ついにドワーフの里へ到着した。
里の前で止まり、ハリゾーから降りる。
ハリゾーがミニサイズに縮んで俺の肩に乗って休む。俺がハリゾーを労っていると、二人の門番ドワーフが斧を向けてきた。
「何者だべテメェ!」
「こっから先はドワーフの里だべ! 余所者は帰ぇんな!」
ドワーフの集落には門番も配置されているのか。
でも、あまり歓迎されてはいないらしいな。
あと訛りが強い。
ボルザックさんが走竜から降りる。
「やめろお前ら! コイツらは俺の連れだ!」
ボルザックさんの顔を見た門番は驚いて固まった。
「おめぇ……もしかしてボルザックかぁ!?」
「なんだぁ、帰ぇって来たんだべか!?」
ボルザックさんの顔を見ると一転、ドワーフたちは歓迎ムードになった。
「俺たちは族長に会いに来たんだ。ちっと通してくれや」
そう言うと、門番ドワーフは両端に退いた。
ボルザックさんを先頭に、俺たちもドワーフの集落に足を踏み入れる。
火山地帯に建てた集落だからか、どこを歩いてもじっとりとした熱気と灰の香りが鼻をついた。あとどこからともなく酒の匂いもする。
マグマが固まったような赤黒い凸凹した地を踏みながら、呟く。
「しかしまた、過酷な環境に集落を築いたもんだなぁ」
「ドワーフは鍛冶を生業にしてきた種族だ。精錬や鋳造には高熱の竃や火が必要不可欠。この火山地帯なら地熱からとんでもない量の熱を吸収できるから、鍛冶士としちゃあやりやすかったんだよ。それにこんな火山地帯なら冷やかしで来る迷惑な来客も弾けるから一石二鳥だ」
なるほど、そういう理屈か。
集落ですれ違うドワーフたちは人間よりもタフそうだし、普通の街で鍛冶士をするより良いのは頷ける。
「着いたぜ、ここが族長の家だ」
重厚な石造りで建てられた工房のような家だった。
まずはボルザックさんが一人で入っていった。
しばらく待っていると、ボルザックさんが石の扉から顔を覗かせる。
「族長が会ってくれるってよ。入ってくれ」
許可を受け、俺たちは石造りの家に入っていく。エルネとセレクシアとハリゾーも緊張している様子だ。
中は伽藍堂としていて、部屋の端に工具や鉄くずなどが山積みになっている武骨な雰囲気だった。
その奥の座敷のようなスペースに、ボルザックさんと一人の中年ドワーフが座っている。
そのドワーフの周囲には酒の空き瓶が転がっていて、今も右手に度数の高そうな酒瓶を握っていた。
顔をアルコールで赤らめながら、酔っぱらい特有のやや怪しい呂律で言った。
「……俺はドワーフ族族長のドズルバーツだ。よろしくなぁ、優男……ひっく」
この男がドワーフ族の族長なのか。
ボルザックさんみたいに常に鉄を打って武器を製作している職人気質な人をイメージしてたけど、今のこの姿はただのだらしない酔っぱらいだ。
俺たちも自己紹介を返し、座敷に上がらせてもらう。
ドズルバーツさんが、酒をぐびぐびとラッパ飲みした。
「げぷっ……あぁ~……話は聞いたぜ、ケーゴとやら。ボルザックがいきなり顔を出したことにも驚いたがぁ……まさか気難しいコイツが連れを率いれて里に帰ってくるとはなぁ……。でぇ、お前が欲してるのは例の特級呪物なんだって?」
俺は首肯し、ボルザックさんに説明したのと同じ説明をした。主に俺の情報や【愚者】スキルを破壊したい旨の内容だ。
ドズルバーツさんは俺の話を酒をあおりながら聞くと、
「教えてやってもいいがぁ……タダってのもなぁ?」
ドズルバーツさんは、ニタリと笑い、手をしゃくった。
