聖獣に愛された少女は、蒼の守護者に愛される【シナリオ】

第四話「婚姻と言う名の脱出」

〇続き 千影家の前にて

燈子(どういうこと?)
蒼真「一条宮家にいくのであれば、うちに来て欲しい」
雪乃「燈子は私と共に一条宮家に向かう予定で!」
蒼真「さっきそちらは『彼女なら大丈夫』だと言っていたが、一人で乗り越えられない程度の実力なのか?」

雪乃は唇を噛む。
蒼真は燈子を見つめる。

燈子(何で?正気??)

蒼真が燈子に微笑みかけると、燈子は頬が赤くなる。

正一「突然申されましても……なぜ彼女を?」
蒼真「一目惚れだ。文句あるか?」

全員沈黙。

幸虎「もうちょっとええこと言え」
蒼真の頭を叩く。


幸虎「そもそもやな、一条宮の婚姻は帝国陸軍にも関わることは知ってるはずやけどな?」「一条宮家に警告やけど、陸軍が反対すれば婚姻が取り消しになる場合もあることはゆめゆめお忘れなく」

幸虎は影のある笑みで周りを見る。

幸虎「さ、立ち話も何ですし、ちょっと一条宮の皆さんから話をお伺いしたら、二人でお宅にお伺いしてええですかね?あ、俺ら非番なんでちゃっちゃと終わらせましょか」


さっさと一条宮家の人を連れて行く二人。
すれ違いざま、蒼真が燈子の耳元で囁く。

蒼真「荷物をまとめていなさい」



〇千影家の客間にて
千影家四人と座卓を挟み、幸虎と蒼真が座る。

幸虎「一応やけど、一条宮との婚姻は皇帝が認めたなら問題ないと判断するんで、進めてもらって大丈夫です」

ほっとする正一と雪乃。

幸虎「それでこの話の立会人として、帝国陸軍退魔部隊結界守護班班長であり、四神白虎本家次期当主である私、白峰幸虎も同席させてもらいますね」

燈子モノローグ(四神家は元々陰陽師の最上位四家で、陰陽師が減っていく中、最後まで陰陽師として残っていた。しかし開国に伴い欧米に対抗する強力な中央政権の編成が進むにつれ、陰陽師の身分は廃止。四神家には、最上位の華族の身分が与えられた)

幸虎は鞄から人差し指ほどの石を出す。

幸虎「こちらが記録媒体である月長石(ムーンストーン)です。音声を定着させる異能を発揮できる石で、一応私はそれを生かして帝国軍でも記録担当をしているんで……って元陰陽師家系の皆さんは知ってますよね?」

燈子モノローグ(異能とは霊力を使用することで使える様々な特殊能力。昔はその異能が使えた者が陰陽師として従事していた)

幸虎「では念のため、記録開始しますね」

幸虎がポケットから白い石を出してかざす。

燈子(その石……?私のと似てる?)

月長石は光を纏った。

幸虎「先ほど一条宮の皆さんからも詳しく話は伺いました。それで調べさせてもらったんですが、そちらの燈子さんは行方不明のお姉さんの子供で間違いないんですね?」
正一「はい、そうです」
幸虎「なんでわかったんですか?」
正一「父から聞いたんですが、孤児院が持ち物を辿って行った結果、この家を特定したと」
幸虎「その親父さんは彼女が自分の孫だとすぐにわかったんですか?」
正一「ええ、姉の幼い頃にそっくりだと」
幸虎「あなたもそう思いました?」
正一「あ、はい、そうですね……」
幸虎「でも初めて会ったんが親父さんの本妻さんが亡くなってからやから、幼い頃は知らん筈やね?」

燈子(えっ?)
燈子は驚き、叔母も驚いている。

幸虎「それまで親父さんと交流はあっても、姉弟の交流は無かったみたいやけど、間違いない?」
正一「あ、はい……」

燈子(母と叔父は異母兄弟……?)

幸虎「さすがに一条宮家と婚姻するからには、徹底的に洗う必要があるからな。嫌に思わんといて」

嫌な笑みを浮かべる幸虎。
正一はごくりと息を呑む。

幸虎「やから本当の血筋という点では、燈子さんに分があるわけやけど……」
正一「しかし父は、私を後継者に指名しました!」
幸虎「ま、それに関してはそっちの事情やから、別にええねん」

正一はほっと胸をなで下ろしている。

幸虎「問題は燈子さんと、ここに居る龍崎蒼真の婚姻について認めて欲しいわけや」「あれやろ?“異父弟”を養子に迎える気やってんやろ?やから彼女がこの家を継ぐってわけではないから、嫁に出しても問題はなさそうやね?」
正一「しかしなぜ突然……」
幸虎「問題ないか、そうでないかだけ聞いてるねん」
正一(ここで否定したら、雪乃の“身代わり”がばれてしまうか)
正一「問題は、ないです」
蒼真「じゃあ決まりだな」

蒼真は立ち上がると、燈子の手を取った。

蒼真「一条宮の方が花嫁修業は大変だろう。そちらが落ち着いたら、こちらの婚姻を進めさせていただこう」

蒼真は小切手を正一に渡す。

蒼真「それまでこちらの金額で、燈子さんをうちで貰い受けたい」

正一や叔母は小切手を見て驚く。

正一(……!)
蒼真「問題ないな?」
正一「はい……」
幸虎「じゃあ決まりやな」

石を離す幸虎。

幸虎「じゃあ今から燈子さんには、龍崎家に来てもらいましょうか?」
全員「今から?!」
蒼真「荷物はまとめているな?」
燈子「……?」
燈子(あれ、本気だった?)


