そして――文化祭当日がやってきた。
「小鳥遊ー! めっちゃ似合ってるじゃん」
着付けを手伝っていた、城北さんができた! と声を上げる。我が二年C組の出し物の名前はズバリ『唐揚げ祭り』。
その名にふさわしく制服の上に法被を羽織っているのだが、数名はさらしを巻いた本格的な祭りスタイルを着ることになった。
その中でも、ひときわ輝く姿。それはもちろん小鳥遊くんだ。
青い法被に白い股引きと足袋。その恰好が、体格のいい小鳥遊くんにとても似合っている。何よりその金髪が、さらにその姿を引き立てていた。
女子たちがそこら中で、目をハートマークにしているが、本人はどこ吹く風だ。小鳥遊くんは頭に鉢巻をまきながら、当然のように僕の隣にやってくる。
「さまになってるな、かっこいいぞ。なあ蒼」
「う、うん! めちゃくちゃかっこいい」
「そっか、ありがと。堀田の法被も似合ってる、かわいい」
僕の反応に満足げに口元を緩めると、小鳥遊くんが不意に僕のことも褒めてくれて、どきんと胸が高鳴った。
嬉しくて、恥ずかしい、だけど小鳥遊くんから目を逸らせなくて、僕たちはしばし見つめ合ってしまう。
「ほんとマジ似合ってるぜ小鳥遊! やっぱヤンキーって言ったら祭りだよな~」
雰囲気をぶち壊すように、宮野の暢気な声が響く。
「お前はほんと、一言多いな?」
「へぇ?」
相変わらずの宮野に、その場が笑いに包まれた。
そうして、僕たちの文化祭は幕を開けた。
朝一で唐揚げを食べた生徒が「うまい!」とSNSで呟いて、あっという間に行列ができ『唐揚げ祭り』は大盛況だった。
僕直伝の唐揚げは、本当に飛ぶように売れた。
前日大量に作り置きした唐揚げを、ひたすらレンチンしているだけなのだが、目も回るような忙しさだ。
「蒼ー来たよ~めっちゃお客さん入ってんね」
「堤先輩!」
教室の扉からひょこっと顔を出した、堤先輩に駆け寄る。
「来てくれたんですね」
「もちろん、蒼の活躍を見届けにきました!」
「ふふ、ありがとうございます」
堤先輩は初めてできた僕の料理友達だ。そんな先輩に、こうやって多くの人に僕の(正確にはみんなで)作った料理を食べてもらっている姿を見てもらえるのは、とても嬉しい。
「ここはやっとくから、蒼、お客さん対応してきていいぞ」
「ありがと山中」
山中の申し出にありがたく甘える。堤先輩を案内して、まず手作りの唐揚げを渡した。
「美味しい! また腕上げたんじゃない?」
唐揚げを食べた先輩に、肘で突かれる。
最近は毎日食べてくれる人がいるから、腕が上がったとしたらそのおかげだ。はにかんでいると、ぬっと大きな影が現れた。
「堤先輩......っす」
「小鳥遊、お疲れ......って」
今日は景品になっているからと、射的係に駆り出されているはずなのに、いつの間にか小鳥遊くんが隣に来ていた。
小鳥遊くんの法被姿に堤先輩の目がきらりと光る。
「小鳥遊何その恰好! メロいんだけど! 写真撮っていい? せっかくだから蒼とのツーショット撮ってあげる」
「っす......」
先輩はスマホを取り出すと、カシャカシャと撮影する。
「先輩」
「まかせて、部のグループメッセに送るから」
何かを伝えようとした小鳥遊くんの意をすぐに汲んで、堤先輩はそう答えた。
そのやり取りを不思議に思っていると、先輩の視線がある場所で止まる。
「『イケメン小鳥遊とのハグ権』何これ、ウケるんだけど」
太字で書かれたそれを見て、堤先輩は吹き出した。
「よし! いっちょやってみるか!」
意気揚々と宣言すると先輩は射的の方に向かった。
え! 先輩が射的を! 僕は慌てて追いかける。
係の城北さんが、先輩に割り箸で作った銃と輪ゴムを渡す。
「せ、先輩! 本当に一等賞狙うんですか!?」
「え? だっておもしろそうじゃん」
屈託なく笑い、先輩が狙いを定める。
そ、そんな、当たったらどうしよう! 僕の中に緊張が走った。
「あの人度胸すげえな、ずっと小鳥遊が睨み利かせて、誰も一等狙わなかったのに」
「まあ、大丈夫よ」
宮野に城北さんが意味ありげに答えるが、先輩の射的に視線を注いでいる僕の耳には届かない。気づいたら小鳥遊くんも様子を伺いにきていた。
数発外れた後、先輩が居住まいを正す。
「しっかり狙ってと......」
パンッ! すると先輩が放った輪ゴムは見事箱に当たった。
そんな......! 心臓がきゅっと苦しく絞られたようになる。
「......あれ?」
確かにそれは箱を射抜いた。だけど、当たった箱は、倒れるどころか微動だにしなかった。
「残念! 倒れなかったので、一等賞はなしです!」
城北さんが先輩に声をかける。
