愚かな賢者の異世界ライフ ~神スキル【賢者】と破滅スキル【愚者】を同時に与えられたけど、気ままにスローライフを目指したい!~


 ドワーフの里を出発し、暑苦しい活火山帯を歩くことしばらく。
 俺たちは、ついに目的の場所へ到達した。

「ここか、奈落へ繋がると恐れられる火山の地底への入り口、通称――『灼滅(しゃくめつ)淵崖(えんがい)』!」

 俺たちは、崖の先端部分に立っていた。すぐ隣は奈落へ繋がる漆黒が広がっていて、崖下は暗く目視できない。

「どうやって降りますか、ケーゴさん?」

 エルネの問いに、俺は冷静に答える。

「浮遊魔法でゆっくり降下していこう。火山地帯は有毒ガスなんかが蔓延しているエリアもあるらしいから、防御魔法も忘れずにかけとかないとな」

 皆に防御魔法を施し、俺はエルネとセレクシアの手を取った。ハリゾーは俺の肩にミニサイズでしがみついている。

「じゃあ行くぞ――《浮遊魔法》!」

 ふわりと俺たちの体が浮かび上がり、崖へゆっくりと落ちていく。
 どんどん下がっていく高度。それに伴い深淵が俺たちを包み込み、真っ暗や闇になっていく。
 同時に探知魔法で魔物の反応を探るが、まだ付近に魔物らしき魔力反応はない。

 警戒しながら数分ほど降下していると、真っ暗だった付近が次第にオレンジ色の光が出てきた。
 そしてようやく崖の真下に着地すると、そこはまさに溶岩地獄のような地だった。

「こいつはすげぇな……ここが『灼滅の淵崖』。その名に恥じぬ過酷な環境だ」

 パッと見、地下迷宮のような構造だ。
 が、大地は石炭の上を歩いているように固くひび割れ、周囲にはマグマがドロドロと流れていた。
 地獄の大釜のような入り口からは溶岩の熱気が広がり、淡いオレンジ色の光はこのマグマの濁流から発されているのだと悟った。

「す、すぐ横にマグマがあふれてるわ……! こんなの、ケーゴの防御魔法がなかったらとてもじゃないけど長居できないでしょ!」
「そ、それに魔物も襲ってくるんですよね? 普通に戦ったら体力が一瞬で消耗してかなり危険そうです……!」
「でもおいらたちにはご主人がいるから安心でやんすー!」

 俺は再度気を引き締めて言う。

「まあ、そうなんだが、油断はするなよ。俺も探知魔法で魔物を探ってるから、皆いつでも戦闘体勢に移れるよう準備しておいてくれ」

 そうして火山の地底を進む。
 マグマの川が流れるすぐ横を歩き進んでいると、探知魔法に反応が出る。

「来るぞ! 魔物だ!」

 固まった溶岩の岩を砕き、数体の魔物が現れる。
 その魔物はコモドドラゴンのようなフォルムで、全身が真っ赤に光り炎をまとっていた。人間より二回りくらいデカい。

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 種族:サラマンドラ

 ランク:A+ (群れ状態はS)

 説明:火山地帯に生息するトカゲ型の魔物。火属性に秀でており、高い炎熱耐性を持つ。
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 俺が指示を出す前に、セレクシアが剣を構えて飛び出した。

