放課後。
帰りの支度をして部室に向かおうと教室を出たところで、ロッカーの扉を閉めた森永くんと目が合った。
「メグ、また後でな」
「う、うん……」
森永くんは手をあげてそう言ったから返事はしたものの、彼の『メグ』呼びにはまだ慣れない。
どこかくすぐったかった。
部室に行き、カバンを置くとカメラを確認する。
今朝、消そうとして消せなかった森永くんの失敗写真。
焼きそばパン食べちゃったし、今日は失敗できないなとカメラを持つ手に力が入る。
「よし」
小さく呟いて、俺は体育館へ向かった。
「お邪魔しまーす……」
誰に言うわけでもなく小声で呟きながら、昨日と同じように体育館の扉を開けた。
授業では感じられない、部活特有の熱気が襲ってくる。
負けるものかと気合いを入れて中に入る。
ボールが弾む音、バッシュのきしむ音がする中、俺は森永くんの姿を探した。
……あ、いた。
彼を見つけてカメラを構えようとした瞬間、俺は硬直してしまった。
さっき教室で言葉を交わした時のような、明るく人懐っこい表情はない。
ボールと味方を鋭い目で追う横顔は、昨日よりずっと大人びて見えたからだ。
ドクン、と大きく胸が高鳴る。
……人って、こんなに変わるものなのか。
この表情を逃すまいと、慌ててファインダーを覗く。
不思議と昨日のような緊張感はなく、初めて『この人を撮りたい』と思った。
ファインダーの中で、森永くんが走る。
ドリブルをする。
パスを出す。
仲間とハイタッチをする。
昨日は、ファインダーの中で彼を見失ってばかりだった。
だけど今日は違う。
瞬きをするのも惜しいと思うくらい、彼の姿を見逃したくなくて、夢中でシャッターを切っていた。
体育館の隅でしゃがみこみ、撮った写真をチェックする。
被写体が人で、あんなに夢中でシャッターを切ったのは初めてだった。
いつもなら色々と雑念が入ってくるのに、それすらなくて。
撮り終えた今だって、高揚感でドキドキしてる。
「おーい、カメラマン」
チェックしようとしたところに森永くんがタオルで汗を拭きながら近付いてきた。
「今日はどう?」
「た、多分……昨日よりは」
「見せて」
「えっ?」
返事をする間もなく、隣にしゃがみ込まれる。
近い。
昨日と同じように距離が近い。
モニターを見つめる森永くんの横顔を、俺はちらりと盗み見る。
さっきコート上にいた人物と同じ人物かと問いかけたくなるくらい、今は柔らかい表情だ。
数秒後、森永くんが顔を上げた。
「いいじゃん」
「え?」
「ちゃんと撮れてる」
恐る恐るモニターを見る。
そこには、シュートを決めた瞬間の森永くんが映っていた。
昨日みたいにブレていない。
「……本当だ」
安堵で思わず声が漏れる。
ただ撮りたいという気持ちだけでシャッターを切っていたから、どうなるかと心配していたけど……。
「つーか、めちゃめちゃカッコよくね?すげーヤクドウカン!」
躍動感という言葉を使いたいだけの言い方。
子どもみたいに目をキラキラさせて嬉しそうに笑う森永くん。
「すっげーいい写真じゃね?……やっぱモデルがいいからかな」
「またそれ言う」
「え、事実を言ったまでだし」
森永くんは得意げに笑う。
その笑顔に、思わず笑ってしまった。
……さっきまでのドキドキが、まだ少しだけ残っている。
「あ、今笑った」
「え?」
「メグ、そんな顔するんだな」
「どういう意味?」
「いや、なんかメグが笑うなんてレアだなって」
「どういう事だよ。俺だって笑うし」
俺が言うと、森永くんはぽん、と俺の頭を軽く撫でた。
「よくできました、カメラマン」
「……っ」
不意打ちだった。
驚いて固まる俺を見て、森永くんは楽しそうに笑う。
「次もカッコよく撮ってくれよな」
「……えっ?!」
「何だよ、その反応。もう俺の事、撮ってくれないの?」
「いや、だって、学校のパンフレット用に撮りに来ただけだし……」
森永くんの言葉に驚く俺。
そんな俺に不満そうに口をとがらせる。
「別に部活じゃなくても撮ってくれたっていいじゃん。人撮るの、苦手なんだろ?じゃあ、これからも俺を練習台に撮ればいいじゃん」
「えええ……?」
「こんなに綺麗に撮れるんだからさ。メグならいい写真、何枚も撮れるよ」
優しい眼差しの森永くんに言われたら、自信持って頑張れそうな気がする。
「ま、多分、俺限定なんだろうけど」
「……はあ~?」
楽しそうにケラケラと森永くんは笑った。
体育館に差し込む夕陽の中で笑う森永くんを見ながら思う。
直視するにはまだ眩しい存在だ。
でも、ファインダー越しなら、彼を見つめ続けてもいい気がした。
