不覚にも金髪ヤンキーの胃袋を掴んでしまったみたいだ

数日が経ち、クラスの雰囲気も落ち着いた。
僕はまた小鳥遊くんの隣に並ぶ日々が返ってきた。
僕と小鳥遊くん、宮野と山中で一緒に行動することが増え、怖がられていたことが嘘のように、小鳥遊くんはクラスに馴染んでいた。お昼は相変わらず二人で食べ、放課後は家庭科部で料理の練習をする。
穏やかな日常。だけど僕は困っている。
「ん? どうかしたか?」
小鳥遊くんを見つめてしまっていた僕に、小鳥遊くんが微笑みかける。その笑顔に、頬がほんのりと熱を持った。
「ううん、何でもない。お弁当食べよ、今日は自信作だよ」
「おう、それは楽しみだな」
小鳥遊くんが嬉々として、エコバッグからお弁当を取り出した。
僕の困りごとそれは。小鳥遊くんがキラキラして見えること。恋を自覚した日から、小鳥遊くんの姿が前より色鮮やかに見えることだった。
あーもー僕めちゃくちゃ好きじゃん......小鳥遊くんを見る度、ときめいてしまう。
自分が小鳥遊くんを好きなことをどんどん自覚して、一人で照れる。そんなことを繰り返していた。
「やった! 唐揚げだ!」
一人恥ずかしさに悶えていたら、隣から明るい声が聞こえた。お弁当の蓋を開けた小鳥遊くんが、中身を見て瞳を綻ばせた。
「俺、堀田の唐揚げめっちゃ好き」
「そ、そう......実は一番の得意料理なんだ」
好きと言われ胸を跳ねさせながらも、冷静を装う。
「得意料理か、確かにめちゃくちゃうまい。いや、堀田の料理はどれもうまいんだけど」
「ふふ、ありがと」
「俺が初めて堀田の料理食べた時も唐揚げだった」
「そうだったっけ?」
「そうだよ、俺はあれで胃袋掴まれたんだから」
唐揚げをほうばり、小鳥遊くんがうまい! と唸る。
「掴まれたって......」
「うん、そして現在進行形で掴まれてる」
小鳥遊くんは嘘を付かない。嬉しくて自然と笑顔が浮かぶ。
「なんかコツとかあんの?」
「それはね......」
僕は唐揚げを作る時の裏技を話す。小鳥遊くんは熱心に僕のレシピに耳を傾けていた。

日々は穏やかに過ぎていく。
自覚した気持ちは募っていくばかり。
だけど、どうやっても気持ちを伝える勇気は僕にはなかった。

 * * *

「えー文化祭の出し物ですが......案がある人は挙手してください」
文化祭委員の城北さんが黒板にチョークを走らせる。
もうそんな時期かぁと思う。うちの学校は進学校なので、文化祭は夏休み前に開催される。
ありきたりの提案が出されるのを、ぼんやりとながめていると。前の席に座っている宮野が「はいっ!」と勢いよく手を上げた。
「祭りなんてどうでしょうか!」
宮野提案に、みんながおっ? と食いつく。
「屋台班と祭り班に分かれて、料理が得意な人が屋台で食べ物出して、残りは祭りっぽいスパーボールとか射的とか露店みたいなことしてさ!」
「それ、いいね!」
城北さんが宮野の案に同意する。クラスにもいいんじゃないかという雰囲気が流れた。
「でもさ、料理が得意な人なんている?」
誰かの言葉に、宮野は元気よく答えた。
「え? そんなの蒼がいるじゃん! なんてたって家庭科部部長なんだから」
「っ......」
「宮野! お前バカ......!」
山中が慌てて遮る。宮野はやばい! というように慌てて口を押さえた。
僕の顔から血の気が引いていく。クラスのみんなの視線が一気に僕に集まった。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。ぐるぐると僕の頭が回る。
だけど何も出てこない。だってずっと秘密にしてきたのだ。
自分が家事が好きなこと。男が家庭科部だなんて。
それを周りに知られるのが恥ずかしくて、ずっと内緒にしていたのに。
どんな反応をされるんだろう。怖くて周りが見れない。
「え? 堀田くん家庭科部なの......」
誰かの呟きが聞こえる。雲行きが怪しい、そう感じて僕はギュッと目をつぶった。
「いいんじゃね? 堀田の料理は世界一うまいし」
凛とした声が教室内に響いた。
発言の主、それは誰か? なんて考える必要もない。
「たかなし、くん......」
「同じ家庭科部部員として、うちの部長は胸張って推薦できる」
椅子にもたれゆらゆら体を揺らしながら、小鳥遊くんがはっきりと口にした。
「小鳥遊くんも!?」
今度は教室が驚きに包まれる。それにあっけにとられるように、クラスの注目が小鳥遊くんに集まった。
「へーいいじゃん。料理男子! しかも堀田くん部長なんでしょ? これで屋台の方はばっちりじゃない」
城北さんがそう言うと、クラスのみんなもそうだなと頷き合う。
「じゃあ、集計取ります! みんな目を瞑ってー」
結果は賛成多数で、祭りが選ばれた。
教室内にわいわいとした活気が満ちていく。
「堀田、料理作れるのかすげえな」
「屋台は任せた! よろしくね堀田くん」
みんなが口々に声をかけてくれる。まさかこんな風に、自分の秘密が受け入れられる日がくるなんて。
僕は後ろを振り返る。すると僕を見つめる小鳥遊くんと目が合った。小鳥遊くんは僕を見て、うんと頷いた。
それだけで、僕の胸に一瞬で安心が広がって、目頭が熱くなった。
いや違う、全部小鳥遊くんのおかげだ。
悪い方向に進みそうになったのを、小鳥遊くんが助けてくれたんだ。
僕は小鳥遊くんに頷き返す。
この人を好きになって本当によかった。
その優しさが僕の心をぽかぽかと温めてくれた。



