僕らのノイズ ※最後の願いは、よく考えたうえで送信してください。

 タツさんはわたしにぐっと近づいた。あと数センチで顔がぶつかりそうになる。

「メールでもお伝えしましたが」

 にこりとしていたタツさんの顔が、急に引き締まり、真剣な眼差しは私の目の奥を強く刺した。

「私は、何でも知っています。」

 そのとき、ぽた、と頬に冷たい雫がついた。タツさんと見つめ合ったまま、私は手で頬についた雫を拭って曇天を見上げた。ぽた、ぽた、ぽた、ぽたと音の数がだんだん増えていき、私の顔を、髪を重く濡らし始める。しだいにバケツを土砂降りの雨が辺り一面、屋上の床全てを、そして、私の制服を重く紺色から黒く濃い青色へ、スカートも黒が目立つ赤紫色へ染め上げた。

「話は逸れましたが、私、タツの提案はこうです」

 タツさんはやっと私から顔を離した。こんなに大雨が降っているのに、タツさんは一滴も濡れていない。水を弾くこともなく、ただ、そこにうっすら、居た。それどころか、雨音に声がかき消されることもなく、鮮明に聞こえてくる。

「私がやり残したこと、置いてきてしまった忘れ物を一緒に探してくれませんか? もちろん、夕夏さんが最後に叶えたい願いがあれば、それを優先します。僕は、叶えようが叶えまいが、生まれ変われるかどうかくらいの違いしかないですし、あまりそこにこだわっていないので、僕の期限はあまりお気になさらず……」

 私は、ぼうっとタツさんを見つめたまま、はたと我にかえる。タツさんの姿が見えなくなっていた。タツさんは何も言わずに、急にどこかへ消えてしまった。
 タツさんの話通りなら、九月二十日まで、現実空間の時間で言えば――始業式は九月一日だったから――残り十九日。
 私の三つめの最後の願いと、タツさんの願い――、どちらを優先すべきなんだろう。
 私は、どうするべきなんだろう。どうしたら、正解なんだろう。

 一人きりになった屋上で、私は雨に打たれていることなど気にも留めず、屋上の柵の向こうをぼうっと見つめた。