「俺を喜ばせるモンでも出しな。そうだな、高価で希少な美酒か、ウルトラレアの素材でも寄越すなら考えてやってもいいぜ?」
ボルザックさんが呆れた目を向ける。
「おい族長、さっきから気になってたんだけどよ。酒呑みも結構だが、もうちっと鍛冶職人としての風格ってのも大事にした方がいいんじゃねぇのか?」
「うるせぇよ。もう鍛冶士を辞めた俺にゃあ、関係ねぇことだ」
「はあ!? 鍛冶士を止めただと!? そんな話、聞いてねぇぞ!」
ドズルバーツさんは酒を呑み、冷めた目を向ける。
「お前ぇが知ってんのは数十年前の話だろ。お前ぇがいない間に、色々と変わったんだよ」
「族長、アンタは一級鍛冶士である俺のさらに上――伝説の特級鍛冶士に到達した最高の鍛冶職人じゃねぇか! なのに何でその腕を腐らせてんだ!」
ドズルバーツさんは遠い目で答えた。
「みぃ~んな死んだからだよ」
「……は?」
「ここ数十年、俺が打った武器を受け取った奴らは全員『灼滅の淵崖』に眠る特級呪物を求めて旅立ち、ついぞ帰ってくる奴はいなかった。ケーゴ、今のお前と同じような奴らだ」
ドズルバーツさんの胡乱な瞳が俺に刺さった。
「アイツらは俺が打った武器を持って、気が大きくなっちまったんだろうなぁ。それで分不相応な目標を掲げちまった。特に例の特級呪物の存在が少しずつ世間に知れ渡ったここ数十年はより顕著だ。前は本当に腕がある冒険者が真摯に武器に向き合っていたもんだが、近年は血の気の多い早熟な若者が名を上げることが増えてきた。そこの『剣聖』の嬢ちゃんのようにな」
「っ」
急に話を振られた『剣聖』セレクシアが身体を強張らせた。セレクシアは王国最強の冒険者と名高い実力派だが、まだ若く、ドズルバーツさんの言葉の重みがより響いたのだろう。
「分かるか? 俺が腕を磨けば磨くほど、優れた武器を作れば作るほど、それを受け取った奴らは実力以上の力を得て、頭がバグッちまう。それが無謀な挑戦を誘い、結果早死にする。間接的に、俺が殺しちまったようなモンだ」
「ぞ、族長……! そんな風に考えることは……」
ボルザックさんが慰めの言葉をかけようとするが、ドズルバーツさんは吹っ切れたように乾いた笑みを浮かべた。
「だから俺は鍛冶士を辞めたんだよ。お前たちが"【スキル殺し】の呪装具"に挑むのは勝手だが、俺は行かない方が良いと思うぜ。ま、この忠告を聞くかどうかはお前たちの自由だがな」
水を打ったような静寂。
誰も、ドズルバーツさんがこぼした言葉の重みに何と返して良いのか分からない様子だった。
しばらく無言の時間が続くが、俺はニヤリと不敵な笑みで応えた。
「――……ウルトラレアの素材を出せば情報を教えてくれるんだったよな?」
「あぁ?」
空間魔法を発動。
ドズルバーツさんの目の前に湖月幻古龍の鱗を放り出した。
その素材を見て、眠そうな目をしていたドズルバーツさんがカッと瞠目した。
「なっ、こ、コイツはまさか……湖月幻古龍の鱗か!?」
「それだけじゃないぜ」
続けてロックドラゴンの重厚な素材や、天月湖で採取したレア鉱石を豪快に放出した。
「俺は転生者だ。そこらの有望な冒険者よりも、よほど強力な【賢者】というスキルを有している。ドズルバーツさん、俺はアンタが出会ってきた奴らとは違う」
「……っ」
「それに、俺の仲間だって精鋭揃いだ。だからアンタが恐れてるような事態にはならない。そもそも、【スキル殺し】の呪装具を欲してるのは完全に俺のワガママだ。そんなワガママに付き合わせてる身で、仲間に被害を出すなんて論外だ。俺も俺の仲間の命も、この俺が全力で守り抜く」
