出会いは高校の入学式だった。
新しい環境、それなりの不安はある。でも数日もすればきっと慣れて、なんでもない日常が続いていくのだと思っていた。
こんなに心をかき乱される人に出会うなんて、思いもしなかった…。
大きめに作られた新しい制服は、着慣れなくてこそばゆい感じがする。
今日は入学式、無事高校に入学をはたした俺は会場の体育館入り口にいた。
「ご入学おめでとうございます」
受付の在校生からいくつかの資料が渡される。
「ありがとうございます」
「どちらの学科にご入学ですか?お名前は—」
母さんに受付を任せ、中学とは違って広く綺麗な体育館を後ろから見渡す。
整然と並べられた沢山の椅子は既に8割がた埋まっていた。
「流石に中学とは違うね。まだ創立5年だっけ?」
いつもより着飾った母さんに声をかけられる。受付が済んだらしい。幾つかの冊子と新入生名簿を渡された。
「確かそれくらい。まだ新しい校舎とかマジでテンション上がるわ」
「設備も整ってるだろうし、やりたいことも見つかるんじゃない?A中からは6人だっけ?仲の良い子いるの?」
「んー、話したことはあるけど、って感じ。まあなんとかなるしょ」
話しながら座席を探す。
俺が入学した〇〇県立〇〇工業高等学校は主に大学を目指す特進科を筆頭に、7つの工業系の学科を有するマンモス校だ。1学科につき1クラス。1クラス約40人。これが全日制で、更に20人程度の定時制も存在する。
人数が多ければ座席の数も多い。更に父兄の席までとなれば尚更だ。
「あ、あったあった。ロボット工学科!…父兄はこっちね。圭人も自分の席に行きなさい。この列の前の方。出席番号順に座ってくださいって」
「わかった、出席番号順ね。ついでにお友達作りもしてくるわ」
俺は適当な返事をして前方に向かった。
母さんから渡された名簿には学科別に全新入生の氏名と出席番号が印字されている。
俺はロボット工学科の6番。
どこか迷っていると、案内係の在校生に教えてもらい無事に席に辿り着いた。
出席番号から最前列か2列目かのどちらかと思っていたが、前方は建築科のエリアでロボット工学科はその後ろらしい。新入生全体で見るとちょうど真ん中くらいの位置だ。
分かってはいたが、生徒はほぼ男子。クラスには3人しか女子生徒はいない。寂しい気もするけど、別にそれはそれで気楽でいいやと思う。当分彼女も作る気になれないし。
隣の席にはもう既に男子生徒が座っている。席につく瞬間視線を感じた。
俺はちょっと考えて、
「よろしく」
と声をかけた。
「こちらこそ」
すぐに返事が返ってくる。
いい人そう。
家から近い割には、仲の良い友達は普通高校に進学して離れてしまった。早めに話せるやつを作っておきたかった。
「俺、泉圭人。友達少ないから友達になってよ」
自虐気味に自己紹介する。
「友達少ないの?」
そう言いながら、隣の男子生徒は少し笑ってこっちを向いた。その笑顔の秀麗さに言葉を失った。
男でも思わず見惚れるほどのイケメンって存在するんだ。とマジで思った。
「俺は綾瀬翠。遠距離通学だから俺こそ友達いないよ。だから嬉しい。泉くん、よろしくね」
早速友達作り成功したらしい。
—只今より、〇〇県立〇〇工業高等学校の入学式を挙行いたします—
立ったり座ったり、礼をしたり。
長くてつまらない話をぼーっと聞いている。
こういう式典ってなんでこうも退屈で眠くなるのかね。
しかも昼食後で暖かくて気持ちいい。校長の話って実は子守唄成分含んでない?よくないとは思いつつ、つい瞼が重くなる。
「—ねえ、起きて、そろそろ終わるよ」
そっと囁きかけられた。
「…ん?……うぅん」
……何?今何してたっけ。
軽く体をゆすられている。
その度にふわりと爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
なにこれいい匂い。
「ほら、起きないと—大丈夫?起きて?」
「え?…あれ、え?」
隣を見る。
「よかった、起きた。ほら、そろそろ話終わるよ」
どうやらもう普通に寝ちゃったっぽい。
しかも綾瀬の肩にもたれかかっている。
「マジか…ごめん」
—新入生、起立 —
なんとか起立に間に合う。
え、俺大丈夫だった?
