兄貴の作ったテディベア


「それ…新しい“作品”?」


「うん、もうすぐ完成…後はここをこうしてっと」


スルスルと針が布をすくい、糸を通していく。

流れるようなその光景は、不器用なオレには魔法のように輝いて見えた。

やがて完成したのは体の上半身を隠すほどの大きめなクマのぬいぐるみ。

兄貴はそれの短い手元に自分の手を滑り込ませ、オレへと挨拶させるように動かした。


「“こんにちは、灯季くん!今日からボクはキミのお友達だよ!”」


慣れない様子で、はにかみながらクマに声をあてる兄貴にオレは目を瞬かせる。


「…オレにくれるの?」


「うん、ずっと使ってた抱き枕は捨てちゃったんだろう?」


「………」


お気に入りだった動物モチーフの抱き枕を捨てたのは最近の事だった。

__“いい加減、それ捨てたらどうだ?お前ももう小さい子供ってわけじゃないだろう”。

洗濯が終わり、物干し竿に干していた色あせた抱き枕を見て、父さんに言われた言葉が頭をよぎる。

たぶん、悪気があって言われた言葉ではなかったし、「これはお気に入りだから」と言えばそれで終わる話だっただろう。

だけどオレは思ってしまった。

普通は、そうだよな。

だから思いきって十数年の付き合いだった抱き枕をゴミに出した。

想定外だったのは、それが無くなっただけで寝付きが悪くなってしまった事。

そして自らの手で捨てた事を、後悔している事。


「兄貴には全部お見通しって事か」


「そうだよ。俺は灯季の兄ちゃんだからね。今日からコイツを新しい抱き枕にしてあげて?」


「うん…ありがとう」


頬を緩めてクマを受け取る。

ワタの詰まったふわふわとした触り心地の立派なぬいぐるみ。

店で売られていてもおかしくない出来のそれは、夢の中のあいつよりキチンとしたクマの姿をしている。

くりくりとした大きな黒い瞳が、オレの姿を反射させていた。


「それで、ほとんど眠ってたけど…どうだった?部活見学」


「やっぱりオレには向いてないかも」


「そっかぁ…灯季が入部してくれたら嬉しかったんだけどな」


「ごめん、でもオレが作ると呪物になると思う」


帰り支度をする兄貴が「それは大変だ」と冗談めかして笑う。

オレはブランケットを丁寧に折り畳み、机の上に置いた。

この高校では一年生のうちに必ずどこかの部活に入部しなければいけない。

学年問わず、共通の目標を持って学校生活を送る時間が強い絆と清らかな精神を作る。

それがこの高校の方針。

もちろんオレも例外ではなく、部活見学をし始めているわけだけど…。

運動部も文化部も、イマイチ自分に合っている物が見つからなくて…探している間に季節はもう夏になってしまった。