会計に行った兄貴を見送り、一足先に出口へ向かう。
開いた自動ドアの向こうで、むわっと熱のこもった風が吹き抜けていき、顔をしかめた。
「…ん?」
ふと、うるさいセミの声に交じって、誰かの泣き声が聞こえる。
辺りを見渡すと、ネコのぬいぐるみを持った小さな女の子が店のそばでうずくまって泣いていた。
そのすぐ隣には女の子の母親らしき人がいて、困り果てた様子で必死に泣き止ませようとしているのが見て分かる。
兄貴はまだ来ない。
オレは流れた汗を拭って、女の子に近づいた。
そして、部室で兄貴がしてくれたようにクマの両手をピョコピョコと動かしながら声を作った。
「こんにちは!なんで泣いているんだい?」
女の子が驚いて泣き止み、オレが操作するクマの動きを見つめる。
すすり上げた鼻は赤く、目元にはまだ涙が浮かんでいた。
オレはどうにか笑ってもらおうと、一生懸命にクマを動かす。
女の子の目がパチパチとまばたきを繰り返す。
そしてオレに向かって、持っていたネコのぬいぐるみを差し出してきた。
「あのね…ネコさん、おケガしたの…」
目を潤ませながら小さな唇が言葉を紡いだ。
オレは視線をネコのぬいぐるみに落とす。
その腕は糸がほつれて、取れ掛かっていた。
隣で母親が深いため息を吐く。
「遊んでる時にワタが出てきちゃったみたいなんです…亡くなった私の祖母が作った物なんですけど、私は裁縫とかできなくて」
せめてもの応急処置として接着剤はないかと、この店に探しに来たらしい。
それでもぬいぐるみが気になってしまったのだろう。
ほつれた箇所を女の子がいじり、更に腕が取れ掛かってしまった。
それで女の子は泣いていたという。
「ほら、ゆーちゃん。もう泣かないで…ママが新しいネコさんを買ってあげるから、ね?」
「やだ!このネコさんがいいの!」
ゆーちゃんと呼ばれた女の子は、白く細い首をぶんぶん振りながら母親の提案を拒む。
その姿に、夢の中で見た幼い頃の自分が重なって…気づけば口が勝手に動いていた。
「大丈夫。直るよ、そのネコさん」
その言葉を聞いた親子の視線が、オレに集中する。
オレは「ここで待っていて下さい」と言って店の中へ走って戻っていった。
***