「ここは私に任せなさい!」

 セレクシアがサラマンドラの群れと衝突する直前、彼女の持つ剣が流星のように煌めく。

「まとめて散るがいいわ! ホーリースラッシュ!」

 刹那の剣閃。
 一条の光はサラマンドラの群れを一直線に貫き、一撃でサラマンドラを両断してしまった。

「すごい……やっぱり前よりも技の威力が跳ね上がってるわ!」

 セレクシアは自分の剣を刮目して眺める。

 背後で見ていた俺たちはわっと盛り上がった。

「す、すごいですね、セレクシアさん!」
「さすが『剣聖』様だな」
「カッコいいでやんすー!」

 さすがドズルバーツさんが打った武器なだけはあるな。

 サラマンドラの死体を空間魔法で回収し、先を進む。

 と、今度は火山灰が積もった灰の雪原が広がり出した。が、マグマは至るところに依然として流れており、空間の熱は衰える気配はない。

 すると、積もった灰の山の内部がゴソッ……と崩れる。

「――ビュシシシィィイイイイイ!!」

 現れたのは、人ひとり丸呑みできてしまうくらいの大きさのナマズだった。灰色を基調とした赤々しい独特の模様が目立つ。

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 種族:アッシュキャットフィッシュ

 ランク:S

 説明:火山地帯に生息するナマズ型の魔物。灰の中に身を潜めており、灰の内部を遊泳して獲物を襲う。
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 ナマズが灰の大地を泳ぎながら俺たちに大きな口を開けて突進してくる。
 エルネが低く身を屈めた。

「次は私がやってみます!」

 瞬間、素早い動きでナマズに迫り、ドゴォン! と顔面を殴り飛ばした。
 悲鳴を上げるナマズに次々とラッシュを繰り出す。エルネが装着したグローブのメリケンサックが鈍い破裂音を奏でる。

 ボコボコにされて動きが鈍ったナマズの真上に、エルネが飛び上がった。

「これでトドメです!」

 エルネはグローブ内の液体ミスリルの形状を変化させ、メリケンサックをミスリルナイフに変更。
 新たに手に握られたミスリルナイフでナマズの脳天をぶっ刺し、完全に沈めた。ズズゥン……とナマズが倒れ、火山灰が舞い上がった。

 動かなくなったナマズの前で、エルネは嬉しそうに笑った。

「やりました! 狂戦士(バーサーカー)モードを使わなくても、このグローブの破壊力のおかげで魔物を倒せましたよ!」

 エルネには覚醒状態になれる『狂戦士(バーサーカー)モード』があるが、これは使用時間が限られていて反動も大きい。
 だからここぞという時にしか使えないのだが、通常時のエルネの攻撃でもSランクのナマズを倒せるようになるなんて、かなりパワーアップしているようだ。

 が、喜んでいるのもつかの間、ピコンと探知魔法に反応が出る。
 瞬間、隣を流れるマグマの川から不意に、ゴポリ……と触覚が浮かび出た。

「――ギュリィシシィィアアアァァアアアアァァアアア!!」

 ザブァアアン! とマグマの飛沫を飛ばして現れたのは、巨大なムカデだった。

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 種族:溶岩百足(ようがんむかで)

 ランク:A+

 説明:火山地帯に生息するムカデ型の魔物。溶岩の中に身を浸しても問題ないほどの炎熱体勢を持つ。獲物をマグマに引きずりこんで焼き殺し、肉を貪る。
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 マグマの中に潜んでいたムカデの奇襲!

 俺が対応しようとしたが、ハリゾーが俺の肩からジャンプして飛び出した。

「ここはおいらがやるでやんす!」
「あ、おい!」

 俺の静止の声も聞かず、ハリゾーはボフンと煙に包まれ、巨大化した。
 そして、体を丸めて針の背中をゴロゴロと転がる。

「必殺! ローリングアターック!」
「ギュリィアアアア!!」

 ドゴシャ! とムカデがくの字に折れ、マグマの海に突き落とされた。
 ほどなくしてムカデはマグマの上に浮かび上がり、ピクピクと手足と触覚を痙攣させて絶命した。

「ご主人、見ていたでやんすか!? このハーネスのおかげで動きの安定感がサポートされて、前よりも攻撃がしやすくなったでやんす! 嬉しい誤算でやんすー!」

 ハリゾーは装着したドズルバーツさんお手製のハーネスを自慢気に見せびらかした。

 ハリゾーのハーネスは直接的な武器ではないが、間接的に攻撃の補助を担ってくれたのか。まさかハリゾーまで進化してしまうとは、恐れ入った。

「皆、これまでとは比べ物にならないくらい強くなってるな。だったら、俺のこの魔杖も……!」

 俺は手に握る大きな杖を見つめる。

 どれだけ強くなるのかワクワク感を覚えながら、俺たちはさらに地下の火山地帯を進んでいく。
 と、段差になってさらに下降していくエリアに到達。

「どうやらもうそろそろこのエリアの最奥部に到着するみたいだな」

 そのまま進んでいくと、広い空間に出た。
 奥の壁際に、祭壇のような建造物があった。煤と灰でかなり風化していて、年季を感じる。
 その祭壇の上には漆黒のモノリスが生えていた。

