夜、帰宅してシャワーを浴びた後、夕飯を食べることもなく眠りについた。けれど、数時間後の早朝、あまりに残虐な夢を見て飛び起きた。
うまく息ができず、両手で掛布団を強く握りしめる。汗でびっしょりになったTシャツが、背中にはりついて気持ち悪い。おでこから流れる汗が目に沁みて、思わず目を閉じた。
どこかのマンションの一室、窓から差し込んでいる強い日差しが、そこに倒れている男の子を照らしていた。男の子の周りには、散らかったまま畳まれていないシャツや、靴下、下着が何着もある。窓枠の全体を覆うように、ガムテープが何重にも張り巡らされ、まるでサウナのように見え、状況を察し、胃液がこみ上げてきて、手で口を強く抑えて振り向いて早足になる。
いくつもあるドアを何回か開け、玄関に一番近いそこがトイレであると分かると、急いで便器の蓋を開けてため込んだものを全て吐き出した。残りの力を振り絞ってレバーを奥に押して流す。私にはもう濁流を見送る気力はなく、トイレの壁に手をつきながら立ち上がり、洗面所で口をゆすいだ。
へろへろにな体に鞭を打ち、さっきの部屋に戻って、男の子の体を少し揺さぶり声をかけた。けれど、反応は全く返ってこない。それどころか、手に伝わってくる体温は変に高く、知識としては知っている言葉の数々が頭の片隅から覗き込んでいる。
" ネグレクト "
" 熱中症 "
" 放置死 "
目の前に広がる光景は、その言葉たちで言い表すしかなかった。男の子の顔をよく見ると、思わず血の気が引いて、蝉の声がどこからかうっすら聞こえたような気がした。
タツさんだ。
屋上で話した内容を思い返し、「死んでいるみたい」と力を失ったまま儚そうに話していたあの声が、言葉が後頭部を引っ張った。ふと壁から剥がれかけたカレンダーに目をやる。九月二十日、西暦は二〇一七年と書かれている。ソファの前に置かれた丸テーブルの上にある時計は、午後十五時を指していた。気温は、三十五度をとっくに超えて表示されている。
すぐにでも救急車を、この子を助けないと。
私は男の子を抱えて立ち上がり、玄関に向かって走った。だらりと今にも溶けてしまいそうな、じわりと腕を伝ってくる高体温が、余計に私を焦らせる。
早く、早く、誰かこの子を助けて――。
玄関のドアのぶをひねって開けると、目の前に瞳の奥が痛くなるような眩しさが広がった。
私の腕で抱えていたはずのタツさんは、きらきらと輝く金色交じりの砂になり、腕からさらさら流れ落ちていく。その砂をいくら拾い上げようとしても、私の両手だけでは敵わなかった。目が慣れて辺りに広がる白い光を見渡す。その光は、落ちていった砂を照らし続けていた。
それは、どうしようもなく弱くて、痛すぎる、救いようがない人間の脆さの結果に思えて、私はその場に膝をつき、へたりこむように項垂れ、痙攣する横隔膜のせいでしゃくりあがる声でずっと、ずっと泣き叫んだ。喉が枯れて、掠れても。
壁がないからか、どこか遠くに霞んで消えていく自分の声が、自分の未熟さ、情けなさを私に追い打ちをかけてくる。
どうして、どうして、どうしてどうして――――!
心臓が破裂しそうになった瞬間、目をばっと開けると同時に体が勝手に起き上がっていた。
泣いてぱんぱんにむくんだ顔を不器用に手で拭う。その濡れた手をぼとっと太ももに落とした。私はただ、暗く、空虚だけが漂う空間の先をぼうっと見つめた。
うまく息ができず、両手で掛布団を強く握りしめる。汗でびっしょりになったTシャツが、背中にはりついて気持ち悪い。おでこから流れる汗が目に沁みて、思わず目を閉じた。
どこかのマンションの一室、窓から差し込んでいる強い日差しが、そこに倒れている男の子を照らしていた。男の子の周りには、散らかったまま畳まれていないシャツや、靴下、下着が何着もある。窓枠の全体を覆うように、ガムテープが何重にも張り巡らされ、まるでサウナのように見え、状況を察し、胃液がこみ上げてきて、手で口を強く抑えて振り向いて早足になる。
いくつもあるドアを何回か開け、玄関に一番近いそこがトイレであると分かると、急いで便器の蓋を開けてため込んだものを全て吐き出した。残りの力を振り絞ってレバーを奥に押して流す。私にはもう濁流を見送る気力はなく、トイレの壁に手をつきながら立ち上がり、洗面所で口をゆすいだ。
へろへろにな体に鞭を打ち、さっきの部屋に戻って、男の子の体を少し揺さぶり声をかけた。けれど、反応は全く返ってこない。それどころか、手に伝わってくる体温は変に高く、知識としては知っている言葉の数々が頭の片隅から覗き込んでいる。
" ネグレクト "
" 熱中症 "
" 放置死 "
目の前に広がる光景は、その言葉たちで言い表すしかなかった。男の子の顔をよく見ると、思わず血の気が引いて、蝉の声がどこからかうっすら聞こえたような気がした。
タツさんだ。
屋上で話した内容を思い返し、「死んでいるみたい」と力を失ったまま儚そうに話していたあの声が、言葉が後頭部を引っ張った。ふと壁から剥がれかけたカレンダーに目をやる。九月二十日、西暦は二〇一七年と書かれている。ソファの前に置かれた丸テーブルの上にある時計は、午後十五時を指していた。気温は、三十五度をとっくに超えて表示されている。
すぐにでも救急車を、この子を助けないと。
私は男の子を抱えて立ち上がり、玄関に向かって走った。だらりと今にも溶けてしまいそうな、じわりと腕を伝ってくる高体温が、余計に私を焦らせる。
早く、早く、誰かこの子を助けて――。
玄関のドアのぶをひねって開けると、目の前に瞳の奥が痛くなるような眩しさが広がった。
私の腕で抱えていたはずのタツさんは、きらきらと輝く金色交じりの砂になり、腕からさらさら流れ落ちていく。その砂をいくら拾い上げようとしても、私の両手だけでは敵わなかった。目が慣れて辺りに広がる白い光を見渡す。その光は、落ちていった砂を照らし続けていた。
それは、どうしようもなく弱くて、痛すぎる、救いようがない人間の脆さの結果に思えて、私はその場に膝をつき、へたりこむように項垂れ、痙攣する横隔膜のせいでしゃくりあがる声でずっと、ずっと泣き叫んだ。喉が枯れて、掠れても。
壁がないからか、どこか遠くに霞んで消えていく自分の声が、自分の未熟さ、情けなさを私に追い打ちをかけてくる。
どうして、どうして、どうしてどうして――――!
心臓が破裂しそうになった瞬間、目をばっと開けると同時に体が勝手に起き上がっていた。
泣いてぱんぱんにむくんだ顔を不器用に手で拭う。その濡れた手をぼとっと太ももに落とした。私はただ、暗く、空虚だけが漂う空間の先をぼうっと見つめた。

