帝都の中心に聳(そび)え立つ、黒御影石の巨塔――陰陽庁最高裁判所。
国の霊的秩序を司るその場所の周辺は、異様な緊迫感に包まれていた。数代にわたる陰陽師の門閥や、野次馬、そして特務軍の動向を伺う密偵たちが、固唾を呑んで裁判所の厳門を見つめている。
その門前へ、地響きを立てて滑り込んできたのは、十数台に及ぶ特務軍の漆黒の装甲車だった。
車門が一斉に開かれ、高度な魔導重火器を携えた第一、第二、第三部隊の精鋭たちが、一切の無駄のない動きで裁判所の全出入口を完全包囲していく。その光景は、これから行われるのが単なる審判ではなく、文字通りの「戦争」であることを予感させていた。
最前列の装甲車の後部座席で、私は眞白様の隣に座っていた。
緊張のあまり、ドレスの裾を握りしめる私の指先は白く震えている。
(お父様たちは、どこまで私を苦しめれば気が済むの……。偽物の花嫁だなんて、そんな大嘘まで吐いて……)
実家の千歳家が仕掛けた、人生最後の悪あがき。私をあやかしの偽物として告発し、眞白様の総帥としての地位を失墜させ、あわよくば柳生本家の権力を奪い返そうとする醜悪な陰謀。
胸が恐怖と怒りで押し潰されそうになったその時、隣から伸びてきた大きく温かい手が、私の手をそっと包み込んだ。
見上げると、口元を漆黒の呪符で覆った眞白様が、凍てつく深海のような瞳で私を真っ直ぐに見つめていた。
そして、彼の頭上からは、私の心を世界で一番安心させる『黄金色を帯びた大特濃のピンク色の煙』が、優しく、けれど力強く立ち上っていた。
『怯えるな、紬。我が愛しい妻よ。あのような悍(おぞ)ましい有象無象(うぞうむぞう)どもの嘘など、私の前では一片の価値もない。お前が本物であることは、お前を抱いた私のこの心と身体が何よりも知っている。お前の髪一筋、涙一滴すら、奴らには触れさせない。私がこの手でお前の清白(せいはく)を証明し、あの強欲な一族を今度こそ永遠に葬り去ってやる』
(眞白様……っ)
嘘を宿すことのできない、彼の魂の叫び。
その圧倒的な愛の熱量が、私の冷え切っていた胸の奥を瞬時にじんわりと溶かしていく。
彼が隣にいてくれる。それだけで、私は世界中のどんな悪意の嵐にも立ち向かえるような気がした。
「はい……。私、もう逃げません。眞白様と一緒に、お父様たちの嘘を暴きます」
私が凛とした声で答えると、眞白様は満足そうに目を細め、私を促して車外へと降り立った。
重厚な裁判所の扉が押し開かれ、私たちは中央大審問室へと足を踏み入れた。
円形劇場のようになった広大な室内には、上段に陰陽庁の最高審判官たちが並び、対面の原告席には、千歳厳山(げんざん)、そして妹の紗香(さやか)が不敵な笑みを浮かべて座っていた。
そして、その中央に――私と全く同じ顔、同じ髪型、同じラベンダー色のワンピースを着た「少女」が、怯えたように俯いて座っていたのだ。
(私と、全く同じ……!?)
その姿を見た瞬間、室内にどよめきが広がった。
厳山が待ってましたとばかりに立ち上がり、上段の審判官たちに向けて大声を張り上げる。
「審判官の皆様! 見てご覧なさい! 特務軍総帥、柳生眞白が連れているあの女こそ、我が千歳家から娘を誘拐し、禁忌の精神魔術で総帥を操っている『狐のあやかし』です! 我が手元にいるこの娘こそ、本物の千歳紬であり、我が一族の愛する長女なのです!」
厳山が叫ぶと同時に、私の視界は、彼らから噴き出す反吐(へど)が出るようなドス黒いヘドロの煙で埋め尽くされた。
『がはは! 上手くいったぞ! 柳生本家の残党から提供された最高級の隠蔽呪術人形で、紬の偽物を作り出した。陰陽庁の審判官たちも既にこちらが買収済みだ。あの欠陥品総帥を化け物に騙された無能として失脚させ、千歳家が特務軍の権力を乗っ取るのだ!』
(お父様……! どこまで醜いの……!)
