「はい、ネコさんのおケガは治りましたよー」
しゃがみ込み、女の子にネコのぬいぐるみを渡す兄貴が優しく笑いかけた。
ぬいぐるみの腕はすっかり縫い直され、元通りの姿で女の子の腕の中に収まっている。
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「本当にありがとうございました」
女の子が兄貴に満面の笑顔で礼を言って、それに母親も続く。
兄貴は裁縫道具をカバンにしまいながら首を振った。
「いえ、俺は何も大した事はしてませんから…ネコさんと仲良くね」
「うん!」
女の子は元気に頷く。
そして右手でネコのぬいぐるみを、左手で母親の手を握ってその場を去っていった。
「兄貴、いきなり縫い物とか頼んじゃってごめん」
「ん?…あぁ、全然かまわないよ。お前が大慌てで店の中に入ってきたから少し驚いたけどね」
「それは…暑い中、外で待たせてたし…急がないとって思って」
ぎゅう、とクマのぬいぐるみを両手で抱き締めながら顔をうずめて視線をさまよわせる。
伸ばされた兄貴の手がオレの髪をサラサラとなでた。
「灯季は優しくていい子だな」
触れられた部分が熱を持ち、全身がカッと熱くなる。
向けられた笑顔を直視できず、オレはクマの背中に顔を隠した。
やっぱり、好きだな。
激しく脈打つ鼓動の音がやけに鮮明に聞こえる。
「なあ、灯季」
名前を呼ばれて、見上げるように視線を向けた。
「っ…」
背の高い兄貴の顔がすぐ近くに寄せられ、息をのむ。
汗臭くないかな、なんて心配したのは一瞬。
「やっぱり、手芸部に入らないか?」
口を開いた兄貴が発した言葉に、目を丸くした。
「えっ…手芸部…?でもオレ__」
「お前が不器用なのは知ってる…だからこれは俺の…兄ちゃんのワガママだ」
申し訳なさそうにして笑う兄貴の顔を見つめながら、オレは首を傾げた。
兄貴は汗ばんだ前髪をかきあげ、薄い唇を動かす。
「今日、お前が部活見学してくれたときから考えてた。やっぱり灯季と手芸をやってみたい…だから、俺と一緒に物作りをやってみないか?」
分かってる。
これはただの部活への勧誘。
だけどオレにとっては、告白にすら感じる特別な誘い文句。
兄貴が、兄貴の方からオレと一緒に何かをやりたいと言ってくれるなんて…これ以上の喜びがあるだろうか。
「…オレ、本当に下手だよ…?」
「大丈夫、兄ちゃんが一から教えてあげるよ」
「それなら…まあ、いいけど」
「本当か?やったぁ」
可愛くない弟の返事に、それでも兄貴は子供のようにニコニコと喜んでいる。
オレは緩みそうになる口元を必死に押さえ、再びクマのぬいぐるみに顔をうずめた。
