「小鳥遊! おはよー!」
宮野の声に、教室がざわつく。
「っす......」
鞄を手に持ち肩に掛けた小鳥遊くんが小さく返事をする。それだけなのに、教室内は爽やかな風が吹いたように色めき立った。
みんなの反応に不思議そうにしながら、小鳥遊くんが教室の中に入ってくる。
そして迷うことなく、僕の方にやってきた。
「おはよう、堀田」
「小鳥遊くん、おはよう」
僕たちは笑顔で挨拶を交わす。すると。
「小鳥遊くん! おはよう!」
「お前ずるいぞ! 俺も、おはよう小鳥遊!」
それが合図のようにみんなが一斉に集まってきて、僕と小鳥遊くんの前に人だかりができた。
おはよう! おはよう! と繰り返され、小鳥遊くんが目を白黒させる。そして僕の背中にそっと隠れた。
「どうしたらいいか分かんねー」
眉毛を下げて動揺した表情を小鳥遊くんは浮かべる。珍しいその姿に、僕にはないはずの母性本能がキュンと擽られた。
「はいはい、それじゃみんな一列になって、順番に挨拶していくこと!」
さながらアイドルのファンミーティングのような挨拶会は、担任の先生が現れるまで続いた。
小鳥遊くんの周りを女子が囲んでいる。僕はその光景を教室の端で遠巻きに見ていた。
「すっかり人気者だな」
「俺も小鳥遊と友情深めたーい。せっかく友達になれたのにー」
山中と宮野がそう呟く。
怖い存在だった小鳥遊くんが、急に身近な存在になったことに、女子たちはみんな色めき立っていた。
男子たちも話しかけるタイミングを狙っているが、やはり女性の圧力には勝てないようで、壁際に追いやられている。
でもよかったな、クラスに馴染めて。小鳥遊くんを感慨深く眺める。
本当の小鳥遊くんは、温かい人だから、周囲に分かって欲しかった。だから、みんなに囲まれる小鳥遊くんを見るのは嬉しい。
はず、なのに――
また、囲まれている小鳥遊くんの方を見る。
いつもならその隣には僕がいるのにな......そんなことを考えてしまう。
嬉しい気持ちと同時に、モヤモヤとした感情を僕は感じてしまっていた。
* * *
四時限目は体育の授業だった。。
僕は体育館の床に三角座りをする。その隣には......小鳥遊くんが座っていた。三角座りではなく堂々とあぐらを組んで。
「体育、出るの珍しいね」
「まあ、堀田がいるし、たまには出てもいいかなって」
そうなのだ。普段小鳥遊くんが体育の授業に現れることはない。きまってサボりを決め込んでいた。
だけど、今日は参加している。
目の前のコートでは、バスケの試合が行われていた。
それを気のない素振りで見つめ、小鳥遊くんはぴったりとくっつくように僕の隣に座っている。
好きなところに座ればいいのに、小鳥遊くんは当たり前のように僕の隣を陣取った。
ただ隣に並んでいるだけ。だけど、ここ数日女子にばかり囲まれていた小鳥遊くんの隣にいれることに、僕はちょっぴり、いやかなり嬉しさを感じていた。
「あっ! 山中がシュート決めたよ! ナイッシュー」
「......」
ちょうどその時、山中が点を取った。小鳥遊くんの隣で、テンションの上がっていた僕は友人の活躍に声援を送るが、何故か小鳥遊くんは憮然としている。
不思議に思って覗き込むと、目が合った。無意識に微笑みかけると、小鳥遊くんの口元もつられるように緩む。
どうやら機嫌が悪いわけではなさそうだ。眠いのかな? なんて思っていると。
「選手交代!」
ピッと先生が笛を吹いた。
「いってくる」
「え!?」
着ていたジャージを僕の方に投げ捨て、小鳥遊くんがコートに向かう。
小鳥遊くんがバスケの試合に!?