「ほんとうっっっにごめん!!」
放課後の家庭科室。机にひれ伏す勢いで宮野が頭を下げる。
「ついうっかり? ぽろりと? 口から出てしまいまして......」
「バカ、まぬけ! 普通人の個人情報をあんなとこでばらすか?」
ずっと謝り続ける宮野を、僕ではなく山中が詰る。返す言葉もない、というように宮野はどんどん小さく丸くなっていく。
「もう別にいいよ。秘密して欲しいって宮野に言わなかった俺も悪いし」
「そらーー! お前は何て心が広いんだ!」
宮野が抱きついてくる。それを黙って隣に座っていた小鳥遊くんがはがした。
「堀田が許しても、俺は許さん」
「そんな小鳥遊~~」
どうやらご立腹な小鳥遊くんに、宮野は睨まれ机にひれ伏した。
「堀田の手料理......他の奴に食べられるじゃねぇか」
「ははーん、それが本音だねぇ。小鳥遊くん」
頬杖を突く小鳥遊くんに、山中がからかうように声をかける。
「うっせ」
小鳥遊くんは口を尖らせた。何だか可愛くて、僕はプッと吹き出す。
僕が笑ったことに、小鳥遊くんも目を細めて、その場が明るさが戻ってくる。
ちゃんと反省しろよーとわちゃわちゃとしだす山中と宮野をよそに、僕は小鳥遊くんに向き直った。
「小鳥遊くん、助けてくれてありがとう」
「......なんのことだ?」
小鳥遊くんはとぼけてみせる。小鳥遊くんらしくて、口元が綻んだ。
「僕ねずっと人に料理が好きなことが言えなかった。だけど、小鳥遊くんに美味しいって言ってもらえて、ずっと勇気をもらってた」
「............」
「そして今回も小鳥遊くんが背中を押してくれた」
「堀田......」
僕の話を小鳥遊くんが真剣に聞いてくれる。
「僕ね、文化祭頑張ってみる! これが成功したら、胸を張れる気がするんだ。僕は料理が大好きだって」
そっと小鳥遊くんの手を取る。
「だから協力して欲しい、小鳥遊くんが側にいてくれたら、何でも頑張れる気がするから」
「......おう、もちろんだまかせとけ。堀田の隣には俺がいるから」
ギュッと小鳥遊くんが手を握り返してくれる。
胸がずっと熱い、気持ちが高揚してふわふわと足元がおぼつかないのに、小鳥遊くんが側にいると思うだけで、何でもできる気がする。
「文化祭成功させようね」
「ああ」
僕が微笑みかけると、小鳥遊くんは眩しそうに目を細めた。
「二人の世界に入ってるとこ悪いんだけど」
「蒼! もちろん俺たちも協力するから」
「宮野......山中......」
繋いだ僕たちの手の上に、山中と宮野も手を重ねる。
「よーし! 文化祭! 祭り! 絶対成功させるぞ~~!!」
えいえいおーという宮野の号令とともに、僕たちは手を天井に向けて高く突き上げた。