「焦らなくていいよ。灯季らしくいられる部活が必ず見つかるさ」
兄貴はそう言ってくれるけど、募る焦りは消える事がない。
そもそも昔から何かに対して興味を持つ事が無かったから、小中学校では部活などのコミュニティにすら入っていなかった。
兄貴を追いかけてこの高校に入学したのはいいけど、こんな事で頭を悩ませるなんて思ってもいなかったからどうすればいいか…。
せめて兄弟が在籍している手芸部ならと希望を持って見学に来た結果も、オレが早々に眠ってしまったせいで散々な物となってしまった。
冷房の切られた部活に鍵が閉められ、兄弟揃って職員室へと向かう。
鍵を顧問の先生に返しながら談笑する兄貴をオレは廊下から見つめた。
オレにとって唯一無二の“興味”があるとすれば、それは昔から変わらない。
物じゃなくて人だし、他人どころか兄貴だけど。
その興味はいつからか、兄弟という関係では割り切れない感情を含んでいた。
「不毛だよな…こんなの」
兄貴を見ると胸の真ん中が締め付けられるように切なく震える。
男に、それも実の兄貴にこんな想いを抱くなんて。
永遠に叶わないこの気持ちこそ、抱き枕のように捨ててしまえたら楽になれるのに。
「悪い灯季、待たせちゃったな」
「ううん、別に」
「ついでに帰りに雑貨屋に寄っていいかな?新色の布が売られてるみたいなんだ」
「いいよ、兄貴についてく」
学校を出て目的の店に向かう。
オレの右手には大きなクマが抱き締められたままで、少しだけ気恥ずかしい。
近くにいた女子生徒がオレを見て笑ったような気がして、足早に…だけど隣を歩く兄貴を追い越さないように意識しながら歩いた。
高校と家の中間辺りにあるチェーン店の雑貨屋は、兄貴のお気に入りの店。
このクマのぬいぐるみ…持ったまま入店したら盗品だと思われないかな。
そう思ったけど、そもそもこの店に置かれているのはぬいぐるみになる前の材料だけだったと思い出し、そのまま自動ドアをくぐった。
「あっ…見つけた。灯季、ここだよ」
店内は色とりどりの手芸用品に溢れた可愛らしい雰囲気だけど、不思議と兄貴の姿はその場所に溶け込んでいる。
「このサラッとしたレースの質感は、夏って感じでいいかも…こっちも良いけど、これは扱うのが難しそうかな」
「けっこう買うんだね」
白いプラスチックの買い物カゴに入れられていく布やフェルト、毛糸にミシン糸。
兄貴は穏やかに瞳を細めた。
「うちの部員は皆、作る物が違うからね」
「なるほど」
確かに部室に飾られていた作品は人形の服やパッチワーク、編みぐるみなど個性豊かだった。
作る物がバラバラだから、それだけ用意する材料も大量に必要というわけか。
