第三話「突然の求婚」
〇一条宮家の外
一条宮家の前に馬車が止まっていて、俊秀に見送られて雪乃と正一が馬車に乗る。
そしてゆっくりと馬車は出発する。
〇馬車の中
正一「でかしたぞ雪乃」
雪乃「当然よ」
高笑いした後に、大きくため息をつく。
雪乃「でも俊秀さまはそこまで端正な顔立ちではないから、それは不満だわよ」
正一「なに、着飾ることを教えてやればよい」
ニヤリと笑う雪乃。
雪乃「そうね。皇族の系譜に相応しい姿にしてあげましょう。きっとお金もあるでしょうし」
クスクス笑う雪乃だが、急に真面目な顔になる。
雪乃「あの忌み子はどうするの?」
正一「あぁ、養子を迎える前に処分しようと思ったが……」
正一(女中達にどう言い訳をするか)
雪乃の表情が曇る。
正一は一瞬不気味に笑った。
正一「いい考えがある」
〇帝国軍の詰所にて
机に向かう蒼真の元に、幸虎が来る。
幸虎「正式に一条宮と千影の婚姻が決まったらしいわ。この話題で結界担当は持ちきりやで」
蒼真モノローグ(一条宮家は皇族の血を引く家系だ。
秘匿されているが、長年帝都内の妖との世の境目の一つ、裏鬼門を護る役割をしている)(なので退魔部隊とは切っても切れない関係だ)
蒼真「いくら元陰陽師とは言え、千影家は一条宮の役割を知っているのか?」
幸虎「さぁ?知らんのちゃう?とりあえず騙してでも手に入れたかったんやろうな。なんせ才色兼備の御嬢様って評判やし」
呆れた顔の幸虎。
幸虎「まぁ濁った霊力から察するに、性格は悪そうやけどな」
蒼真「そもそも一条宮家は代々、皇族や上位華族と婚姻していたはずじゃないか?」
幸虎「まぁそうやねんけど、最近結界の力が弱まってるやろ?やから霊力が高い嫁を迎えたいんちゃうんかな」「最近霊力持ちは滅多に産まれんみたいやし、やけど四神家から嫁を貰うんは一条宮側からしたらプライド高くて許せんねんやろうな。格下やけど千影家は華族で元陰陽師という都合の良い家系やしな」
蒼真(あの子はどうなるんだ?)
考え込む蒼真。
蒼真「なぁ幸虎」
幸虎「何や?」
蒼真「四神家の中で縁談の決まってない成人の男は、俺とお前だけか?」
幸虎「何や突然」
怪しむ視線を送る幸虎。
幸虎「水連も里に許嫁居るしなぁ。俺とお前ぐらいやろ」「ま、俺もいずれ里に帰らないけんから、里の者やなくても旧都から嫁を貰うことにはなるかなぁ」
しばらく沈黙する蒼真
蒼真「お前に話したいことがある」
〇千影家の離れの燈子の部屋にて。
燈子(今日は慌ただしいな……一条宮家が来るって言ってたっけ)
一瞬外を見た時に、動き回る叔母から冷たい視線を送られたのを思い出す。
ため息をつきながら石を磨く作業に戻る。
燈子(ま、私には関係ないし。むしろ雪乃が出ていったら、私もさっさと出ていけそう)
勢い良く扉が開き、正一が入ってくる。
咄嗟に石を隠す燈子。
正一「とりあえずこれを着ろ」
燈子が広げると、明らかに上質な着物だった。
正一「これはお前にやる、だから話を合わせろ」
燈子が着物を着終わると、正一が女中のキクを連れてくる。
正一「こいつに薄化粧を」
女中のキク「かしこまりました」
座らされて化粧を施される。
キク「燈子様……お綺麗で……」
燈子「ありがとう」
キク「本当に晶子様が居られたら、どんなに喜び……前当主様が生きておられたら、どんなに怒り狂ったことでしょうね……」
キクの目にうっすら涙。
燈子モノローグ(元々私が離れで育ったのは、祖父が私を大事に扱っていた為だった。祖父は低い霊力ながらも、沢山の結界を張り私を守っていた)(だけど祖父が亡くなり、叔父達がやってきてからは良いように解釈され、いつしかあんな仕打ちになっていた)
キクは燈子の紅を塗っている。
キク「こんな綺麗な燈子様に……」
燈子「でも暴力は無いし、ご飯だって毎日出てくるわ。仕方ないじゃない、私は──」