帰りの支度をして部室に向かおうと教室を出たところで、ロッカーの扉を閉めた森永くんと目が合った。
「メグ、また後でな」
「う、うん……」
森永くんは手をあげてそう言ったから返事はしたものの、彼の『メグ』呼びにはまだ慣れない。
どこかくすぐったかった。
部室に行き、カバンを置くとカメラを確認する。
今朝、消そうとして消せなかった森永くんの失敗写真。
焼きそばパン食べちゃったし、今日は失敗できないなとカメラを持つ手に力が入る。
「よし」
小さく呟いて、俺は体育館へ向かった。
「お邪魔しまーす……」
誰に言うわけでもなく小声で呟きながら、昨日と同じように体育館の扉を開けた。
授業では感じられない、部活特有の熱気が襲ってくる。
負けるものかと気合いを入れて中に入る。
ボールが弾む音、バッシュのきしむ音がする中、俺は森永くんの姿を探した。
……あ、いた。
彼を見つけてカメラを構えようとした瞬間、俺は硬直してしまった。
さっき教室で言葉を交わした時のような、明るく人懐っこい表情はない。
ボールと味方を鋭い目で追う横顔は、昨日よりずっと大人びて見えたからだ。
ドクン、と大きく胸が高鳴る。
……人って、こんなに変わるものなのか。
この表情を逃すまいと、慌ててファインダーを覗く。
不思議と昨日のような緊張感はなく、初めて『この人を撮りたい』と思った。
ファインダーの中で、森永くんが走る。
ドリブルをする。
パスを出す。
仲間とハイタッチをする。
昨日は、ファインダーの中で彼を見失ってばかりだった。
だけど今日は違う。
瞬きをするのも惜しいと思うくらい、彼の姿を見逃したくなくて、夢中でシャッターを切っていた。
体育館の隅でしゃがみこみ、撮った写真をチェックする。
被写体が人で、あんなに夢中でシャッターを切ったのは初めてだった。
いつもなら色々と雑念が入ってくるのに、それすらなくて。
撮り終えた今だって、高揚感でドキドキしてる。
「おーい、カメラマン」
チェックしようとしたところに森永くんがタオルで汗を拭きながら近付いてきた。
「今日はどう?」
「た、多分……昨日よりは」
「見せて」
「えっ?」
返事をする間もなく、隣にしゃがみ込まれる。
近い。
昨日と同じように距離が近い。
モニターを見つめる森永くんの横顔を、俺はちらりと盗み見る。
さっきコート上にいた人物と同じ人物かと問いかけたくなるくらい、今は柔らかい表情だ。
数秒後、森永くんが顔を上げた。
「いいじゃん」
「え?」
「ちゃんと撮れてる」
恐る恐るモニターを見る。
そこには、シュートを決めた瞬間の森永くんが映っていた。
昨日みたいにブレていない。
「……本当だ」
安堵で思わず声が漏れる。
ただ撮りたいという気持ちだけでシャッターを切っていたから、どうなるかと心配していたけど……。
「つーか、めちゃめちゃカッコよくね?すげーヤクドウカン!」
躍動感という言葉を使いたいだけの言い方。
子どもみたいに目をキラキラさせて嬉しそうに笑う森永くん。
「すっげーいい写真じゃね?……やっぱモデルがいいからかな」
「またそれ言う」
「え、事実を言ったまでだし」
森永くんは得意げに笑う。
その笑顔に、思わず笑ってしまった。
……さっきまでのドキドキが、まだ少しだけ残っている。
「あ、今笑った」
「え?」
「メグ、そんな顔するんだな」
「どういう意味?」
「いや、なんかメグが笑うなんてレアだなって」
「どういう事だよ。俺だって笑うし」
俺が言うと、森永くんはぽん、と俺の頭を軽く撫でた。
「よくできました、カメラマン」
「……っ」
不意打ちだった。
驚いて固まる俺を見て、森永くんは楽しそうに笑う。
「次もカッコよく撮ってくれよな」
「……えっ?!」
「何だよ、その反応。もう俺の事、撮ってくれないの?」
「いや、だって、学校のパンフレット用に撮りに来ただけだし……」
森永くんの言葉に驚く俺。
そんな俺に不満そうに口をとがらせる。
「別に部活じゃなくても撮ってくれたっていいじゃん。人撮るの、苦手なんだろ?じゃあ、これからも俺を練習台に撮ればいいじゃん」
「えええ……?」
「こんなに綺麗に撮れるんだからさ。メグならいい写真、何枚も撮れるよ」
優しい眼差しの森永くんに言われたら、自信持って頑張れそうな気がする。
「ま、多分、俺限定なんだろうけど」
「……はあ~?」
楽しそうにケラケラと森永くんは笑った。
体育館に差し込む夕陽の中で笑う森永くんを見ながら思う。
直視するにはまだ眩しい存在だ。
でも、ファインダー越しなら、彼を見つめ続けてもいい気がした。