〇離れの燈子の部屋
扉を開けて入る燈子の後ろに蒼真、幸虎。
白猫が近付いてくる。それを見て蒼真と幸虎は驚く。

幸虎「けけ、妖精猫(ケットシー)やないか!」
燈子「え?……ええ?!」

燈子は抱き上げて猫をまじまじと見つめる。

燈子「何か野良にしては珍しい洋猫っぽいな〜とは……」

猫はバレたかといじけている。
更に数匹の猫が近寄ってくるが、それを見て二人は震える。

幸虎「何なん、この聖獣パラダイスは」
蒼真「言ったろ?彼女に聖獣がなついてるって」

蒼真はため息。

幸虎「さすがにこれが外部に漏れるとやばいな」
蒼真「だから性急に保護の必要があると言っただろう?」

燈子は沈黙する。

燈子「そもそも何で聖獣だってわかるんですか?」
蒼真「ああ、俺ら四神家の人間は、霊力の他に神聖力も見えるんだ」
燈子「神聖力?」
幸虎「聖獣が持ってる力やな。霊力は負の感情が強いと妖の力の源にもなってしまう、陽にも陰にもなり得る力なわけ。神聖力は霊力と性質的にはすごく似てるけど、妖の力にはなり得ない陽だけの性質があるんや」
蒼真「まぁ普通は霊力と神聖力は両方入り混じっているし、俺らも普段はそこまで分けて見たり考えたりすることはないかな」

蒼真は猫こと聖獣ケットシーを見つめる。

蒼真「ただ、聖獣達は神聖力のみを保有しているから、四神の加護を得た人間でないとわからないだろうな」

蒼真は燈子を見る。

蒼真「詳しくは後で話そう。とりあえず一刻も早く、あなたを保護をしたい」


ケットシーが燈子の手をペロペロと舐めると、ぺっと掌に何かを吐き出した。
それは青い親指の爪ぐらいの大きさの輝く石だった。


幸虎「な、なんやて?!」

驚く幸虎と蒼真に対し、きょとんとする燈子。

燈子「コレは?」
蒼真「いいか?それはうちに着くまで絶対に他の人に見せてはいけない」

蒼真は燈子の手を取り、その石を握らせる。

蒼真「……って、ケットシー達、空気を読んでくれ」

蒼真は次々と様々な色の石を持ってくるケットシーを虚ろな目で見る。


〇離れの前
小さな鞄だけを抱える燈子。

蒼真「本当にこれだけでいいのか?」
燈子「はい」
幸虎「まぁ何か忘れ物とかあったら、龍崎家の使用人に任せればええやろ」
蒼真「むしろ望むものは何でも贈るから、身一つでも構わない」

燈子(さらっとすごいこと言うなぁ)

燈子は離れを見つめる。

燈子モノローグ(いい思い出はおじいちゃんと共に消えた。私にとってここは檻でしかない)

燈子は蒼真を見つめる。

燈子モノローグ(この人についていくのが正解かどうかなんてわからない。だけど、ここを出る理由にはなった)

燈子はキクが遠目に泣いているのを見て、少し涙ぐむ。


蒼真「大丈夫、あなたに害が無い人には、また会える」

蒼真は近付こうとする千影家の人を睨みつけ、燈子を馬車に押し込んだ。


〇馬車の中
馬車が走り出した。

幸虎「それじゃ俺は今から呼び出しやから」
蒼真「色々と悪かったな」
幸虎「まぁ一条宮が噛んでたら俺もいずれ出ていかなあかんやろうし、まとめて片付いたわ」

陸軍の建物前で馬車が止まる。

幸虎「燈子ちゃん、でええか?」
燈子「はい……」
幸虎「俺にも敬語いらんからな。ごめんな、いきなりこんな奴と婚約言われても」

指を差された蒼真は不機嫌顔。

幸虎「でも燈子ちゃんを千影家から連れ出すには、婚約という体が手っ取り早かってん。こいつも悪いやつちゃうし、じっくり話し合ってあげて欲しいわ。よろしくな」

幸虎が降りていく。

燈子「あの……」

蒼真「悪かったな、突然俺と婚約だなんて」

うつむき髪をかきあげる蒼真。

蒼真「あなたの力は、いずれ帝国を揺るがすものになるだろう。四神家のどこかの庇護に入らなければ、確実に世界を巻き込む争いをうむ」

燈子(そんなに……?)

蒼真「だからと言って私はアイツのように閉じ込めないし、搾取もしない。何でも望むことは与えよう。それだけは約束する」

微笑む蒼真に対し、燈子は少し俯く。

燈子「いきなり信じられないのが、本音です」
蒼真「まぁ無理もない」

揺れる燈子の髪を、思わず撫でる蒼真。


蒼真「そんなに薄着で、寒くないか?」
燈子「いえ、別……くしゅ」

くしゃみをする燈子に、自分の上着をかける蒼真。

蒼真「少しの間、これで我慢してほしい」
微笑む蒼真に、燈子もほんの少しほほえんだ。



〇千影家 雪乃の部屋
荷造りをする雪乃。

雪乃(何であいつが!一条宮より格上に嫁ぐのよ!)

小さな宝石を壁に投げつける。

〇雪乃の回想
祖父に声をかけようとしたが、離れに消えていく祖父。
しばらくすると楽しそうな声が聞こえてきた。

雪乃(何であいつばっかりいつも守られているのよ!しかもお父様が妾の子ですって?!)

昔女中から向けられた、冷たい視線を思い浮かべる

〇回想終わり
雪乃は歯ぎしりをする。
雪乃(あいつは私の下に居ないと!気がすまないわ!)