まるで眠ったように穏やかな表情だったそうだ。
春の小川には若草が芽吹き、黄色や紫の小さな花々が咲いていた。
川岸の桜の木は満開で、春の陽が彼女のほおを照らしていた。
——————
久々の帰郷、川のせせらぎを聞きながら僕は川の辺りにかがみ、花束を置いた。
絵を描くのをやめてから、もう十年になる。
十年前、彼女はここで川から落ちた。
今でも忘れられない幼なじみの死。
事故か自殺かわからないまま、月日だけが過ぎた。
命日は桜の美しい季節。
でも満開の桜を見るたびに心が暗くなる。
足を滑らせた。そう思いたい。けれど当時、彼女には家にも学校にも居場所はなくて。
「さようなら」
あの日、彼女から最後に届いたメール。
——事故じゃなかったかもしれない
ずっとそう思っていた。
春の陽は暖かく、でも心は暗く、俯きながら歩いていると、風が吹き川沿いの桜木の花びらが一斉に舞った。
細い枝の先まで花をつけた満開の桜から、淡い桃色の花びらが風に乗って自由に枝から飛び立つ。
道行く人の肩に乗って、水の上に降りて、風の渦に巻かれて。
手を伸ばせば花びらが手に飛び込んでくる。
そして目の前が、吹雪に包まれたように何も見えなくなった。
その瞬間、懐かしい声が聴こえた。
花吹雪の中に喜ぶ彼女の顔を見た気がした。
「さようなら。元気でね」
僕は手の中に残る花びらを見つめた。
十年前、きっと彼女も今と同じように手を伸ばした。
「引っ越す前に、最後にここの桜を描きたかった」
そう言った僕に。
桜の写真を撮って送ろうと……。
顔を見上げると薄紅色の桜の向こうに青い空が見えた。
ちゃんと打てているのか、涙で文字がぼやけて見えないけれど。
「桜、見れたよ。ありがとう。さようなら」
十年前の彼女に、メールを送った。
春の小川には若草が芽吹き、黄色や紫の小さな花々が咲いていた。
川岸の桜の木は満開で、春の陽が彼女のほおを照らしていた。
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久々の帰郷、川のせせらぎを聞きながら僕は川の辺りにかがみ、花束を置いた。
絵を描くのをやめてから、もう十年になる。
十年前、彼女はここで川から落ちた。
今でも忘れられない幼なじみの死。
事故か自殺かわからないまま、月日だけが過ぎた。
命日は桜の美しい季節。
でも満開の桜を見るたびに心が暗くなる。
足を滑らせた。そう思いたい。けれど当時、彼女には家にも学校にも居場所はなくて。
「さようなら」
あの日、彼女から最後に届いたメール。
——事故じゃなかったかもしれない
ずっとそう思っていた。
春の陽は暖かく、でも心は暗く、俯きながら歩いていると、風が吹き川沿いの桜木の花びらが一斉に舞った。
細い枝の先まで花をつけた満開の桜から、淡い桃色の花びらが風に乗って自由に枝から飛び立つ。
道行く人の肩に乗って、水の上に降りて、風の渦に巻かれて。
手を伸ばせば花びらが手に飛び込んでくる。
そして目の前が、吹雪に包まれたように何も見えなくなった。
その瞬間、懐かしい声が聴こえた。
花吹雪の中に喜ぶ彼女の顔を見た気がした。
「さようなら。元気でね」
僕は手の中に残る花びらを見つめた。
十年前、きっと彼女も今と同じように手を伸ばした。
「引っ越す前に、最後にここの桜を描きたかった」
そう言った僕に。
桜の写真を撮って送ろうと……。
顔を見上げると薄紅色の桜の向こうに青い空が見えた。
ちゃんと打てているのか、涙で文字がぼやけて見えないけれど。
「桜、見れたよ。ありがとう。さようなら」
十年前の彼女に、メールを送った。