「ちぇっ~惜しかったな、蒼やってみ」
「え?」
先輩と小鳥遊くんのハグはない? ほっとしていると、最後の一発を先輩に渡された。
「ほらほら、早く」
「は、はい」
急かされて、僕は的の前に立つ。するとこそこそと宮野と城北さんが言葉を交わした。
「蒼! 頑張って」
「堀田、頑張れ」
先輩と何故か小鳥遊くんまで応援してくれる。
みんなに見守られる中、僕は引き金を引いた。
ゴムは箱に吸い込まれるように、ではなく明後日の方向に飛んで行った。
「あぁ......」
僕は落胆の声を零す。せめてかするぐらいしてくれてもいいのに、恨めしい気持ちで的を見つめると。
パタリ。
何故か箱が倒れた。
「大当たり~~!!」
宮野が拍手を送ってくれる。
いったい何が起こったのだろうか? 僕が放った球は、全然違う方向に行ったはずなのに、箱が倒れたのだ。
「はい! 一等賞は、堀田に贈呈します!」
「あ、ありがとう」
『イケメン小鳥遊とのハグ権』と書かれた紙を城北さんから渡される。
「......なるほどそういうことね」
宮野の手元を見つめ先輩がハッとしたように声を零す。
なんだか、糸のようなものが見えた気がしたが気のせいだろうか。
「どうか、これでご内密に」
「いいでしょう」
宮野が先輩に、唐揚げおかわり券を渡した。先輩はそれをしっかりと握りしめる。
「私も後輩には幸せになって欲しいし。蒼! それじゃ私行くね」
「先輩ありがとうございました」
わざわざ遊びに来てくれた先輩に礼をすると、小鳥遊くんも同じように頭を下げる。
「蒼! あんたの料理は最高だよ! これを機会にもっと自信もっていい」
最後にそう言って、堤先輩はおかわりのから揚げを握りしめ去っていった。
「先輩......」
先輩の言葉が胸に響く。お世話になった先輩だからこそ、その優しさが心に染みるようだった。
グッと手を握りしめて、自分の手が何かを握りしめていることに気づく。
僕、小鳥遊くんとのハグ権を手に入れたんだった。
ハッ、ハグ! ハグってあれだよね? 抱きしめるあれだよねーー!
今更ながら事の重大さに気付いて慌てていると、小鳥遊くんがそっと僕の耳に顔を寄せた。
「堀田の好きな時に使ってくれたらいいから」
「う、うん」
そんな小鳥遊くんに、僕はそう返すことしかできなかった。
「小鳥遊ー! めっちゃ似合ってるじゃん」
着付けを手伝っていた、城北さんができた! と声を上げる。我が二年C組の出し物の名前はズバリ『唐揚げ祭り』。
その名にふさわしく制服の上に法被を羽織っているのだが、数名はさらしを巻いた本格的な祭りスタイルを着ることになった。
その中でも、ひときわ輝く姿。それはもちろん小鳥遊くんだ。
青い法被に白い股引きと足袋。その恰好が、体格のいい小鳥遊くんにとても似合っている。何よりその金髪が、さらにその姿を引き立てていた。
女子たちがそこら中で、目をハートマークにしているが、本人はどこ吹く風だ。小鳥遊くんは頭に鉢巻をまきながら、当然のように僕の隣にやってくる。
「さまになってるな、かっこいいぞ。なあ蒼」
「う、うん! めちゃくちゃかっこいい」
「そっか、ありがと。堀田の法被も似合ってる、かわいい」
僕の反応に満足げに口元を緩めると、小鳥遊くんが不意に僕のことも褒めてくれて、どきんと胸が高鳴った。
嬉しくて、恥ずかしい、だけど小鳥遊くんから目を逸らせなくて、僕たちはしばし見つめ合ってしまう。
「ほんとマジ似合ってるぜ小鳥遊! やっぱヤンキーって言ったら祭りだよな~」
雰囲気をぶち壊すように、宮野の暢気な声が響く。
「お前はほんと、一言多いな?」
「へぇ?」
相変わらずの宮野に、その場が笑いに包まれた。
そうして、僕たちの文化祭は幕を開けた。
朝一で唐揚げを食べた生徒が「うまい!」とSNSで呟いて、あっという間に行列ができ『唐揚げ祭り』は大盛況だった。
僕直伝の唐揚げは、本当に飛ぶように売れた。
前日大量に作り置きした唐揚げを、ひたすらレンチンしているだけなのだが、目も回るような忙しさだ。
「蒼ー来たよ~めっちゃお客さん入ってんね」
「堤先輩!」
教室の扉からひょこっと顔を出した、堤先輩に駆け寄る。
「来てくれたんですね」
「もちろん、蒼の活躍を見届けにきました!」
「ふふ、ありがとうございます」
堤先輩は初めてできた僕の料理友達だ。そんな先輩に、こうやって多くの人に僕の(正確にはみんなで)作った料理を食べてもらっている姿を見てもらえるのは、とても嬉しい。
「ここはやっとくから、蒼、お客さん対応してきていいぞ」
「ありがと山中」
