愚かな賢者の異世界ライフ ~神スキル【賢者】と破滅スキル【愚者】を同時に与えられたけど、気ままにスローライフを目指したい!~


 ――ドガガァァアアアアアアアアアアアアン!!

「ぐわっ!? な、なんだ!?」

 爆音と衝撃に飛び起きる。
 俺はすぐに部屋を飛び出すと、同じタイミングでエルネとハリゾーとセレクシアも出てきた。

「ケーゴさん!」
「ご主人ー!?」
「い、今の音聞いた!?」

 皆、状況は同じらしい。

「ああ、外を見てくる!」

 リビングルームを突っ切って玄関の扉を開けた。

 その瞬間、俺の目に飛び込んできたのは巨大な『影』だった。

「な、んだコイツ……!?」

 その影は天高く空に伸び、俺たちを家ごと見下ろす赤い瞳がある。
 蛇のように細長いフォルムは、日本神話に登場するような『龍』のようだった。

 鑑定魔法が発動する。

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 種族:湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)

 ランク:SSS

 説明:『天月湖の主』と称される龍。数年に一度、満月の夜にのみ眠りから覚める。魔力を宿したモノに惹かれる習性を持つ。
 ―――――――――――――――――――

 頬に嫌な汗が流れた。

「レ、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)……!? なんじゃこの化け物はぁぁああああああ!!?」

 鑑定文に、『天月湖の主』というワードを見つけ、思い出す。
 たしか依頼主の公爵令嬢(リディア)が、天月湖には『湖の主』と呼ばれるモンスターがいるから気を付けろ、と忠告していた。

「なるほど……コイツがその『湖の主』様かよ……!」

 背後に仲間たちも集まった。

「な、なによコイツ……!?」
「み、見上げるほどに、大きい……!」
「おいらよりも何倍もでっかいでやんすー!?」

 湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)は、口に青白い光を溜めると、レーザービームのように撃ち込んできた。
 灼熱の閃光は俺が展開した防御魔法によって防がれるが、先ほどの揺れと爆発音はこのレーザービームの影響だろう。

「……ツヨイ、魔力……喰ラウ……!!」

 っ!?
 ドラゴンが喋った!?

「あのドラゴン……カタコトだけど人の言葉を喋れるってことは古龍の類いね。古龍は極めて強力な個体よ。倒すとなると普通は軍団規模の戦力が必要になるわ」

 セレクシアが緊迫した面持ちで言う。

「マジかよ……! だが、悠長にくっちゃべってもいられねぇようだな。セレクシア、やれるか?」
「……フン、私を誰だと思ってるのよ。『剣聖』の絶技、見せてあげるわ」
「上等だ! なら、セレクシアは自由に動いてドラゴンを攻撃してくれ! 俺とハリゾーは援護に回りつつ、隙を突いて倒すぞ!」
「了解でやんすー!」

 ハリゾーがミニサイズから巨大化して通常サイズに戻る。
 最後に、エルネに目を向けた。

「さすがにあのドラゴン相手じゃエルネは荷が重い! ここに留まって、家の中に被害が出ないよう守っていてくれ! この家は強力な防御魔法をかけているから、攻撃を受けても大丈夫だ!」
「あっ……ケ、ケーゴさん、私――」
「じゃあ行くぞ! お前ら、散開!!」

 俺の号令に従い、セレクシアとハリゾーは左右に散るように展開した。
 俺も浮遊魔法で空中に浮かび、ドラゴン相手に制空権を取る。

 ただ、その背後でエルネが唇を噛み締めて俺たちに手を伸ばしていたことに、この時の俺は気付かなかった。



 ○  ○  ○



 満月の光が照らす夜の湖。
 セレクシアの凛とした叫びが響く。

「八つ裂きになりなさい! ホーリースラッシュ!!」

 セレクシアの剣閃が闇夜に光り、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)を切り裂いた。

「グギャルルァァアアアアアァァァアアアア!!」

 ダメージは通っている。
 が、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)はセレクシアを薙ぎ払うとすぐに俺たちのハウスを睨みつけた。

「させるかよ! 《フレアショット》!」

 上空から炎の散弾を降り注ぎ、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)を叩いてマイホームから意識を逸らす。

(さっきから何か妙だと思ってたが、あのドラゴン……俺たちを見ていない?)

 湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)は、俺の家――とりわけリビングルームに突っ込もうとしている。 
 まるで家の中にある目当ての物を奪おうとしているかのようだ。

(たしか湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)の鑑定画面には、"魔力を宿したモノに惹かれる習性"があるとか何とか書かれてたな)
 
 しかし、あそこに強い魔力のものなんて何も…………あっ。
 瞬間、心当たりが芽生えた。

「ま、まさか俺が湖底で採取してきたレア鉱石か!?」

 昨晩、俺が天月湖で採取したレア鉱石を皆に見せるためにリビングに広げた。そのレア鉱石たちは、採取した薬草と一緒にリビングの片隅の台に置きっぱなしだ。しかもまとめて、十数個を1ヵ所に置いている。

(しくじった! あのレア鉱石たちを俺の空間魔法の中に回収しておけば、もしかして湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)は家を襲ってこなかったのか!?)

 なんてツいてない――と思った瞬間、俺に宿る最悪のスキルの存在を思い出す。

「だあぁっ、クソ! 最近体験してなかったから忘れてたぜ! テメェのせいか、【愚者(・・)】のバカ野郎がぁあああああ!!」

【賢者】というチートスキルとセットで与えられた、【愚者】という破滅スキル。
 この【愚者】は俺の行動が裏目に出て破滅へと誘うように運命を導くというマジのクソ仕様のスキルなのだ。

 上空から絶叫を聞き、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)から距離を取ったセレクシアが俺を見上げる。

「い、いきなりどうしたのよケーゴ!」
「……何でもねぇよ。俺のクソ最悪な持病スキルに毒吐いてただけだ!」

 もう決めた! 
 このクエストをクリアしたら絶対に【愚者】スキルを除去する方法を探す! マジで探す!! こんなクソスキル一生のお供にできるかッ!!