慌てて周囲を見る。
「キョロキョロしてると余計目立つよ」
耳元で囁くように注意される。
思わず隣を見た。整った顔が思いのほか近くにあった。頭に血がのぼるのを感じた。絶対赤くなってるわ、俺。
その後も、また寝るんじゃないかと思われたのか時々顔を覗き見られて、その度に綺麗な顔にドキッとする。
心優しいイケメンとか反則すぎる。
綾瀬のおかげで、なんか偉い人の祝辞や在校生の言葉、教職員の紹介なども無事にやり過ごし入学式はなんとか終了した。
「マジで助かった!綾瀬、ありがとな!」
体育館から教室に移動して、自分の席につくなりお礼を言った。
俺の席は窓側の後ろから二番目。一つ前の席の綾瀬は横向きに椅子に腰掛けてからふわっと微笑んだ。
「気にしないでいいよ。それにしても泉くん、結構しっかり寝ちゃってたね?」
「いやいや午後イチであんな長話聞かされたら寝ちゃわない?」
「あはは、まあ俺も眠かったから気持ちはわかる」
入学式で早々、肩にもたれかかって居眠りとか、呆れて敬遠されるかと心配していたが杞憂だったようだ。
仲良くなれそうな気がする。
もう少しだけ距離を詰めてみるか。
「ってか、呼び方。もう普通に圭人って呼んでよ。俺もう勝手に綾瀬って呼び捨てにしてるし」
綾瀬は俺の言葉に首を傾げて考える素振りをみせた。
気に障ったかな?少し緊張しながら返答を待った。
「俺、圭人って名前で呼ぶから、圭人も俺のこと翠って名前で呼んでくれる?」
なんだそんなことか…そう思って安心する。
いつの間にか向き合うように座っていた綾瀬に顔を覗き込まれて、びっくりして反射的に仰け反ってしまう。
「びっくりした!綾瀬お前さ、美人すぎて心臓に悪いよ」
思わず本音が出る。
「…美人すぎるってなに?圭人のがかわいい顔してると思うけど?っていうか呼び方」
面白くなさそうな口調で言われてハッとした。
機嫌を悪くしたかもしれない。
まあ、これだけイケメンなら、外見のことは今までに何度も言われてきたんだろうな。
「ごめん、もうすでに綾瀬で定着しつつあるわ。翠って呼ぶように気をつけるよ。あと、俺がかわいいのは知ってる」
「え。実際かわいいけど否定されるかと思った」
俺も外見のことは何度も言われてきた。だからこそ良いことばかりじゃないのも知っている。
「俺だって、男がかわいいとかどうなの?って思うし、どうせならかっこいい方がいいけどさー。こういう顔なんだもん。否定したってしょうがなくね?」
俺のセリフを聞いて、綾瀬もとい翠は黙ってしまった。何か思うところがあるのかもしれない。
「確かに…」
翠が何か言いかけるとほぼ同時に教室の扉が開く音がした。
「あ、先生きたね。また後で。もう寝ちゃダメだよ」
幾分明るい口調で、そう言って翠は前に向き直った。
「ご入学おめでとうございます」
担任と副担任が教卓の前に立って挨拶をし始めた。
HRは寝ないでなんとか頑張ろうと思った。
新しい環境、それなりの不安はある。でも数日もすればきっと慣れて、なんでもない日常が続いていくのだと思っていた。
こんなに心をかき乱される人に出会うなんて、思いもしなかった…。
大きめに作られた新しい制服は、着慣れなくてこそばゆい感じがする。
今日は入学式、無事高校に入学をはたした俺は会場の体育館入り口にいた。
「ご入学おめでとうございます」
受付の在校生からいくつかの資料が渡される。
「ありがとうございます」
「どちらの学科にご入学ですか?お名前は—」
母さんに受付を任せ、中学とは違って広く綺麗な体育館を後ろから見渡す。
整然と並べられた沢山の椅子は既に8割がた埋まっていた。
「流石に中学とは違うね。まだ創立5年だっけ?」
いつもより着飾った母さんに声をかけられる。受付が済んだらしい。幾つかの冊子と新入生名簿を渡された。
「確かそれくらい。まだ新しい校舎とかマジでテンション上がるわ」
「設備も整ってるだろうし、やりたいことも見つかるんじゃない?A中からは6人だっけ?仲の良い子いるの?」
「んー、話したことはあるけど、って感じ。まあなんとかなるしょ」
話しながら座席を探す。
俺が入学した〇〇県立〇〇工業高等学校は主に大学を目指す特進科を筆頭に、7つの工業系の学科を有するマンモス校だ。1学科につき1クラス。1クラス約40人。これが全日制で、更に20人程度の定時制も存在する。
人数が多ければ座席の数も多い。更に父兄の席までとなれば尚更だ。
「あ、あったあった。ロボット工学科!…父兄はこっちね。圭人も自分の席に行きなさい。この列の前の方。出席番号順に座ってくださいって」
「わかった、出席番号順ね。ついでにお友達作りもしてくるわ」
俺は適当な返事をして前方に向かった。
母さんから渡された名簿には学科別に全新入生の氏名と出席番号が印字されている。
俺はロボット工学科の6番。
どこか迷っていると、案内係の在校生に教えてもらい無事に席に辿り着いた。
出席番号から最前列か2列目かのどちらかと思っていたが、前方は建築科のエリアでロボット工学科はその後ろらしい。新入生全体で見るとちょうど真ん中くらいの位置だ。
