不覚にも金髪ヤンキーの胃袋を掴んでしまったみたいだ

家庭科教室には、沈黙が流れていた。
机を挟んで、僕と小鳥遊くん、そして部員たちが座っている。
「えっと、こちら小鳥遊絆凪くん。今日から家庭科部に入部します」
「っす」
紹介すると、小鳥遊くんが静かに頭を下げた。僕とお弁当を食べている時のにこにこ顔はどこへやら、今の小鳥遊くんはいつものコワモテな表情に戻っている。
「こちらが一年生の小波と武田。そしてこちらが堤先輩です」
家庭科部は僕含め四人、もちろん僕以外は全員女子だ。一年生の小波と武田は、小鳥遊くんの鋭い眼光に怯え、その隣に座っている堤先輩はキラキラと顔を輝かせていた。
「蒼~! やるじゃん! 学校一のイケメンと名高い、孤高の一匹狼小鳥遊を入部させるなんて!」
「......」
さすが部長~と、堤先輩がガシッと肩を組んで僕に耳打ちしてくる。本人は内緒話のつもりだろうが、声がでかいのできっと小鳥遊くんにも聞こえている。反応が気になって視線を向けると、小鳥遊くんはどこか驚いた顔をしていた。
「二人、仲いいんすね。その.......特別な関係とか?」
「とくべつ?」
少し不貞腐れるように、小鳥遊くんが疑問を投げかける。
言われた意味が分からず僕が首を傾げていると、堤先輩がプッと吹き出した。
「仲はいいね、小波ちゃんと武田っちが入ってくるまではずっと二人だったし......だけど! 全く特別ではない。ただの料理友達って感じ」
小鳥遊くんが僕の方に視線を向ける。
「うん。僕も初めてできた料理仲間だから。先輩だけど、友達みたいに仲良くさせてもらってるんだ」
「そっか」
何故かホッとするように小鳥遊くんが息を吐く。特別な関係の意味はよく分からないが、先輩のさっきの言葉を気にしていないようで、よかったと肩の力が抜ける。
「仲間っていうか、先生だね蒼は、私たちは生徒みたいなもん。入部した時にはすでに大抵のものは作れてたし」
思い出すように、先輩は腕を組んでうんうんと頷く。
「最初は私が部長だったんだけど、秒で譲ったもん。蒼の方がふさわしいって」
ねー! 蒼せんせぃ~ と茶目っ気たっぷりに堤先輩はこちらを覗き込んだ。
どうもからかわれている感は拭えないが、明るい彼女は、部活のムードメーカーでもある。
「堀田を部長に......それは、ありがとうございます」
「ん?」
小鳥遊くんが先輩にお礼を言った。なぜ小鳥遊くんが感謝? みんなの頭にハテナが浮かぶ。
だが、当の本人は堀田が部長か、と呟きながらどこか満足げだ。
「そ、そうそう堀田先輩めちゃくちゃ料理上手なんです」
「ハンバーグとかほんとおいしくて、ほっぺた落ちるかと思いました」
微妙な空気が流れるのに、武田と小波が気を遣って話を盛り上げてくれる。
「確かにめちゃくちゃうまい。ハンバーグほっぺた落ちるかもじゃなくて落ちた。他のも全部うまいんだよな。ポテサラとか食べたことあるか?」
「あ、ありがとう」
つくづくというように褒めてくれる小鳥遊くんに僕は照れる。

「え? めっちゃマウント取ってくるじゃん」
「そんなに手料理食べてるってどういう......」
「まさか二人が特別な関係?」

まだまだ僕の手料理を褒め続ける小鳥遊くんに、照れと嬉しさが止まらない。その間に、先輩たちが何か言っていたが聞こえなかった。
こうして今日から小鳥遊くんが、僕たち家庭科部に加わった。
目が合った小鳥遊くんが僕に向かって微笑む。それに、キュンと胸が温かくなった。
夕日に当たる金色はやっぱりとても綺麗だった。



カタンカタン――規則正しく揺れる電車の中に僕たち二人はいた。
座席に並んで座る。
「結局今日は喋って終わっちゃったね」
「ああ、そうだな」
あの後も小鳥遊くんの「堀田の飯はうまい」話が止まらなかった。
そんな小鳥遊くんと照れる僕を、何故かみんなは微笑ましそうに見守り、最後には次回は何を作ろうかという話で盛り上がった。
「みんないい人でよかったよ。ぜってー怖がられるって思ってたから」
「そ、そんなことないよ」
「いいって、周りにビビられてるの分かってるから」
確かに一年生二人はビビっていた。小鳥遊くん、自分で自覚してたんだな。クラスでもみんな小鳥遊くんと遠巻きに見ている。
本当はこんなに優しいのに。なんだか寂しい気持ちになってしまう。
すると小鳥遊くんの手が伸びてきて、ぽんぽんと頭を撫でられた。思わず息を飲む。
「ふっ、何で堀田がそんな顔してるんだよ」
見つめる瞳が柔らかく弧を描く。どこか嬉しそうな小鳥遊くん、触れる手が優しくて、キュッと胸が甘く縮む。
「......うん」
頬が熱い。それを隠すため、僕はギュッと鞄を抱きしめて俯いた。
二人の間に沈黙が降りる。だけどそれは気まずいものではなく、心地のいい空気だった。
電車の揺れで小鳥遊くんの肩に僕の肩がぶつかる。
触れた体に謝ろうとするけれど、小鳥遊くんはスマホを見つめたまま特に反応はない。
そのあとも揺れるまま、僕たちの肩は何度かぶつかった。その度に、小鳥遊くんの存在を強く意識してしまう。
「......」
僕はふわぁと欠伸をする。
今日は早く起きてお弁当を作ったので、急激に睡魔に襲われた。
触れる肩があったかい。電車の揺れに体が揺れて、眠気がますます強くなった。
気づいたらコテンと頭を小鳥遊くんの肩に持たれかけていた。
「ごっごめん」
今度こそ僕は謝る。慌てて頭を起こそうとすると、小鳥遊くんの手がぐいとそれを止めた。
「ん、いい、寝てろ。着いたら起こす」
「......ありがとう」
自分の肩に僕の頭を預けると、小鳥遊くんはまたスマホに視線を戻した。
カタンカタン――電車は相変わらず規則正しく揺れている。
あったかいなぁ。
小鳥遊くんの温度だけじゃない、仕草も気持ちも全部温かい。僕はほわほわとした優しさに包まれ、襲われる睡魔に身を任せた。
僕の中で、その隣がとても安心する場所になっていた。

眠っている僕は気づいていなかった、小鳥遊くんの頬がほんのり赤く染まっていたことに。