不覚にも金髪ヤンキーの胃袋を掴んでしまったみたいだ

「じゃあ始めるね」
放課後の家庭科室で、僕は文化祭に向けて料理教室を開いていた。
僕が説明するレシピを、しっかりとメモを取る小鳥遊くんに、周りは「ほんとに家庭科部なんだな」と驚いていた。
出来上がった唐揚げを見て、みんな喉を鳴らす。
「蒼の料理食べたかったんだよね~」
いただきまーす! と宮野が我先に唐揚げにかぶりつく。あちちと顔を顰めた後、その表情に驚きと感動が浮かび上がった。
「めっちゃくちゃうめぇ!!」
その言葉に、みんな我先にと唐揚げに手を伸ばす。唐揚げは大好評、みんな美味しい美味しいと褒めてくれた。
何だかジーンとして、目が潤んでくる。それに気づいた小鳥遊くんが、そっと僕の隣に立った。
「感動するのはまだ早い。これからもっといっぱいの人たちに食べてもらうんだから。涙はそん時にとっとけ」
つんと鼻を突つかれる。
「そうだね、今は頑張る時だもんね」
僕は目尻を拭う。そんな僕を小鳥遊くんは優しい瞳で見つめてくれた。
「見つめ合ってるとこ悪いんだけど!」
「わっ!」
「......」
急に声をかけられ驚いてしまう。そこには、掛けた眼鏡のブリッジを上げ城北さんが立っていた。
「これがメインの唐揚げね......美味しい! これはいける最優秀出店賞も夢じゃない」
唐揚げを食べ、夢見るように城北さんが空を見上げる。
「そこで、賞を確実にするため、小鳥遊に協力して欲しいの。あっ堀田も一緒に来てね」
城北さんは僕と小鳥遊くんに向かって、意味ありげに微笑んだ。

教室では、露店の準備が着々と進んでいた。
「メインは射的なんだ。的をつくって、唐揚げ増量とかを景品にするの」
「うん、いいと思う。唐揚げと出し物両方に相乗効果があるし、何より楽しそう」
「でしょ! 色々考えたんだから~だけど、これだけじゃインパクトが足りない。もっと客さんに来てもらわなきゃ! そこで!」
ビシッと城北さんが小鳥遊くんを指さした。
「一等賞に『イケメン小鳥遊とのハグ権』を用意しようと思うの!」
「えっ!?」
「......」
どやっというように城北さんが拳を握る。
「小鳥遊は全校生徒から人気があるからね~賞のために一肌脱ぐと思って、ねっ!」
「やだよ、めんどくせぇ」
小鳥遊くんはばっさりと切り捨てた。はっきり断った小鳥遊くんに思わずホッとする。
だけど、そんなこと計算内だというように、断られても城北さんはどこ吹く風だ。
「うーんじゃあ、『癒し系、堀田部長とハグ権』に変更するしかないか......」
「はぁっっ!?!?」
「ぼ、僕?」
急に自分の名前が出てきてびっくりする。
「おい、そんなの許せるわけないだろ、却下だ却下」
「でもぉ~小鳥遊嫌なんでしょ? じゃあ代案に考えるしかなくな~い?」
「..................くそっ」
城北さんが両手を合わせて小鳥遊くんを覗き込む。少し黙った後に、小鳥遊くんはそう吐き捨てた。
「分かった、景品になればいいんだろ」
「小鳥遊くん!」
「いやーありがと! さすが小鳥遊!」
小鳥遊くんの答えに、城北さんがぽんぽんと肩を叩いた。
そんな......小鳥遊くんが誰かとハグをするなんて!
自分が知らない誰かとハグをするのも困るけど、小鳥遊くんがというのはもっと困る!
「あ、あの!」
どうにかしないと、そう思って城北さんを止めようとしたら。こっそりと耳打ちされた。
「大丈夫安心して、誰にも一等賞は取らせないから」
「え......?」
意味ありげに、そう言うと城北さんは作業に入っていった。
どういうこと? と思うが、今は城北さんの言葉を信じるしかない。
文化祭に向けて、ちょっとした不安要素が生まれ、僕はドキドキと脈打つ胸を押さえた。
その横では、小鳥遊くんがハァと安心のため息を吐きつつも、どこか微妙な顔をしていた。

「城北の奴、すっかり小鳥遊の扱い方押さえてるじゃん」
「オンナッテコワイ」
一連の流れを見守っていた山中と宮野は、僕たちの背中を見つめ、そう呟いた。