不覚にも金髪ヤンキーの胃袋を掴んでしまったみたいだ

「弁当めちゃくちゃ楽しみでさ、早く明日になんねーかなって思ってた」
昨日と同じ場所で、僕たちは並んで座る。座った途端、そんな嬉しいことを小鳥遊くんが言ってくれた。
「期待に応えられたらいいんだけど......」
同時にプレッシャーを感じる。僕はおずおずと弁当を小鳥遊くんに差し出した。
「ありがと」
にこっと笑って受け取る小鳥遊くん。彼の金髪に負けないくらいキラキラと輝く笑顔が眩しい。
「いただきます!!」
しっかりと手を合わせ、笑顔のまま小鳥遊くんが蓋を開ける。
瞬間、ふわりと食欲をそそるいい匂いがして、小鳥遊くんは目を細めた。
「ハンバーグじゃん! 俺大好き」
「よかった」
どぎまぎしながら、彼が口に運ぶ姿を固唾を飲んで見守る。
「うっま!!!!」
ハンバーグを食べた小鳥遊くんは、開口一番そう叫んだ。
そしてすぐに二口目を食べる。次にお米を食べて、小鳥遊くんは堪らないというように唸った。
美味しいって言ってくれた。その姿に、僕は胸を撫でおろす。
「え? めちゃくちゃうまいんだけど! 堀田天才じゃん!」
小鳥遊くんは子供のように目を輝かせ、僕を褒めてくる。
天才は言いすぎじゃ? と思いながらも、褒められて嬉しくないわけがなく、僕はふふとはにかんだ。
「たまねぎを飴色になるまで炒めるのがコツだよ。甘さとコクが出るんだ」
「へーやっぱ手が込んでんだな」
まるで大事なもののように、両手で弁当箱を抱え、小鳥遊くんが感心するように息を吐く。そんな仕草に、何だか甘く優しい気持ちになった。
「......堀田の言葉に甘えちゃったけど、俺の分まで作るって面倒じゃね? 迷惑かけてない?」
少し考えて小鳥遊くんが僕に聞いてくる。
そんな小鳥遊くんに、僕はふっと吹き出した。
「作ってこい!」とか言いそうな見た目をして、案外気遣い屋な一面もあるんだな。
小鳥遊くんといると、なんだか気持ちがほんわかする。
「全然大丈夫、実は僕家族の分も弁当作ってるんだよね。母親は看護師で夜勤もあるし、僕は料理が好きだから、お互いの好きを尊重した結果そうなったんだけど」
「すげぇ......」
僕の言葉を聞いて、感嘆するように小鳥遊くんが呟く。
「だから一個ぐらい増えても大丈夫だよ」
笑みを浮かべると、小鳥遊くんはホッと息を吐いた。
「てか、マジで尊敬する。こんなうまいもん作れるだけですごいのに......俺なんてあれだもんな......」
真っ赤な梅干しが印象的な例の弁当を思い浮かべているんだろう、小鳥遊くんが遠い目をする。
「梅干し美味しかったよ?」
「梅干しは俺が作ったんじゃねーし! ばーちゃんだし!」
小鳥遊くんが大げさに拗ねてみせる。僕たちは目を合わせると、同時にフッと吹き出した。
「あ、あの......それでね、僕が料理をするってことみんなには黙ってて欲しいんだ」
「何で?」
僕の言葉に小鳥遊くんは眉をひそめた。不思議そうな顔をする小鳥遊くんに、僕はなんと言っていいか分からず黙ってしまう。
きっと小鳥遊くんなら「男子が料理をするなんて」なんてことで引け目を感じたりしないんだろうな。
堂々としていて男らしい小鳥遊くん。僕の料理を美味しいと食べてくれる小鳥遊くんなら料理ができることを自慢に思うことはあっても、卑下することはないだろう。
「......」
黙ってしまった僕をじっと見つめ、小鳥遊くんはうんと頷いた。
「料理ができるのはすごいことだ。だけど堀田が秘密にしたいなら、絶対誰にも言わない」
ほらっと小鳥遊くんが小指を差し出す。え? と思って小鳥遊くんを見る。
「指きりだ。男と男の約束」
「やくそく......」
差し出された指にそっと指を絡める。
触れた体温が温かくて、ドキッと胸が跳ねた。
「指きりげんまん嘘ついたら、はりせんぼんのーます!」
絡めた手をわざとらしいくらい大きく振る小鳥遊くんに、僕は思わず笑ってしまう。
僕の顔に笑みが戻ったことに、小鳥遊くんは目を細めた。
離した後も、触れた小指は、まだじんと熱かった。

