愚かな賢者の異世界ライフ ~神スキル【賢者】と破滅スキル【愚者】を同時に与えられたけど、気ままにスローライフを目指したい!~


 幻霊玉草をゲットした後、俺は湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)の死体や他の魔物たちの死体を全て空間魔法で回収していった。
 魔物の素材は売れるし、死体をそのまま放置してたら別の魔物を呼び寄せる可能性もあるからな。

 そして帰る準備を整えると、次に発動したのは俺の転移魔法だ。転移魔法は一度行った場所にはすぐに転移できるので、ラグリムの街の近くまでひとっ飛びだった。
 が、俺の転移魔法を初体験したセレクシアは驚愕していたな。バレると不味いのでセレクシアにはキチンと口封じをしておいた。

 そしてギルドに納品に行くと依頼主である公爵令嬢のリディアがいた。俺たちが幻霊玉草の採取に成功したというと涙を流して喜んでいた。
 その後、リディアからクエスト報酬を受け取り、同じタイミングでギルマスから数日前に頼んでいたロックドラゴンの買取金が支払われた。どちらも大金で、向こう十年以上は遊んでくらせるほどだ。
 しかし今は大金に喜んでいる暇もなく、リディアはすぐに屋敷へ帰る運びに。霊草を採取した俺たちもついてきて欲しいと言われたので、全員で領主の屋敷まで向かう。

 屋敷に到着してからはバタバタと慌ただしかった。領主専任の錬金術師がエリクサーの錬金に着手し、俺もサポートして爆速で幻霊玉草を用いたエリクサーの錬金に成功。

 そしてついにエリクサーを病に伏した領主に飲ませると――

「…………う、うぅん」

 ベッドに眠る領主が、目を覚ました。

「お父様!!」

 リディアが駆け寄る。
 40代くらいの領主――父親の枕元で涙を流して意識が戻ったことを喜んでいた。

 俺たちは寝室の端っこで親子の感動のひとときを眺めていた。
 すると、領主が俺たちの存在に気付く。

「……そちらの、方々は……」
「お父様、こちらのケーゴ様と『剣聖』のセレクシア様がエリクサーの材料となる『幻の霊草』を採取してくださったのですわ。そのおかげで、お父様を病の淵から救いだすことに成功しました……!」
「そう、だったのですか……。それは、何とお礼を申し上げて良いか……本当に、ありがとうございました」

 俺とセレクシアは、気にしないでください、とだけ応え、エルネとハリゾー(ミニサイズ)を連れて部屋を退室した。意識を取り戻したばっかりなんだ。変に俺たちに気を遣うことなく、親子水入らずの時間を楽しんだ方がいい。
 そして俺たちは領主の寝室の扉をパタンと静かに閉め、屋敷の庭をあてもなく散歩するのだった。

 綺麗な花壇に咲く色とりどりの花や緑あふれる庭園をエルネと並んでぶらついていると、一歩後ろについてきていたセレクシアが足を止めた。

「ね、ねぇ、ケーゴ」
「ん、どうした?」

 セレクシアは明後日の方向を向き、視線を泳がせながら言った。

「こ、今回のクエスト、色々と助かったわ。あなたがいなかったら……私だけじゃ霊草の採取は不可能だった」
「まあお互い様だろ。俺もセレクシアの力添えがなかったら魔物の足止めに苦労しただろうしな。あの古龍に専念して戦えたのは、お前とハリゾーがバックアップしてくれたからだ」
「フフン、でやんす!」