俺の言葉を真っ正面から受けたドズルバーツさんは、呆気に取られたような顔をして、
「クク……ガッハッハ! なるほどなぁ! なかなかヤる男じゃねぇかケーゴ……いや、旦那ぁ!」
ドズルバーツさんは大笑いをし、言う。
「そこまで大見得切る度胸があるんだったら特級呪物について教えてやるよ。だが、一つ条件がある」
ドズルバーツさんは、俺・エルネ・セレクシアに指をさした。
「お前たち全員、俺が作った武器を装備してから行け。それまではこの集落で待機してろ」
「んー、まあ構わないが……って、ええっ!? ドズルバーツさんが武器を作るのか!? さっき引退したって言ってたんじゃ――」
「バカヤロウ! そんな激レア素材を大量に見せつけられて、武器を打ちたくならねぇドワーフなんかいるモンかよ! 旦那、俺はアンタに最後の望みを懸ける!」
「族長!!」
鍛冶士として復帰を宣言したドズルバーツさんに、ボルザックさんが嬉しそうに顔を綻ばせる。
ドズルバーツさんは素材をかき集め、俺を見た。
「っと、今さらだが、この素材は武器製作に使わせてもらって構わねぇんだよな?」
「ああ、好きに使ってくれ。だけど、それに応じた逸品を期待しているぞ」
「へっ、誰にもの言ってやがる! 伝説の特級鍛冶士と呼ばれた俺の腕前、とくと見せてやる!!」
意気揚々と吠えたドズルバーツさんの顔は、毒が抜けたように晴れやかだった。
○ ○ ○
ドワーフの里に滞在して10日ほどが経過。
ドズルバーツさんに呼び出された俺たちパーティメンバーは、例の工房に集まっていた。
俺たちは各自、ドズルバーツさんから専用の武器をオーダーメイドで作ってもらったいたのだ。
ドズルバーツさんがセレクシアに剣を渡す。
その剣は以前に見た時よりも煌めいていて、神聖な光沢を放っている。
「まずはセレクシアの嬢ちゃんの剣だ。ボルザックが仕上げただけあって文句無しの逸品だったが、湖月幻古龍の素材を融合させてさらに強化しておいた。剣への魔力浸透率が格段に上昇しているはずだし、切れ味も向上しているだろう」
セレクシアは剣を受け取り、その場で軽く振ってみた。ヒュンヒュンと身軽な風切り音が響く。
「す、すごい! 前よりも使いやすくなってて、まるで自分の体の一部みたいに剣と深く繋がれたような感覚……! 魔力も一瞬で剣全体に巡るから、剣を通した魔法の練度も跳ね上がりそうだわ!」
セレクシア絶賛の業物。
ドズルバーツさんは嬉しそうに笑い、次なる武器を持ってエルネの元に向かった。
「次にエルネの嬢ちゃんの武器だが、格闘スタイルが基本であるもののナイフの扱いも長けていると聞いた。だから、俺はコイツを考案した。形態変化が可能なタクティカルグローブだ」
「わ、わざわざ私のために作ってくださってありがとうございます!」
エルネは恐縮したように何度も頭を下げて、ドズルバーツさんからグローブを受け取った。
装着してみると、まるで軍人やボクサーのように格闘家らしい締まった風格が出る。
「わあ、すごいです! ガッシリしてるけどとっても軽い!」
エルネがシャドーボクシングの要領でその場でステップとパンチを打つと、殴打とは思えない風圧と風音が鳴った。
ドズルバーツさんがさらなる解説を重ねる。
