「ねぇ、担任遅くない?」
すると、前の席の葉音がだれにともなく言った言葉。
私は反射的にスマホから顔を上げた。
黒板の上にある時計の針は、8時23分を指している。
本当だ……ホームルームは8時20分に始まるのに。
担任の女の先生はとても真面目で、予鈴や本鈴を鳴らすスピーカーが故障している今でもキッチリ8時20分に来ている。
他のクラスや上級生たちも来ていないのに、先生まで……?
それに、少子化の問題でクラス人数が私ふくめて11人しかいないこのクラスも全員の生徒が揃っているというのに。
それは、私だけが思ったことではないらしい。
葉音が椅子を引いて私の隣の席である、阿久戸とわの斜めに移動した。
「とわ、どう思う?」
「さぁ?担任だって完璧じゃないんだから、遅刻ぐらいあるんじゃないの」
平坦な声で答える彼女。
目線は葉音ではなく、さっきからずっといじっているスマホに向けられたまま。
彼女は一軍の上層――つまり、カースト最底辺の私とか対象的にカーストトップだ。
ニキビなんて存在すら知らなそうな白い肌、パッチリとした理想の二重の瞳はカラコンを入れているのだろうか、綺麗な茶色に染まっている。
私みたいな三軍は見るだけでも汚れてしまいそうなつやつやの髪は、カラコンと同じ濃いめ茶色。
毛先が豊満な胸に薄く被るくらいの長さで、なぜこの世には私のような貧乳が多いのだろうかと思う。
横目で見ると、そんな一軍トップを絵に描いたような存在であるとわが延々とスクロールしているのは、ティックトックの動画だった。
特におもしろい動画はないのかスクロールする指は止まらないし、グロスを塗っている口は真一文字に結ばれていて顔面の無駄使いとかこのことかと思う。