「……なんだ? あのモノリスは」

 背後のパーティメンバーも口を開いた。

「こ、ここが最奥の空間なんですかね?」
「見た感じ、これ以上進める道はなさそうね」
「てことは、ここにご主人が探してる呪物があるでやんす!?」

 エルネの言う通り、もう進める余地はない。
 ということは、やはりあの祭壇に立つ黒いモノリスが――

「【スキル殺し】の呪装具……」
「――ゲシュィイイイイ!!」

 探知魔法が反応。
 天井から、不気味な叫び声が響く――刹那、大鎌のような鋭利な尾が振り下ろされる。

 ――ガキィイイイン!

 俺が反射で展開した防御魔法と衝突。
 魔物は距離を取り、俺たちの前に立ちはだかるようにハサミを鳴らした。赤黒い警戒色で全身を覆った、巨大なサソリだ。

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 種族:ヴォルカスコーピオン

 ランク:S+

 説明:火山地帯に生息するサソリ型の魔物。尾には強烈な猛毒を含んでおり、大変危険。また、強力なハサミ攻撃は固い岩石すらも粉砕する威力を持つ。
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 奇襲してきた魔物――ヴォルカスコーピオンこと巨大サソリは、即座に動いてハサミで俺の防御魔法を切断しようと試みる。
 が、切れない。
 サソリのハサミも凄まじいパワーを秘めているが、俺の防御魔法を破壊できるレベルではない。

「コイツがラスボスか? ふっ、ちょうどいいな。俺の魔杖がどんなモンか、確かめたいと思っていたところだ」

 俺はおもむろに巨大サソリへ杖を向ける。
 魔力を練ると、杖の切っ先に埋め込まれた赤い宝玉が爛々と煌めいた。

「火山地帯に住むお前らなら耐性はあるだろうが、あえてこれで勝負してやる。食らうがいい――《フレアショット》!」

 球体状の業火をサソリの顔面にクリティカルヒットさせる。
 大爆発するサソリの肉体。爆煙と灰が舞い上がり、サソリは悲鳴すら上げられず即死した。
 煙が収まった後には、顔面から胴体部分まで炎で抉り焼かれた無惨なヴォルカスコーピオンの死体がひっくり返って倒れていた。夏場のセミの死体みたいだ。

「お、おおぉ、すげぇなこの魔杖! 相手に耐性がある属性の魔法攻撃でも十分に倒すことができるじゃないか! 前よりも格段に魔力効率が跳ね上がってる実感があるぞ!」

 魔杖がなければ同程度の魔法を撃っても即死には至らなかったことだろう。

「す、すごいですケーゴさん!!」
「わざわざ相手の得意な土俵で勝負するなんて、随分とチャレンジングね。……ま、でも今の炎魔法はケーゴくらいしか出せないでしょうけど」
「さっすがご主人でやんすー!」

 パーティメンバーも俺の装備品の効果を見てテンションが上がっている様子。俺も嬉しくなる。

 ただ、本来の目的を忘れてはいけない。
 俺たちの目的はあくまでも――

「――お見事なの。意外とやるじゃない。褒めてあげるの」

 不意に幼さの残る静謐な声が響いた。

「誰だ!」

 反射的に俺たちは臨戦態勢になる。
 声の方角には、祭壇があった。
 が、その祭壇の上にあったはずの漆黒のモノリスが消失し、代わりに――銀髪色白のゴスロリ少女が立っていた。

 俺は杖を向け、低い声で問う。

「なんだ、お前は……? 一体、どこから現れた?」
「質問は一つにしてほしいの。でも、お兄さんとっても"甘くて美味しい"匂いがするから特別に……名乗ってあげるの」

 ゴスロリ少女は、バッと萌え袖を広げた。
 そして、蠱惑的な微笑みを浮かべる。

「わたしの名はメルィーゼ――『悪神』様の愛し子なの」

 ゴスロリ少女――メルィーゼは、くつくつと笑いながら暗澹としたオーラを漂わせた。