キク「燈子様、私は“忌み子”だとは思っていません。きっと晶子様は、霊力が高い西洋の方と恋に落ちて、燈子様が産まれたのだと思っております」
燈子モノローグ(みんな私のことをそう言っている。でも“動物の怪”の子だと思っていたから、信じられなかった)
キク「できましたよ」
燈子は鏡に映る自分を見て驚く。
燈子(でもほんの少し、みんなの言葉を信じてみようかなと思う)
聖獣の紅玉兎を思い浮かべ、ほんの少し微笑んだ。
部屋の扉が勢い良く開くと、正一夫婦の前に雪乃が腕を組んで立っていた。
正一「いいから来い。くれぐれも話を合わせるんだぞ!」
客間に連れて行かれると、そこには一条宮家の人々。
萎縮しながら、燈子は正一の隣に座る。
正一「皆様、お待たせいたしました。ここでもう一人の家族を紹介させていただきます」
正一が燈子の肩に手を置く。
正一「実は私の姉が、西洋の人との子供を産みましたが亡くなってしまいまして。以来ずっと千影家で育ててきた娘です。まだまだ偏見もありますし、引っ込み思案なものですから、表に出ておりませんでして」
燈子は正一を睨みつける。
正一も燈子を睨む。
正一「雪乃は一条宮家の花嫁修業を行うにあたり、非常に心細く思っております。是非とも雪乃のお世話係として、この子を同行させて貰えないでしょうか?」
燈子(何を言い出すの?!)
燈子は驚くが、俊秀が付けている霊力を纏う指輪を見て口を真一文字に結ぶ。
燈子(つまり、向こうでも『身代わり』をやれってことね)
盛り上がる皆に対して、俯く燈子。
燈子モノローグ(どうして私ばかりが……どうして)
俊秀「それで雪乃さんの嫁入り修業ですが……」
笑い声が響く中、ぼんやりとした目で佇む燈子。
俊秀「ではお二人とも、明日から一条宮家に参りましょうか」
燈子ははっと顔を上げる。
俊秀「では結納は、雪乃さんの花嫁修業が一段落した段階で、日程を組ませていただきます」
正一・叔母「よろしくお願いします」
頭を下げる正一。
燈子は戸惑うが、正一に無理矢理頭を下げさせられる。
〇夕暮れ時の街
千影家の外に馬車が止まっている。
俊秀「では明日、お迎えに上がりますので」
雪乃「ええ、楽しみにしてます」
遠くから眺めている燈子。
燈子(明日から花嫁修業?私も行くの……?)
燈子は俯く。俊秀達は和やかに話している。
燈子は遠くに軍人が来るのに気付く。
蒼真と幸虎が近付き、蒼真を見て燈子は目を見開く。
幸虎「あれ、一条宮さんじゃないですか?」
わざとらしい笑顔を浮かべている。
幸虎「そちらは千影家の皆様ですね。この度はご結婚が決まったという噂を聞きましたが……」「でも一条宮さん、帝国軍には一切ご報告をいただいておりませんが?」
俊秀「無事花嫁修業が終わりましたら、御連絡差し上げようかと思っておりまして」
燈子は幸虎の五芒星の金が五つある階級章を見て驚く。
燈子(星五つは、退魔部隊の四神家の本家筋のみが許される階級章……)
蒼真と視線が会う。
微笑む蒼真に、顔が赤くなる燈子。
しかし蒼真の階級章も五芒星の金五つであることを確認すると、青ざめていく。
燈子(四神家は一条宮家よりも格上じゃない)
幸虎「それで立ち話も何ですが、一条宮家の護っている内容はご存知で?」
俊秀「いえ、それはこれからです」
幸虎「それでええんですの?」
俊秀「ええ。これから厳しい環境に身を置くことになりますが、きっと雪乃さんは大丈夫でしょう」
俊秀も雪乃も自信満々な顔。
俊秀「それに付き人として、一緒に育った彼女もついて来てくださるそうで」
俊秀が振り向き、燈子を見つめる。
後ろから蒼真が踏み出す。
蒼真「しかし大丈夫なら、私が彼女を貰い受けても問題ないな?」
蒼真は燈子の前に跪いて手を取る。
蒼真「私は四神青龍家門の本家出身、帝国陸軍退魔部隊所属の龍崎蒼真と申します。是非ともあなたを我が花嫁として貰い受けたい」
