兄貴の作ったテディベア


暗い部屋の中でスマホの画面が光りを放っている。

時刻は深夜。

閉じられた部屋の向こうでは遅く帰ってきた父親も、弟の灯季もすっかり寝静まっていた。


「…はぁ…」


小さく吐息をもらし、画面を見つめる己の視線は甘くとろけている。


『ん…ぅ…』


画面の向こう。

映っている弟が僅かに身じろいだ。

口元をもにゅもにゅと動かして枕にすり寄る姿が愛らしく、俺は口元に弧を描いた。


「あは…可愛いなぁ、お前は」


少し高かったけど、最新式のカメラを仕込んでおいて良かった。

今日プレゼントしたあのクマは今、愛しい弟の寝顔を枕元で見つめている。

その両目に内蔵されている小型カメラには、全く気づかれていないようだ。

なんでそんな事をしているのか?

理由は簡単だ。


「こんなに無防備なお前が心配なんだ、許してくれるよな?灯季」


指先で画面の向こうの弟をなでる。

それに反応するかのように、灯季の口元が再び動いた。


『…あ…にき…』


ノドの奥から潜んだ笑い声が出た。

兄ちゃんの事、夢に見てるのか?


「あはは…マジで可愛いな、お前…」


母さんが死んでからずっと、父さんよりもお前のそばにいたのは俺だったもんな。

仕方ないよな。

依存するのも、好きになっちゃうのも。

でもな、それで良いんだよ、灯季。


「俺にはお前さえいてくれたら、それで良いんだ。それに灯季だって…俺以外の人間なんていらないだろ?」


子供のときから、ずっと。

俺の後ろを歩いてついてきたお前が愛しくてたまらないんだ。


「やっぱり目の届く所にいてもらわなきゃな…今日は久しぶりに焦っちまったし」


乱暴に髪を掻き、眉をひそめる。

思い出したのは雑貨屋での事。

馴染みの店員の世間話に巻きこまれて、仕方なく相手をしていたとき、灯季が走ってきた。


__兄貴、助けて!


あんな必死な顔で“助けて”なんて言う物だから、変な奴にでも絡まれたんじゃないかと気が気じゃなかった。

見知らぬ子供の壊したぬいぐるみの修理を頼んでくるなんて…放っておけばいいのに、全く。

優しすぎて、兄ちゃんは心配になるよ。


「でも、これからはもっと近くで守ってやれるからな…家でも登下校でも、部活動でも…ずっとずっとずっと__」


瞳孔の開いた目いっぱいに、大好きな弟の寝顔を映す。

これは俺の愛情だ。

分かってくれるだろう、灯季…お前ならきっと。


「だって俺ら、両想いだろ?」


それなら、そばにいないと。

これまでがそうだったように。


「俺、灯季がこんなにも大好きだよ」


お前もそうだろう?

呟いた声は静かな部屋に解けて消えていった。