分かってはいたが、生徒はほぼ男子。クラスには3人しか女子生徒はいない。寂しい気もするけど、別にそれはそれで気楽でいいやと思う。当分彼女も作る気になれないし。
隣の席にはもう既に男子生徒が座っている。席につく瞬間視線を感じた。
俺はちょっと考えて、
「よろしく」
と声をかけた。
「こちらこそ」
すぐに返事が返ってくる。
いい人そう。
家から近い割には、仲の良い友達は普通高校に進学して離れてしまった。早めに話せるやつを作っておきたかった。
「俺、泉圭人。友達少ないから友達になってよ」
自虐気味に自己紹介する。
「友達少ないの?」
そう言いながら、隣の男子生徒は少し笑ってこっちを向いた。その笑顔の秀麗さに言葉を失った。
男でも思わず見惚れるほどのイケメンって存在するんだ。とマジで思った。
「俺は綾瀬翠。遠距離通学だから俺こそ友達いないよ。だから嬉しい。泉くん、よろしくね」
早速友達作り成功したらしい。
—只今より、〇〇県立〇〇工業高等学校の入学式を挙行いたします—
立ったり座ったり、礼をしたり。
長くてつまらない話をぼーっと聞いている。
こういう式典ってなんでこうも退屈で眠くなるのかね。
しかも昼食後で暖かくて気持ちいい。校長の話って実は子守唄成分含んでない?よくないとは思いつつ、つい瞼が重くなる。
「—ねえ、起きて、そろそろ終わるよ」
そっと囁きかけられた。
「…ん?……うぅん」
……何?今何してたっけ。
軽く体をゆすられている。
その度にふわりと爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。
なにこれいい匂い。
「ほら、起きないと—大丈夫?起きて?」
「え?…あれ、え?」
隣を見る。
「よかった、起きた。ほら、そろそろ話終わるよ」
どうやらもう普通に寝ちゃったっぽい。
しかも綾瀬の肩にもたれかかっている。
「マジか…ごめん」
—新入生、起立 —
なんとか起立に間に合う。
え、俺大丈夫だった?
慌てて周囲を見る。
「キョロキョロしてると余計目立つよ」
耳元で囁くように注意される。
思わず隣を見た。整った顔が思いのほか近くにあった。頭に血がのぼるのを感じた。絶対赤くなってるわ、俺。
その後も、また寝るんじゃないかと思われたのか時々顔を覗き見られて、その度に綺麗な顔にドキッとする。
心優しいイケメンとか反則すぎる。
綾瀬のおかげで、なんか偉い人の祝辞や在校生の言葉、教職員の紹介なども無事にやり過ごし入学式はなんとか終了した。
「マジで助かった!綾瀬、ありがとな!」
体育館から教室に移動して、自分の席につくなりお礼を言った。
俺の席は窓側の後ろから二番目。一つ前の席の綾瀬は横向きに椅子に腰掛けてからふわっと微笑んだ。
「気にしないでいいよ。それにしても泉くん、結構しっかり寝ちゃってたね?」
「いやいや午後イチであんな長話聞かされたら寝ちゃわない?」
「あはは、まあ俺も眠かったから気持ちはわかる」
入学式で早々、肩にもたれかかって居眠りとか、呆れて敬遠されるかと心配していたが杞憂だったようだ。
仲良くなれそうな気がする。
もう少しだけ距離を詰めてみるか。
「ってか、呼び方。もう普通に圭人って呼んでよ。俺もう勝手に綾瀬って呼び捨てにしてるし」
綾瀬は俺の言葉に首を傾げて考える素振りをみせた。
気に障ったかな?少し緊張しながら返答を待った。
「俺、圭人って名前で呼ぶから、圭人も俺のこと翠って名前で呼んでくれる?」
なんだそんなことか…そう思って安心する。
いつの間にか向き合うように座っていた綾瀬に顔を覗き込まれて、びっくりして反射的に仰け反ってしまう。
「びっくりした!綾瀬お前さ、美人すぎて心臓に悪いよ」
思わず本音が出る。
「…美人すぎるってなに?圭人のがかわいい顔してると思うけど?っていうか呼び方」
面白くなさそうな口調で言われてハッとした。
機嫌を悪くしたかもしれない。
まあ、これだけイケメンなら、外見のことは今までに何度も言われてきたんだろうな。
「ごめん、もうすでに綾瀬で定着しつつあるわ。翠って呼ぶように気をつけるよ。あと、俺がかわいいのは知ってる」
「え。実際かわいいけど否定されるかと思った」
俺も外見のことは何度も言われてきた。だからこそ良いことばかりじゃないのも知っている。
「俺だって、男がかわいいとかどうなの?って思うし、どうせならかっこいい方がいいけどさー。こういう顔なんだもん。否定したってしょうがなくね?」
俺のセリフを聞いて、綾瀬もとい翠は黙ってしまった。何か思うところがあるのかもしれない。
「確かに…」
翠が何か言いかけるとほぼ同時に教室の扉が開く音がした。
「あ、先生きたね。また後で。もう寝ちゃダメだよ」
幾分明るい口調で、そう言って翠は前に向き直った。
「ご入学おめでとうございます」
担任と副担任が教卓の前に立って挨拶をし始めた。
HRは寝ないでなんとか頑張ろうと思った。

