丈夫だろうかと紫穂は思う。眠らせられただけならいいのだが。
サンドマンという相手を眠らせられる妖怪がいるのだから殺す必要はないはずだ。
紫穂は視線をあげて、百代の目をまっすぐ見た。
「捜索隊は組まれてない」
「え?」
百代はハトが豆鉄砲をくらったような顔をした。
「どういうこと?」
「屋敷にお義母様が来たの。百代の捜索を手伝えって。そのとき、警察に知らせるのはお父様に止められたと言っていたの」
「え!? 嘘でしょう!!」
「本当だよ、百代」
「嘘!! 娘の私より保身を取ったってわけ!? 最悪!! あと、私のことを呼び捨てにするんじゃないわよ!! 敬語も使いなさい!」
荒ぶる百代に紫穂はどこか、凪いた気持ちで接する。危機的状況だというのに、紫穂は比較的、落ち着いていた。
(きっと和颯さんは来てくれる)
そう何の証拠もないのに純粋に思えた。
「私だってお父様の娘。でも、どんな扱いを受けたかよく知っているでしょ?」
紫穂がそう言えば百代は紫穂を憎憎しげに、にらむ。
「私は白蝶よ!? 死蝶のお前とは違うの!! 尊い白蝶なの!」
紫穂がそれに何か言葉を返そうと口を開こうとしたときだった。
音もなく部屋のドアが開いた。
百代から視線を外し、ドアを凝視する。
現れたのは夏乃に似た顔立ちの美青年。
孝治だった。
手には太刀。
「あんた!! よくも私を騙したわね!!」
百代が孝治に今度は憎憎しげな視線を送る。
百代が孝治に突進して、つかみかかろうとするが孝治が呪言を唱えると百代は膝から崩れ落ちた。
「きゃっ!!」
「いやぁ、百代さん。あなたも懲りないお人だ。そこまでいくと感心するよ」
(白蝶の夢見鳥の巫女を呪言一つで……。この人、かなり出来る)
紫穂は、息を呑む。
「……私を帰しなさい!」
百代がふらふらと立ち上がる。
「それは出来ないな」
にいっと孝治が笑う。
そっと、百代の髪を孝治がつかむ。
「あなたには協力してもらわなくては」
「協力!?」
百代がわけがわからないというように叫ぶ。
「……孝治さん、訊きたいことがあります」
紫穂は孝治に向かってそう言う。百代の髪を離して孝治は紫穂に視線を向けた。
「なに? 冥土の土産に教えてあげよう」
「斎藤キヨさん、矢内静香さん、花山ミツさん、リクヒトさんを殺したのはあなたですか? それに行方不明になっても誰も気にしないだろう孤児たちもこの十カ月の間に何人もさらって殺したのでは? すべては妹の夏乃さんを生かすために」
「そうだね」
実にあっさりと孝治は認める。
紫穂はそれに不気味さを感じながらも疑念をぶつけ続けた。
「斎藤キヨさんをあなたは狙った。そして、妖魔でも使って霊力を搾り取り殺した。彼女は『行方不明』と処理されました。後々、あなたはケルピーに殺されたと偽造した。ケルピーもあなたが契約していた妖魔ですよね? 次に矢内静香さん。矢内静香さんとあなたは婚約者。小説執筆をあなたに話すほどに信頼していた。孝治さんは小説の相手役の男性の名前を『リクヒト』にしてはどうか、と提案して矢内静香さんはそれを受け入れた。結果的に、あの『遺書』が作られたといったところでしょうか。『行方不明』にしなかったのは二ヶ月連続も白蝶の夢見鳥の巫女が『行方不明』になれば不自然過ぎたからでしょう。……矢内静香さんは霊力を渡すのに抵抗した。当然です、霊力をすべて渡せば死にますから。それをあなたは妖魔を使って無理やり吸い上げたのでは?」
「は? 何の話!?」
百代が、わけがわからないと言わんばかりに叫ぶが紫穂は孝治へと話続ける。
「リクヒトさんは、あなたの保身のために殺された。万が一、あの『遺書』から何かに気づく人が出ないように」
「彼はもともと邪魔なところがあってね。斎藤キヨのことを嗅ぎ回っていたのさ。殺したら一石二鳥と思っただけだよ」
「……わざわざ幼名を使うなんて手の込んだことを。『本物』と信じ込ませるためでしょうか。『偽物』なら素直に今の名前を書くと思う人の心理の利用」
「いい案だっただろう? 現にあなたたちも信じていた」
「……ミツさんは、『お菓子』を使って殺しましたね。ミツさんを殺したのは矢内静香さんの死に彼女が疑念を抱いていたのと、矢内静香さんの小説執筆のことをミツさんが知っていたからでしょう。夏乃さんからと偽ってミツさんにお菓子を渡していた。お菓子には『妖魔の毒』が入っていた。しかし、妖魔の毒を打ち消す効果のあるものも入っていた。その割合を調整して、病死に見せかけた。……そして夏乃さんが呪われた原因は十カ月前の誘拐事件。和颯さんの友人が起こした……。攫われた令嬢とは夏乃さんのこと。あなたは夏乃さんを真っ先に救出して、呪いのことを隠蔽した。夏乃さんの呪いの証たる痣は背中にでもあったから自分では呪われていることに気づけなかった。呪われたら出る黒蝶もあなたが術で抑え込んでいた、といったところでしょうか?」
「やっぱり、あなたを攫ってよかった」
「え」
孝治が笑顔で思いがけないことを言うものだから紫穂は固まる。
(え? 攫ってよかった……?)