さらに、隣の紗香からも激しい嫉妬と嘲笑の黒煙が立ち上る。
『お姉様、ざまぁ見なさい。総帥の正妻になっていい気になっていたバツよ。あんな不気味な男と一緒に、化け物として地下牢で腐り落ちればいいわ!』
彼らの醜悪な本音が、文字となって私の脳内を殴りつける。
だが、今の私は、あの頃の無力な出来損ないではない。
眞白様が静かに一歩前へと出た。
大審問室の全空気が、ギチギチと音を立てて圧縮される。特務軍総帥としての圧倒的な神速の霊圧が室内に吹き荒れ、買収されていた審判官たちが恐怖で顔を青ざめさせた。
眞白様は無言のまま、懐から革表紙のノートを取り出すと、万年筆の先で凄まじい速度の文字を刻み、それを中央の審判台へと叩きつけた。
『千歳厳山、並びに陰陽庁の審判官一同。この私を誰だと思っている。嘘を宿せぬ呪いを持つ私が、目の前にいる妻が「本物」であるか否かを見誤るとでも思うのか。その手元にある人形の小細工など、私の眼を通せば、ただの泥人形に過ぎん』
「な、何を証拠に……! 視覚的にも魔力的にも、我が千歳家の紬と完全に一致しているのだぞ!」
厳山が声を荒らげる。確かに、その偽物の花嫁からは、私と酷似した微弱な魔力の波長が放たれていた。
その時、私は眞白様の隣に進み出た。
私の瞳――【心音の翻訳】が、その偽物の花嫁の「胸の奥」を真っ直ぐに捉えていた。
「いいえ、それは偽物です」
私は、大審問室全体に響き渡るような、凛とした声で告げた。
「私の異能は、人の心音を、魂の本音を翻訳すること。……その、私と同じ姿をしたものの胸の奥からは、人間の心音なんて一切聞こえません。聞こえるのは……千歳家が仕込んだ、私への憎悪を増幅させるための『呪術の術式の起動音』だけです」
「な……お前、何をデタラメを……!」
厳山が動揺を隠せず、頭上の黒煙を激しく乱れさせる。
私はさらに一歩踏み出し、偽物の花嫁を指差した。
「お父様、貴方は私を『心音を覗く不気味な化け物』と呼び、その力を利用してきましたね。なら、その化け物の目の前で、そんな安っぽい呪術が通用すると思わないでください。……その人形の心音を、今ここでこの大審問室の拡声魔導具に繋いで、全員に聴かせてもよろしいですか?」
私の毅然とした態度と、一ミリの揺らぎもない真実の言葉に、上段の審判官たちがガタガタと震え始めた。
私の言葉には、一切の嘘がない。なぜなら、私の隣に佇む眞白様の頭上からは、私の言葉を100%「真実」として全肯定する、まばゆいばかりの『純白と金色の輝かしい煙』が立ち上り、裁判所全体を圧倒していたからだ。
眞白様が嘘をつけない以上、彼の煙が「真実」と示す私の言葉は、この国の法において絶対的な証拠となる。
眞白様はノートの次のページを獰猛に捲ると、千歳家と買収された審判官たちへ、完全な破滅を告げる文字を突きつけた。
『勝負はあったな。陰陽庁の長官、並びに千歳厳山。お前たちが裏で交わしていた、特務軍転覆計画の密約書、および資金移動の全記録は、既に我が第一部隊が陰陽庁の地下金庫から押収した。……全員、国家反逆罪として、今この場で現行犯逮捕する』
「な……、ば、馬鹿な……っ! いつの一間に……っ!?」
厳山がその場にへたり込み、紗香が悲鳴を上げて頭を抱えた。審判官たちも、言い訳すらできずに次々と特務軍の精鋭たちによって拘束されていく。
中央の偽物の花嫁は、主の魔力が途絶えたことで、ボロボロと泥の塊へと姿を変え、床に崩れ落ちた。