 苛立ち混じりにドラゴンに魔法をぶっ放すが、努めて冷静さを維持する。
 と、打開策を思い付いた。

(でも、一つ作戦を閃いた。上手くいけば、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)の注意を俺に引き付けられるかもしれない!)

 湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)は恐らく1ヵ所に集中した大量のレア鉱石を狙って俺たちのハウスを襲っている。
 が、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)の狙いは鉱石というより"大量の魔力を宿したモノ"だ。蛍光灯に群がる蛾のように、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)は強い魔力の光に引き付けられて家を襲っている。

 だったら――

「俺が家ん中のレア鉱石以上に魔力を垂れ流したら、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)は俺に夢中になるってことだ! オラ、こっちを見やがれクソドラゴン!!」

 俺は満月を背景に、空中で魔力を放散した。
 湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)が、ギンッと目を光らせる。

「コノ……匂イ……!?」

【賢者】スキルには、魔法を使いこなせる能力だけじゃなく、魔力量を底上げする能力も備わっているのだ。
 魔法をドカドカ撃っても魔力切れなんて起こらなかった俺の無尽蔵の魔力を今、贅沢に無駄遣いする!

「魔力……魔力、ノ匂イ……!!」
「かかったな! ほら、こっちに来い!」

 俺は家から離れ、湖の方へ飛んでいく。
 案の定、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)は標的を俺に変更し、草原を暴れながら追ってきた。

 蛇口を全開にして魔力を垂れ流す今の俺は、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)にとったら夜空から魔力の滝があふれ出るように見えていることだろう。

「セレクシア、ハリゾー! このドラゴンは俺が引き付けてる! 今の内に背後から攻撃しろ!」
「でかしたわ、ケーゴ!」
「やってやるでやんすー!」

 ハリゾーがダダダダ! と走り、丸まって背中のトゲトゲの剣山を湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)の背部に突き刺した。

 セレクシアは跳躍し、聖なる剣を輝かせる。

「私の本気、見せてあげるわ! ホーリースラッシュ――三連!!」

 三条の光が、キィンキィンキィンと煌めき、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)の体を切り裂いた。
 ドラゴンの絶叫と鮮血が吹き出す。

「グギィィィルルァァアアアアアァァァアアアア!!」

 湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)がぐりんと頭部を一回転させ、青白いレーザービームを吐き出す。
 そのビームの爆発に、セレクシアとハリゾーが撃退された。

「きゃあ!?」
「うわぁあああでやんすー!」

 土煙が吹き上がり、セレクシアとハリゾーは見えなくなる。

「セレクシア! ハリゾー! こんの野郎!」

 湖まで誘導した俺は、再び湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)に魔法を浴びせる。

 と、セレクシアとハリゾーも土煙から出てきた。良かった、二人とも無事だったようだ。

「だが、さすがに古龍ってだけあってタフだな……。勝てたとしても長期戦は覚悟しないといけないか……?」
「我、ニ……魔力ヲ喰ワセロ!!」

 湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)が凄まじい速度で大口を開けて俺を襲う。
 反射的に回避し、龍が空を登る風圧で吹き飛ばされた。

「小癪……魔力……捕食……邪魔ヲスルナラバ……皆殺シダ――――ッ!!!」

 地上から夜空へ一直線に屹立する細長い龍――湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)は、上空で不快な雄叫びを上げた。
 耳をつんざく、嵐のような絶叫。湖に波紋が生まれ、草原の草木は強風にたわむ。

(うっさ!? なんだ突然!?)

 十秒ほど経ち、雄叫びが止んだ。
 俺は意識を切り替え、湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)に魔法を撃つべく構える。

「だが、愚痴ってる暇もねぇか……。長丁場になりそうだが、それでもコイツを倒さなきゃ――」
「ご、ご主人! 湖から凄まじい気配を感じるでやんす!」

 ハリゾーが警告してくる。

「なに? 湖?」

 俺は視線を下に落とし、遥か先まで広がる天月湖を見下ろした。
 次の瞬間、天月湖の水面が不規則に揺れだし、次第に荒波のようにうねりだす。

 そして、湖から無数の影が浮かび上がる。

「「「ギョギョァァアアアア!!!」」」

 無数の影の正体は、大量の半魚人だった。
 あれは俺が天月湖の水中で戦った『半魚人魔』とかいう水棲魔物だ。

 半魚人の群れは、続々と湖から這い出て上陸してくる。

「ケーゴ! 草原からも魔物が湧きだしたわ!?」

 セレクシアの声。
 見てみると、どこからともなくウルフやゴブリンらしき魔物のシルエットが月明かりに照らされていた。いずれも百体を優に超える大群だ。

「な、なんだって急に魔物たちがわらわら現れたんだ……!? ハッ、まさかさっきの湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)の雄叫びが原因か!?」

 あの雄叫びには、周辺の魔物を誘き寄せる効果があったのか!?

 湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)は俺と視線を交錯させる。

「我ノ魔力……貴様ヲ、必ズ……喰イ殺ス!!」
「めんどくせぇ天月湖の(ぬし)様だぜ……!!」

 水陸両面から魔物の軍勢に挟み込まれた、危機的な状況。

 湖月幻古龍(レイクエルダードラゴン)の討伐は、いつしか天月湖全域の魔物を巻き込む最悪の戦乱へと変貌を遂げていた。