「通常時は液体ミスリルがグローブの内部に埋め込まれていて、メリケンサックのように殴打のダメージを底上げできる。さらに嬢ちゃんが魔力を流せば液体ミスリルが形を変え、メリケンサックからミスリルナイフに武器形態が変化するって仕組みだ。ロックドラゴンの鱗をパウダー状にして素材に埋め込んでいるから、硬度と耐久性はピカ一だ!」
エルネが試しに魔力を流してみると、グローブの内部から蒼白の液体金属のようなものが漏れ出し、すぐにナイフの形状に固まった。グローブは装着したままの状態で、まるで虚空からナイフが現れたイリュージョンを見ているようだ。液体ミスリルという凄そうな素材を使っているおかげか、ナイフの切れ味もかなり高そう。
エルネは特殊ギミックに驚いていたが、とても使いやすそうだ。可愛らしいエルネの容姿と対極の位置にある物々しい戦闘装備はギャップがすごいな。でもこれでエルネもかなりパワーアップしたことだろう。
「そんで最後に旦那。アンタの武器は一層気合いを入れて作ったぜ」
ドズルバーツさんが工房の奥から大きな細長い武器を持ち出す。セレクシアやエルネに渡した物よりもまた一段と幅を取る。
俺の武器の正体は――
「旦那から貰ったレア鉱石と、ロックドラゴンと湖月幻古龍の素材を余すことなく使い倒した、超一級品の『魔杖』だ!!」
「――――ッ!」
シックな雰囲気の大きな杖だった。槍として使えそうな位に長大で、切っ先には赤い宝玉が埋め込まれていて、強い魔力を感じる。
「すげぇ、まさか杖まで作ってしまうとはな。さすがドズルバーツさんだ。オーダーメイド品なだけあって俺の手によく馴染む」
非常に使いやすく、『賢者』としての力をさらに発揮できそうだ!
「うぅ、みんな強そうな武器をもらっていいでやんすなぁ~。羨ましいでやんすぅ~」
俺の肩の上に乗るハリゾーが、物欲しそうな目で見る。
と、ドズルバーツさんがニッと笑った。
「ハリゾーだったか? 安心しろよ、お前にもささやかだが装備品を作っておいたぜ」
ドズルバーツさんはハリゾーにハーネスのような装備を装着した。
「それは武器というよりは魔道具の一種だが、旦那方はこのハリゾーに乗って移動するんだろ? その時に旦那が手綱を握れた方が良いだろうし、人が背中に乗ることを前提として乗り心地を改善する形でハーネスを設計したぜ。それにそのハーネスはハリゾーの大きさに合わせて自動的に伸び縮みする機能があるから、いきなり大きくなったり小さくなったりしても問題ねぇ」
「わぁ~、すごいでやんすー! おいら、この装備気に入ったでやんす!!」
ハリゾーは飛び跳ねて喜んでいた。
まさかハリゾーの分まで装備品を作ってくれていたとは驚きだったか、ハーネスがあればハリゾーがより役立つようになるなら万々歳だな!
あのトゲトゲの背中の乗り心地が良くなるならそれだけでもいい。セレクシアのお尻問題も解決しそうだ。
「で、旦那たちはいつ出発するんだ?」
「せっかくドズルバーツさんが装備品を作ってくれたんだ。早く試したいし、今から"【スキル殺し】の呪装具"が眠る場所へ行ってくるよ」
「そうか……場所は前に伝えた通りだ」
前にドズルバーツさんから情報は教えてもらっている。
あとは実際に現地に向かうだけだ。
「くれぐれも気をつけていけ。あのエリアは火山地帯に生息する強力な魔物が大量に巣食ってやがる。Sランクパーティでも最奥部に到達するのは難儀するだろう。絶対に油断はするなよ」
「ああ、肝に銘じておくよ」
俺たちは各自装備を握り、頷いた。
「【スキル殺し】の呪装具、捜索開始だ!」
俺の号令に、パーティメンバーは「おー!」と答えた。

