愚かな賢者の異世界ライフ ~神スキル【賢者】と破滅スキル【愚者】を同時に与えられたけど、気ままにスローライフを目指したい!~


 エリクサーによって領主の快復を見届け、新たにセレクシアがパーティメンバーに加わり、皆がハッピーエンドに終わってから――数日後。

 俺たちは未だ、領主の屋敷でお世話になっていた。

 領主と娘のリディアが手厚い歓待をしたいと言ってきて、ここ最近はずっと最高級のおもてなしを受けていたのだ。
 貴族様のおもてなしは本当に極上で、俺は久しぶりに心からの平穏と休息を取ることができた。

 本当はこのままずっとぬくぬくと暮らしていきたいところだが、さすがにいつまでも屋敷でお世話になるわけにはいかない。
 それに、俺は先日の湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)襲撃の一件で腹を決めたことがあるのだ。

「今まで何とかなるだろうと考えないようにしていたが、さすがにガチで向き合わなきゃいけないよなぁ。俺の破滅スキル――【愚者】について……!」

 俺は豪華な自室のベッドから起き上がり、覚悟を決める。 

 破滅スキル【愚者】。
 チートスキルの【賢者】と対になるようにセットで与えられた、俺を不幸と破滅に誘う最凶最悪のクソスキルだ。

「このスキルを潰すか、無効化できる方法はないか本気で調べてみよう」

 しかし、俺は何も知らない異世界転生者。

 ということで、俺は一番物知りそうな貴族――領主様に密かに会いに行った。

 少しずつ仕事を再開させている領主は、執務室にいる。
 俺が聞きたいことがあると告げると、快く応じてくれた。

 執務室のソファに腰を下ろし、俺はスキルを破壊するような魔法や儀式などが存在しないか尋ねてみる。
 が、領主は申し訳なさそうに首を横に振った。

「すみません。私はそのような魔法も儀式も存じ上げません。そも、『スキル』というのはどういうもので?」

 え、マジか。
 この世界はスキルの存在はあまり認知されていないのか?
 
「えーと、なんていうか……簡単に言うと、神様からの贈り物とか加護みたいな感じです」
「そうですか……しかし申し訳ない。やはり私は聞いたことがありませんなぁ」

 と、コンコンと執務室の扉がノックされた。
 領主が「入れ」と言うと、扉が開けられ男が入ってくる。

「失礼します、領主様。商人のトルドーと申します。この度は病からのご回復、心からお慶びを申し上げます。本日はご注文されていたポーション類の納品に参った次第で……」
「……ん? あれ、トルドーさん!?」

 俺は思わず立ち上がり、入ってきたおじさんを見る。
 おじさん――トルドーさんも俺の顔を見て、ハッと目を見開いた。

「あ、あなたはケーゴさん!? ど、どうしてここに!?」

 トルドーさんは、以前ラグリムの街に向かう道中の森で出会った商人だ。あの時は盗賊に襲われていたところに俺が駆けつけて盗賊を撃退し、壊れていた馬車も修理したことでトルドーさんにいたく感謝された。

 トルドーさんに俺がここにいる理由を簡単に説明する。と、トルドーさんは得心したように頷いた。

「数日前に突然、領主様が病から快復されたという情報を聞きましたが……なるほど、ケーゴさんが関わっていらしたのですね。しかもエリクサーの錬金まで補助されるとは、さすがの規格外っぷりですな」
「いやいや、それほどでも」

 あ、そうだ。
 ちょうどトルドーさんも来てくれたことだし、【愚者】スキルを無効化できる魔法とかないか聞いてみよう。商人ならではの知見が得られるかもしれない。

 トルドーさんは顎に手を当ててうぅむと悩んだ後、ぽつりとこぼした。

「噂ではありますが、以前にとある『呪装具(じゅそうぐ)』の情報を聞いたことがあります。何でも、大陸西部の火山地帯に封印されている大業物の装具らしいのですが、使用すると呪いによって神から見放されてしまうとかなんとか……。その特級呪物が、通称"【スキル殺し】の呪装具"と呼ばれていたような……」
「なに、スキル殺しだと!? く、詳しく教えてくれ!」

 俺は身を乗り出して反応する。

 が、トルドーさんは困ったように眉毛を曲げる。

「も、申し訳ありません。私も名前と存在くらいしか知らず、詳しいことは何も……」
「そ、そうなのか……」
「ですが、知っていそうな方なら心当たりがあります。例の火山地帯の傍には『ドワーフの里』がありましてね。その里出身と言われる凄腕ドワーフの方が王都で鍛冶屋を営んでおられるのです」

 ドワーフ!
 異世界定番の種族キタ!

 しかもそのドワーフが【スキル殺し】の呪装具について知っているなら、会いに行かない手はない!

「マジか! じゃあ早速そのドワーフの人に会いに行ってみるよ!」
「あっ、ですがその方は非常に忙しく、お店も一見はお断りなのです。なのでいきなり会いに行っても恐らく門前払いに遭うかと……」
「そ、そんな……!」

 せっかく貴重な情報を知ってるかもしれないドワーフの存在を突き止めたのに、話すら聞いて貰えないのか……!?

 げんなりと項垂れていると、静観していた領主様がニコリと笑う。

「であれば、ケーゴ殿。そのドワーフの鍛冶屋には私から紹介状を書きましょう」
「え、いいんですか!?」
「その鍛冶屋には我が屋も騎士の武具や防具を発注しておりまして。店主は王国の一級鍛冶士に数えられる凄腕のドワーフで、普通に予約すれば数年待ちは当たり前。面会などまず取り合って貰えませんが、私の紹介状があれば少しくらいの時間は空けてくれるでしょう」
「領主様……ありがとうございます!」

 領主様は俺に一枚の封書を渡してくれた。
 家紋が施された封蝋を見れば、一発で公爵家の貴族が書いた手紙だということが分かる。

「こんなものでケーゴ殿から受けた恩は返せませんよ。ぜひご活用ください」

 微笑みで返してくれた領主様に、俺はお礼を言って頭を下げた。