授業に出ることが珍しい小鳥遊くん。もちろんこんな風に、競技に参加する姿を見たことはない。
何だか胸がドキドキしてしまう。固唾を飲んで小鳥遊くんを見つめた。
試合開始の笛が鳴る。
ちょうど小鳥遊くんは、山中と敵対するチームだった。どちらも応援したいところだが......ごめん山中、僕は心の中で謝る。
小鳥遊くん頑張って! 僕は全力で小鳥遊くんを応援していた。
相手コートに進んだ小鳥遊くんにパスが通る。
一気に加速した小鳥遊くんが、敵陣に駆け上がり、山中がガードしようと前を塞いだ。
思わず僕は、小鳥遊くんのジャージを握りしめる。
小鳥遊くんが左に踏み込んだ。つられて山中の体が左に傾く。それはフェイントで、すぐに踵を返して小鳥遊くんが右に抜け、シュートを打った。ボールは綺麗な放物線を描いて――見事ゴールに吸い込まれた。
「やった!」
自然とガッツポーズをしてしまう。
体育館の半分で授業を受けていた女子たちから、キャーと黄色い声援が飛ぶ。
だけど、小鳥遊くんはまっすぐに僕の方に走ってきた。
「堀田!」
小鳥遊くんが、僕に向かってピースサインを決める。
「小鳥遊くん! ナイッシュー!!」
僕の声援に、小鳥遊くんはそれはそれは嬉しそうに笑顔になった。
笑うと目尻が下がる、弾けるような笑顔。それがキラキラと輝いて、僕の世界を一気に鮮やかに染め上げた。
心臓の音が、体中で鳴り響く。
また笛が鳴り、試合は続いた。
「小鳥遊の奴、運動神経までいいのな」
感心するように宮野が話しかけてくる。僕は内心の動揺を隠して宮野の方を向いた。
「ていうか蒼、めちゃくちゃ小鳥遊と仲良くなったんだな」
「え?」
その言葉に首を傾げる。
「だって、小鳥遊が笑いかけるのって、蒼だけじゃん。それって特別ってことだろ?」
「っ......」
心臓が止まったかと思った。
それぐらい胸が苦しくて、締めつけられて、信じられないぐらい嬉しかった。
ボールを握る小鳥遊くんを見つめる。その姿が、いつもより輝いて見えた。
僕......小鳥遊くんが好きだ。
このときめきも、女子に囲まれてモヤモヤしたのも、笑顔を向けられてこんなに嬉しいのも全部。
小鳥遊くんが好きだからだ。
唐突に気づいた恋心に戸惑いを感じつつも、甘く心ががさざめき立つ。
自覚とともに、小鳥遊くんへの感情が恋だということが、自分の中でしっくりくるほど育っていた。
宮野の声に、教室がざわつく。
「っす......」
鞄を手に持ち肩に掛けた小鳥遊くんが小さく返事をする。それだけなのに、教室内は爽やかな風が吹いたように色めき立った。
みんなの反応に不思議そうにしながら、小鳥遊くんが教室の中に入ってくる。
そして迷うことなく、僕の方にやってきた。
「おはよう、堀田」
「小鳥遊くん、おはよう」
僕たちは笑顔で挨拶を交わす。すると。
「小鳥遊くん! おはよう!」
「お前ずるいぞ! 俺も、おはよう小鳥遊!」
それが合図のようにみんなが一斉に集まってきて、僕と小鳥遊くんの前に人だかりができた。
おはよう! おはよう! と繰り返され、小鳥遊くんが目を白黒させる。そして僕の背中にそっと隠れた。
「どうしたらいいか分かんねー」
眉毛を下げて動揺した表情を小鳥遊くんは浮かべる。珍しいその姿に、僕にはないはずの母性本能がキュンと擽られた。
「はいはい、それじゃみんな一列になって、順番に挨拶していくこと!」
さながらアイドルのファンミーティングのような挨拶会は、担任の先生が現れるまで続いた。
小鳥遊くんの周りを女子が囲んでいる。僕はその光景を教室の端で遠巻きに見ていた。
「すっかり人気者だな」
「俺も小鳥遊と友情深めたーい。せっかく友達になれたのにー」
山中と宮野がそう呟く。
怖い存在だった小鳥遊くんが、急に身近な存在になったことに、女子たちはみんな色めき立っていた。
男子たちも話しかけるタイミングを狙っているが、やはり女性の圧力には勝てないようで、壁際に追いやられている。
でもよかったな、クラスに馴染めて。小鳥遊くんを感慨深く眺める。
本当の小鳥遊くんは、温かい人だから、周囲に分かって欲しかった。だから、みんなに囲まれる小鳥遊くんを見るのは嬉しい。