 俺の肩に乗るハリゾーがフンスと鼻を鳴らした。

 セレクシアはうつむき、もじもじと自分の服を握っている。

「そ、それでね、一つお願いがあって……よ、良かったら、その……パー……とか……組み……」
「え、なんて?」

 ごにょごにょとはっきりしない口振り。

 俺が聞き返すと、セレクシアはぎゅっと拳を握り意を決して叫んだ。

「だ、だから! 良かったら私と、パーティを組んでくれないかって言ってるの!!」

 俺とエルネはぱちくりと瞬きをする。

「パーティ? お前は俺たちのパーティに入りたいのか?」

 セレクシアは恥ずかしそうにこくりと頷いた。

「ほ、ほら。私ってこういう性格だし、自分より弱い人間には興味なかったの。だから私は冒険者としてひたすら自分の剣の腕を磨き続けてたんだけど、気付けば『剣聖』なんて二つ名がつけられていたわ。でも普通は剣士一人で高ランクのクエストに挑むなんて自殺行為なのよ。魔物に囲まれたら危険だし、自分が怪我をしたら最期。誰の援護も時間稼ぎも得られない。だから何度か、強いって評判の冒険者とパーティを組もうとしたんだけど全員から敬遠されて……結局、ずっと一人で冒険者活動をしていたの」
「ま、お前ってツンツンだもんな」
「はあ!? 誰がツンツンよ!」

 そういうところだよ。

 セレクシアは咳払いをして続ける。

「い、今までは一人でも何とかなったけど、今回のクエストで痛感したわ。私だけじゃ攻略できない敵がいるって。あの古龍は超優秀な魔法使いがいないと倒せなかった。だ、だから、ケーゴならこれ以上ない魔法職としての腕を持っているし、良いパーティ編成になるんじゃないかと思って……」
「たしかに、『剣聖』のセレクシアがパーティに加われば前衛の戦力は大幅にパワーアップできるな。エルネも格闘家として進化したし、機動力が高いエルネともセレクシアなら上手く連携が取れそうだ。ただ――」

 セレクシアのパーティ加入にあたって、一つ確認しなければならないことがある。

 俺は真剣な表情で、セレクシアに向き直った。

「お前にはバレているから包み隠さず言うが、エルネは獣人だ。獣人のエルネと同じパーティになることに抵抗感はないのか?」
「…………」

 エルネがへにょりとネコ耳をしおらせて視線を落とした。

 今のエルネは俺の隠蔽魔法でネコ耳やネコ尻尾を隠しているから他人には普通の人間にしか見えない。
 だが、エルネが『狂戦士(バーサーカー)モード』に覚醒した際、セレクシアはエルネが獣人である真実を目の当たりにしている。エルネの覚醒の余波で俺の隠蔽魔法が破壊されたため、第三者のセレクシアの目にもエルネのネコ耳と尻尾が映ってしまった。

(この世界では獣人は迫害や差別の対象に逢っているという。もしセレクシアが獣人否定派の人間だった場合、どれだけ戦闘力が秀でていたとしても俺たちと同じパーティに入れるわけにはいかない)

 ここが分岐点だ。
 セレクシアの返答次第で、今後の未来は丸っきり変わる。

 セレクシアは、不思議そうに首を傾げた。

「もちろん、エルネが獣人でも構わないわよ?」

 悩む素振りもなく、あっさりと即答。

 当然否定的な返答をされると思い込んでいたエルネは、遅れて「えっ」と顔を上げた。

「ていうか、獣人だろうが人間だろうがどうでもいいわよ。大事なのはパーティメンバーとして上手くコミュニケーションや連携が取れるかどうかでしょ。獣人だってのには最初は驚いたけど、エルネはとってもいい子じゃない。天月湖の家で数日間一緒に暮らしていた時も初対面の私にすごく丁寧に接してくれたし、美味しい料理や細かい家事もやってくれてた。それに戦力面においても申し分ない。私とは戦闘スタイルが全く違うから、お互いの持ち味を活かしあうように連動すればパーティとしてさらに進化しそうだしね」

 セレクシアがつらつらとエルネを褒める。

 俺とエルネは拍子抜けし、遅れて吹き出すように笑った。

「な、なによ。何かおかしいこと言ったかしら?」
「いや、何でもないさ。歓迎するよセレクシア。今日から同じパーティメンバーとしてよろしくな!」

 俺はセレクシアに手を差し出す。
 セレクシアは、ぱあっと顔を輝かせて俺の手を握った。

「――ええ! 私とケーゴとエルネが組めば、王国最強の冒険者パーティになるわ!!」
「よろしくお願いします、セレクシアさん!」
「お、おいらも忘れないで欲しいでやんすー!」

 庭園の真ん中で、俺たちは新たなパーティメンバーを笑顔で歓迎するのだった。