ルシェルが跳躍し、俺たちに突っ込んできた。
が、俺たちは散り散りに回避。
ドゴォン! と衝撃が鳴り、土煙が舞う。
ルシェルの急襲に、メルィーゼを覗くパーティメンバーが困惑気味に声をあげた。
「ね、ねぇケーゴ! さっきから普通に話してたけど、アイツ何なのよ! 説明しなさいよ!」
「ケーゴさん、お知り合いなんですか!?」
「でもめちゃくちゃ攻撃してきてるでやんすよー!?」
メルィーゼはルシェルと関係性があるが、他の皆はルシェルのことなど全く知らない。前に大聖堂にルシェルが出現した時はソフィーレ様によって時間停止されていて、俺以外の人間の時は止まっていたからだ。
俺は簡潔に説明する。
「アイツは悪神ルシェルだ。俺の【愚者】スキルを生み出した厄介な野郎で、特級呪物を創ったのもアイツ。言ってしまえば、悪を司る最悪の神ってところだよ!」
ルシェルは哄笑を響かせた。
「なるほど、意外にすばしっこいんだね。さすが、『ボク』の寵愛を受けた人間なだけはあるよ!」
俺は魔杖をルシェルに向ける。
「まさか悪神――神様と一戦交えることになるとは思わなかったな……。なんつー不幸だ。……だが、仲間の命が懸かってる以上、本気で潰すぞ! 超規模魔法――《フレアカタストロフ》!」
多重の魔法陣を展開。
その魔法陣から、深紅の巨大な炎がルシェルに直撃する。
かつて湖月幻古龍を討伐したトドメの一撃。必殺の魔法だ。
「ぐはっ……!」
ルシェルがたまらず跳躍し、逃げた。が、体や服には黒ずんだ焦げ跡があり、フレアカタストロフのダメージを負っていることが伺える。
「チッ、仕留めきれなかったか。でもいけるぞ! 全員で畳み掛けろ!」
瞬時に動いたのは、セレクシアだった。
「私だって進化してるんだから! ホーリースラッシュ十連!!」
セレクシアの聖なる斬撃。
十個の剣閃がルシェルに殺到する。ルシェルは回避に専念するが、空中なので全てを捌ききれず、何発かかすった。
ルシェルの頬から血が薄く垂れる。
「私も行きます! 『狂戦士』モード発動!!」
今度はエルネが神速の動作でルシェルに肉薄し、肉弾戦を仕掛けた。
地上では、巨大なハリネズミがトゲの背中を丸めて戦闘態勢に入る。
「食らうでやんす! ローリングキラーアターック!!」
俺から始まり、セレクシア・エルネ・ハリゾーの連鎖攻撃。
ルシェルは見るからに少しずつダメージが蓄積していっているようだった。
(いけるぞ! このまま押し込め!)
不意に、神殿が振動しだした。
ビシビシ、と大きな柱に亀裂が入る。
「っ! これは……神殿が崩壊している!?」
先ほどのルシェルの言葉を思い出した。
試練のクリア条件は、"神殿が崩壊する前にルシェルを打倒する"ことだ。
「くっ、長期戦は無理筋ってことかよ!」
俺は傍らに佇むメルィーゼに顔を向ける。
「おい、メルィーゼ! いけるか!」
「う、うん……」
メルィーゼは信じていたルシェルに存在を忘れられ、ショックを受けているようだ。
「メルィーゼ、お前の力を貸して欲しい。二人で協力して、あの悪神に今度こそ俺たちの存在を記憶に刻みつけてやろうぜ!」
「ケーゴ……うん。わたし、やってやるの!」
悲しみに暮れていたメルィーゼの瞳に炎が灯る。
「――ちょこまかと、うざったいなぁ!」
ルシェルの怒号が響いた。
そして、漆黒の魔法が撃ち放たれ、俺たちはルシェルから距離を取った。
幸い、全員戦闘能力が高いからか今の牽制レベルの魔法攻撃で怪我を負った者はいなさそうだ。
俺はメルィーゼに魔杖を向ける。
「やるぞ、メルィーゼ!」
「うんなの!」
メルィーゼが魔杖に融合。杖の形状が変化し、『破滅の魔杖』の完全体になった。
「これでフレアカタストロフの比じゃねぇ威力の攻撃が撃てるぜ! 食らいやがれルシェル! ――《混沌魔呪砲》!!」
魔杖の切っ先から漆黒の呪力の渦をまとうエネルギー弾がルシェルに放たれ、直撃。
ルシェルの体がくの字に折れ、呪力と魔力の合体攻撃に飲み込まれるようにして神殿の壁に衝突。奇しくもその場所は例の石碑があった所で、大きな石碑を粉砕してルシェルが沈黙した。
土煙の中から、ゆらりと輪郭が揺れる。
「くくく……さすがだね」
ルシェルがおぼつかない足取りで、ザッと歩みを進める。
そのルシェルの体を見て、俺たちは絶句する。
ルシェルは胴体の半分ほどが欠けた状態で立ち上がっていたのだ。
完全に死に体であり瀕死の重体だが、凄みを含む気迫を感じる。
「これほど、とは……がはっ、思わなかった、な……。よく見ると、キミ……他の神からも、加護を授かっている、ね……?」
俺は鋭利な眼光で答える。
「ああ、女神ソフィーレ様のご厚意でな。お前が創りだした厄介極まりない【愚者】スキルと対になる形で、最強最高の魔法使いになれる【賢者】スキルを授かってるよ」
「なる、ほど……やはり、そう、だよね……。さすがに、これほどの力は……普通、の人間に、だせる領域を……越えて、いる」
「おっと、俺が【賢者】スキルを持ってるからって、今さら試練はナシとか言うなよ? この試練をクリアしたら、約束通り【愚者】スキルは除去してもらうからな」
ルシェルは乾いた笑みを浮かべる。
「でも……いいの、かい? 本当に、【愚者】スキルを、キミの魂から……消して、しまっても」
「……なに?」
「キミが、本当に……大事に、しているものと巡り会えたのは……」
ルシェルは全てを見通したような瞳で俺の目を直視した。
「――ボクの、【愚者】のおかげ、なんじゃ……ないかい……?」
「――――、」
俺が、本当に大事にしているもの?
そんなの、過酷な現代社会を忘れられるくらいの、のんびりした異世界スローライフに決まって――。
(……なんだ? 違和感がある……異世界スローライフを満喫したいのは本当だが、俺はこれ以外にももっと大事にしているものが――)
ルシェルがフラフラと神殿を歩む。
「まさか、奥の手まで、使わせられるハメになるとは……思わなかった、よ……! でも、もう……これで、終わりだッ!!」
ルシェルは両手を広げ、天を仰ぐように神殿の天井を見上げる。
「災厄神術――《愚かなる終劇》!」