わけがわからない紫穂に孝治は笑いながら説明する。
「そこまで当てられたらね。あなたは、今後も俺の邪魔となる。あー、攫ってよかった! 本当に! 今、ここで排除するのが大正解だよ」
菩薩のような笑みでさえあった。
孝治の笑みは、ひどく穏やかだった。
「……でも、まだ当ててないことがあるな。わかる?」
「当ててないこと……」
紫穂は考えを巡らす。
(あっ、そうだ……。この人、妖魔といくつも契約している。妖魔に気に入られるのは難しいはずなのに……)
「孝治さんは妖魔に好かれる特殊体質なのですね。その甘い香りはそういうことですか……。あなたは猫から見たマタタビのようなものでもある。妖魔は自然と恍惚としてしまう」
「うん、そうだよ。あまりこの匂いも体質も好きではなかったのだろうけど。役に立ったから良しとする」
さて、と孝治が言う。
「紫穂さん、あなたをさらったのは殺すためでもあるが……」
(殺す……!)
ドクンと心臓が跳ねる。
「こちらの、あなたの妹の百代さんを死ぬところを見たらどうなるかも見てみたかった。百代さんはあなたをさんざんな目に合わせていたようだから。嬉しいと思うのか、それとも一応は妹だから……。紫穂さん、あなたには引っかき回されたからね。ちょっとした意趣返しさ」
「は!? 死ぬ!? 私を殺すつもり!?」
「うん、百代さん。俺と紫穂さんの会話を聞いていたよね? 夏乃が生きるためにあなたには死んでもらう。それだけの話だよ」
「いや! 紫穂、どうにかしなさい!」
「……」
(どうすれば?)
もう何人も殺してきた相手だ。
紫穂の説得など無駄であろう。
「……和颯さんはどうするつもりですか?」
紫穂を殺すつもりなら和颯も殺すつもりなのではないか。そう思って訊ねる。
「あ? 彼? もちろん殺すよ」
「……あなたに出来るのですか?」
「舐めないでもらいたい。これでもかなり強いよ、俺は。それに、あんなに強い和颯さんが何で呪われたのか知らないの? 確かに友人相手だったし。あの退魔師も強かったよ? でも和颯さんのほうが強かった。呪われちゃったのにはそれなりの理由があるんだよ」
(え? どういう意味?)
紫穂が、首をかしげていると孝治が何か唱えた。
「……っ!!」
急激に身体が重くなる。金縛りにあったかのようだ。
身体をささえられず、床に転がってしまう。
百代も同じ状態のようだ。
だが、口は動く。紫穂は、言葉を絞り出す。
「待って……!」
「……さて、よく見ていてね、紫穂さん? これから妹さんが死ぬのをじっくり見ているといい」
孝治はひどく優しく笑ったのだった。
「……ん?」
ぼんやりした意識の中、怒声が聞こえる。
(何なの……?)
徐々に、意識が覚醒してくる。まぶたを開ければ、目の前に飛び込んできた光景に、紫穂はハッとする。
「百代……?」
桃色の服の着物の少女はそこにはいた。結っていただろう髪はほどかれ着物にはシワがついていたが。
しかし、たいして弱っているようには見えず、紫穂をにらみつけていた。
紫穂と百代がいる部屋には窓すらない。しかし、洋燈が置かれているので辺りは見渡せる。
「百代……ここは?」
紫穂は、どうにか身体を起こす。
(そう。確か、孝治さんが)
そこまで思って紫穂は、めまいがしそうになる。
(斎藤キヨさん、矢内千恵さん、リクヒトさん、ミツさんを殺したのはきっと孝治さん。その四人のみならず、たぶん消えても気づかれないだろう孤児たちも。……妹の夏乃さんを生かすために……!)