「おのれ……、おのれ、出来損ないのくせに……! 我が千歳家を……!」
厳山が呪詛の言葉を吐き散らしながら連行されていく。その頭上の黒煙は、完全に絶望の闇へと消えていった。
静寂が戻った大審問室の中で、私は深く、深い息を吐き出した。
(終わった……。本当の意味で、実家の因縁が、すべて消え去ったんだ……)
緊張が解け、私の足からすっと力が抜けそうになったその瞬間。
再び、あの温かく逞しい腕が、私の身体を横からしっかりと抱き留めた。
「あ……、眞白様……」
見上げると、眞白様は口元の布を少しだけ緩め、愛おしさに満ちた瞳で私を見つめていた。
彼の頭上の煙は、先ほどまでの苛烈な殺意から一転し、世界で一番甘く、とろけるような『超特濃の薔薇色(ピンク)』へと染まり、大広間全体を包み込むように広がっていった。
『見事だ、紬。私の最高の妻よ。お前自身の言葉で、あの忌々しい過去を完全に打ち砕いてみせたな。……誇らしい。これほどまでに美しく、勇敢な少女が私の妻なのだ。今すぐこの場でお前を激しく抱き締め、その愛らしい唇に、勝利と愛のキスを何度も何度も刻み込んでしまいたい。私の理性は、もう限界だ――』
「~~~~っっ!?」
裁判所の中心で、特務軍の兵士たちが見守る中で炸裂した、あまりにも情熱的で破廉恥な「旦那様の本音」。
私は再び、頭から湯気を出しながら、彼の胸元へと顔を埋めることしかできなかった。
言葉のない世界の、最高に過保護で、最高にスカッとする真実の勝利。
私たちの筆談婚姻生活を脅かす者は、これで本当の意味で、この世から一人もいなくなったのだった。
国の霊的秩序を司るその場所の周辺は、異様な緊迫感に包まれていた。数代にわたる陰陽師の門閥や、野次馬、そして特務軍の動向を伺う密偵たちが、固唾を呑んで裁判所の厳門を見つめている。
その門前へ、地響きを立てて滑り込んできたのは、十数台に及ぶ特務軍の漆黒の装甲車だった。
車門が一斉に開かれ、高度な魔導重火器を携えた第一、第二、第三部隊の精鋭たちが、一切の無駄のない動きで裁判所の全出入口を完全包囲していく。その光景は、これから行われるのが単なる審判ではなく、文字通りの「戦争」であることを予感させていた。
最前列の装甲車の後部座席で、私は眞白様の隣に座っていた。
緊張のあまり、ドレスの裾を握りしめる私の指先は白く震えている。
(お父様たちは、どこまで私を苦しめれば気が済むの……。偽物の花嫁だなんて、そんな大嘘まで吐いて……)
実家の千歳家が仕掛けた、人生最後の悪あがき。私をあやかしの偽物として告発し、眞白様の総帥としての地位を失墜させ、あわよくば柳生本家の権力を奪い返そうとする醜悪な陰謀。
胸が恐怖と怒りで押し潰されそうになったその時、隣から伸びてきた大きく温かい手が、私の手をそっと包み込んだ。
見上げると、口元を漆黒の呪符で覆った眞白様が、凍てつく深海のような瞳で私を真っ直ぐに見つめていた。
そして、彼の頭上からは、私の心を世界で一番安心させる『黄金色を帯びた大特濃のピンク色の煙』が、優しく、けれど力強く立ち上っていた。
『怯えるな、紬。我が愛しい妻よ。あのような悍(おぞ)ましい有象無象(うぞうむぞう)どもの嘘など、私の前では一片の価値もない。お前が本物であることは、お前を抱いた私のこの心と身体が何よりも知っている。お前の髪一筋、涙一滴すら、奴らには触れさせない。私がこの手でお前の清白(せいはく)を証明し、あの強欲な一族を今度こそ永遠に葬り去ってやる』
