七彩の恋を描く −澄空に、この想いを−


入学式は親子別々で集合するため、ほのかは駅まで歩いていくことにした。


暫く歩いてようやく辿り着くと、元気な声が辺りに響き渡る。


「おっはよ、ほのか!」


「おはよう、あかねえ...
 今日も元気だね...」


あかねえこと三原茜音は幼稚園からの付き合いだ。


しっかり者で姉御肌。
目鼻立ちも整った彼女には、ほのかとも同じ幼稚園の彼氏がいる。


昨日の電話での惚気を思い出し、苦笑を漏らす。


「そういえば、しづちゃんは...?」


周りを見回して、もう一人の親友の姿が見えないことに気付く。


「ああ、しづは今日歩いていくって」

「え、二駅分も...?」


思わず心のなかで首を傾げるとホームに電車が入ってくるのが見えた。

無機質なアナウンスに導かれるように、茜音とほのかはドアに向かって歩き出した。



ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー


昇降口前に掲示されたクラスの振り分け。

ほのかは息を呑んで自分の番号と茜音の番号を探す。


『1301 彩陽ほのか』

一番に目に入ってきたのは自分の番号。


そっと視線を下にずらしていくと、茜音の番号が目に入った。

『1326 三原茜音』

「やったー、今年も一緒だね…!」

抱き合って喜んでいると、きゃー、という高い歓声が響く。

デジャヴュを感じて恐る恐る振り向くと、見慣れた姿がこちらに歩いてくる。

すらりと伸びた美脚、陽の光を浴びて輝く黒いショートヘア。

もう一人の親友―――しづちゃんこと谷 詩月の登場だ。

「おはよう、二人とも」

「おはよう…相変わらずモテモテだねえ」

「本当に、どこに行っても変わらないなあ、しづは」

周りの視線が痛い。

ご覧の通り、彼女はその中性的な美貌から男女ともにモテるのだ。

「さあ、行こうか、ほのか、茜音」

その視線を遮るように詩月が割って入る。

さりげない優しさもモテる秘訣だろうか。

「…ありがとう、しづちゃん」

「いーえ」

昔、詩月と仲が良いことでいろいろとトラブルが合ったため、
一段と気を使ってくれているのだろう。

「何してるの、ほのか!
 行くよ〜?」

呼ばれた声に応えるように、ほのかはゆっくりと一歩を踏み出した。


ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー


「えー、初めまして、担任の伊藤です、よろしくー」

間延びした担任の緩い声に、春の陽気が重なり、だんだんと眠気を誘われる。


寝ないように手の甲をつねっていると、定番の自己紹介コーナーがやってきた。

無難に済ますのが一番だ。

そう考えて立ち上がる。

「彩陽ほのかです
 絵を描くことが好きです
 よろしくお願いします」

ありふれたテンプレートに自分をはめ込み、ほのかは椅子に腰を下ろした。

パラパラとまばらに起こる拍手にそっとお辞儀を返す。

しばらく至って普通な自己紹介が続き、その瞬間は訪れた。

「初めまして、七澄日向です、『ひなた』って呼んでください!
 好きなものはバドミントン、嫌いなものは…特にないです!
 よろしくお願いしまーす!」


ああ、彼とは…住む世界が違う。

―――彼は、名前の通り日向の人間だ。

あの頃思い知った高い壁を感じ、ほのかはきゅ、と口を結んだ。


ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー ❀ ー ✿ ー


とん、とん、とリズミカルな音が跳ねる。

屋上の扉を押し開け―――ほのかは目を見張った。

「七澄、くん…!?」

「あれ、ほのちゃんだ!
 ほのちゃんも日向ぼっこ?」

「え…」