「ここ? 知らないわよ! 婚約者候補の孝治にこっそり会おうと言われて、一人で抜け出したら変な爺妖魔に砂をかけられたのよ! 孝治は悪いやつだったの!!」
孝治、と彼を呼び捨てにする百代。その瞳は怒りで燃えている。
「孝治さんはどこに?」
「知らないわよ。でもたまに部屋に来るわよ。食事を運んでくるときとかね。さっきも、紫穂を運び込むときに来たわよ。逃げようとしのだけれど、やっぱり駄目だった。退魔師はいっつも、妖魔と戦っているもの。敵いやしない」
紫穂はドアに近づき、ドアノブをガチャガチャと動かす。
予想通り、どうにもならない。
「馬鹿じゃないの? 当然、鍵も術もドアにかかってるわよ? 私の術で出ようと試みたこともあったけれど無駄足だったわ! 捜索隊が組まれているはずだから、それまで待つしかないわ。癪だけれどね!」
(捜索隊……? そうだ、和颯さんはお義母様に連れられて百代を探しに外に出たんだった。でも、警察には言ってないらしいから捜索隊なんて……)
屋敷に和颯が帰ってきたら異変に気づいてくれるだろうが、それまでどのくらいかかるだろう。
それに屋敷の使用人たちは大丈夫だろうかと紫穂は思う。眠らせられただけならいいのだが。
サンドマンという相手を眠らせられる妖怪がいるのだから殺す必要はないはずだ。
紫穂は視線をあげて、百代の目をまっすぐ見た。
「捜索隊は組まれてない」
「え?」
百代はハトが豆鉄砲をくらったような顔をした。
「どういうこと?」
「屋敷にお義母様が来たの。百代の捜索を手伝えって。そのとき、警察に知らせるのはお父様に止められたと言っていたの」
「え!? 嘘でしょう!!」
「本当だよ、百代」
「嘘!! 娘の私より保身を取ったってわけ!? 最悪!! あと、私のことを呼び捨てにするんじゃないわよ!! 敬語も使いなさい!」
荒ぶる百代に紫穂はどこか、凪いた気持ちで接する。危機的状況だというのに、紫穂は比較的、落ち着いていた。
(きっと和颯さんは来てくれる)
そう何の証拠もないのに純粋に思えた。
「私だってお父様の娘。でも、どんな扱いを受けたかよく知っているでしょ?」
紫穂がそう言えば百代は紫穂を憎憎しげに、にらむ。
「私は白蝶よ!? 死蝶のお前とは違うの!! 尊い白蝶なの!」
紫穂がそれに何か言葉を返そうと口を開こうとしたときだった。
音もなく部屋のドアが開いた。
百代から視線を外し、ドアを凝視する。
現れたのは夏乃に似た顔立ちの美青年。
孝治だった。
手には太刀。
「あんた!! よくも私を騙したわね!!」
百代が孝治に今度は憎憎しげな視線を送る。
百代が孝治に突進して、つかみかかろうとするが孝治が呪言を唱えると百代は膝から崩れ落ちた。
「きゃっ!!」
「いやぁ、百代さん。あなたも懲りないお人だ。そこまでいくと感心するよ」
(白蝶の夢見鳥の巫女を呪言一つで……。この人、かなり出来る)
紫穂は、息を呑む。
「……私を帰しなさい!」
百代がふらふらと立ち上がる。
「それは出来ないな」
にいっと孝治が笑う。
そっと、百代の髪を孝治がつかむ。
「あなたには協力してもらわなくては」
「協力!?」
百代がわけがわからないというように叫ぶ。
「……孝治さん、訊きたいことがあります」
紫穂は孝治に向かってそう言う。百代の髪を離して孝治は紫穂に視線を向けた。
「なに? 冥土の土産に教えてあげよう」
「斎藤キヨさん、矢内静香さん、花山ミツさん、リクヒトさんを殺したのはあなたですか? それに行方不明になっても誰も気にしないだろう孤児たちもこの十カ月の間に何人もさらって殺したのでは? すべては妹の夏乃さんを生かすために」
「そうだね」
実にあっさりと孝治は認める。
紫穂はそれに不気味さを感じながらも疑念をぶつけ続けた。
「斎藤キヨさんをあなたは狙った。そして、妖魔でも使って霊力を搾り取り殺した。彼女は『行方不明』と処理されました。後々、あなたはケルピーに殺されたと偽造した。ケルピーもあなたが契約していた妖魔ですよね? 次に矢内静香さん。矢内静香さんとあなたは婚約者。小説執筆をあなたに話すほどに信頼していた。孝治さんは小説の相手役の男性の名前を『リクヒト』にしてはどうか、と提案して矢内静香さんはそれを受け入れた。結果的に、あの『遺書』が作られたといったところでしょうか。『行方不明』にしなかったのは二ヶ月連続も白蝶の夢見鳥の巫女が『行方不明』になれば不自然過ぎたからでしょう。……矢内静香さんは霊力を渡すのに抵抗した。当然です、霊力をすべて渡せば死にますから。それをあなたは妖魔を使って無理やり吸い上げたのでは?」
