タツさんの足元をよく見ると、うっすら透け始めていた。私は、タツさんをこの場に引き留めたくて、失うのが嫌でたまらなくて、でも、それはどうにもできないことをどこかで理解していて。
「夕夏さんに、知ってほしいことがあります」
タツさんはやっと顔を上げた。涙で濡れた頬と、口角を上げて作り笑いをするタツさんと目が合う。
どうか、このままでいてほしい。今、このときこの瞬間を、切り抜いて、宝箱に閉じ込めてしまいたい。
そんな私のわがままに抗うかのように、タツさんはどんどん透けていき、ついには足どころか、下半身は消えてしまった。続けるように、下腹部が薄くなり始める。
「まず、他の誰でもない自分を助けなければ、救い出さなければ、いつまでも"誰かのために"と自己犠牲で生きることになります。そんな生き方……苦しくなるだけです。だから、夕夏さんは、自分を幸せにすることを、第一に考えてほしいです」
「それなら、私はどうすればいいの!? 何を願えばいいの!?」
私は何かに急かされるように、矢継ぎ早に問いかけた。
タツさんは焦る私を見ても態度を変えず、微笑んだまま、続けて口を開いた。
「私は、何でも知っています。だから――」
タツさんは何かを言いかけ、その言葉を飲み込む。私は、タツさんが違う言葉に言い変えようと、少し俯いて顔を横に二度振ったのをじっと見つめることしかできない。
「最後の願いは、よく考えたうえで送信してください」
いつか、どこかで見た文字とタツさんの声が、重なって聞こえた。私はハッとして、過去の記憶に導かれるように、ブレザーのポケットからスマホを取り出す。
初めてサイトにアクセスしたあの日と同じように、送信フォームにアクセスした。
点滅するカーソルが私をさらに急かして、文字を打たせようとしてくる。でも、私はその力強さに負けじと、自分の力を振り絞って、願いを打ち込んだ。目を閉じて、打ち込んだ願いをそのまま、頭の中で何度も何度も繰り返した。
大丈夫。私は、いや、
私なら――――
私は、意を決して目を開け、送信ボタンをタップした。
画面から目を離して顔を上げると、もう、目の前にいたはずのタツさんは消えてしまっていた。
私は立ち上がって、タツさんが屋上のどこかに隠れていないか探した。走って、走って、とうとう見つからなかった。
あの夢の後、何度も記事で読んで覚えた、タツさんの名前を、本当の名前を、夢中になって、声高に叫んだ。
殺された、死んだ、亡くなった……消えてしまった。
まだ話したいことが、聞きたいことが数えきれないほどあって、時間がいくらあっても足りないのに。まだ、二人でやり残したことがたくさんあるのに、どうして――――!
泣いて、叫んで、どこにもぶつけようのない気持ちにまた、泣かされる。
そのとき、見覚えのある、きらきら輝く砂が目の前を落ちていくのが見えて、咄嗟に両手で砂を受け止めた。
空を見上げると、オレンジ色に染まっていたはずの夕焼けは、反対側からだんだんと、黒色と赤色のグラデーションを塗り始めている。
少し離れて位置する防災無線から、夕焼けチャイムが聞こえてきた。
最後の一音が辺りの空気に溶けていく中、目の前が急にうずまきを描くように大きく歪み始めた。私は両手に掴んだ砂たちを一粒とて零さないようにと胸の前で大事に包み込む。
私はだんだんと、ゆっくり歪みの奥深くに溶けていった。
「夕夏さんに、知ってほしいことがあります」
タツさんはやっと顔を上げた。涙で濡れた頬と、口角を上げて作り笑いをするタツさんと目が合う。
どうか、このままでいてほしい。今、このときこの瞬間を、切り抜いて、宝箱に閉じ込めてしまいたい。
そんな私のわがままに抗うかのように、タツさんはどんどん透けていき、ついには足どころか、下半身は消えてしまった。続けるように、下腹部が薄くなり始める。
「まず、他の誰でもない自分を助けなければ、救い出さなければ、いつまでも"誰かのために"と自己犠牲で生きることになります。そんな生き方……苦しくなるだけです。だから、夕夏さんは、自分を幸せにすることを、第一に考えてほしいです」
「それなら、私はどうすればいいの!? 何を願えばいいの!?」
私は何かに急かされるように、矢継ぎ早に問いかけた。
タツさんは焦る私を見ても態度を変えず、微笑んだまま、続けて口を開いた。
「私は、何でも知っています。だから――」
タツさんは何かを言いかけ、その言葉を飲み込む。私は、タツさんが違う言葉に言い変えようと、少し俯いて顔を横に二度振ったのをじっと見つめることしかできない。
「最後の願いは、よく考えたうえで送信してください」
いつか、どこかで見た文字とタツさんの声が、重なって聞こえた。私はハッとして、過去の記憶に導かれるように、ブレザーのポケットからスマホを取り出す。
初めてサイトにアクセスしたあの日と同じように、送信フォームにアクセスした。
点滅するカーソルが私をさらに急かして、文字を打たせようとしてくる。でも、私はその力強さに負けじと、自分の力を振り絞って、願いを打ち込んだ。目を閉じて、打ち込んだ願いをそのまま、頭の中で何度も何度も繰り返した。
大丈夫。私は、いや、
私なら――――
私は、意を決して目を開け、送信ボタンをタップした。
画面から目を離して顔を上げると、もう、目の前にいたはずのタツさんは消えてしまっていた。
私は立ち上がって、タツさんが屋上のどこかに隠れていないか探した。走って、走って、とうとう見つからなかった。
あの夢の後、何度も記事で読んで覚えた、タツさんの名前を、本当の名前を、夢中になって、声高に叫んだ。
殺された、死んだ、亡くなった……消えてしまった。
まだ話したいことが、聞きたいことが数えきれないほどあって、時間がいくらあっても足りないのに。まだ、二人でやり残したことがたくさんあるのに、どうして――――!
泣いて、叫んで、どこにもぶつけようのない気持ちにまた、泣かされる。
そのとき、見覚えのある、きらきら輝く砂が目の前を落ちていくのが見えて、咄嗟に両手で砂を受け止めた。
空を見上げると、オレンジ色に染まっていたはずの夕焼けは、反対側からだんだんと、黒色と赤色のグラデーションを塗り始めている。
少し離れて位置する防災無線から、夕焼けチャイムが聞こえてきた。
最後の一音が辺りの空気に溶けていく中、目の前が急にうずまきを描くように大きく歪み始めた。私は両手に掴んだ砂たちを一粒とて零さないようにと胸の前で大事に包み込む。
私はだんだんと、ゆっくり歪みの奥深くに溶けていった。