はず、なのに――
また、囲まれている小鳥遊くんの方を見る。
いつもならその隣には僕がいるのにな......そんなことを考えてしまう。
嬉しい気持ちと同時に、モヤモヤとした感情を僕は感じてしまっていた。
* * *
四時限目は体育の授業だった。。
僕は体育館の床に三角座りをする。その隣には......小鳥遊くんが座っていた。三角座りではなく堂々とあぐらを組んで。
「体育、出るの珍しいね」
「まあ、堀田がいるし、たまには出てもいいかなって」
そうなのだ。普段小鳥遊くんが体育の授業に現れることはない。きまってサボりを決め込んでいた。
だけど、今日は参加している。
目の前のコートでは、バスケの試合が行われていた。
それを気のない素振りで見つめ、小鳥遊くんはぴったりとくっつくように僕の隣に座っている。
好きなところに座ればいいのに、小鳥遊くんは当たり前のように僕の隣を陣取った。
ただ隣に並んでいるだけ。だけど、ここ数日女子にばかり囲まれていた小鳥遊くんの隣にいれることに、僕はちょっぴり、いやかなり嬉しさを感じていた。
「あっ! 山中がシュート決めたよ! ナイッシュー」
「......」
ちょうどその時、山中が点を取った。小鳥遊くんの隣で、テンションの上がっていた僕は友人の活躍に声援を送るが、何故か小鳥遊くんは憮然としている。
不思議に思って覗き込むと、目が合った。無意識に微笑みかけると、小鳥遊くんの口元もつられるように緩む。
どうやら機嫌が悪いわけではなさそうだ。眠いのかな? なんて思っていると。
「選手交代!」
ピッと先生が笛を吹いた。
「いってくる」
「え!?」
着ていたジャージを僕の方に投げ捨て、小鳥遊くんがコートに向かう。
小鳥遊くんがバスケの試合に!?
授業に出ることが珍しい小鳥遊くん。もちろんこんな風に、競技に参加する姿を見たことはない。
何だか胸がドキドキしてしまう。固唾を飲んで小鳥遊くんを見つめた。
試合開始の笛が鳴る。
ちょうど小鳥遊くんは、山中と敵対するチームだった。どちらも応援したいところだが......ごめん山中、僕は心の中で謝る。
小鳥遊くん頑張って! 僕は全力で小鳥遊くんを応援していた。
相手コートに進んだ小鳥遊くんにパスが通る。
一気に加速した小鳥遊くんが、敵陣に駆け上がり、山中がガードしようと前を塞いだ。
思わず僕は、小鳥遊くんのジャージを握りしめる。
小鳥遊くんが左に踏み込んだ。つられて山中の体が左に傾く。それはフェイントで、すぐに踵を返して小鳥遊くんが右に抜け、シュートを打った。ボールは綺麗な放物線を描いて――見事ゴールに吸い込まれた。
「やった!」
自然とガッツポーズをしてしまう。
体育館の半分で授業を受けていた女子たちから、キャーと黄色い声援が飛ぶ。
だけど、小鳥遊くんはまっすぐに僕の方に走ってきた。
「堀田!」
小鳥遊くんが、僕に向かってピースサインを決める。
「小鳥遊くん! ナイッシュー!!」
僕の声援に、小鳥遊くんはそれはそれは嬉しそうに笑顔になった。
笑うと目尻が下がる、弾けるような笑顔。それがキラキラと輝いて、僕の世界を一気に鮮やかに染め上げた。
心臓の音が、体中で鳴り響く。
また笛が鳴り、試合は続いた。
「小鳥遊の奴、運動神経までいいのな」
感心するように宮野が話しかけてくる。僕は内心の動揺を隠して宮野の方を向いた。
「ていうか蒼、めちゃくちゃ小鳥遊と仲良くなったんだな」
「え?」
その言葉に首を傾げる。
「だって、小鳥遊が笑いかけるのって、蒼だけじゃん。それって特別ってことだろ?」
「っ......」
心臓が止まったかと思った。
それぐらい胸が苦しくて、締めつけられて、信じられないぐらい嬉しかった。
ボールを握る小鳥遊くんを見つめる。その姿が、いつもより輝いて見えた。
僕......小鳥遊くんが好きだ。
このときめきも、女子に囲まれてモヤモヤしたのも、笑顔を向けられてこんなに嬉しいのも全部。
小鳥遊くんが好きだからだ。
唐突に気づいた恋心に戸惑いを感じつつも、甘く心ががさざめき立つ。
自覚とともに、小鳥遊くんへの感情が恋だということが、自分の中でしっくりくるほど育っていた。


