俺は倒した魔物を空間魔法にしまいながら、ぼやいた。
「やれやれ、のどかな湖のほとりかと思いきや、魔物襲撃のオンパレードじゃねぇか」
「天月湖が危険エリアだってのも分かるでやんすなー。ま、ご主人とおいらの力が合わされば雑魚に過ぎないでやんすが!」
愚痴をこぼしながら、のべ百体以上の魔物たちを回収し終えた俺はエルネの元に戻った。
「あ、ケーゴさん……」
「おう、お待たせエルネ。悪いな、ウルフ以外の魔物もうじゃうじゃ湧いてきやがって一掃するのに思ったより時間がかかっちまった」
「い、いえ……」
「見た感じ、天月湖の付近にいる魔物はあらかた片付けたみたいだから、例の霊草探しに取りかかろうか」
俺たちの目的は、天月湖に生えると言われる幻の霊草――『幻霊玉草』を採取すること。
地図の下にイメージ図みたいなのが描かれているんだが、なんか全体的に丸みがある草のようだ。
(実際はどんなモンか分からないから、それっぽい草に鑑定魔法で名前を調べていくか? ま、とりあえずそれっぽい草を手当たり次第に採取してきてギルドで鑑定するって方法でも良いとは言われたが……)
しかしその方法だと、大量採取したは良いものの結局目当ての幻霊玉草がありませんでした、となればもう一回やり直しになるかもしれない。
さすがに二度手間になるから、できれば幻霊玉草だと確定した霊草をギルドに納品する形にしたいんだが、そんなピンポイントで幻の霊草を特定する方法なんて――
「……いや、待てよ? もしかしたら、探知魔法を使ったら何か引っかかったりするかも?」
探知魔法は魔物の位置を特定する魔法だが、原理としては恐らく周囲の魔力反応を読んで脳内マップ上に表示している感じだ。
であれば、"魔物"という脅威性を含む魔力反応だけに絞るんじゃなく、"強い魔力反応そのもの"という広めの解釈で探知を実行すれば怪しい箇所が一気に表示されるんじゃなかろうか。
「やってみるか。魔力反応そのものを探るイメージで……《探知》!」
脳内に周辺のマップと複数の魔力反応が引っ掛かった。
「……ん? なんかでっかい魔力反応がいくつかあるな」
その方角と距離から対象の位置を推測すると――
「……なるほど。湖の中、か」
俺の視界には、そよ風に揺れる湖の美しい水面が映る。
(仕方ない。魔力反応があった以上、探してみるしかないか)
俺はエルネとハリゾーを見て言う。
「二人とも、俺は湖の中に潜って霊草を探してみる。ハリゾーとエルネは湖の周囲にそれっぽい霊草とか薬草がないか捜索してくれ。あと、ハリゾーは魔物が現れたらエルネを守って欲しいから、二人は離れ過ぎないようにな」
「了解でやんす!」
「わ、分かりました。ケーゴさんもお気をつけて!」
俺は湖に向き直る。
「――《エアドーム》」
俺の体の周りを大きな空気の球体が覆う。
これで水の中に潜っても息ができるって訳だ。
さらにエアドームをコーティングするようにぴったりと防御魔法を張り付ければ完璧だ。
「では、いざ! 湖探索へ!」
俺は勢い良くジャンプし、ザバァァアアアン!! と湖の中に飛び込んだ。
ブクブクブクブクと無数の気泡が視界を染めた後、透き通るような湖の水中が広がった。
「すっげぇ! 超綺麗な湖じゃねぇか!」
熱帯魚みたいな魚が逃げていき、湖底はゴツゴツとした岩肌が露出している。
なんか霊草が生えてそうな神聖な雰囲気があるような気がするぜ。
「えーと、一番近場の魔力反応は……」
俺はふわふわと水中を漂うように移動。
ポーン、ポーン、と長距離ジャンプをしながら湖底を進むと、魔力反応源を発見した。
「この岩場から反応が出てるな」
ガサゴソと岩をチェックしたり岩場の隙間を覗いたりしてみる。
と、岩場の隙間の奥に大きなシャコ貝のようなものがあった。
そのシャコ貝の口をギギギギ……、と開いてみると、中に一つの蒼白の鉱石が埋まってるのを発見。
かなり小さく、サイズは真珠くらいだ。
「引っ掛かってたのはコレか。よいしょっ、と!」
ズポン……! と慎重にシャコ貝から鉱石をつまんで引っこ抜く。
人差し指と親指の間に収まるギラギラと光る美しい水晶を眺めた。
鑑定魔法を発動。
―――――――――――――――――――
名前:覚醒月晶
希少価値:SS
説明:膨大な魔力が凝縮し、固結した極めて希少な水晶鉱石。無尽蔵の魔力を宿すとされ、適合した者の潜在能力を覚醒させるという伝承がある。
―――――――――――――――――――
「おおっ! なんかレアそうな鉱石だな!」
残念ながら目当ての霊草ではなかった。
でも、魔力反応で探る作戦は魔物以外の採取を試みる場合も有効であることが分かったぞ!
気を取り直して、どんどん魔力反応を探っていこう!