〇一条宮家の外
一条宮家の前に馬車が止まっていて、俊秀に見送られて雪乃と正一が馬車に乗る。
そしてゆっくりと馬車は出発する。
〇馬車の中
正一「でかしたぞ雪乃」
雪乃「当然よ」
高笑いした後に、大きくため息をつく。
雪乃「でも俊秀さまはそこまで端正な顔立ちではないから、それは不満だわよ」
正一「なに、着飾ることを教えてやればよい」
ニヤリと笑う雪乃。
雪乃「そうね。皇族の系譜に相応しい姿にしてあげましょう。きっとお金もあるでしょうし」
クスクス笑う雪乃だが、急に真面目な顔になる。
雪乃「あの忌み子はどうするの?」
正一「あぁ、養子を迎える前に処分しようと思ったが……」
正一(女中達にどう言い訳をするか)
雪乃の表情が曇る。
正一は一瞬不気味に笑った。
正一「いい考えがある」
〇帝国軍の詰所にて
机に向かう蒼真の元に、幸虎が来る。
幸虎「正式に一条宮と千影の婚姻が決まったらしいわ。この話題で結界担当は持ちきりやで」
蒼真モノローグ(一条宮家は皇族の血を引く家系だ。
秘匿されているが、長年帝都内の妖との世の境目の一つ、裏鬼門を護る役割をしている)(なので退魔部隊とは切っても切れない関係だ)
蒼真「いくら元陰陽師とは言え、千影家は一条宮の役割を知っているのか?」
幸虎「さぁ?知らんのちゃう?とりあえず騙してでも手に入れたかったんやろうな。なんせ才色兼備の御嬢様って評判やし」
呆れた顔の幸虎。
幸虎「まぁ濁った霊力から察するに、性格は悪そうやけどな」
蒼真「そもそも一条宮家は代々、皇族や上位華族と婚姻していたはずじゃないか?」
幸虎「まぁそうやねんけど、最近結界の力が弱まってるやろ?やから霊力が高い嫁を迎えたいんちゃうんかな」「最近霊力持ちは滅多に産まれんみたいやし、やけど四神家から嫁を貰うんは一条宮側からしたらプライド高くて許せんねんやろうな。格下やけど千影家は華族で元陰陽師という都合の良い家系やしな」
蒼真(あの子はどうなるんだ?)
考え込む蒼真。
蒼真「なぁ幸虎」
幸虎「何や?」
蒼真「四神家の中で縁談の決まってない成人の男は、俺とお前だけか?」
幸虎「何や突然」
怪しむ視線を送る幸虎。
幸虎「水連も里に許嫁居るしなぁ。俺とお前ぐらいやろ」「ま、俺もいずれ里に帰らないけんから、里の者やなくても旧都から嫁を貰うことにはなるかなぁ」
しばらく沈黙する蒼真
蒼真「お前に話したいことがある」
〇千影家の離れの燈子の部屋にて。
燈子(今日は慌ただしいな……一条宮家が来るって言ってたっけ)
一瞬外を見た時に、動き回る叔母から冷たい視線を送られたのを思い出す。
ため息をつきながら石を磨く作業に戻る。
燈子(ま、私には関係ないし。むしろ雪乃が出ていったら、私もさっさと出ていけそう)
勢い良く扉が開き、正一が入ってくる。
咄嗟に石を隠す燈子。
正一「とりあえずこれを着ろ」
燈子が広げると、明らかに上質な着物だった。
正一「これはお前にやる、だから話を合わせろ」
燈子が着物を着終わると、正一が女中のキクを連れてくる。
正一「こいつに薄化粧を」
女中のキク「かしこまりました」
座らされて化粧を施される。
キク「燈子様……お綺麗で……」
燈子「ありがとう」
キク「本当に晶子様が居られたら、どんなに喜び……前当主様が生きておられたら、どんなに怒り狂ったことでしょうね……」
キクの目にうっすら涙。
燈子モノローグ(元々私が離れで育ったのは、祖父が私を大事に扱っていた為だった。祖父は低い霊力ながらも、沢山の結界を張り私を守っていた)(だけど祖父が亡くなり、叔父達がやってきてからは良いように解釈され、いつしかあんな仕打ちになっていた)
キクは燈子の紅を塗っている。
キク「こんな綺麗な燈子様に……」
燈子「でも暴力は無いし、ご飯だって毎日出てくるわ。仕方ないじゃない、私は──」