(眞白様……っ)
嘘を宿すことのできない、彼の魂の叫び。
その圧倒的な愛の熱量が、私の冷え切っていた胸の奥を瞬時にじんわりと溶かしていく。
彼が隣にいてくれる。それだけで、私は世界中のどんな悪意の嵐にも立ち向かえるような気がした。
「はい……。私、もう逃げません。眞白様と一緒に、お父様たちの嘘を暴きます」
私が凛とした声で答えると、眞白様は満足そうに目を細め、私を促して車外へと降り立った。
重厚な裁判所の扉が押し開かれ、私たちは中央大審問室へと足を踏み入れた。
円形劇場のようになった広大な室内には、上段に陰陽庁の最高審判官たちが並び、対面の原告席には、千歳厳山(げんざん)、そして妹の紗香(さやか)が不敵な笑みを浮かべて座っていた。
そして、その中央に――私と全く同じ顔、同じ髪型、同じラベンダー色のワンピースを着た「少女」が、怯えたように俯いて座っていたのだ。
(私と、全く同じ……!?)
その姿を見た瞬間、室内にどよめきが広がった。
厳山が待ってましたとばかりに立ち上がり、上段の審判官たちに向けて大声を張り上げる。
「審判官の皆様! 見てご覧なさい! 特務軍総帥、柳生眞白が連れているあの女こそ、我が千歳家から娘を誘拐し、禁忌の精神魔術で総帥を操っている『狐のあやかし』です! 我が手元にいるこの娘こそ、本物の千歳紬であり、我が一族の愛する長女なのです!」
厳山が叫ぶと同時に、私の視界は、彼らから噴き出す反吐(へど)が出るようなドス黒いヘドロの煙で埋め尽くされた。
『がはは! 上手くいったぞ! 柳生本家の残党から提供された最高級の隠蔽呪術人形で、紬の偽物を作り出した。陰陽庁の審判官たちも既にこちらが買収済みだ。あの欠陥品総帥を化け物に騙された無能として失脚させ、千歳家が特務軍の権力を乗っ取るのだ!』
(お父様……! どこまで醜いの……!)
さらに、隣の紗香からも激しい嫉妬と嘲笑の黒煙が立ち上る。
『お姉様、ざまぁ見なさい。総帥の正妻になっていい気になっていたバツよ。あんな不気味な男と一緒に、化け物として地下牢で腐り落ちればいいわ!』
彼らの醜悪な本音が、文字となって私の脳内を殴りつける。
だが、今の私は、あの頃の無力な出来損ないではない。
眞白様が静かに一歩前へと出た。
大審問室の全空気が、ギチギチと音を立てて圧縮される。特務軍総帥としての圧倒的な神速の霊圧が室内に吹き荒れ、買収されていた審判官たちが恐怖で顔を青ざめさせた。
眞白様は無言のまま、懐から革表紙のノートを取り出すと、万年筆の先で凄まじい速度の文字を刻み、それを中央の審判台へと叩きつけた。
『千歳厳山、並びに陰陽庁の審判官一同。この私を誰だと思っている。嘘を宿せぬ呪いを持つ私が、目の前にいる妻が「本物」であるか否かを見誤るとでも思うのか。その手元にある人形の小細工など、私の眼を通せば、ただの泥人形に過ぎん』
「な、何を証拠に……! 視覚的にも魔力的にも、我が千歳家の紬と完全に一致しているのだぞ!」
厳山が声を荒らげる。確かに、その偽物の花嫁からは、私と酷似した微弱な魔力の波長が放たれていた。
その時、私は眞白様の隣に進み出た。
私の瞳――【心音の翻訳】が、その偽物の花嫁の「胸の奥」を真っ直ぐに捉えていた。
「いいえ、それは偽物です」
私は、大審問室全体に響き渡るような、凛とした声で告げた。