僕たちは他愛のないことを話し、気づけばあっという間に昼休みは終わってしまった。
美味しいご飯は一緒に食べる人との距離も近づけてくれるのかもしれない。それぐらい二人並んで、ハンバーグをつつく時間はとても楽しかった。
僕たちは一緒にお昼休みを過ごすようになった。



「これやる、梅干し」
「わ~嬉しいありがと」
梅干しが詰められた瓶を渡され、僕はお礼を言った。
瓶の中にはたっぷりと梅干しが入っていて、当分市販のものは買わなくていいぐらいの量があった。
「こんなにもらっていいの?」
「別に、家にいっぱいあるし。いつも弁当作ってくれるお礼」
「じゃあありがたく受け取るね。明日からお弁当に入れてくる」
「おう」
そう言うと小鳥遊くんは鼻を掻いて、嬉しそうにはにかんだ。
クラスメイトとはいえ、ついこの間まで一言も交わしたこともなかったのに。
僕たちの関係は、弁当が入れ替わった日から劇的に変わった。
「まさかヒロインが敵だなんて思わなかったな」
「なーほんとそれ。やられたってかんじ」
僕たちは昨日発売された漫画の話で盛り上がっていた。
小鳥遊くんとは漫画の趣味もあった。見てる動画のチャンネルも同じやつがあって、話していてとても楽しかった。
「堀田って学校なにで来てる? チャリ?」
「ううん、電車だよ。最寄りは〇〇駅」
「マジか! 俺は△△駅!」
小鳥遊くんの最寄りは、僕の住んでいる街の隣の駅だった。
「ほんとだね、一駅しか変わらなかったらもうご近所さんだね」
「嬉しい! ていうかもうこれ運め......」
「え?」
「あ、いやなんでもない」
慌てるように小鳥遊くんは口を押える。何かを言いかけたようだが、途中で止めてしまったのでそれが何か分からない。
「......あのさ、堀田がよかったら何だけど」
「う、うん」
弁当を持ち直し、改まる小鳥遊くん。その様子に緊張してしまって、僕も同じように背筋を伸ばした。
「これからさ、一緒に帰らねぇ?」
「......えっ!」
突然の申し出に固まってしまう。
一緒に帰る? 僕が小鳥遊くんと!? 想像もしていなかった展開。だけど、じわじわと喜びが体の奥から浮かび上がってくる。
黙ってしまった僕を、固唾を飲んで見守る小鳥遊くん。僕の口元が徐々に緩むのに、小鳥遊くんの口角も上がる。
「うん、是非。よろしくお願いします」
「おうっ、じゃあさっそく今日からな」
楽しみだな、そう思って弁当を食べる。横を見ると小鳥遊くんも機嫌がよさそうに卵焼きを食べていた。
しかし、あることを思い出して僕はハッとした。
「やっぱりダメだ」
「う、ぇ?」
眉を寄せる僕に、小鳥遊くんは箸を止めて変な声を出す。
「......やっぱり、ほんとは堀田も俺のこと怖いって」
「今日はダメなんだ、部活があるから。明日からでもいい?」
小鳥遊くんが何か呟いたが、毎週水曜日は家庭科部の活動があることを伝えないと! と思っている僕には聞こえない。
「堀田部活入ってたのか?」
ほっと息を吐く小鳥遊くんに僕は頷く。
「家庭科部。毎週水曜だけ活動してて」
だから今日はごめんねと僕はますます眉毛を下げた。明日からとはいえ、今日も一緒に帰りたかったな、なんて考えていると。
「かていかぶ......それって料理作るのか?」
「うん。ご飯だけじゃなくて、お菓子も作ったりするよ」
すると口元に手を当て、小鳥遊くんが何かを考えこむ。そして。
「なあ、それ俺も入りたい」
「うぇ?」

小鳥遊くんの言葉に、今度は僕から変な声が漏れた。