ハリゾーが触腕に絡め取られ、空中で宙ぶらりんの状態になる。
その異常事態に、ビーチでくつろいでいた他の仲間たちも警戒した。
「ケ、ケーゴさん! あれって!」
「ま、まさかついに来たの!?」
「ハリゾーを捕まえてるヤツ、結構強そうなの」
俺は反射的に海へ走り出した。
「間違いない! 俺たちの目当ての魔物――『海の災厄』だ!!」
波打ち際で俺は浮遊魔法を発動して飛び上がり、襲われているハリゾーの元へ急行。
まだ『海の災厄』の姿は完全に見えてはいないが、俺は現状から一つの有名モンスターなのではないかと推測していた。
が、念のため鑑定魔法を発動する。
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種族:クラーケン
ランク:SS
説明:海底に生息する巨大なイカの魔物。海面を航行する船などを襲う習性を持つ。古くから船人の命を奪ってきた歴史から、『海の災厄』として恐れられる
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俺の予想は的中した。
「やっぱクラーケンか。海に生息してて巨大で船を襲うっつったら、だいぶ条件に合う魔物は限られてくるもんなぁ」
「ひぇえええ~~! 助けて欲しいでやんすぅ~~!!」
っと、こうして冷静に状況分析をしている場合じゃない。
イカの腕に捕らわれたハリゾーは捕食対象と見なされている可能性が高い。しかもハリゾーは陸上生物だからあまり水中戦は得意じゃないだろう。
すると、浜辺から一条の光が輝いた。
「まったく、呑気に海を漂ってるからこういう事態になるのよ! 後できっちり反省しなさいハリゾー! ホーリースラッシュ!!」
『剣聖』セレクシアの妙技が放たれる。
聖なる剣閃は飛翔する斬撃となって海面ギリギリを飛び、ハリゾーを捕らえている触腕の一本を切断した。
「……グガガァァ……ァァァァ……!!」
海底からクラーケンの鈍い声が反響する。
と同時、空中でいきなり解放されたハリゾーは今度は真っ逆さまに海へ落っこちてしまう。
「うわぁあああ! 海に落ちて溺れちゃうでやんすぅぅううう!!」
「待ってて、ハリゾーちゃん!」
ドォン! と砂浜を蹴り上げ、クレーターを形成。直後、空中を凄まじい身体能力を披露するエルネが一直線にハリゾーの元に向かう。
そして巨大なハリゾーが着用していたハーネスを空中で掴み、凄まじい重さのはずのハリゾーを片手で振り回す。
「エルネ! この足場を使え!」
上空から一部始終を俯瞰していた俺は空間魔法から魔杖を取り出し、エルネの進行上に切っ先を向ける。と同時に、空気の壁が作られた。
「ありがとうございます、ケーゴさん!」
エルネも瞬時に意図を察知し、俺が作った空気の壁に着地。一瞬の浮遊の後、今度はその空気の壁を全力で蹴って浜辺へトンボ返りした。
「うわぁぁああああ~~! 右へ左へぶん回されて目が回るでやんすぅぅうううう~~!!」
ハリゾーの情けない声が無人島に響く。
が、エルネはお構い無しに浜辺に着地し、そこでようやくハリゾーを解放した。
「ぶべぇ!」と汚い声を出してハリゾーがピクピクと砂浜に打ち上げられている。目は回っているが、怪我はなさそうだ。
「ナイスだ二人とも! 後は俺がコイツを仕留めてやる」
「グガガァァアァァアアアアアアア!!」
触腕を切られ、獲物を横取りされたクラーケンは憤怒の形相で海面から顔を出した。
見た目はやは巨大なイカで、三角形に鋭く尖ったイカの甲がキラリと太陽光を反射させている。
「まずは邪魔な腕から切り落とすか。《ウィンドカッター》!」
上空から無数のウィンドカッターを発射し、クラーケンの触腕を次々と切り落としていく。
クラーケンは海では王様かもしれないが、空中戦にはめっぽう弱い。制空権を支配した俺に手も足も出ず、どんどん肉体を削られていった。
「グギギィィィ……ィィィイ……!」
クラーケンも劣勢を悟ったのか、俺への攻撃を諦めゆっくりと海中に潜り始めた。
浜辺でメルィーゼが声を上げる。
「あっ、クラーケンが逃げるの! いま逃したらもう当分姿を見せることはないの! 絶体ここで仕留めなきゃダメなの!」
言いながら、メルィーゼは黒い呪力をまとわせて空を飛び、クラーケンの元へ直行する。
「だな! やるぞメルィーゼ!」
俺もメルィーゼの意見に賛成だ。
上空からクラーケンの元へ急降下していく。
が、さすがに海の環境だとクラーケンの方が上手だ。
俺とメルィーゼが合流する寸前、クラーケンは完全に体を海中へと潜らせてしまった。そしてどんどん下にくだって深海に潜っていく。
「チッ、逃がすかよ! 《エアドーム》!」
「わたしも行くの!」
俺は自分の周りに空気の保護層を作り、海中に潜った。天月湖で水中を探索していた時に生み出した手法だ。
ゴボボボボ……! と海中に潜る。メルィーゼも俺の首に手を回し、くっついてきていた。
クラーケンは必死に千切れた手足をバタつかせてどんどん海底へと消えていく。
海の中は想像以上に暗く、あと数秒もすれば完全にクラーケンの姿は見失ってしまうだろう。
「チッ、水中じゃちと威力は落ちるが、ここから追撃かますか……!?」
「待つのケーゴ。こういう時は魔法じゃなく、『呪法』の出番なの」
メルィーゼがおもむろにクラーケンに手を向けた。
その手のひらから黒い渦らしきエネルギーがドリルのように海を貫き、クラーケンの胴体に命中。
クラーケンは苦悶の声を上げるが、やがて力が抜けたように海中に漂った。
「おお、すげぇ! 倒したのか!?」
「わたしの呪力の塊をぶつけたの。たとえクラーケンといえども、致命傷になり得るレベルなの。しかも今回はすでに手負いだったから、成す術なく即死しちゃったの」
得意気に語るメルィーゼを褒めつつ、俺はクラーケンの死体が浮かぶ深海に潜る。
そして空間魔法でクラーケンの死体を回収した。
「これでよし、と。ついに依頼の『海の災厄』は討伐したな。これでこの無人島にいる理由もなくなったんだが……」
暗い海底の一角。
俺の視界の端に、何か違和感が走った。
注意深く周囲を見てみると、何かがおかしい。
ただの海底かと思っていたが、よく見ると風化した床や西洋チックな柱、目を凝らせば階段のような物も遠くに見える。
そして注意深く周囲を探っていると、ついに『本丸』へと到着した。
「――なんだこりゃ? ここは、海底神殿、か……!?」
それは、海の底に眠るように佇んでいる、巨大な大神殿だった。