山中の申し出にありがたく甘える。堤先輩を案内して、まず手作りの唐揚げを渡した。
「美味しい! また腕上げたんじゃない?」
唐揚げを食べた先輩に、肘で突かれる。
最近は毎日食べてくれる人がいるから、腕が上がったとしたらそのおかげだ。はにかんでいると、ぬっと大きな影が現れた。
「堤先輩......っす」
「小鳥遊、お疲れ......って」
今日は景品になっているからと、射的係に駆り出されているはずなのに、いつの間にか小鳥遊くんが隣に来ていた。
小鳥遊くんの法被姿に堤先輩の目がきらりと光る。
「小鳥遊何その恰好! メロいんだけど! 写真撮っていい? せっかくだから蒼とのツーショット撮ってあげる」
「っす......」
先輩はスマホを取り出すと、カシャカシャと撮影する。
「先輩」
「まかせて、部のグループメッセに送るから」
何かを伝えようとした小鳥遊くんの意をすぐに汲んで、堤先輩はそう答えた。
そのやり取りを不思議に思っていると、先輩の視線がある場所で止まる。
「『イケメン小鳥遊とのハグ権』何これ、ウケるんだけど」
太字で書かれたそれを見て、堤先輩は吹き出した。
「よし! いっちょやってみるか!」
意気揚々と宣言すると先輩は射的の方に向かった。
え! 先輩が射的を! 僕は慌てて追いかける。
係の城北さんが、先輩に割り箸で作った銃と輪ゴムを渡す。
「せ、先輩! 本当に一等賞狙うんですか!?」
「え? だっておもしろそうじゃん」
屈託なく笑い、先輩が狙いを定める。
そ、そんな、当たったらどうしよう! 僕の中に緊張が走った。
「あの人度胸すげえな、ずっと小鳥遊が睨み利かせて、誰も一等狙わなかったのに」
「まあ、大丈夫よ」
宮野に城北さんが意味ありげに答えるが、先輩の射的に視線を注いでいる僕の耳には届かない。気づいたら小鳥遊くんも様子を伺いにきていた。
数発外れた後、先輩が居住まいを正す。
「しっかり狙ってと......」
パンッ! すると先輩が放った輪ゴムは見事箱に当たった。
そんな......! 心臓がきゅっと苦しく絞られたようになる。
「......あれ?」
確かにそれは箱を射抜いた。だけど、当たった箱は、倒れるどころか微動だにしなかった。
「残念! 倒れなかったので、一等賞はなしです!」
城北さんが先輩に声をかける。
「ちぇっ~惜しかったな、蒼やってみ」
「え?」
先輩と小鳥遊くんのハグはない? ほっとしていると、最後の一発を先輩に渡された。
「ほらほら、早く」
「は、はい」
急かされて、僕は的の前に立つ。するとこそこそと宮野と城北さんが言葉を交わした。
「蒼! 頑張って」
「堀田、頑張れ」
先輩と何故か小鳥遊くんまで応援してくれる。
みんなに見守られる中、僕は引き金を引いた。
ゴムは箱に吸い込まれるように、ではなく明後日の方向に飛んで行った。
「あぁ......」
僕は落胆の声を零す。せめてかするぐらいしてくれてもいいのに、恨めしい気持ちで的を見つめると。
パタリ。
何故か箱が倒れた。
「大当たり~~!!」
宮野が拍手を送ってくれる。
いったい何が起こったのだろうか? 僕が放った球は、全然違う方向に行ったはずなのに、箱が倒れたのだ。
「はい! 一等賞は、堀田に贈呈します!」
「あ、ありがとう」
『イケメン小鳥遊とのハグ権』と書かれた紙を城北さんから渡される。
「......なるほどそういうことね」
宮野の手元を見つめ先輩がハッとしたように声を零す。
なんだか、糸のようなものが見えた気がしたが気のせいだろうか。
「どうか、これでご内密に」
「いいでしょう」
宮野が先輩に、唐揚げおかわり券を渡した。先輩はそれをしっかりと握りしめる。
「私も後輩には幸せになって欲しいし。蒼! それじゃ私行くね」
「先輩ありがとうございました」
わざわざ遊びに来てくれた先輩に礼をすると、小鳥遊くんも同じように頭を下げる。
「蒼! あんたの料理は最高だよ! これを機会にもっと自信もっていい」
最後にそう言って、堤先輩はおかわりのから揚げを握りしめ去っていった。
「先輩......」
先輩の言葉が胸に響く。お世話になった先輩だからこそ、その優しさが心に染みるようだった。
グッと手を握りしめて、自分の手が何かを握りしめていることに気づく。
僕、小鳥遊くんとのハグ権を手に入れたんだった。
ハッ、ハグ! ハグってあれだよね? 抱きしめるあれだよねーー!
今更ながら事の重大さに気付いて慌てていると、小鳥遊くんがそっと僕の耳に顔を寄せた。
「堀田の好きな時に使ってくれたらいいから」
「う、うん」
そんな小鳥遊くんに、僕はそう返すことしかできなかった。