「は? 何の話!?」
百代が、わけがわからないと言わんばかりに叫ぶが紫穂は孝治へと話続ける。
「リクヒトさんは、あなたの保身のために殺された。万が一、あの『遺書』から何かに気づく人が出ないように」
「彼はもともと邪魔なところがあってね。斎藤キヨのことを嗅ぎ回っていたのさ。殺したら一石二鳥と思っただけだよ」
「……わざわざ幼名を使うなんて手の込んだことを。『本物』と信じ込ませるためでしょうか。『偽物』なら素直に今の名前を書くと思う人の心理の利用」
「いい案だっただろう? 現にあなたたちも信じていた」
「……ミツさんは、『お菓子』を使って殺しましたね。ミツさんを殺したのは矢内静香さんの死に彼女が疑念を抱いていたのと、矢内静香さんの小説執筆のことをミツさんが知っていたからでしょう。夏乃さんからと偽ってミツさんにお菓子を渡していた。お菓子には『妖魔の毒』が入っていた。しかし、妖魔の毒を打ち消す効果のあるものも入っていた。その割合を調整して、病死に見せかけた。……そして夏乃さんが呪われた原因は十カ月前の誘拐事件。和颯さんの友人が起こした……。攫われた令嬢とは夏乃さんのこと。あなたは夏乃さんを真っ先に救出して、呪いのことを隠蔽した。夏乃さんの呪いの証たる痣は背中にでもあったから自分では呪われていることに気づけなかった。呪われたら出る黒蝶もあなたが術で抑え込んでいた、といったところでしょうか?」
「やっぱり、あなたを攫ってよかった」
「え」
孝治が笑顔で思いがけないことを言うものだから紫穂は固まる。
(え? 攫ってよかった……?)
わけがわからない紫穂に孝治は笑いながら説明する。
「そこまで当てられたらね。あなたは、今後も俺の邪魔となる。あー、攫ってよかった! 本当に! 今、ここで排除するのが大正解だよ」
菩薩のような笑みでさえあった。
孝治の笑みは、ひどく穏やかだった。
「……でも、まだ当ててないことがあるな。わかる?」
「当ててないこと……」
紫穂は考えを巡らす。
(あっ、そうだ……。この人、妖魔といくつも契約している。妖魔に気に入られるのは難しいはずなのに……)
「孝治さんは妖魔に好かれる特殊体質なのですね。その甘い香りはそういうことですか……。あなたは猫から見たマタタビのようなものでもある。妖魔は自然と恍惚としてしまう」
「うん、そうだよ。あまりこの匂いも体質も好きではなかったのだろうけど。役に立ったから良しとする」
さて、と孝治が言う。
「紫穂さん、あなたをさらったのは殺すためでもあるが……」
(殺す……!)
ドクンと心臓が跳ねる。
「こちらの、あなたの妹の百代さんを死ぬところを見たらどうなるかも見てみたかった。百代さんはあなたをさんざんな目に合わせていたようだから。嬉しいと思うのか、それとも一応は妹だから……。紫穂さん、あなたには引っかき回されたからね。ちょっとした意趣返しさ」
「は!? 死ぬ!? 私を殺すつもり!?」
「うん、百代さん。俺と紫穂さんの会話を聞いていたよね? 夏乃が生きるためにあなたには死んでもらう。それだけの話だよ」
「いや! 紫穂、どうにかしなさい!」
「……」
(どうすれば?)
もう何人も殺してきた相手だ。
紫穂の説得など無駄であろう。
「……和颯さんはどうするつもりですか?」
紫穂を殺すつもりなら和颯も殺すつもりなのではないか。そう思って訊ねる。
「あ? 彼? もちろん殺すよ」
「……あなたに出来るのですか?」
「舐めないでもらいたい。これでもかなり強いよ、俺は。それに、あんなに強い和颯さんが何で呪われたのか知らないの? 確かに友人相手だったし。あの退魔師も強かったよ? でも和颯さんのほうが強かった。呪われちゃったのにはそれなりの理由があるんだよ」
(え? どういう意味?)
紫穂が、首をかしげていると孝治が何か唱えた。
「……っ!!」
急激に身体が重くなる。金縛りにあったかのようだ。
身体をささえられず、床に転がってしまう。
百代も同じ状態のようだ。
だが、口は動く。紫穂は、言葉を絞り出す。
「待って……!」
「……さて、よく見ていてね、紫穂さん? これから妹さんが死ぬのをじっくり見ているといい」
孝治はひどく優しく笑ったのだった。