キク「燈子様、私は“忌み子”だとは思っていません。きっと晶子様は、霊力が高い西洋の方と恋に落ちて、燈子様が産まれたのだと思っております」
燈子モノローグ(みんな私のことをそう言っている。でも“動物の怪”の子だと思っていたから、信じられなかった)
キク「できましたよ」
燈子は鏡に映る自分を見て驚く。
燈子(でもほんの少し、みんなの言葉を信じてみようかなと思う)
聖獣の紅玉兎を思い浮かべ、ほんの少し微笑んだ。
部屋の扉が勢い良く開くと、正一夫婦の前に雪乃が腕を組んで立っていた。
正一「いいから来い。くれぐれも話を合わせるんだぞ!」
客間に連れて行かれると、そこには一条宮家の人々。
萎縮しながら、燈子は正一の隣に座る。
正一「皆様、お待たせいたしました。ここでもう一人の家族を紹介させていただきます」
正一が燈子の肩に手を置く。
正一「実は私の姉が、西洋の人との子供を産みましたが亡くなってしまいまして。以来ずっと千影家で育ててきた娘です。まだまだ偏見もありますし、引っ込み思案なものですから、表に出ておりませんでして」
燈子は正一を睨みつける。
正一も燈子を睨む。
正一「雪乃は一条宮家の花嫁修業を行うにあたり、非常に心細く思っております。是非とも雪乃のお世話係として、この子を同行させて貰えないでしょうか?」
燈子(何を言い出すの?!)
燈子は驚くが、俊秀が付けている霊力を纏う指輪を見て口を真一文字に結ぶ。
燈子(つまり、向こうでも『身代わり』をやれってことね)
盛り上がる皆に対して、俯く燈子。
燈子モノローグ(どうして私ばかりが……どうして)
俊秀「それで雪乃さんの嫁入り修業ですが……」
笑い声が響く中、ぼんやりとした目で佇む燈子。
俊秀「ではお二人とも、明日から一条宮家に参りましょうか」
燈子ははっと顔を上げる。
俊秀「では結納は、雪乃さんの花嫁修業が一段落した段階で、日程を組ませていただきます」
正一・叔母「よろしくお願いします」
頭を下げる正一。
燈子は戸惑うが、正一に無理矢理頭を下げさせられる。
〇夕暮れ時の街
千影家の外に馬車が止まっている。
俊秀「では明日、お迎えに上がりますので」
雪乃「ええ、楽しみにしてます」
遠くから眺めている燈子。
燈子(明日から花嫁修業?私も行くの……?)
燈子は俯く。俊秀達は和やかに話している。
燈子は遠くに軍人が来るのに気付く。
蒼真と幸虎が近付き、蒼真を見て燈子は目を見開く。
幸虎「あれ、一条宮さんじゃないですか?」
わざとらしい笑顔を浮かべている。
幸虎「そちらは千影家の皆様ですね。この度はご結婚が決まったという噂を聞きましたが……」「でも一条宮さん、帝国軍には一切ご報告をいただいておりませんが?」
俊秀「無事花嫁修業が終わりましたら、御連絡差し上げようかと思っておりまして」
燈子は幸虎の五芒星の金が五つある階級章を見て驚く。
燈子(星五つは、退魔部隊の四神家の本家筋のみが許される階級章……)
蒼真と視線が会う。
微笑む蒼真に、顔が赤くなる燈子。
しかし蒼真の階級章も五芒星の金五つであることを確認すると、青ざめていく。
燈子(四神家は一条宮家よりも格上じゃない)
幸虎「それで立ち話も何ですが、一条宮家の護っている内容はご存知で?」
俊秀「いえ、それはこれからです」
幸虎「それでええんですの?」
俊秀「ええ。これから厳しい環境に身を置くことになりますが、きっと雪乃さんは大丈夫でしょう」
俊秀も雪乃も自信満々な顔。
俊秀「それに付き人として、一緒に育った彼女もついて来てくださるそうで」
俊秀が振り向き、燈子を見つめる。
後ろから蒼真が踏み出す。
蒼真「しかし大丈夫なら、私が彼女を貰い受けても問題ないな?」
蒼真は燈子の前に跪いて手を取る。
蒼真「私は四神青龍家門の本家出身、帝国陸軍退魔部隊所属の龍崎蒼真と申します。是非ともあなたを我が花嫁として貰い受けたい」

