僕らのノイズ ※最後の願いは、よく考えて送信してください。

 あの場でどうやって助ければよかったかなんて分からなかった。分かるわけなかった。
 分からなかったから、外に出て、誰かに助けを求めようとした。
 分からないなりに、ユウヤさんを助けようとしたのに、どうして。
 
 いつもそうだ。
 " 大事なところで、失敗する。 " 

 朋美に言われたその言葉を、何度も、足りない頭で繰り返す。
 ユウヤさんは既に――死んでいる。その理由を、夢なのに、夢で全て分かってしまったような感覚が、心臓を強く縛りつける。
 心のどこかで「嘘であってほしい」と願った。それなのに、夢で見たカレンダーが、あの光景は嘘ではないことを、無機質に証明してくるようだった。
 
 さっきのは夢だった。とてもリアルに感じられたけれど、確かに今、私が――自分の部屋で、ベッドの上にいることや、掛布団のふわりとした感触と、寝る時に暖房を消したせいで寒いこの部屋が。ここは夢じゃない、さっきのが夢だったんだ、と気づかせる。
 混乱して渦を巻いている頭と、大量の手汗が滲む手で、その正解を突き止めようと、スマホのアプリを起動して検索をかける。

≪二〇一七年、九月二十日≫

 見たくない、関係ないニュースだと言ってほしい。そんなことを愚かにも願ってしまう見出しが、検索結果にたくさん表示されている。 

[9歳男児の放置死、誕生日が命日になった日]
[両親は遊園地へ 9歳男児放置死事件]

 恐る恐るスクロールを続けると、その日に起きた、夢で見たあの光景を詳細に説明するニュースが、記事が――。

 助けられなかった。
 夢とはいえ、助けられなかった。
 心にぽっかり穴があいてしまったようで、体に力が入りきらず、再び、横になった。
 私は現実から遠ざかるように、静かに瞼を閉じて、朝が来ることを待った。

 *

 体の芯まで凍えるような寒い冬が過ぎ、桜の蕾がぽつぽつとつき始める季節になった。
 三月中旬に入って数日が経った。私は部活を終えてすぐ、タツさんと初めて会った屋上に来ていた。

 あの悪夢を見て飛び起きた日を境に、もう何日も、何ヶ月もユウヤさんが姿を見せることはなかった。
 初めて、誰かに……いや、ユウヤさんに会いたい、話したいと、何十回もメールを新規作成しては、下書きにしまい込む、そんな毎日を淡々と過ごしている。
 数日前、ついには下書きに残すこともなく、ゴミ箱に捨てた。
 ユウヤさんを私の中から完全に削除して忘れてしまえば、もうあんな、張り裂けてしまいそうな思いをしなくて済むから。
 それなのに、手は反してゴミ箱のフォルダをタップして、捨てたはずのメールを復元し、書き直そうとする。

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宛先:ユウヤ@サイト管理人
返信先:〇〇〇〇〇@△△△.com
件名:話したいことがあります。

ユウヤさんへ

お久しぶりです。
佐々木夕夏です。覚えていらっしゃいますか?

どうしても、会いたくてメールしました。
もう春休みなので、いつでも会えます。
(部活がある日は夕方近くになるかもしれません)

会って、最後の願いを聞いていただけませんか?

返信、待っています。

佐々木夕夏

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 私は一度、深呼吸し、目をゆっくり閉じた。

 防災無線から、夕方十七時を知らせる、夕焼けチャイムが聞こえてきた。最後の一音が空気中に消えていくのを聴き届けて、目を開ける。画面右下にある送信ボタンをタップした。

 メールの返信は数分後にきた。そこには、「明日、水曜日の部活終了後、屋上へいらしてください。私はそこで待っています。」とだけ書かれていた。胸のなかに温かさが染み渡っていく。

 良かった。良かった……。

 私は暗い画面上部の側面をおでこにそっと当て、おでこから雫が滴るかのように、スマホを両手に持ったまま太ももの上に落とす。長い間、肩に背負っていた重石が外された気がして、壁にもたれかかった。