「私の異能は、人の心音を、魂の本音を翻訳すること。……その、私と同じ姿をしたものの胸の奥からは、人間の心音なんて一切聞こえません。聞こえるのは……千歳家が仕込んだ、私への憎悪を増幅させるための『呪術の術式の起動音』だけです」
「な……お前、何をデタラメを……!」
厳山が動揺を隠せず、頭上の黒煙を激しく乱れさせる。
私はさらに一歩踏み出し、偽物の花嫁を指差した。
「お父様、貴方は私を『心音を覗く不気味な化け物』と呼び、その力を利用してきましたね。なら、その化け物の目の前で、そんな安っぽい呪術が通用すると思わないでください。……その人形の心音を、今ここでこの大審問室の拡声魔導具に繋いで、全員に聴かせてもよろしいですか?」
私の毅然とした態度と、一ミリの揺らぎもない真実の言葉に、上段の審判官たちがガタガタと震え始めた。
私の言葉には、一切の嘘がない。なぜなら、私の隣に佇む眞白様の頭上からは、私の言葉を100%「真実」として全肯定する、まばゆいばかりの『純白と金色の輝かしい煙』が立ち上り、裁判所全体を圧倒していたからだ。
眞白様が嘘をつけない以上、彼の煙が「真実」と示す私の言葉は、この国の法において絶対的な証拠となる。
眞白様はノートの次のページを獰猛に捲ると、千歳家と買収された審判官たちへ、完全な破滅を告げる文字を突きつけた。
『勝負はあったな。陰陽庁の長官、並びに千歳厳山。お前たちが裏で交わしていた、特務軍転覆計画の密約書、および資金移動の全記録は、既に我が第一部隊が陰陽庁の地下金庫から押収した。……全員、国家反逆罪として、今この場で現行犯逮捕する』
「な……、ば、馬鹿な……っ! いつの一間に……っ!?」
厳山がその場にへたり込み、紗香が悲鳴を上げて頭を抱えた。審判官たちも、言い訳すらできずに次々と特務軍の精鋭たちによって拘束されていく。
中央の偽物の花嫁は、主の魔力が途絶えたことで、ボロボロと泥の塊へと姿を変え、床に崩れ落ちた。
「おのれ……、おのれ、出来損ないのくせに……! 我が千歳家を……!」
厳山が呪詛の言葉を吐き散らしながら連行されていく。その頭上の黒煙は、完全に絶望の闇へと消えていった。
静寂が戻った大審問室の中で、私は深く、深い息を吐き出した。
(終わった……。本当の意味で、実家の因縁が、すべて消え去ったんだ……)
緊張が解け、私の足からすっと力が抜けそうになったその瞬間。
再び、あの温かく逞しい腕が、私の身体を横からしっかりと抱き留めた。
「あ……、眞白様……」
見上げると、眞白様は口元の布を少しだけ緩め、愛おしさに満ちた瞳で私を見つめていた。
彼の頭上の煙は、先ほどまでの苛烈な殺意から一転し、世界で一番甘く、とろけるような『超特濃の薔薇色(ピンク)』へと染まり、大広間全体を包み込むように広がっていった。
『見事だ、紬。私の最高の妻よ。お前自身の言葉で、あの忌々しい過去を完全に打ち砕いてみせたな。……誇らしい。これほどまでに美しく、勇敢な少女が私の妻なのだ。今すぐこの場でお前を激しく抱き締め、その愛らしい唇に、勝利と愛のキスを何度も何度も刻み込んでしまいたい。私の理性は、もう限界だ――』
「~~~~っっ!?」
裁判所の中心で、特務軍の兵士たちが見守る中で炸裂した、あまりにも情熱的で破廉恥な「旦那様の本音」。
私は再び、頭から湯気を出しながら、彼の胸元へと顔を埋めることしかできなかった。
言葉のない世界の、最高に過保護で、最高にスカッとする真実の勝利。
私たちの筆談婚姻生活を脅かす者は、これで本当の意味で、この世から一人もいなくなったのだった。