俺はゲットした『覚醒月晶』を回収し、次なる魔力反応源へ向かう。
数分ほど水中の旅を楽しんでいると、魔力反応源の岩場を発見した。
「あったあった。お次は何が出るかな~」
俺はさっきと同じ要領で岩場を探していく。
と、岩場の下に広がる砂地が一瞬動いた。
次の瞬間。
「――ギュシシシシィィィイイイイ!!」
ボゴン! と砂地が凹んだかと思うと、地中から巨大なミミズのような魔物が現れた。
「なっ!? なんじゃコイツは!?」
俺は咄嗟に身を翻してミミズ魔物の襲撃を回避。
同時に鑑定魔法で調べる。
―――――――――――――――――――
種族:レイクワーム
ランク:A
説明:湖底に生息するワーム型の魔物。獲物を湖の底まで引きずり込む習性がある。
―――――――――――――――――――
「レイクワーム……湖の中に生息する魔物か!?」
ミミズみたいな魔物は、ワームだったらしい。
ランクはAだからそこそこ強いな。
「さっきの探知魔法で探ったのは純粋な魔力反応だけだから、そりゃ魔物の魔力反応が混じってても不思議じゃねぇか!」
「ギシシャャァァァ!!」
巨大ワームは細長い体をぐにゃりと曲げて、再び俺にギザギザの円形の口で噛みついてくる。
俺はファイアボールやウィンドカッターで反撃するが、どれもワームの薄皮を切る程度だった。
本来なら一撃必殺コースなんだが、全然まだ余裕そうだ。
「ぐっ! 水中だから魔法の威力が弱まってるのか!?」
炎魔法は一瞬で消失してしまうし、風魔法も水の抵抗のせいかいまいち威力が弱い。水魔法や土魔法も同様だ。
もちろん、魔力を大量に込めてゴリ押しすれば全然戦えるだろうが、あまり大規模に暴れ回ると湖そのものを破壊してしまいかねない。
その余波に巻き込まれて幻霊玉草が粉々になりました、なんてことになればお笑い草だ。
(だったら、水中でも攻撃が通りやすい属性の魔法に切り替えるしかねぇな!)
ワームは三度、俺を喰らおうと襲いかかる。
が、当の俺は冷静にワームへ人差し指を向け、静かに言い放った。
「一撃で沈めろ。雷属性魔法――《ライトニングショット》!」
指先から閃光が走り、レイクワームに直撃。
ワームは不自然に体を痙攣させた後、ゆっくりと倒れて水中に浮かんだ。
「よし! やっぱ電撃なら水中でも十分に攻撃が通るな! これなら湖に生息する魔物たちにも通用するぜ!」
と、今度は周囲の砂地が同様に揺れだし、ボコボコボコォン! とレイクワームが現れた。
その光景はまるで巨大で不気味なチンアナゴの群れのようだ。
探知魔法を再発動してみるが、まだ付近の強い魔力反応は消えていない。
「……つーことは、まだ魔物が潜んでやがるってことか! クッソ、面倒くせぇな!」
ワームたちが襲い来る。
それをライトニングショットで沈めるが、その騒ぎを聞き付けたのか、他の水棲魔物たちを呼び寄せてしまった。
「ギョギョ!」
「ギギョギョ!」
「ギッ、ギョ、ギッ!」
数百体規模で現れたのは、半魚人の群れだった。
頭は完全に魚で全身は鱗に覆われているが、体には四肢があり、槍を握って襲いかかる。
見るからに生臭そうなビジュアルだ。
「なんだコイツらキモ!? 異世界の半魚人か!?」
鑑定魔法が発動する。
―――――――――――――――――――
種族:半魚人魔
ランク:C (群れ状態はA)
説明:半魚人の魔物。大規模な群れで行動し、巧みな連携攻撃で格上の獲物をも仕留める。
―――――――――――――――――――
やっぱり半魚人だった。
俺は数体のワームと、数百体の半魚人に襲われ、視界がどんどん濁っていく。
「クソッ、キリがねぇな……! これ以上戦いが激化すると湖が壊されかねん。一度、湖から上がるか」
俺は急浮上を決行。
ワームも半魚人も押し退けて、湖底から一直線に真上へ浮かんでいく。
そして、ザバァァアアアン! と水面を突き破る。
エアドームの魔法を解除し、代わりに浮遊魔法で湖の真ん中へ浮かび上がった。
湖を見下ろすと、俺についてきたワームと半魚人たちも水面でザブザブと暴れている。
「チッ、しつけぇ魔物どもめ! だが、地上に出ちまえば楽勝だ。【賢者】たる俺の魔法でまとめて――」
俺が魔法で一掃しようとした、その瞬間。
「――ホーリースラッシュ!!」
キラン、と一条の光が空間をかすめた。
直後。
「「「ギシシィィィァァアアアアアアア!!」」」
「「「ギョギュァァアアアアアアアアアア!!」」」
水面に現れていたワームと半魚人が一刀両断され、魔物の鮮血が湖を一瞬にして染め上げた。
「なにっ!? い、一体何事だ!?」
新手の魔物の横やりか!?
そう思って周囲を素早く警戒する俺の目に、空中でひらりと舞う一人の少女が映った。
蝶のように舞った彼女は、死んで水面に浮かんだ巨大ワームの上に軽やかに着地した。
「――全く、魔物どもが騒がしいから湖の反対側から駆けつけてみれば、とんだお邪魔虫がいたものね。これじゃあ霊草探しどころじゃないわ」
長い金髪が風に揺れ、凛とした芯のある声が湖に響く。
手には、一目で業物と理解る『剣』が握られていた。
「なんだ、お前は……?」
少女はワームの上に立ち、俺を見上げる。
「自分は名乗らず、ましてや上空から見下ろして名を尋ねるなんて無礼な男ね。でも、いいわ。これ以上クエストの邪魔をされたくないし、私が何者か教えてあげる」
少女は剣を振り、剣身についた魔物の血を弾き落とした。
ゆっくりと剣を鞘に納め、告げる。
「私はセレクシア=アステリオン。王国最強のSランク冒険者――『剣聖』のセレクシアよ」
俺を見るその眼光は鋭く、Sランクの風格をまとう威圧感を含んでいた。

